○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
日本・イラン受刑者移送条約についてまずお聞きいたします。
日本は六十四か国が締結をしている受刑者移送条約、今もありましたCE条約に加盟をしておりまして、未加盟国と個別に受刑者移送条約を結んでおります。CE条約には、イスラム教国はアゼルバイジャンとトルコしかありません。アゼルバイジャンは旧ソ連ですね、トルコは世俗主義でありますから、本条約で初めて日本はイスラム国家と受刑者移送を行うことになるわけですね。
例えば双罰制というものがあります。今も議論になりましたが、イスラム国家では、国によって様々ですけれども、イスラム刑法の下で例えば日本にない刑罰、姦通罪とかそれから聖職者侮辱罪というのがあります。それから、タージール刑といいまして、裁判官の自由裁量による刑罰もあって、場合によっては対象者の階層によって刑罰が、程度が変わってくると、こういうこともあるわけですね。それから、聖職者との近さによって、関係の、恩赦等が行われるという場合もあるとお聞きをしておりまして、日本から移送した場合に、刑の執行が適切に確保されるのかということも、懸念の声もあるわけですね。一方、今ありました食事や言葉、宗教の様々な困難もあるということもあります。
イスラム国家と初めて受刑者移送条約を結ぶに当たって、そういう点はどのように検討されたんでしょうか。
○政府参考人(外務省中東アフリカ局長 上村司君) お答え申し上げます。
御指摘のとおり、イラン・イスラム国として特別の刑法の仕組みを持っている、確かに御指摘のとおりでございます。我々は、この交渉の過程におきましてそういう点も十分に考慮いたしました。その結果、今回のこの協定として御審議をお願いしているわけでありますけれども、基本的な立て付けでありますが、この協定にはいろんな、セーフガードといいましょうか、そういう不都合を避ける仕組みを入れております。
基本的な原則でありますが、イランが執行国となって我が国からイラン人受刑者を移送することになる場合でございますけれども、イランは、我が国において決定された刑の法的な性質及び期間を受け入れるという基本的な義務がございます。もちろん、執行国たるイランにおきましては、御指摘のとおり、我が国が科した刑の性質又は期間が自国の法令に適合しない場合等におきましてはイランの法律に規定する制裁に合わせることができると、こういうことになっております。ただ、その場合でありましても、その性質又は期間について、我が国において命ぜられた制裁より重いものであってはならない。自由を拘束する刑の代わりに死刑を執行するとか、そういうことはできません。
また、恩赦につきましては、移送後の刑の執行は執行国の法令に従って行われることになります。仮にイランにおきまして移送された受刑者に対して頻繁に恩赦が行われた場合には、イランへの受刑者の移送につきまして政府として同意を与える、こういうことにつきまして慎重に対応せざるを得ないこととなります。受刑者移送条約の趣旨に鑑みまして、イランも移送された受刑者に対し殊更恩赦を認めることはないとは考えられます。
いずれにいたしましても、本条約第三条一によりまして、イランに受刑者を移送する場合にはその都度我が国の同意が必要でございます。この受刑者移送の可否につきましては、移送後に想定される執行国、つまりイランにおける処遇、我が国の観点から見て不当に早く釈放されたり殊更に恩赦を与えられたりすることが想定されないか、そういったことにも十分考慮の上、判断することになりますので、そういうふうに慎重に運用すると、こういうことになると思います。
○井上哲士君 条約の目的がしっかり果たされるように、適切な運用を求めたいと思います。
次に、武器輸出と防衛保険の問題についてお聞きをいたします。
二〇一四年に策定をされた防衛生産・技術基盤戦略において、防衛装備移転に関して円滑に協力を進めるための体制、仕組みについて検討を行うとされたことを受けて、防衛省の有識者と政府関係者で構成する防衛装備・技術移転に係る諸課題に関する検討会が設置をされまして、昨年九月に報告書をまとめておりますが、まず、この検討会の事務局はどこが担当し、防衛省からは誰が出席をしているんでしょうか。
○政府参考人(防衛装備庁装備政策部長 堀地徹君) 御指摘ございました防衛装備技術移転に係る諸課題に関する検討会についてでございますが、この検討会につきましては、平成二十六年十二月に設置をいたしたところでございます。その出席者、名称につきましては、昨年の組織改正以前でございますので当時の名称を使わせていただきます。
