国会質問議事録

ホーム の中の 国会質問議事録 の中の 2015年・189通常国会 の中の 北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会

北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会

○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 今日は、参考人の皆さん、貴重な御意見ありがとうございます。
 まず、北朝鮮の体制に関わって平井参考人にお聞きいたします。
 著書の中でも、今の状況が、先軍政治を標榜しつつも、先党政治という状況が強くなっているんじゃないかというお話が先ほどもありました。
 三月に北朝鮮の生の情報にお詳しい外国の外交筋の方からお話を聞く機会があったんですが、その方は、軍が党の上に立つ動きがあるとおっしゃって、その例として、党の組織指導部の副部長が、これまで非軍人が務めていたけれども、交代して軍人に取って代わったということをおっしゃいました。このポストは、党の中で軍の人事に関わる決定をつかさどるわけで、そのポストが軍の出身者が就いたということから、軍が党の上に立ったんではないかと、こういうことを言われたんですが、この点についての評価はいかがお考えでしょうか。

○参考人(立命館大学客員教授 共同通信客員論説委員 平井久志君) その方がおっしゃっている組織指導部の副部長が誰かということはよく分かりませんが、可能性として、実は空軍司令官をしていた人物が党の方に回されて副部長になっております。たしか、記憶では、その後もっと出世して第一副部長になっている方かなと思います。この人物は、先ほど私が申しました最近白頭山に行ったときの五人組の中にも入っていて、今の金正恩第一書記が非常に空軍重視の路線を取っておりますから、新しい側近であることは間違いありません。彼のことを言っているのであれば、そうじゃないかと私は推測するわけですけれども。
 軍に対して党の人間が、かつては例えば軍をコントロールする軍総政治局長というのは軍人が多くそのポストを占めていたのに、この政権になって、崔龍海さんも党人ですし、黄炳瑞さんも党人で、党が軍をコントロールするという図式に変わっているんですね。その中で、軍人を党の側で使うという現象が一部出ています。それは、一つはこの空軍司令官を党の副部長にしたケースと、平壌市の党責任書記という言わば平壌市長のような役割を果たす人物を軍から、軍の人物が、張成沢粛清以降、彼の系列であったということで平壌市の党責任書記が解任されて、軍人がなっています。この二人のケースが軍人が党に活用されたケースなんですね。
 ただ、ですから、そういうふうに、やや軍の不満を解消するということで軍の幹部を党の側で起用するというケースが、私が知る限りでは、幹部の中ではこの二つのポジションで現象が現れているんですけれども、それをしてみても、まだ党の第一副部長レベル、党の政治局とかそういう高いレベルには入っていないわけですね。
 この空軍司令官のポストが党の組織指導部であるかどうかもまだちょっと確認できておりません。そうじゃないかという見方もありますし、むしろ韓国なんかでは、組織指導部ではなくて党の軍事部のポジションにいるんじゃないのかなという見方の方がむしろ強いですね。ですから、そうであるならば、党の軍事部で軍人を使うということは、ある意味では軍事についてよく知っている人間を党の方でも起用するという意味で一貫性があるということで、ですから、そういう現象が現れていることは事実ですけれども、それはなお全体から見れば部分的な現象であるだろうと思います。

○井上哲士君 ありがとうございました。
 北朝鮮による拉致問題での日本政府の対応についてそれぞれからお聞きしたいんですが、これまで政府は、国会審議を通じて、北朝鮮の特別調査委員会の委員長を務める徐大河氏が北朝鮮の国防委員会安全担当参事兼国家安全保衛部の副部長であることをもって、国防委員会という北朝鮮の最高指導部に徐大河委員長を通じて拉致問題に向けた日本の強い決意を伝えることができたと、こういうことを説明をしてきたわけですが、こういうふうに政府が評価をしてきたこの北朝鮮の特別調査委員会の体制についてどのように評価をするか、平井参考人、それから西岡参考人にお聞きしたいと思います。

○参考人(平井久志君) それなりの意味合いはあろうかと思います。ありますが、この特別調査委員会というものが四つの問題を全体的に統括する部門ですし、これまで拉致は解決済みだったということを言っていた北朝鮮が再調査をするということを約束したという意味では、私は意味のあることだと思いますけれども、そこの委員長が国防委員会にもポストを持っている人物であるということは、意味のないことではないけれども、それほど過大評価することでもまたないのじゃないのかなと私は個人的に思っております。

