○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
まず、ベルギーでの連続爆破事件について、こうしたテロ行為、厳しく批判をするとともに、犠牲者のお悔やみとお見舞いを心から申し上げます。
今日は、横須賀を母港とする米原子力空母に関する原子力防災対策についてお聞きいたします。
ロナルド・レーガンは、合計熱出力百二十万キロワットの原子炉を二つ積んでおります。福島第一の出力が百三十八万キロワットですから、人口密集の首都圏に原発があるに等しい状況なわけですね。二〇一一年の福島の原発事故以降、事故が起きたらどうなるのかと住民の皆さんの不安は一層広がっております。
このアメリカの原子力艦船に関する原子力災害対策マニュアルは二〇〇四年に作られたままなんですね。私は、二〇一三年に質問主意書を出して、福島原発事故の深刻な被害から原発の避難基準が見直されているということを踏まえて、この原子力艦についてもマニュアルを抜本的に見直すことを求めました。横須賀の市長も、二〇一四年にこの問題で政府に考えを示すように外務大臣に要請をされております。
そこでまず、外務大臣にお聞きしますけれども、昨年三月の予算委員会で外務大臣は、政府として適切な対応をしなくてはならないと、要望をもらった外務省としてしっかり責任を果たすよう奮闘する旨の答弁をされました。政府のこの問題での基本的な姿勢、そして外務省としてはどういう責任を果たそうとされているのか、いかがでしょうか。
○国務大臣(外務大臣 岸田文雄君) 御指摘の原子力艦の原子力災害対策の見直しについては、商業原発に係る規制の検討結果等を踏まえて対処していく、こうした方針で臨んでおりました。そして、昨年、商業原発の災害対策指針である原子力災害対策指針が改正されました。ですので、商業原発の規制に係る検討には一区切り付いたわけです。
これを受けて、今度は原子力艦の原子力災害対策に係る検討のため、昨年十一月、この対策を主管する内閣府の下に原子力艦の原子力災害対策マニュアル検証に係る作業委員会が設置され、現在まで有識者及び関係省庁による議論が続いております。外務省はこの委員会のメンバーです。この議論に積極的に参加をしているところですが、この委員会における議論の結果、昨年十一月には、緊急事態の判断基準ですとか通報基準など、こうした基準が国内の原子力災害対策指針に合わせる形で改定をされました。
この議論、引き続き続くわけですが、国民の高い関心について十分認識、意識しながら、この作業委員会において適切な結果が得られるよう、引き続き関係省庁とも協力しながら尽力をしていきたいと考えています。
○井上哲士君 原発に対する指針が私たちはこれで十分とは思っておりません。しかし、それを踏まえて今行われている作業が果たして十分なのかが問われるわけですね。
今お話のあった検証作業の委員会で、避難判断の基準は毎時五マイクロシーベルトに変わりました。従来は原子力艦は百マイクロシーベルトだったわけですが、原発に合わせた、これは当然だと思うんですね。問題はやっぱり避難範囲だと思います。
内閣府、お聞きしますけれども、原発の新しい指針では、半径五キロ圏内がPAZ、お手元に資料(2016年3月23日外交防衛委員会配付資料.pdf)にありますように、予防的防護措置です、そして、半径三十キロがUPZ、緊急時防護措置準備区域。PAZは直ちに避難をする、UPZは屋内退避など避難計画の策定を地方自治体に求めているわけですね。一方、資料にありますように、現行の原子力艦のマニュアルは、PAZは一キロ、UPZは三キロでありますから、新基準、原発と比べますと大幅に少ないわけですね。同じ原子炉なのに二重基準じゃないかと、こういう非難が出ております。
この範囲の見直しに当たって、二月の第三回の検証作業委員会が二つの試算を示しております。お手元にあるとおりですが、いずれも現行マニュアルよりも狭くなっておるんですね。見直したのに逆に狭くなってしまったと。これに対して住民から、試算の条件が恣意的ではないかと疑問の声が出ました。特に、原子力空母は二基原子炉を搭載しているのに、一基だけで事故が起きたと、こういう前提になっております。しかし、福島の事故を見ても二基同時に事故になるというわけでありますから、これは過小評価だという強い批判が出されました。