この検討会につきましては、経理装備局長の下、大臣官房審議官総合取得改革担当が事務局長となりまして、経理装備局装備政策課が庶務を担当していたところでございます。
事務局員といたしまして、防衛省から当該検討会に出席していた者としては、経理装備局より会計課長、装備政策課長、システム装備課長、艦船武器課長、航空機課長、技術計画官、また、各幕僚監部より統合幕僚監部首席後方補給官、陸上幕僚監部装備部長、陸上幕僚監部開発官、海上幕僚監部装備部長、海上幕僚監部技術部長、航空幕僚監部装備部長、航空幕僚監部技術部長、技術研究本部より技術企画部長及び事業監理部長、装備施設本部より副本部長管理担当、また、案件に応じて大臣官房技術監等が出席しておりました。
○井上哲士君 現場の課長クラスなど、一番実務をやる皆さんがそろっているわけで、事実上、有識者と一体となって検討をしてきたというものですね。
この報告書では、防衛装備・技術協力を実施する上での課題と対応策として、武器輸出の推進と防衛産業支援のためのメニューが盛り込まれております。その中で、諸外国では防衛装備の移転についても公的輸出信用機関からの融資や貿易保険が活用されている例が確認されているとした上で、今後、防衛装備品の移転への公的資金の活用について政府としての方針を踏まえて検討する必要があると、こうされております。
この貿易保険について、第五回の検討会では経済産業省から出席して説明をしておりますが、その経緯及びこの貿易保険の目的と概要について述べてください。
○政府参考人(経済産業省大臣官房審議官(貿易経済協力担当) 黒澤利武君) お答えします。
委員御指摘の検討会でございますが、経済産業省はもちろんメンバーではございませんが、先ほど御説明のありました事務局である防衛省から御依頼がございまして、私どもの方から貿易保険制度一般について御説明させていただいたと、こういう経緯でございます。
それから、貿易保険法の目的についてお尋ねがございましたが、これは法律第一条にございますように、外国貿易その他の対外取引において生じる為替取引の制限その他通常の保険によっては救済することのできない危険、これを保険するための制度、これを確立することをもって外国貿易その他の対外取引の健全な発達を図る、こういうことでございます。
よりかみ砕いてその概要を申し上げますと、貿易保険は、我が国企業などが輸出入あるいは対外投融資を行う際に、戦争、テロ等のカントリーリスク、こういったものが顕在化した際に、これをカバーすることによって我が国企業の国際展開を支援する国の保険制度ということでございます。具体的には、独立行政法人日本貿易保険、NEXIがこのリスクの審査及び保険引受けを行っております。
○井上哲士君 この検討会で経産省は、武器に該当する防衛装備品については、これまで貿易保険が適用された実績がないとして、安全保障政策への影響などの視点も加味し、防衛装備品の移転に輸出信用機関を活用することについて政府としての方針を踏まえて検討としつつ、制度的には可能だと、こういうふうに説明をされておりますが、制度的には可能だということで確認をしたいと思いますが、いかがでしょうか。
○政府参考人(黒澤利武君) 委員御指摘のございましたように、貿易保険制度は、基本的にその対象を輸出、海外投資といった企業の取引形態に基づいて定めておりますので、特定の物品あるいはサービスといったようなものの輸出を指定したり、あるいは除外するという法の立て付けになってございません。したがいまして、他の法令との兼ね合いで輸出等ができるようなものであれば貿易保険の適用は可能ということになります。
○井上哲士君 先ほどもありましたように、戦争等のリスクにも対応するということになっておりますが、それを戦争で使える武器輸出に適用するという甚だ矛盾した話になってくるなと私は思うんですが、過去、これは国が運営をして中南米の累積赤字問題や湾岸戦争で保険金支払が急増して大赤字になったことがあります。
九二年度には一般会計からの繰入れが六千八百億円に及んだわけでありますが、その後独立行政法人に引き継がれて、来年四月からは全額政府出資の特殊会社になりますが、将来、再びこういう積み立てた資金を超える支払請求があった場合には国はどのように支払を担保するんでしょうか。
