○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
会派を代表して、参議院選挙制度改革に関する二つの法案について発議者に質問します。
まず、両法律案が、発議者より委員会審査省略要求を付して提出され、政治倫理・選挙制度特別委員会での審査を省略してこの本会議で採決されようとしていることを強く抗議するものであります。
選挙制度の改正内容の周知期間を一年間は確保するために、本日までに参議院で可決することが必要だという理由で委員会質疑が省略されましたが、これは本末転倒の議論であります。選挙制度をどうするのかということは、国民の基本的権利の問題であり、議会制民主主義の根幹に関わる問題であって、委員会における国民に開かれた議論は不可欠です。しかも、五年間の各党協議で合意に至らなかったものであり、国会における十分な質疑を行ってこそ、その内容を国民は知ることができます。
それは、会派間協議で代替できるものでも、国会における会派の多数で合意さえすればよいというものでも決してありません。しかも、両案の内容である十合区案、二合区・十増十減案は、いずれも選挙制度検討会が五月末に打ち切られて以降に提案されたものであり、その具体的内容について検討会や協議会の場で一度も協議されておりません。
本会議における質疑に加え、委員会での一問一答の質疑を行ってこそ、法案の理念や内容、問題点、執行に当たっての必要な措置等が明らかになることは、国会議員であるならば当然の共通認識であるはずです。とりわけ、基本的権利に大きな影響を受ける合区対象の県の有権者や選管などの関係者から十分な意見を聞くことは不可欠であります。
その立場から我が党は、倫理選挙特別委員会での必要かつ十分な質疑、公聴会や参考人質疑などの国民の意見を反映する審議を要求しました。参議院の歴史を見ても、委員会審査が省略されたのは国会法や人勧に関する法案などで、全会派一致のごく限られたものだけであります。国民の基本的権利に関わり、しかも賛否の分かれる議案で委員会審査が省略された例はありません。参議院の自殺行為にも等しいものであります。
自民提案者に聞きます。党内調整を理由に改革案の提案を遅らせ、一年間の周知期間が困難な事態を生んだ責任をどう考えているのですか。
自民、民主の提案者に聞きます。委員会審議を省略するような審議の在り方が有権者の理解を得られると考えますか。委員会における審議や参考人、公聴会質疑が必要ではありませんか。
今回の参議院選挙制度改革は、二〇〇九年九月の最高裁判決が、最大較差が五倍前後に達している参議院の選挙区定数配分規定について、投票価値の平等の観点から、選挙制度の仕組み自体の見直しを提起したことを契機とするものです。以来、私は一貫して各党協議に参加をしてきました。
日本共産党は、この間の参議院選挙制度改革の協議に当たり、第一に、今回の制度改革の根幹は、一票の較差是正であり、議員定数の削減は行わずに較差是正を実現をすること、第二には、選挙制度を考える上で最も重要なことは、多様な民意を議席に正確に反映させることであるという基本的見地を取り、その見地からいって、新しい選挙制度は、得票数が議席に正確に反映される比例代表を中心とした制度とすべきだと主張してきました。
その上で、当時の西岡議長の提示した当初案は、総定数を維持し、ブロックごとの比例代表制によって較差是正を実現しようとするもので、これをたたき台として議論することを提案をしてきました。協議が合意に至らず、今日の事態を生み出していることは極めて残念であります。
憲法第四十三条に、「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。」と明記されているように、国会議員は全国民の代表です。同時に、国会議員をどのように選ぶかは法律で定めるものとされ、参議院においては、全国比例代表と都道府県選挙区によって選挙が行われてきました。
最高裁は、国民の投票価値の平等への要求の高まりと社会情勢の変化を受け、投票価値の平等を重視し、二〇〇九年に続く二〇一二年の判決では、二〇一〇年参議院選挙を違憲状態とし、参議院は衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を反映する責務を負っていることは明らかであり、参議院議員の選挙であること自体から、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見出し難いとし、都道府県を参議院選挙の選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はなく、上記の仕組み自体を見直すことが必要になるものと言わなければならないと述べました。
