○議長(山崎正昭君) 井上哲士君。
〔井上哲士君登壇、拍手〕
○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
私は、会派を代表して、安倍総理の訪米報告に対して質問いたします。
総理は、上下両院合同会議での演説で、我々は冷戦に勝利したと述べました。しかし、これまで歴代総理は、冷戦終結や冷戦構造の崩壊と述べてきました。なぜあえて勝利と述べたのですか。日本も冷戦に参加して戦っていたという認識ですか。
東西冷戦は、軍事ブロックの対決による果てしなき軍拡競争であり、軍事対軍事の悪循環の中、旧ソ連は莫大な軍事費増大の下で崩壊しました。一方、今日、軍事ブロックの解体と機能停止が進み、それに代わり、外部に仮想敵を設けない地域の平和協力の枠組みが広がっています。東南アジア友好協力条約は、独立、主権の尊重、内政不干渉、紛争の平和解決、武力行使の放棄、効果的な協力などの基本原則を掲げ、ASEAN諸国の行動規範から国際条約として今日発展しています。
ところが、新たに合意された日米防衛協力指針、ガイドラインでは、日米軍事同盟の役割を、日本防衛はおろか、従来の周辺事態も大きく踏み越え、アジア太平洋地域及びこれを越えた地域にまで広げました。こうした軍事同盟の拡大ではなく、東南アジア友好協力条約のような軍事によらない平和協力の流れを広げることこそ、日本は努力すべきではありませんか。
総理は、この演説で、アメリカのリバランス政策を徹頭徹尾支持するとした上で、日本は、将来における戦略的拠点の一つとして期待されるグアム基地整備事業に二十八億ドルまで資金を提供しますと述べました。これまで、アメリカの領土にあるアメリカの基地に他国が費用負担するなど前代未聞だとの批判に、沖縄の負担軽減を早く進めるためだと答弁をしてきたことと全く違うではありませんか。
アメリカの軍事戦略に加担し、巨額の費用負担をすることは、ますます地域の緊張を高めるだけではありませんか。答弁を求めます。
前ガイドラインは、日米軍事協力を強化する一方、日本の全ての行為は憲法上の制約の範囲内において行われるとしていました。ところが、新ガイドラインには憲法上の制約という言葉がなくなり、日米の行動は各々の憲法に従って行われるとの言葉に変わりました。昨年の閣議決定により、アメリカとの地球的規模の軍事協力に地理的にも内容的にも制約がなくなったという認識ですか。
憲法の制約とは、国家権力を縛るというものです。それを縛られる側の権力が閣議決定で取り払うなど、立憲主義を踏みにじるものです。しかも、政府は、閣議決定の内容の行使には国会での法改正が必要だと繰り返し答弁をしてきました。にもかかわらず、総理は、国会に関連法案の提出もしないうちに、夏までに法案の成立を実現させると米議会で演説しました。
総理は、決意を述べたものだと言いますが、外国の立法府での総理の演説は、単なる決意ではなく、事実上の対米公約ではありませんか。国内でも繰り返し述べてきたと言いますが、幾ら繰り返しても国民の世論の多数は反対であります。この国民の声も国会をも無視し、期限を区切ってアメリカに約束するというのは、国民主権と議会制民主主義を否定するものではありませんか。
総理は、衆議院本会議で、先週提出された安保関連法案を戦争法案と呼ぶのは無責任なレッテル貼りだと答弁しました。首脳会談後の記者会見でも、安保条約の改定時に、日本はアメリカの戦争に巻き込まれるという批判があったが、その間違いは歴史が証明していると述べました。
しかし、アメリカのベトナム侵略戦争は、在日米軍基地が出撃基地となりました。九〇年代以降、自衛隊はアメリカの要求に付き従い、ペルシャ湾への掃海艇派遣、アフガンの空爆を行う米軍艦船へのインド洋での給油支援、イラクでの掃討作戦を行う武装米兵の輸送など、安保条約の下でアメリカの無法な戦争と占領に加担してきたというのが歴史の事実ではありませんか。
提出された平和安全法制なるものは、これまでのアメリカの戦争への支援にとどまらず、集団的自衛権の行使、従来の戦闘地域での軍事支援、治安維持活動等、これまでは憲法上できないとされてきたことを可能にするものです。その行使を決めるのは、時の多数派である政府です。アメリカが世界で行う戦争に、いつでも、どこでも、どんな戦争でも、切れ目も歯止めもなく自衛隊を支援、参加させるためのものであり、まさに戦争法案にほかなりません。このような法案に平和、安全との名前を付けることこそが国民を欺くものであり、無責任ではありませんか。
日本共産党は、戦争法案反対の一点で、立場の違いを超えて国会内外で力を合わせ、戦後最悪の憲法破壊の企てを阻止するために全力を挙げるものであります。
総理は、米議会の演説で、自由、民主主義、基本的人権、法の支配が日米の共通の価値観だと述べました。一方、沖縄の米軍新基地について、オバマ大統領に対し、翁長沖縄県知事が反対していることを伝えた上で、辺野古が唯一の解決策との政府の立場は揺るぎないと強調しました。これに対し翁長知事は、沖縄復帰の日の会見で、復帰後も真の民主主義は実現していないと述べました。選挙で何度も新基地反対の審判を下してきた沖縄県民は、昨日、三万五千人の県民集会を開き、我々は決して屈しないと決議しました。
