○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
法案の内容に入る前に、まず財政民主主義についての基本的な認識をお尋ねいたします。
憲法第八十六条は、予算単年度主義を定めております。これは、憲法八十三条が「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。」としているように、国の財政は主権者国民の代表である国会の議決に基づかなければならないと、この財政民主主義の大原則によるものであります。つまり、この国会の予算審議権の確保の要請から、この予算単年度主義があるわけですね。
明治憲法下におけるこの予算単年度主義の例外が、臨時軍事費特別会計でありました。太平洋戦争時に設置されたこの特別会計は、一九三七年七月から一九四六年二月まで八年七か月を一会計年度としておって、これが軍事費の膨張を可能とし、議会の審議権を空洞化させました。最近、「臨時軍事費特別会計」という本が出ておりますが、これによりますと、毎年決まった時期に予算案を議会に提出し、あれこれ議論、論議され、時として否決されるというようなことから免れるわけで、現に戦争をしている政府、軍部にとっては便利この上のない制度だったと指摘をしております。
戦前、軍事費をこの予算単年度主義の例外としたことがその大きな膨張を招いて、国民生活と国家財政を破綻をさせたと。この痛苦の経験が憲法の財政民主主義の基本にあると考えますけれども、この点での大臣の認識をまずお伺いいたします。
○国務大臣(防衛大臣 中谷元君) 憲法との関係で基本的な認識をということでございますが、財政民主主義は、日本国憲法第八十三条にあるように、「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。」との原則を定めたものであると承知をいたしております。これは国民が不当な負担を被ることを避けるために、国の財政作用に適切な民主的コントロールを及ぼすために生まれ、発展をしてきたものであると認識をいたしております。
また、明治憲法においては、現行憲法と異なって、第八十三条のように特に一条を設けて財政処理権限の国会議決原則を明示的には規定していないなど、種々の例外的な規定が設けられていたものと承知をいたしております。
これらの経緯を踏まえまして、憲法は第八十三条において、財政処理について国会の議決に基づくことを必要とするという基本原則を定めたものであると承知をいたしております。
○井上哲士君 一般的なお話だったと思うんですが、明治憲法下における様々なそういう問題があった結果、特にやはり軍事費が莫大になって国家財政と暮らしを破綻させたと。この教訓をやはり防衛大臣としてしっかり、私、踏まえるべきだと思うんですが、改めてその点いかがでしょうか。
○国務大臣(中谷元君) この八十三条に特に一条を設けて財政処理権限の国会議決原則を明示的に規定していないなど、種々の例外的な規定が設けられていたものでございますが、これらの経緯を踏まえて日本国憲法は国会の議決に基づくことを必要とするという基本原則を定めたものでありますので、委員がおっしゃることも一因ではないかと思っております。
○井上哲士君 まさに、戦前の軍事費が本当に国会のコントロールから外れて莫大になっていったということに対するやはりこの教訓ということを私たちは踏まえなくちゃいけないと思うんですね。
他方、予算単年度主義の例外として、財政法十五条で国庫債務負担行為を定めております。しかし、その上限は五年とされておって、これを特例で十年にするというのが本法案でありますが、つまり、例外の中にさらに特別の例外をつくるというものでありますから慎重な検討が必要でありますし、しかも、これを軍事費に適用するということは戦前の教訓を鑑みて慎重な上にも慎重な検討が必要だと思います。
そこでまずお聞きしますが、今回の特例はまずP1の契約に適用するとしておりますけれども、その総額がどのようになるのか、確認をしたいと思います。
○政府参考人(防衛省防衛政策局 局長 黒江哲郎君) 先生の御質問が縮減額の総額という御趣旨であるとしたら、それぞれ比べますと、今回長期契約によって二十機分を調達するという場合の総経費は三千三百九十六億円でございまして、他方、これ長期契約によらずに調達する場合ということでいいますと総経費は三千八百十三億円というのが我々の見積りでございます。
