○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。 意匠国際登録ジュネーブ改正協定についてお聞きいたします。 複数国出願によるコストの削減や我が国意匠の国際的周知、保護の促進、国際競争力の強化などが意義に挙げられておりますが、それを踏まえつつ、特に中小企業支援を中心にお聞きしたいと思います。 まず、特許庁にお聞きしますが、この意匠の出願件数それから出願者数、それぞれについて、大企業と中小企業の割合はどうなっているでしょうか。
○政府参考人(特許庁総務部長 中尾泰久君) お答えを申し上げます。 二〇一三年の意匠出願件数でございますけれども、大企業は約九百六十社で約一万五千件、中小企業は約三千社で九千四百件、そのほか国、自治体、個人等からの出願がございます。これを全体の中の割合で見ますと、出願の件数ということにつきましては、大企業の割合が約五六%、中小企業の割合が約三六%でございます。また、出願された方の数、出願者の数におきましては、大企業が約一八%、中小企業が約五七%となっております。
○井上哲士君 特に、やはり出願者数でいいますと中小企業の方が非常に多くなってまいります。日本の中小企業は非常にデザインでいいますと世界にも通用する力を持っていますし、地方都市にもそういう有力な企業があるわけですね。一方、人的体制も資金力も弱いし、地方だからこそのいろんな困難もあります。各地の商工会議所からこういう知的財産の海外出願支援策、一層強化してほしいということも要望を出されておりますが、この点での必要性についてまず特許庁の御認識をお聞きしたいと思います。
○政府参考人(中尾泰久君) お答えを申し上げます。 高い技術力、デザイン力を持っておりまして質の高い物づくりを行っている中小企業にとりまして、このデザインを適切に意匠として保護し、活用していただくということが競争力を高める上で非常に重要であると認識してございます。しかしながら、意匠の出願状況を見ましても、中小企業が意匠制度を更に御活用いただいてその競争力を高めるという余地はあるというふうに認識をしておりまして、したがいまして、委員御指摘のとおり、中小企業に対する支援が何よりも重要でございます。 こういう認識の下、特許庁では都道府県ごとに中小企業の多様な知的財産に関する課題をワンストップで解決させていただくということで、知財総合支援窓口という相談センターを全国五十七か所に設置してございます。この窓口におきまして、中小企業のデザイン、意匠に関する出願の相談などの支援を行いますとともに、デザイナーですとかあるいは弁理士といった方々から、デザイン、意匠の専門家として中小企業に派遣していただくということをやっていただきまして、中小企業のデザイン戦略の構築そして実行ということを支援してまいります。平成二十五年度には、デザイン、意匠につきましてこの窓口で約二万五千件の相談を受け付けたところでございます。 中小企業におきますそのデザイン、意匠の適切な保護、活用というのは大変重要な課題でございますので、引き続きこのような支援に取り組んでまいります。
○井上哲士君 是非もっと強化してほしいんですが。 本協定への加入で複数国への出願が可能になりますけれども、併せて中小企業から要望が強かったのが、複数意匠一出願制度の導入でありました。これまで日本は一意匠一出願制度となっておりますけれども、この改正協定では最大百意匠まで一つの国際出願に含めるということを認めております。特許庁が行った企業アンケートでも、この複数意匠一出願制度、五八%がメリットと答えて、国内でもその導入のニーズがあると答えたのが四一%に上っております。 そこで、外務大臣にお聞きするわけでありますが、一方、我が国はこの改正協定の第十三条に基づいて一意匠一出願の原則を遵守する旨の宣言をするということになっております。こうしますと、せっかくのこの複数意匠一出願制度のメリットを享受できないんじゃないかと、こう思うわけでありますが、なぜこういう宣言をするんでしょうか。