この民意を無視し、日米合意を優先する対米従属の姿勢が総理の言う民主主義なのですか。新基地の建設を断念し、普天間基地を直ちに無条件で閉鎖、撤去することを強く求めます。
日米共同ビジョン声明は、TPP交渉の大きな進展を強調し、早期妥結を目指すとしました。一方、首脳会談直前に行われた甘利大臣とフロマン通商代表の会合での具体的内容は一切明らかにされておりません。政府は、既に牛肉、豚肉の関税の大幅引下げを認め、残った論点はアメリカ産米の特別輸入枠の大幅拡大だけだと伝えられております。大きな進展とは具体的に何なのか、明らかにしていただきたい。
しかも、内閣府副大臣が、アメリカの国会議員同様に、TPPの交渉中の条文案を日本の国会議員に公開すると一旦述べながら撤回したのは重大です。言明どおり、公開するよう強く求めるものです。
自民党は、TPPについて、農林水産分野の重要五品目等の聖域を最優先し、それが確保できない場合には脱退も辞さないと公約し、総理は国会で、守るべきものは守ると繰り返してきました。ところが、米議会での演説では、単なる経済的利益を超えた長期的な安全保障上の大きな意義があると述べながら、公約である聖域確保には全く触れませんでした。
一方、オバマ大統領は共同会見で、米国では多くの日本車が走っている、日本でももっと多くの米国車が走るのを見たいものだと強調し、アメリカの多国籍企業のために日本市場の一層の開放を求めました。
安全保障上の意義を理由に、公約や食と農業を守ることよりも、アメリカの要求を優先しようとしているのではありませんか。TPP推進で国内農業を破壊することは食料安全保障をも危うくすることをどう認識しているのですか。
日本の食と農業を破壊し、経済主権を売り渡すTPP交渉からの撤退を求め、私の質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 井上哲士議員にお答えをいたします。
米国議会での演説についてお尋ねがありました。
米国議会での演説では、私は、かつて戦火を交えた日米両国が、戦後、和解を達成し、今や、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった基本的価値に基づく揺るぎない同盟で結ばれていること、そして、我が国は、戦後、西側世界の一員として、米国とともにアジア太平洋地域や世界の平和と繁栄に一貫して貢献してきたこと等を述べてまいりました。
このような観点から、演説では、日本は、米国、そして志を共にする民主主義国家とともに、最後には冷戦に勝利しましたと述べたところであります。
軍事のない平和協力を広げることについてお尋ねがありました。
我が国を取り巻く安保環境が一層厳しさを増す中、我が国は、近隣諸国との対話を通じて友好協力関係を発展させるとともに、日米同盟の一層の強化を通じて紛争を未然に防止すること、すなわち抑止力を高めることとしています。
実際、私は、就任以来、地球儀を俯瞰する観点から積極的な外交を進め、いかなる紛争も、武力や威嚇ではなく、国際法に基づいて平和的に解決すべきとの原則を国際社会に対して主張し、多くの国々の賛同を得てきました。外交を通じて各国との友好協力関係を発展させていくことが重要なことは論をまちません。今後も積極的な平和外交を進めてまいります。
米海兵隊のグアム移転についてお尋ねがありました。
沖縄に駐留する米海兵隊のグアムへの移転事業に対する我が国の協力は、米軍のアジア太平洋地域における抑止力を維持しつつ、沖縄の負担を軽減するためのものです。米国のリバランス政策の重要な一部を成すグアムの戦略的拠点としての発展、強化に対する我が国の貢献は、アジア太平洋地域における米国の抑止力の維持に大きく寄与するものと考えています。
先日の米議会における私の発言は、このような従来の政府の見解に沿ったものであり、何らのそごもありません。また、グアムへの我が国の貢献は、安全保障環境が一層厳しさを増す中で、我が国及び地域の安全に寄与するものであり、ますます地域の緊張を高めるだけとの指摘は全く当たりません。
新ガイドラインについてお尋ねがありました。
新ガイドラインについては、日米両国の全ての行動及び活動は各々の憲法に従うことが明記されています。昨年七月の閣議決定及びそれを踏まえた今般の平和安全法制には、自衛隊の派遣に関して明確かつ厳格な要件が示されており、米軍との協力に制約がなくなったということはありません。
いずれにせよ、自衛隊の派遣について、我が国として憲法及び法令に従い、自らの国益に照らして主体的に判断するものであります。
米国議会での演説における平和安全法制の成立時期に関する発言についてお尋ねがありました。
米国議会における演説で、平和安全法制の成立について、この夏までにと申し上げ、私の決意をお示ししました。
そもそも平和安全法制は、平成二十四年の総選挙以来、これまで三回の選挙で常に公約に掲げ、一貫して訴えてきた課題であります。特に、さきの総選挙では、昨年七月一日の閣議決定に基づき、平和安全法制を速やかに整備することを明確に公約として掲げ、国民の皆様の審判を受けました。法整備の方針を閣議決定した上で、選挙において速やかに整備することを公約した以上、選挙直後の今通常国会においてその実現を図ることは当然のことであります。