したがいまして、長期契約によって調達する場合と、それによらない場合との経費といったものを比較しますと、約四百十七億円分の縮減効果があるというふうに見込んでおるというところでございます。
○井上哲士君 縮減をされた結果、三千三百九十六億ということでありますが、財務省、来ていただいておりますけれども、この財政法の特例によって国庫債務負担行為の限度を延ばしたものはほかにも様々事業があると思いますが、それぞれ、どういう事業があって、その予算規模及びその合計はどうなっているでしょうか。
○政府参考人(財務省主計局 次長 西田安範君) 国庫債務負担行為を他の法律で年限の特例を設けているものの概要、それから二十七年度予算における額ということでございますが、それぞれの根拠法に基づきまして、国庫債務負担行為により支出すべき年限の特例を設けている事業については、PFI事業、市場化テスト事業、温室効果ガス排出削減量の取得事業、省エネルギー改修事業の四つがございます。
PFI事業は、公共施設の建設、維持管理、運営等民間の資金、経営能力、技術的能力を活用して行う事業でございますけれども、本事業につきましては、一般会計、特別会計合わせまして二十七年度において四億円、それから二十八年度以降において五百九十三億円の支出を予定をしているということでございます。
それから、市場化テスト事業、公共サービスの質の維持向上及び経費の削減を図るために市場化テストを通じて民間事業者が公共サービスを実施することとなる事業でございますが、本事業につきましては、一般会計、特別会計合わせまして二十七年度において四百二十七億円、また二十八年度以降において千二百六十億円の支出を予定をしております。
それから、温室効果ガス排出削減量の取得事業及び省エネルギー改修事業につきましては、二十七年度予算に国庫債務負担行為を計上しておらず、支出を予定をしておりません。
以上四つの合計でございますが、一般会計、特別会計合わせまして二十七年度におきまして四百三十一億円、二十八年度以降におきまして千八百五十二億円の支出を予定しているところでございます。
○井上哲士君 これまで財政法の特例として幾つかつくられてきたわけでありますが、四つのうち二つは実際もう予算が計上されていないということでありました。他の二つの事業を合わせましても、二千二百八十三億円ということなんですね。
先ほど答弁ありましたように、本法案がP1に適用されますと、この規模を大きく上回る三千三百九十六億円ということになるわけですね。しかも、その適用対象には、先ほども議論ありましたように法律上の限定がありませんので、防衛大臣が財務省と協議してどんどん拡大をされていくという可能性があります。さらに、我々はPFIについては反対をしましたけれども、幾つかほかの特例が、効果を上げるのに性質上一定の年限が掛かるというものもあります。
ところが、今回の法案は、まとめ買いしたら安くなると、つづめて言えばそういうことですね。これはどの省庁でもある話だと思うんですよ。ですから、例外中の例外でありながら、その大半がこれ今後は防衛調達になると。ここにだけ特例を認めるというのは、やはり戦前の教訓に逆行して、防衛費を聖域化するものになるんじゃないですか。いかがでしょうか。
○国務大臣(中谷元君) 現在、自衛隊が使用する装備品、また船舶、航空機につきましては、四か年度あるいは五か年度の国庫債務負担行為によって調達しているものが多くて、これを一定数量、一括で調達をしようとする場合に五か年度を超える長期の契約が必要になると考えております。
また、防衛装備品等については、防衛省・自衛隊以外にユーザーがありません。供給できる企業も限られているなど、調達のスケールメリットが働きにくく、また企業としても高い予見性を持って計画的に事業を進めることが難しいといった特殊性もございます。
こうした特殊性を踏まえまして、現下の厳しさを増す財政状況の下で防衛力の整備を着実に実施していくために、装備品等の調達コストを縮減するとともに安定的な調達を行っていくことを目的として、国会の議決をいただいて、本法律案を制定して最長十年の長期契約を可能としたいということでございます。
○井上哲士君 国会の議決をいただいてと強調されました。