我が党が、一定の地域性は維持しつつ、特定の県のみに較差や不公平感を生み出すことなく、一票の較差を是正するブロック制をたたき台にするよう主張してきたのは、この提起に応えたものであります。
一方、一部の県のみを合区することは数合わせ感が否めず、合区対象県から、地方切捨て、地方軽視などの反発を招いています。
自民、民主の提案者にお聞きします。
二〇一二年の最高裁判決をどう受け止めているのですか。一部合区という案は、都道府県単位の選挙区が基本だという理念なのですか。そうであるならば、その理念が特定の県には適用されないという制度は著しく公平性を欠くのではありませんか。
また、合区による較差の是正は、今後の人口変動の予測を見るならば、近い将来の新たな合区が必要となることをどう考えるのですか。民主党提案者に答弁を求めます。
自民・四野党案には、附則で、平成三十一年選挙に向け、選挙制度の抜本的な見直しについて検討を行い、必ず結論を得るものとしています。どのような協議の結果、この附則を付けたのですか。維新の提案者にお聞きいたします。
自民・四野党案は、従来の何増何減方式に一部合区を組み合わせて当面の較差を三倍に収めようというものにすぎず、三年前の四増四減案に続いて抜本改革を更に先送りするものです。事実上、一人が三票持つような制度で、一票の価値の平等が実現されると考えているのですか。自民提案者にお聞きします。
また、与党である公明党提案者にも、自民・四野党案への評価をお聞きいたします。
公明党は、選挙制度協議会で、理想は十一ブロックの大選挙区制と発言してきました。その理想とは大きく違う合区にかじを切ったのはなぜですか。また、ブロック制を取る理由として、一部県のみの合区ではない、公平性の確保を挙げていました。一部合区という民主、公明などの法案で公平性が確保できているのですか。
同案は、都道府県の合区が恣意的なものにならないようにとして、一票の価値の大きい都道府県から順次、隣接する人口の少ない都道府県と機械的に合区するという内容となっています。その結果、岐阜と富山など、社会的、地理的つながりがほとんどないような県を合区することによる様々な矛盾を生じることになっております。この点をどう考えるでしょうか。
日本共産党は、一票の較差を是正し、国民の声が正確に反映する選挙制度の抜本改革を目指して引き続き奮闘する決意を述べ、質問を終わります。(拍手)
〔鶴保庸介君登壇〕
○鶴保庸介君 井上議員から四問御質問をいただきました。
まず、法案の提出時期についてのお尋ねがありました。
本院では、議長の下に開催された選挙制度の改革に関する検討会及びその下に設けられた選挙制度協議会において鋭意協議が行われてまいりましたが、残念ながら各会派の意見の一致は得られませんでした。
しかしながら、来年の通常選挙に間に合わせるためには今国会中に公職選挙法の改正が必要となることから、各会派において法案化作業を行うものとされたものであります。
そして、昨日、五会派、自民、維新、元気、次世代、改革の五会派で公職選挙法改正案を共同提出する運びとなり、本日、参議院の本会議の場で御審議いただくことになりました。
参議院任期満了の一年前の前日に当たる本日、参議院で審議されることになり、仮に本法案が早期に可決、成立するならば、十分に周知期間が確保されるものであると考えます。したがって、先生の御指摘は当たらないものだと考えております。
次に、審議の在り方についてお尋ねがございました。
国会法五十六条第二項ただし書には、「特に緊急を要するものは、発議者又は提出者の要求に基き、議院の議決で委員会の審査を省略することができる。」と規定されています。
本法案は、参議院の発議者の所属する五会派が十分審議の上、合意したものでございます。参議院の任期満了日まで明日で残り一年となります。周知期間を十分に確保するため、本法案の早期成立が是が非でも必要となっております。したがって、本法案は緊急を要するという案件であり、御指摘は当たらないものと考えております。