そこで、三月の第四回の検証委員会でこの試算三が示されたわけであります。これ、二つの原子炉が同時に事故を起こしたと、こういう条件にはなりました。しかし、比較対照の原発が三百万キロワットだったのが六百万キロワットに変わるというようなこともありまして、依然として現行マニュアルの枠内になっているんですね。PAZは試算三では六百四十メートル、UPZは二千八百メートルと現行よりも狭いし、原発指針から見ますと大幅に狭いと。
これ、UPZを例えば原発並みに三十キロにしますと、横須賀だけではありませんで、東京、神奈川、千葉、三都県二十市町村を含むところで対応が必要になるということですから、結局なるべく広くしないということが前提で議論をされているんじゃないかという、こういう声も出るわけですね。
様々な指摘がされておりますが、今日は二点についてお聞きいたします。
まず、原子力艦船についてはメルトダウンであるとかメルトスルー、こういう最悪の事故の想定が全くされておりません。福島ではあり得ないと言われていたメルトダウンが起きたわけでありまして、こういう想定というのは福島の原発事故に基づかない安全神話ということになるんじゃないでしょうか、いかがでしょうか。
○政府参考人(内閣府大臣官房審議官 緒方俊則君) お答えいたします。
今回の試算でございますけれども、資料にお配りいただいたとおりの試算で今回出ていっているわけでございます。今回の試算の特に二、三につきましては、専門家により認められましたスケーリングといった手法を使って試算を行っていった結果でございます。原子力艦の原子炉につきましては、商業用原子力発電所の原子炉に比べていきますと、そもそも規模も小さい、また運転状況も違っております。また、炉内に蓄積されております放射性物質の量も少ないといったところでございまして、こういった点を勘案した結果でございます。
○井上哲士君 いやいや、私は、メルトダウン、メルトスルーをなぜ想定していないんだということを聞いているんですね。
原子力空母というのは、原子炉を非常に狭い艦内に設置するために、放射能を防ぐ構造上の余裕がない、それから絶えず波とか着艦の振動にさらされています。そして、事故が起こりやすい出力の頻繁な変動を行うなど、原発よりも危険性が高いと、こういう指摘もあるわけですね。しかも、原発の場合は下にコンクリートの厚い構造がありますけれども、艦船の場合はこれはないわけですね。ですから、何かあれば、メルトダウンが起きれば艦底を貫通して爆発を起こしてしまうんじゃないか、こういう指摘もあるわけです。こういう想定をなぜしていないのかということをお聞きしています。
○政府参考人(緒方俊則君) 原子力艦の原子炉でございますけれども、もし究極的に必要となってくれば、緊急の冷却及び遮蔽のために海水を艦内に取り入れていきまして艦内にとどめておくといったことが可能になっているというふうに承知をいたしております。
仮に何らかの理由で海水を取り込むことができず原子炉を冷却することができずに炉心損傷に至るような場合があったといたしましても、原子炉におきます異常事態の発生から炉心損傷、さらに環境中への放出に至るまでには相当程度の時間を要するというふうに考えられまして、その間に必要に応じてタグボートの補助を得まして原子力艦を外洋に移動させることができるというふうに考えられております。
○井上哲士君 福島の事故を見た者にとっては、何とも、そんな想定があり得るのかなということを改めて思うわけですね。何らかの攻撃による事故というものも想定もされておりません。
もう一点は、この試算の条件が、空母の原子炉の運転状況について、入港前の四日間における一〇〇%出力運転を考慮しておりますけれども、平均出力を一五%としている問題です。これは、二〇〇三年、前回マニュアルの検討のときは二五%で検討していたわけですから、これよりも後退しているんですね。この平均出力によりまして短寿命のヨウ素の内部蓄積量が変わってくるわけで、何を根拠にこの一五%に下げたんですか。