しかし、そもそもこの国庫債務負担行為に当初は三年、その後五年という上限を定めたときにも、そのことは議論されているんですね。なぜそうしたのかということを、当時の大蔵省の担当者が昭和二十二年に発行された「財政法逐条解説」という本で書いております。
従来は国庫債務負担行為として非常に長期にわたるものが多かったのであるが、余り長期にわたり将来の国の債務を負担することは、いかに国会の議決を経るとはいえ、国会の構成も時の経過に伴って異なるのであるから避けるべきであるということで三か年に制限をしたと、こういうことを言っています。
そして、その後これは五年に変わったわけでありますが、この問題は、実は防衛省の検討会の中でも議論されているんですね。防衛省は、契約制度研究会というのをこの防衛調達で開いてきましたけど、二〇一〇年七月十五日に開かれた第三回の研究会の議事要旨を見ますと、これ長期契約が議論になっていまして、当時の委員が発言をしております。
継続費を新たにまた制度化しようとしたときに憲法違反論が出て、いろいろ議論になったと。そこは収まったけれども、そのときに、継続費に併せて国庫債務負担行為もそろえて五年にしたと。その上でこう言っているんですよ。五年が一つのぎりぎりの線だということだったと思うと。当時は、やはり問題は衆議院と参議院の議員が四年、六年という任期があって、予算を統制する国民の代表が次の国民の代表者の意思決定を先取りするのはまずいだろうということが一番根底にあると理解していると。こういうことが実は検討会で議論されている、防衛省の。
ところが、その後、全くこれが検討をされている跡がありません。ここで言われていますように、国庫債務負担行為を上限を延ばすに当たっても衆議院は四年、参議院は六年という任期がある、これをはるかに超えるようなことになれば次の国民の代表者の意思決定を先取りするようなことになる、これはまずいということで五年にしたという、こういう議論がされているわけですね。
十年といいますと、衆議院の選挙は二回以上あります。参議院は三回行われます。政権交代もあるかもしれないと、そういうことで、先の国民の代表の議論を縛ってしまうと、こういうことになるということで当時五年になったということを考えますと、なぜそれをぎりぎりの線と言ったのに一気に二倍に延ばすことができるのか、この点、どういう検討をされたんでしょうか。
○政府参考人(防衛省経理装備局 局長 三村亨君) お答え申し上げます。
委員御指摘のように、国庫債務負担行為の期限につきましては様々な御議論がございます。ただし、財政法第十五条第三項の本文におきまして、国庫債務負担行為の年限を五か年度以内とする一方で、その他の法律で定めるものについてはこの限りではないというふうに定めているものと承知をしております。本法律案は、このただし書に基づいて国会の議決を経て定めていただくものでございます。
また、本法律案に基づく長期契約につきましては、各年度の予算に国庫債務負担行為として計上され、国会の議決を経た上で認めていただくことになります。また、国庫債務負担行為に計上された事業につきましては、支出を要する各年度の予算に歳出化経費を計上し、改めて国会の議決をいただくことになります。
このため、本法律案に基づく長期契約については、法律、予算双方について国会の議決をいただいた上で行うものでございまして、国会の予算審議権を縛るというものではないというふうに考えているところでございます。
○井上哲士君 国会の議決を経ると言いますけれども、長期契約をすれば、その解除は契約企業が被る損害の賠償が前提になるんです。ですから、極めて困難になるわけですね。ですから、十年度までということは次の次の総選挙で選ばれるような議員の決定権まで縛ることになるじゃないかと、だから五年がぎりぎりの線だということが防衛省の検討会でも議論をされていたのに、全くそれの検討がされた跡がないままこういう法案が出てきている、私は極めて重大だと思います。
こういう長期契約の導入は、防衛産業の維持、育成を求めて産業界が武器輸出の解禁と併せて求めてきたものでありまして、こういうことに応えて国会とそして国民の予算審議に対する権限をやっぱり侵害をするような、こういうものは財政民主主義に真っ向から反するものだと、このことを指摘しまして、質問を終わります。