我々は、一日も早い本法案の成立を期すために、全力を挙げて取り組んでまいりたいと思います。
次に、平成二十四年の最高裁判決の受け止め方についてお尋ねがございました。
平成二十四年の最高裁判決は、選挙当日の有権者数に基づく五・〇倍の最大較差について、いわゆる違憲状態判決を下したものであります。さらに、議員御指摘のとおり、単に一部の選挙区の定員を増減するにとどまらず、都道府県を単位として各選挙区の定員を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ、できるだけ速やかに違憲問題が生ずる不平等状態を解消する必要があるとの指摘がなされたものと承知をしております。平成二十六年の最高裁判決においても同様の指摘がなされております。
我が党としては、まさにこれらの最高裁判決の指摘を重く受け止めたからこそ、都道府県を単位として各選挙区の定員を設定する現行の方式を一部の選挙区において改める合区に踏み切ったものであります。
その合区の理念についてもお尋ねがございました。
我が党が合区を行うこととしたのは、都道府県単位の選挙区を極力尊重しつつ、最高裁判決を踏まえて較差是正を目指すという考え方に基づくものであります。一部の県が合区の対象となり、対象となる県には誠に申し訳ない思いでございますが、最高裁判決を踏まえ、較差是正を目指すため、苦渋の決断として合区を行うものとしたものであります。
また、公平性という観点からは、仮に全ての隣接選挙区を合区したとしても、有権者数の偏在からこれを完全に実現することは困難であると同時に、今回我が会派の方から提出の四県以外の合区を行った場合、同様の問題が起きるものと考えております。
次に、一票の価値の平等が実現されると考えているのかどうかについてお尋ねがございました。
今回の改正により、議員一人当たりの人口の最大較差は、現行の約四・七五倍から約二・九七倍に大幅に縮小されることになります。憲法制定直後に制定された参議院議員選挙法に基づく最初の選挙における議員一人当たりの人口の較差は最大で約二・六二倍であったことからすると、憲法は較差が二倍台であることはその制定当時から許容していたものと考えられます。
また、参議院議員の任期を六年の長期とし、解散もなく、三年ごとにこの半数を改選するという憲法の規定は、多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ、衆議院との権限の抑制、均衡を図り、国政の運営の安定性、継続性を確保するという趣旨に立つものであります。
このことを踏まえれば、参議院議員の選挙に求められる投票価値の平等は、政権を形成する機能を有するがゆえに、民意と議席の数ができるだけ一致するような投票価値の平等が求められ、較差二倍未満が法定されている衆議院議員選挙とはおのずと異なることがあると考えております。
こうしたことなどから、本法案により較差がこの程度に縮小することにより、違憲状態は解消されるものと考えております。
以上でございます。(拍手)
〔清水貴之君登壇〕
○清水貴之君 井上議員にお答えをいたします。
自民・四野党案において附則に検討条項を置いた経緯についてですが、この法案の提出に向けた協議の中で、今回の改正後においても選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討する必要があるということについては五党が認識を共にするところでありましたので、このような附則を設けることとした次第です。
なお、今回、合区の導入というこれまでにない内容の法改正を行っておりますが、我が党としましては、依然として検討課題が残っており、今後も、定数の削減、ブロック制の導入などによる更なる一票の較差の是正等について引き続き検討されるべきであると考えています。
このことから、附則において、平成三十一年に行われる参議院議員の通常選挙に向けて、選挙制度の抜本的な見直しについて何らかの結論を得るという思いを込めて、前回の平成二十四年の公職選挙法改正案の附則には入っていなかった文言、「必ず」という文言を付した検討条項を設けた次第であります。(拍手)
〔羽田雄一郎君登壇〕
○羽田雄一郎君 井上哲士議員の質問にお答えします。
井上議員より三問の質問をいただいております。
委員会審議を省略した理由に関する質問がありました。