○参考人(北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会会長 東京基督教大学教授 西岡力君) 私は、特別調査委員会の構成を見たときに、これでは全く駄目だと思いました。つまり、拉致をしたのは工作機関です。工作機関は国家機関ではなくて党にあります。国家安全保衛部は、党の工作機関に権限は持っていません。
 そもそも、拉致被害者については、菅官房長官がおっしゃっているように、もうリストがあるので特別調査委員会が調査する必要はないものでありますから、それなのに、あたかも特別調査委員会がいい委員会だという印象を一時的につくられたことは、その調査委員会が出してくるものを無条件で信じなさいという方向の世論誘導がされているんじゃないかと思って、私は緊張をしました。
 つまり、本質的な問題は、金正恩氏が全員帰す決断をしているかどうかだけです。

○井上哲士君 ありがとうございました。
 それに関連してなんですけど、政府は北朝鮮側から、過去の調査結果を参考にはするが、それにこだわることなく調査を進めていくと、こういう説明を受けたことをもって、北朝鮮は従来の主張にこだわることなくゼロベースで調査を進めるものと考えていると、これ国会でも答弁をしてきました。
 これについて、去年の十一月の当委員会で我が党議員が、本当にゼロベースで調査を進めるという意味なのか否か北朝鮮側にきちんと確認したのかと聞きますと、明確な答弁ではなかったわけですが、こういう政府の北朝鮮がゼロベースで調査を進めるものと考えているという判断、評価についてどのようにお考えか、飯塚参考人、西岡参考人、お願いします。

○参考人(北朝鮮による拉致被害者家族連絡会代表 飯塚繁雄君) その辺の言葉上の解釈はいろいろできると思うんですが、ゼロベースというのは、要するに、今まで言っていた亡くなったというあれはうそだと、全て白紙から調査しますというのがゼロベースというのか、あるいは北朝鮮が言っていることをベースに更にその先をやる、これがゼロベースなのか、ちょっと私たちには分かりませんが、特に日本が評価したのは、改めて調査をし直します、最初からし直しますというところにわながあったような気がして、日本はそれに対して前向きな姿勢を評価するということで若干一部制裁も解除してしまったんですけれども、あれは、よく判断、分析した結果が余り見えなくて、単に交渉が始まったと、良かったというイメージを持って制裁を解いたというふうに私たちは考えています。
 したがって、当然ながら、向こうが死んでいると言うのは全く捏造でうそだというのはもう大方日本では全て通っているわけですが、それを向こうがはっきりと言っていない。今この現在でも、向こうは、前報告した亡くなっているというのはそのまま継続しているわけですよね。
 だから、そういうことを考えると、特に私たちは、最初から調査をし直せというよりも、皆さん、先生方が言っているように、もう分かっているんだから即帰せと、そこの近道をきちっと行かないと、やたら遠回りして調査委員会だけの独り歩き、報告の独り歩きというか、それの論議に尽きてしまうのを恐れているわけです。
 以上です。

○参考人(西岡力君) まず、交渉事ですから、全てを明らかにしていないのは当然のことだと思います。それを前提にしてお答えいたしますけれども、ゼロベースにして調査すると言ったということは、評価できません。つまり、金正恩氏が全員を帰すという決断をしているのかどうか、それ以外、評価の対象はありません。
 ただ、父親が言ったことが間違えていたということを言うための手段、方法として調査委員会を使うということについて、過去うそをついたことを糾弾するということはしないと、これは民主党政権時代、松原大臣が最初に言い始めたことですが、それを今の政権も引き継いでいることは私は賛成です。

○井上哲士君 さらに、政府の説明によりますと、北朝鮮側からは、この特別調査委員会の調査について、二〇〇二年や二〇〇四年の調査は特殊機関から出された情報を提出したという意味で一面性があった、その調査が非常に短い時間で行われた、こういうふうに北朝鮮側から説明があったと。しかし、今回は、北朝鮮側から、証人や物証を重視した客観的、科学的な調査を行い、過去の調査結果にこだわることなく新しい角度から調査を深めていくと、こういう説明があったとして政府は評価をしてきたわけですが、こういう北朝鮮側からの説明についてどのようにお考えか、平井参考人、それから荒木参考人、お願いできますか。