○国務大臣(岸田文雄君) 我が国のこの意匠法を見ますと、第七条に意匠ごとに出願をしなければならないとする規定があります。この一意匠一出願の原則ですが、出願の対象を単一にしてその内容を明確に把握することによって、効率的で迅速な審査を可能とし、そして意匠権の効力範囲を明確にする、こういったことを目指すものであります。 この意義につきましては、このジュネーブ改正協定を締結し、国際出願制度を導入した後も基本的には変わらないため、国内の意匠出願の原則として意匠法第七条、これは引き続き維持することとしております。 このことを踏まえて、我が国は改定協定第十三条一の規定に従い、我が国の法令が、我が国が締約国となるときにおいて独立かつ別個の意匠のみを単一の出願において請求することができることを要求している旨の宣言を行う予定にしております。 しかしながら、この改正協定第五条四の規定によりまして、国際出願には二つ以上の意匠を含めることができるため、一意匠一出願を完全に貫く場合、複数の意匠を含む国際出願は逐一拒絶しなくてはならなくなります。これは、国際出願を行う者の利便を著しく損なうおそれがあり、望ましくないと考えております。このため、今次国会で成立した意匠法の改正によって新設した同法第六十条の六第二項において、ジュネーブ改正協定に基づく国際出願に含まれる複数の意匠をそれぞれ一件の意匠登録出願とみなすこととし、国際出願に限り複数の意匠を含むものにも対応できるものといたしました。 したがって、我が国は国際協定第十三条に基づく宣言を行う予定ではありますが、出願人が国際出願に複数の意匠を含めて日本を出願先に指定したとしても、そのことのみをもって拒絶することはないと考えています。それらの意匠はそれぞれ一件の意匠登録出願とみなされ審査の対象となるので、我が国への国際出願を行う出願人は実質的には一つの出願で複数の意匠の出願を受けることができると考えております。
○井上哲士君 日本を対象にした国際出願をすれば実質的にはできると、こういうことでありますが、そういう点では一歩前進なんでしょうが、ただ、結局、複数意匠を一意匠ずつ別の出願とみなして受理をするということになりますから、登録手数料は一意匠ごとに掛かるわけですね。そうしますと、この複数意匠一出願をすることのメリットというのはほとんどが失われるのではないかなと、こう思います。 複数意匠を一つの出願に含む場合に、二意匠目以降については、出願、登録、更新に関わる費用を一意匠目よりも割安に設定するという国も少なくないと聞いておるわけでありますが、これを機にこういうことも導入すべきかと思いますが、いかがでしょうか。
○政府参考人(中尾泰久君) ただいま委員御指摘ございましたとおり、例えばドイツとかフランスにおきましては、複数の意匠が一つの書類で出願される、今御説明ございました複数意匠一出願の場合には、二意匠目以降の出願手数料が減額される仕組みというのがございます。これは、これらの国々が意匠権の登録に当たりまして意匠の新規性あるいは創作性といった実体面での審査を行っていないものですから、一回の書類で複数の意匠をその中に出すということでありましても、各々の意匠に係ります追加的なコストが小さいということなどによるものと考えております。 他方、私ども日本におきましては、権利関係の早期確定を図るという観点から、アメリカなどと同様に出願の新規性ですとかあるいは創作性といった実体要件を審査した後に意匠権の登録を行うといういわゆる審査主義制度を採用してございます。したがいまして、たとえ同一の出願書類に記載されておりましても、二意匠目、三意匠目については、それぞれについて一意匠目と同等の審査コストが生ずることとなりますので、このような個別意匠ごとの審査負担ということを踏まえて手数料額を設定させていただいたものでございます。 なお、今回、複数国への一括出願が可能になるということでございますので、出願の時点におきます代理人への依頼は一回で済むことになりまして、出願される方の時間的、金銭的な御負担は大幅に軽減されるということが期待されていると考えております。
○井上哲士君 そういう御説明ではありますが、私は、より支援をするということをお考えいただきたいなと思っております。 こういう外国出願に掛かる費用の半額を補助する中小企業外国出願支援事業というものがありますが、現行制度は、外国特許庁への出願料から代理人費用、翻訳費などが補助対象とされておりますが、今回、この条約でいきますと、外国特許庁ではなくてWIPOに出すことになりますが、こういう改正協定に基づく国際意匠出願もこの制度が適用されるということでよろしいでしょうか。