○政府参考人(緒方俊則君) お答えいたします。
出力につきましては、客観的に示されております事実を踏まえまして、ファクトシートにおきまして平均的な出力レベルは最大出力の一五%以下であるというふうにされております。こういったことを勘案いたしまして定めていったものでございます。
○井上哲士君 ファクトシートで言っているのは、就役期間を通じた平均的な出力レベルなんですよ。実際には、空母というのは、横須賀にいる場合も半分は原子炉を停止しているわけですね。ですから、就役期間の平均といいますと、この一五%の倍ぐらいのことを想定しなければこれはおかしいと思うんですね。
そもそも、今ファクトシートだけ言われましたけれども、住民団体の皆さんが原子力空母ジョージ・ワシントンやロナルド・レーガンの航海日誌を最近入手をされておりますが、それを見ますと、二基とも稼働しているのがほとんどです。出力は三分の一、三分の二、全出力、こういう三段階が繰り返されているわけですね。この点から見ましても、そのファクトシートだけで平均出力を一五%にするというのは、私は全く違うと思うんですね。
こういう航海日誌というのは、既にもうアメリカ海軍が情報公開しております。これを入手されているんでしょうか。それとも、ファクトシートのみに基づいて先ほどのような判断をされているんですか。
○政府参考人(緒方俊則君) 米軍の方から示されておりますファクトシートがございまして、それに基づきまして作業を進めていっております。
○井上哲士君 今のこの公開されている米海軍の航海日誌については全く把握されていないということですか。
○政府参考人(緒方俊則君) 御指摘の航海日誌につきましては、市民団体の方から要望書と一緒にいただいております。
○井上哲士君 つい最近だと思うんですね。これは、今回の見直し作業によって活用されるべき極めて重要な知見なんですよ。そういうことなしに、ファクトシートというのはうんと前の出されたもの、それだけを見てやっていると。私はここに一番根本的な問題があると思うんですね。
そこで、外務大臣にお聞きしますけれども、結局、米軍はこの原子炉、それから艦船の運転状況について詳しい資料を何も出さないんですね。ファクトシートだけなんですよ。それに基づいて言わば想像でやっているというところに私は一番の問題があると思うんです。
これは国民の命と安全に関わる問題でありますから、そういう必要な資料についてはしっかり出せということを外務省としてアメリカに求めるべきだと思いますが、いかがでしょうか。
○国務大臣(岸田文雄君) 政府としましても、米国の原子力艦の安全性につきまして、米国における秘密保全に関する国内法の制約がある中ではありますが、可能な限り透明性を確保するよう米国に対して様々な機会を通じて求めてきております。
原子力艦の原子力災害対策マニュアルの改定をめぐるこれまでの検討過程においても、作業委員会における議論を踏まえつつ、事務局である内閣府と連携し、米側に対し、周辺住民の避難等の防災対策の検討に必要となる情報について確認を行っております。
例えば、平成十八年に米側から提出されたファクトシートでは船上の緊急事態に関する記載がありましたが、周辺住民の防災対策等を検討する上で米側が具体的にいかなる緊急事態を想定しているかを把握する必要があったことから、米側に確認を行い、こうした事態には艦内火災が含まれる、こういった確認を行った、こういった事実も存在いたします。
外務省としましては、今後も、作業委員会において適切な結果が得られるよう必要な米側の協力、しっかり求めていきたいと考えます。
○井上哲士君 秘密を盾に極めて不十分な情報しか出ていないというのが実態なんです。これでは国民の命と安全は守れません。
ほかにも様々な問題が指摘をされておりますけれども、今の検証委員会だけで結論を出すんではなくて、住民団体であるとか、そして、更に広い専門家の意見をしっかり聞いて検討するべきだと、そのことを強く求めまして、質問を終わります。