選挙制度改革に関する議論は、主に選挙制度協議会において行われました。協議会は、倫選特に議席を持たない少数会派を含む全ての会派が参加し、本来ならば昨年末までに成案を得るべく、各党実務者が集まり、計三十一回協議してまいりました。この間、フルオープンで参考人質疑や選挙制度の枠組みなどの議論を重ね、自民党以外の会派間では多くの点で合意が見られたと思います。特に、一票の較差を二倍以内とすることは、自民党以外全ての会派が合意していました。以上のことから、委員会における必要な審議の多くはフルオープンの協議会で行われてきたと認識をしております。
その上で、より多くの会派の賛同を得るためには、自らの案を主張するのみでなく、相互の歩み寄りが大事であると考えています。そこで、協議会において、最終的に多くの会派が一考の価値ありとし、脇座長も示していた合区を基本とした法案を本日ようやく本会議において御議論をいただいているところであります。
次に、二〇一二年最高裁判決と合区の受け止めに関する質問がありました。
国会議員は、全国民を代表するとしつつ、参議院の地方区選出議員は都道府県代表の意味合いが非常に強いことは言うまでもありません。二〇一二年最高裁判決においては、都道府県が地方における一つのまとまりを有する行政単位として認めつつ、参議院議員の選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はないとし、むしろ、都道府県を選挙区の単位として固定した結果、投票価値の不平等状態が長期にわたって継続している場合、上記の仕組み自体を見直すことが必要と指摘しております。同様の趣旨は、二〇一五年最高裁判決にも引用されています。
そこで、協議会での議論を踏まえ、都道府県という単位を可能な限り残しつつ較差を是正するには、合区するしかありません。私たちの案は、人口の少ない県と、その周囲で最も人口の少ない県を作為なく単純に合区し、二倍以内を達成したものであります。一方、ブロック案は、都市部中心の選挙となり、合区以上に議員を輩出できない県が生じるおそれがあることを指摘しておきます。
最後に、合区による較差是正は、今後新たな合区が必要となるのではないかとの質問がございました。
私たちの二倍以内案の一票の較差は、平成二十二年国勢調査人口で計算すると最大で一・九五三倍でしたが、直近の人口推計である平成二十七年一月一日現在の住民基本台帳に基づく日本人住民人口では最大で一・九四五まで縮小しています。この流れを踏まえれば、近い将来新たな合区が必要となることは想定しておりません。(拍手)
〔西田実仁君登壇、拍手〕
○西田実仁君 井上哲士議員から三問いただきました。
自民・四野党案への評価についてお尋ねがありました。
自民・四野党案は、合区という点では私ども提案と同じ方向性であると認識しております。ただ、一票の較差が三倍に達する改革案では、憲法が求める投票価値の平等の要請に応えるには不十分であると考えます。
次に、公明党の理想とは違う合区にかじを切った理由及び一部合区による公平性の確保についてお尋ねがありました。
御指摘のとおり、公明党は長年にわたり全国十一のブロックによる大選挙区制の抜本改革案を掲げてまいりました。その理想は今も変わりません。しかし、最高裁から違憲状態との判決を重ねて受け、この機会に一票の較差を是正する抜本改革案をまとめなければ、司法からはもちろん、国民の皆様から厳しく指弾されることは必定であります。
そのため、理想とする抜本改革案は一旦棚上げにして、より幅広い合意形成が可能となる合区を許容して、一票の較差を二倍未満とする抜本改革案をまとめました。その後、各会派とも協議を重ねてまいりました。
議長より各党各会派において合意形成のための協議を図るべしとの御指示をいただいた以上、何ら提案もせず、合意形成にも汗をかかないという姿勢は取るべきではないというのが我が党の思いであります。
最後に、合区による矛盾が生じることについてお尋ねがありました。
私どもが提案した抜本改革案は、一票の較差が二倍未満となるよう、人口の少ない都道府県から順次、隣接する都道府県のうち人口が最も少ない都道府県と合区するという極めて単純、機械的な組合せであります。それは、合区の組合せにおける恣意性を排除するためであります。
なお、御指摘の岐阜と富山の両県には、東海北陸道や高山線など、高速道や鉄道の整備による社会的、地理的、そして人的交流も活発であると認識しております。
以上でございます。(拍手)