○政府参考人(中尾泰久君) 御指摘のございました中小企業外国出願支援事業でございますけれども、我が国中小企業の戦略的な外国出願を促進し、グローバルな事業活動の円滑化を図るということで、特許、商標、そして意匠に関しましても外国出願に係る費用の半額を助成するという仕組みでございまして、本年度の予算で四・六億円が計上されてございます。 デザインは我が国企業の競争力の源泉として非常に重要であるということでございますから、我が国の中小企業がこのジュネーブ改正協定を利用して海外の複数国に国際意匠出願を行うということを是非支援したいという観点から、私ども、本協定を利用した国際意匠出願費用につきましても本助成事業の対象とする方向で検討してまいりたいと考えております。その際には、一括出願の指定国に日本が含まれているかどうかという御議論ございましたけれども、日本が含まれているということのみをもって支援事業の対象から外れるということがないように、併せて留意してまいります。
○井上哲士君 分かりました。是非しっかり援助をしていただきたいと思います。 次に、模造品被害の関係についてお聞きいたします。 外国で被害に遭った場合も中小企業は非常に負担が大きいわけですね。先ほどの質疑で、特許庁の調査でいいますと、回答した社のうち二割ぐらいが被害があったというお話がありました。 外務大臣にお聞きしますが、本協定は、こうした模造被害があった場合に中止させたり、賠償させるという点での大きな根拠になっていくと思うんですが、そもそも被害そのものを減らすという点でどのような効果があるのかということ。それから、日本商工会議所などは、こういう知的財産権に対する在外公館の相手国への働きかけの強化ということを要望されておりますけれども、こういう点での対応はどうなっているのか、お聞きしたいと思います。
○国務大臣(岸田文雄君) まず、本件、このジュネーブ改正協定ですが、これは国際事務局への一回の出願手続により複数の国への出願を可能とする手続に関する協定ですので、協定それ自体が海外における意匠権の侵害事案に対応するものではありません。 しかしながら、これ、意匠権が侵害された場合、侵害した企業等に対してその国で訴訟を提起するわけですが、こうした権利侵害等の違法行為に対抗するに当たっては、その国において意匠権を有していること、これが前提条件ということになります。この前提条件であります意匠権の取得がこの協定によってより容易になるという観点から、こうした協定への加入というのは御指摘の模造品被害に対する対応という上においても意味があると認識をしております。 そして、我が国の取組、働きかけについてでありますが、我が国自身、ほぼ全ての在外公館において知的財産担当官を任命し、日本企業を支援する体制を取っているわけですが、侵害の多発する国に対しましては、必要に応じて経済問題に関する二国間協議等の場で相手国政府当局に対して問題提起を行う、こういった取組を行っているところであり、今後ともそういった働きかけ、取組は続けていきたいと考えています。
○井上哲士君 この模造被害の場合も、相手国での行政当局の対応とか訴訟等について、海外に例えば駐在などある大企業と違って、中小企業はやっぱり非常に困難が多いと思うんですね。これについてはどのような支援をされているんでしょうか。
○政府参考人(中尾泰久君) お答え申し上げます。 私ども特許庁におきましては、本年度から中小企業の海外侵害の対策を支援するという事業を行っておりまして、海外での模倣品対策といたしまして、従来からジェトロを通じまして模倣品の製造とか流通経路の実態調査をするという費用は補助してまいりましたけれども、本年度より、警告文の作成ですとか、あるいは取締りを申請するといったような費用を補助の対象にするということでやってございます。 また、中小企業が海外展開をされていくその展開先国におきまして、これは、ただいま大臣から御紹介ございました外務省の知的財産担当官とも連携いたしましてということでございますけれども、現地のジェトロが法律事務所をリテインいたしまして、権利行使手続に関する情報の提供や専門家の紹介といった形で幅広いアドバイスを行っております。 中小企業の戦略的な海外展開を促進するという観点から、現行の事業を更に拡充していくということも含めまして、今後検討を進めてまいりたいと存じます。
