○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
今日は四人の参考人の皆さん、本当に貴重なお話をありがとうございます。
まず、伊藤参考人にお聞きいたします。立憲主義の立場から御意見をいただきました。
それで、政府は、集団的自衛権行使には国会承認が必要だと、国民の代表の国会承認を受けるんだからこれは民主主義にかなうんだと、こういうことを言います。それから、そこを例外なき事前承認をすればクリアされるじゃないかというような議論もあるわけでありますが、こういう国会承認、国会関与を強めることは私も必要だと思いますが、それが果たして十分な歯止めとして機能するのか、立憲主義の立場から御意見を伺いたいと思います。
○参考人(日本弁護士連合会憲法問題対策本部副本部長 伊藤真君) お答えします。
国会は主権者国民の代表機関であります。なものですから、国民の代表としてこのような集団的自衛権の行使というものに対してチェックをする、民主的なコントロールという観点では必ず事前承認が必要だと、これは意味のあることだと思いますが、そもそも、では、国会が承認をすることが、適切な判断が可能なのかどうなのか。様々な情報というものが、例えば秘密保護法などで情報統制されている、国会議員の方でも十分な軍事情報は得られない、その危険性が高い中で、適切な判断ができる保証はどこにもないと考えています。そういう意味で、武力行使を、国会の承認を事前に必ずするから許されるであろうという考え方には私は賛成しかねます。
以上です。
○井上哲士君 ありがとうございました。
次に、いわゆる武力行使の一体化論についてお聞きしたいと思います。
大森先生の、ジュリストで長谷部先生と対談されている中で、この武力行使の一体化論を外務省が目の敵にしていたということがありました。
私、ここに二〇〇四年の外務省安全保障法制研究会第二回会合論点という内部資料を持っておるんですが、これは情報公開で最近出されたものを入手をいたしました。この中で武力行使の一体化論について議論がされておりまして、学者や外務省の役人の皆さんが議論していて、その中で、小泉政権ですら集団的自衛権に否定的な立場を取っている今日の状況に鑑みれば、集団的自衛権行使の可能性はますます低くなっているように思えると。そこで、我々は一般法を作るという話になった場合に、集団的自衛権の話は触れずに、国際法の観点から武力行使の一体化論をできるだけなきものにしていけるように検討を進めていく必要があるのではないかと、こういう議論をしていたということが報告書に出ております。
まず、宮家参考人にお聞きしたいんですけど、これは二〇〇四年の報告書でありまして、議論でありまして、二〇〇五年まで外務省におられたと承知しておりますが、当時、やはり外務省の中でこういうような議論があったのか、そういうことを承知されているのかということ。それから同時に、今回の法案では、武力行使との一体化論そのものは維持をするということに政府も言っております。一方で、自衛隊の後方支援自身は大幅に拡充をしたということになっているわけで、できるだけなきものにするということからいえば、今回のこの法改正の中身についてはどのように評価をされているかを聞かせていただきたいと思います。
○参考人(立命館大学客員教授 宮家邦彦君) 私は立命館大学の客員教授でございます。外務省を辞めたのはもう十年以上も前です。どのような経緯で、どのような合法的な経緯でその文書を入手されたかは存じませんが、それは私は関与しておりません。したがって、私が申し述べることはございません。
○井上哲士君 これは情報公開で明らかになったということが報道されましたので、私も外務省から入手をいたしました。
じゃ、これと離れて宮家さんの御意見をお聞きしますけれども、先ほど来、武力行使の一体化論というのは国際的には通用しないということも言われておりました。そのお立場から、今回、武力行使の一体化論そのものは維持するということにしながら後方支援は拡大をしたという中身になっているこの法制についてはどのように評価をされているでしょうか。
○参考人(宮家邦彦君) 私は法案作成過程にも一切関与しておりませんので、私、個人的な意見しか申し上げられません。しかし、恐らく御理解いただけると思いますが、もし政府におられて、そして法律を作らなければいけないとなったときには、当然、それまでの経緯というものを十分検討しながら、そして維持すべきものは、仮にそれが個人的に意見が違ったとしても、今まで積み重ねてきた議論というものないし説明というものを完全に無視して法律を作ることはできないのです。だからこそ、先ほども申し上げたように、私は、本来であればネガリストにするのも一つの方法だったかもしれないけれども、ポジリストを拡充するしかないというふうに申し上げたのはそういう意味でございます。
したがいまして、私は個人的に、先ほどから何度も申し上げていますが、個人的にこのような説明というのはおかしいと思っておりますけれども、法案を作成する過程において前例をある程度踏襲しながら説明、国民により分かりやすい説明をしていくというのは当たり前のことだと思っております。
○井上哲士君 前例を踏襲された法案だという御評価なんだと思うんですが、そこで大森参考人にお聞きいたします。