○参考人(平井久志君) その過去の調査が雑なものであったということを認めたことは意味のあることだと思いますけれども、私は、出てくる結果がどういうものかよく分かりませんが、何よりも家族の方たちが納得のできる、そういう結果が出されなければいけないんだろうと思うんですね。
 そういう意味で、この北朝鮮側の言っていることが意味のあることなのか、ないことなのかということは、少し出されたものを見ないと私にはちょっと判断しかねる部分があると思います。

○参考人(特定失踪者問題調査会代表 拓殖大学海外事情研究所教授 荒木和博君) 先ほど西岡参考人も言われましたけれども、この調査委員会というのは元々、ともかく全て分かった、分かっているという状態で、それで、しかし北朝鮮側にこれまでのことについての責任は問わない、ともかく今ちゃんと出せばその責任は問わないという口実を与えるだけのものであるというふうに思います。ですから、そういう意味では客観的とか物証とかということ自体が意味がないことで、この構成を含めまして、こういうことに余りこだわると逆に本質が見えなくなるのではないかというふうに思っております。

○井上哲士君 ありがとうございます。
 ただ、いずれにせよ情報を持っているのは日本政府でありまして、当事者である政府が今後の交渉の進め方を判断するということだと思うんですね。その際、大事なのは、北朝鮮が強い権限を持つ特別調査委員会をつくると言って調査を約束した以上、それを断固として守らせるという外交努力が政府に今強く求められていると思います。
 国際的な協力で北朝鮮を包囲して圧力を掛けるという点でいいますと、六か国協議のメンバーである中国や韓国などともまともな外交関係ができていないという今の状況を変える必要が私はこの問題の解決のためにもあると考えるんですが、この日朝平壌宣言に基づいて諸問題を包括的に解決するためにも、日本が近隣諸国とのまともな関係をつくることが問われていると思いますが、この点、平岩参考人から平井参考人、お願いできますでしょうか。

○参考人(関西学院大学国際学部教授 平岩俊司君) 御指摘のとおり、拉致問題を始め日本政府の北朝鮮政策というのは、拉致、核、ミサイル、これを包括的に解決を目指すということで、全体的な北朝鮮問題の解決の中で恐らく拉致問題の進展というのもあり得るんだろうと思います。ですから、もちろんその一方で二国間による働きかけは当然必要ですし、それから国際的な働きかけというのも必要ですし、また一方で核問題、ミサイル問題についての一定の役割を日本がしなければいけないというところがあることも間違いないんだろうと思います。
 そういう働きかけをする必要があるわけでありますが、現状ではなかなか、先ほどもお話ししましたように、中国、韓国、日本、アメリカ、それぞれ目指すところが違いますので、どうしてもなかなか足並みがそろわないというところはあるんですけれども、これは今後、うまく足並みをそろえて効果的に対話と圧力というものを利用しながら北朝鮮に姿勢変化を求めていく必要があるんだろうと思いますし、現在、恐らく日本政府は中国との関係あるいは韓国との関係も含めて再調整をしている過程でしょうから、そうした中で、この北朝鮮問題というのは、ある意味では協力でき得る範囲だろうと私は思っております。

○参考人(平井久志君) 私も、日韓関係や日中関係が非常に冷却化しておりますけれども、それが拉致問題に影響を与えてはいけないと思っておりますし、逆に、歴史認識等の問題で韓国や中国との関係が冷えていますけれども、こういう極めて人道的な、いかなる国においても否定されるべきような犯罪に対するサポートという意味では積極的にむしろ韓国や中国との協力関係というのは模索されるべきだと思っております。

○井上哲士君 同じ質問を飯塚参考人にもお願いしたいと思います。

○参考人(飯塚繁雄君) 拉致問題を早く解決するに当たっては、今この現状で、もはや韓国あるいは中国の御機嫌を取ることはないと私は思っています。直接北朝鮮に向かって強い対応、態度を示し、余り回りくどいといいますか、そういったことを今するのが本当にいいのかどうか。将来的には近隣各国、共存共栄で仲よくしていかなきゃいけないのは分かりますけれども、事拉致問題に関しては中国も韓国も余り協力的ではないというふうに私は見ています。
 以上です。

○井上哲士君 ありがとうございました。終わります。

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