○井上哲士君 中小企業海外侵害対策支援事業の御紹介がありました。拡充をされておるわけですが、ただ、今のでも侵害に対する訴訟費用は今のところ対象になっていないと思うんですが、これはやっぱり非常に大きな負担になるわけで、是非これも支援対象に加えるべきだと思うんですが、この辺も是非御検討いただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
○政府参考人(中尾泰久君) ただいま委員御指摘のとおり、現在の支援事業では訴訟そのものの費用は補助対象になってございません。 いずれにしましても、ニーズを踏まえながら、私どもが今後の事業を拡充していく中で、委員の御指摘も踏まえて検討してまいります。
○井上哲士君 これは被害を受けた企業だけの問題ではないんですね。日本の意匠に対する模造をやられていたら、日本が国としても企業としても毅然と対応するという積み重ねがあってこそ全体の抑制効果にもつながるわけですので、是非この点で支援の強化をいただきたいと思いますし、この制度、まだ使用実績、年間十数件とお聞きしておりまして、周知徹底も含めて、是非使い勝手のいい制度にしていただきたいと思います。 それから、この出願者の要望は、負担の軽減とともに、迅速な審査だと思います。これまで、日本の審査は非常に内容、迅速さ共に国際的に評価されていると聞いておるんですが、この改正協定に伴って英語による事業が予想されますが、先ほど来の答弁でいいますと、出願するときには図面も付けて、それの簡単な英語だけなのでさほど事業量は増えないという説明だけが行われるんですが、実際には、例えば拒絶をする場合にこれは英文できちっと拒絶理由を書かなきゃいけませんし、それに対して相手が不服になった場合にもこれは英文できちっと説明をしなくちゃいけない、この部分などは大きいと思うんですね。 どの段階でどれだけの増加を予測をされているのか。それから、そういう量的、質的な増大に伴って、人的な体制とか語学の研修など、これはどういうふうにお考えでしょうか。
○政府参考人(中尾泰久君) お答え申し上げます。 ジュネーブ改正協定加入後の我が国を指定する国際出願の件数と申しますと、先ほども御答弁申し上げましたけれども、年間約六千件から一万二千件程度というふうに想定しておりまして、この部分につきまして、ただいま委員御指摘のとおりの英語による対応が発生してまいります。具体的には、意匠の審査官が英語の出願書類を読んで審査させていただいて、出願人に対する登録又は拒絶の判断をしたその根拠を英語で通知するということが必要になるわけでございます。 意匠の具体的審査は、しかしながら、主として願書に添付された図面を参照しながら行いますので、英語については、図面に示されたデザイン内容の補足的な説明として用いられております。英語による出願内容の理解及び審査判断に係る負担は、したがって実質的には大きな支障をもたらすものではないと考えております。 しかしながら、もとより特許庁といたしましては、当然のことながら、意匠審査官の英語能力の一層の向上を図るということが必要だと考えておりまして、リーディングの英語の研修などはもちろんでございますけれども、英語による通知書作成の業務のためのライティングの研修を導入するなど、審査官の英語能力の向上ということは進めてまいります。 また、新たに生じます国際出願の審査業務というのが増えるということも予想されますので、国際出願の下調査を行います審査調査員を拡充していく、あるいは民間活力の活用というのを一層進めてまいるといった取組を進めてまいります。もし足りない部分が生じる場合には、審査官の体制強化ということも検討する必要があると考えてございます。
○井上哲士君 必要な人的体制をしっかり取るように改めて求めます。 そして、やはり、最初に申し上げましたけれども、世界に通用するデザイン力を持った中小企業が、人的、資金的な問題でなかなかそういう力が発揮できないようなことがないように重ねて支援強化を求めまして、質問を終わります。