そのジュリストの対談の中では、この外務省が目の敵にしているという話の流れの中で、その中で、非戦闘地域でしか後方支援活動をできないようにするという考えを言わば編み出したといいますか、そういう提案があったと。それは、安全確保のために一線ではなくて二線を置くようにしたんだというお話がありました。その経過をもう少しお詳しくお話しいただきたいのと、今回の法案で、この二線を置くことをやめて従来の戦闘地域まで自衛隊が行けるようになったようにしていると、このことについての評価をお聞きしたいと思います。憲法上どうお考えかということをお聞かせいただきたいと思います。
○参考人(元内閣法制局長官・弁護士 大森政輔君) この一体化論の考え方は、これは実は、前回の湾岸危機ですかね、あのときに、我が国はその当時はまだ集団的自衛権の行使なんという話は全然表面では議論されていない時代なわけですけれども、中東貢献策、我が国が例えば多国籍軍に参加してサウジアラビアで後方支援なりをするかどうかじゃなくて、何か役立つ行為、活動ができないかということで、医療とか輸送とか、その辺いろいろ皆持ち寄ったわけですね。そして、中東貢献策というものに仕上げて、それを閣議決定し、それで当面は支援していくという作業をやったわけです。
一体化論というのは、そのときに、いろいろな臨時国会で議論があったわけで、そのときに議論されたのが一体化論がだんだんと制度として構築されていく契機になったわけです。そして、その次に一体化論の問題を法制局を中心として真剣に考えたのが、先ほども申しましたように、前回のガイドラインの検討の際でありました。
それで、いろいろ評判が良くないんだというようなことも対談で書かれていたかどうかよく覚えておりませんけれども、そういうことで、一体化論が全ての、霞が関の中で全てのところに対して評判が良かったわけではないことは間違いないんですけれども、しかし、そういう背景があるものですから、今回の閣議決定の中でひょっとすればその一体化論は廃止されるんじゃないかななんという一種の危惧感を持って閣議決定を拝見したわけですけれども、しかし、そのときは一体化論はやめるということは全然書いていなかった。ただ、縮小するということで、今までは、後方地域とか非戦闘地域とか、そういう地理的なバッファーゾーンを置いて一体化を防ぐ方策を盛り込もうとしたのがあの周辺事態法なんですね。そういうことがありましたけれども、閣議決定で廃止ということにはなっていなかったと。
それはそれで非常に法制局としては評価をしたわけですけれども、評価をしたわけでございますけれども、その後、なぜ廃止ということに至らなかったのかといろいろ考えてみますと、やはりこの一体化論というのは、よく言われますように、憲法上の評価に関する当然の事理を述べたものであると、そういう当然の事理の問題なんだということで、一体化論は、非常に不便だけれども、しかしやはり憲法上の評価ということになればそういう問題が必ず浮かび上がって、それを否定し切れないんだということから残ったんだろうと思います。その代わりに、文字どおり現場主義、戦闘現場と戦闘をしていないその他の現場と、それをまさに一線で画すことによって、一体化論に煩わされずに後方支援を広く行えるようにしようというところで一体化論に対する対応策が講じられたのかなというふうに考えております。
したがいまして、やはり憲法上の評価に関する当然の事理と、これはやっぱり否定し切れない一つの正論だと思いますね。そういうことで、ただ、いろいろ付随した問題があるわけですけれども、一応その辺りのところはそういう感想を持っております。
○井上哲士君 今の件ですけれども、つまり、従来は非戦闘地域しか行けない、ないしは後方地域しかできないということをしていたものを、その考えを取り払って、戦闘現場でなければいいと、従来は行けなかった戦闘地域まで行けるというこの法案のこの枠組みが憲法上合憲と言えるのか、それとも違憲と判断をされるのか、その点はいかがでしょうか。
○参考人(大森政輔君) いや、もう私も霞が関とは法的には縁が切れている存在でございますから、どこまでのことを責任を持って言えるのかどうかは分かりませんけれども、やはり一線で画すということは、戦闘地域は時々刻々変化するものであるということで、本当に文字どおり一線で画しますと、時には、戦闘地域外で支援活動をやっている者が、ある日、目が開いたら戦闘地域のど真ん中にいて立ち往生してしまうということが起こるものですから、それを防ぐための立法上の工夫として一線と。一線というのは、二線で画する、中間にバッファーゾーンを置くんだと、そうすることによってそういう問題点を防止しようという工夫だったんですが、それが文字どおり一線で画されてしまうというのは非常にまた逆の問題が出てくるんじゃないかなというふうに、そういう感想を持っております。
○井上哲士君 憲法上という点では。
○参考人(大森政輔君) ああ、憲法上ですか。
いや、ですから、そういう制度でも、だから憲法九条に反するんだというような、すぐに憲法上の評価に結び付くものではないと思いますね。だから、政策としての妥当性の問題として、より良き妥当な施策を考える、その際に相当な施策かどうかということは、これはどうも立場によっていろいろ変わってくると思いますから、それ以上のことは控えたいと思います。
○井上哲士君 時間ですので、ありがとうございました。