このため、昨年十二月二十四日、総選挙の結果を受けて発足した第三次安倍内閣の組閣に当たっての記者会見において、平和安全法制は通常国会において成立を図る旨申し上げ、国民の皆様に私の決意をお示ししました。本年二月の衆議院本会議においても、二度にわたり、今国会における成立を図る旨、答弁しています。
米議会での演説においても、改めてこのような私の決意を申し上げたものであり、事実上の対米公約、国民主権と議会制民主主義を否定するものとの指摘は全く当たりません。
政府としては、今後の法案審議において、多くの国民の皆様、そして与党の皆様、野党の皆様に法案の趣旨を御理解いただき、幅広い御支持が得られるよう、分かりやすく丁寧な説明を心掛けてまいります。
我が国における自衛隊の国外派遣についてお尋ねがありました。
これまでの自衛隊の国外派遣は、我が国自身の主体的な取組として法令に従って国会の御承認を得て行ってきたものであり、国際社会からも高い評価を得ています。したがって、我が国が安保条約の下で米国の無法な戦争と占領に加担してきたとの御指摘は全く当たりません。
平和安全法制という名称についてお尋ねがありました。
国民の命と平和な暮らしを守り抜く、その決意の下、日本と世界の平和と安全をより確かなものとするために閣議決定した法案が平和安全法制であります。自衛隊が歯止めなく活動を広げていくというのは全く的外れな議論です。新三要件による厳格な歯止めは法律案の中にしっかりと定められています。さらに、国会の承認が必要となることは言うまでもありません。
自衛隊が海外で行う後方支援や国際平和協力活動は、いずれも集団的自衛権とは関係のない活動です。あくまでも、紛争予防、人道復興支援、燃料や食料の補給など、我が国が得意とする分野で世界の平和と安定にこれまで以上に貢献していくものであります。
日本が武力を行使するのは日本国民を守るため、日米の新ガイドラインの中にもはっきりと書き込んでおり、日米の共通の認識です。したがって、戦争法案といった無責任なレッテル貼りは全くの誤りであります。
普天間の辺野古への移設についてお尋ねがありました。
沖縄における選挙の結果については、いずれも真摯に受け止めています。
最も大切なことは、住宅や学校に囲まれ、市街地の真ん中にある普天間の固定化は絶対に避けなければならないということです。これが大前提であり、かつ政府と地元の皆様との共通認識であると考えています。
辺野古への移設により、普天間は全面返還されます。沖縄の皆様の願いを現実のものとするため、一日も早い返還を実現する、これがこの問題の原点であると考えています。したがって、辺野古移設が民意よりも日米合意を優先する対米従属であるといった指摘は全く当たりません。
政府としては、引き続き、安全確保に留意しつつ、辺野古への移設事業を進め、普天間の一日も早い返還を必ずや実現することが重要であると考えています。
TPP交渉の大きな進展についてお尋ねがありました。
日米首脳会談では、私の訪米前に甘利大臣と米国フロマン通商代表の間で行われた日米閣僚協議において、米を含む農産品と自動車について協議が行われ、依然として課題が残っているものの、二国間の距離が相当狭まったことを確認したものであります。
引き続き、TPP協定の早期妥結に向けて、日米両国がリーダーシップを発揮して取り組んでまいります。
TPP交渉の内容の開示についてお尋ねがありました。
そもそもTPPは、交渉中の情報が外部に漏れないようにするという厳しい保秘契約に各国が合意しているものであります。米国の法制度は、連邦議員の守秘義務や外国との通商に関する権限に関して、我が国と制度が大きく異なります。このため、我が国において米国と同様の開示を行うことは困難であります。
いずれにせよ、政府としては、これまでも国会等で丁寧な説明を心掛けてきたところでありますが、秘密保持の制約の下で、TPP交渉の現状等について、今後もできる限り丁寧に説明していく所存であります。
TPP交渉の意義及び交渉からの撤退についてお尋ねがありました。
我が国の同盟国である米国や、自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値を共有する国々とともに新たなルールをつくり上げ、こうした国々と経済的な相互依存関係を深めていくことは、我が国の安全保障にも、またこの地域の安定にも資する戦略的意義を有しています。また、成長著しいアジア太平洋地域の市場を取り込むことで、六次産業化など抜本的な農政改革と相まって、我が国の農業にとっても発展の機会が広がると考えています。
我が国としては、こうした観点から、衆議院、参議院の農林水産委員会の決議をしっかりと受け止めながら、国益にかなう最善の道を追求して、全力で交渉に当たってまいります。
このため、アメリカの要求を優先しようとしているという御指摘は全く当たりません。また、こうした中で、交渉からの撤退について言及することは不適切であると考えます。(拍手)