○政府参考人(黒澤利武君) 委員御指摘のように、来年度から日本貿易保険は特殊会社化いたしますので、独立採算制の下に保険を引き受けていただくということになります。つまり、民間会社から徴収いたしました保険料、これを積み立ててこの中から保険料を賄っていただくというのを大原則にしていただくということです。
今現在の私どもの見積りでは、設立時点で恐らく一・四兆円程度の支払原資を持って始めることになると思いますので、一時的な赤字ということであれば一応対応は可能なのかなと私どもは思っております。
ただ、委員御指摘のあったように、十五年ぐらいありました保険支払、保険事故が多発することによって赤字がたくさんたまるというような事態が生じた場合どうなるかということですが、新しい法律の下におきましては、保険金支払に支障が生じる場合は、まずNEXIが社債ないしは借入金という形で市中から資金を調達する努力をするというのがまず第一段階でございます。それでも資金がなお調達できない場合は、この新しい法律二十八条でございますが、政府は、予算の定める範囲内でありますが、その範囲内で必要な財政上の措置を講ずることができるという規定になっております。
以上でございます。
○井上哲士君 つまり、防衛輸出企業の損失補填に税金が投入される可能性があるわけですね。
政府は、武器禁輸政策から新三原則への転換の際に、積極的武器輸出方針ではないんだと繰り返し強調されました。例えば、総理も本会議で私の質問に対して、積極的に武器輸出する方針に転換したものではないと、こう答弁をされたんですね。しかし、輸出貿易の振興を図る目的で創設されて、赤字になれば税金で補填をする貿易保険を適用することになりますと、これは積極的な武器輸出の支援にほかならないと思うんですね。その他の輸出品と同様に、国策として奨励をするというものにほかならないと思うんですね。
こういう報告、提言が出ること自体がこれまでの政府の答弁と違うんじゃないでしょうか。いかがでしょうか。大臣、お願いします。
○国務大臣(防衛大臣 中谷元君) 安全保障につきましては、北朝鮮が核実験を行ったり、またミサイルの技術の向上を図るように、国際情勢も変化をし、また、我が国の安全保障環境も厳しくなってきております。そういった面におきまして、やはり科学技術の進展に伴いまして、国際社会の平和と安定におきましても、それぞれの国においてそれぞれの努力が行われておりますが、我が国といたしましても、しっかりとこういった部門におきましての安全基盤を強固にしておくということが必要でございます。
それにつきましては、平和国家としての基本理念、そしてこれまでの歩み、これを引き続き堅持をした上で、防衛装備の移転三原則に基づいて、防衛装備の技術移転、これを厳正かつ慎重に対処していくということに決めたわけでございまして、この範囲内で、この方針で実行してまいりたいと考えております。
○井上哲士君 いや、これ、報告書では、貿易保険の適用だけじゃなくて財政投融資の活用など様々な提言がされているんですね。先ほど申し上げましたように、岸田大臣も積極的武器輸出へ転換ではないんだということも答弁もされているわけですね。ところが、実際にはまさにそういう方向になっていると。
そもそも経団連は、昨年の防衛装備庁の発足を前に提言をして、防衛装備品の輸出を国家戦略として推進するべきだと、こういうことも言っているわけですよ。事実上、今回のこの報告はそういう声に応えて国策として推進するものになっているじゃないですか。これまでの答弁と違うんじゃないですか。変わらないというんであれば、こういう提言の方向は一切具体化をしないということを明言をしていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
○国務大臣(中谷元君) 防衛技術の移転等につきましては、先ほど答弁した内容でいたしております。
確かに、今回こういった提言もいただきましたし、また、経団連からも政府による保険等の支援措置についても提言がされたということは承知しておりますけれども、こういった防衛装備品の移転に対する貿易保険の活用につきましては現時点において具体的な検討は行っているものではございませんけれども、防衛省といたしましては、今後、こういった報告書の提言なども参考にいたしまして、個別具体的なニーズを踏まえつつ、その必要性、具体的な方策について、関係省庁と連携をしながら検討を進めてまいりたいと考えている次第でございます。
○井上哲士君 そういうような具体化はするべきでない、憲法九条に従って、武器輸出で栄えるような国になっては絶対ならないということを重ねて強調いたしまして、質問を終わります。