○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
安全保障技術研究推進制度についてお聞きいたします。
大学や研究機関、企業に研究資金を提供する防衛省独自の初めての競争的資金でありますが、二〇一五年度に三億円の予算で発足をし、今年度は六億円、来年度の概算要求では一気に十八倍増の百十億円になっております。
今日は、先ほどありましたように、十二月八日、太平洋戦争が始まった日でありますが、日本の研究者は、侵略戦争に加担をしたその痛苦の経験から、戦後、日本学術会議として二回、戦争を目的とする科学の研究は行わないという声明を出しました。
今、この制度をめぐっていろんな大学や学術会議でも議論をされておりますが、今朝の毎日新聞に大きなニュースが出ました。関西大学がこの制度に学内の研究者から申請することを禁止する、そういう方針を決め、他の軍事目的研究にも協力しないという方針を打ち立てたと、こういうことであります。
そこでお聞きしますが、昨年六月の当委員会で、他省庁ではるかに規模の大きい競争的資金があるのに、なぜ防衛省独自の資金が必要なのかと、こう聞きました。そのときの答弁は、防衛省としての行政目的に合致した形のテーマをつくることがより一層民生技術を取り込むために必要だと考えて資金を提供すると、こういうことでありました。
民生技術を取り込むために防衛省の目的に合致したテーマを設定して募集できる制度が必要だということでありますが、まず、防衛省が募集に当たって提示した研究テーマの数、それから応募数、採択数、それぞれ二〇一五年度、二〇一六年度、明らかにしてください。
○政府参考人(石川正樹君) お答えさせていただきます。
安全保障技術研究制度におきまして、二〇一五年度の研究テーマの数は二十八件、これに対する応募数は百九件、その上で採択された研究課題数が九件となっております。また、二〇一六年度につきましては、研究テーマ数は二十件、それに対する応募数が四十四件、その上で採択研究課題数が十件というふうになっております。
○井上哲士君 採択されたものの資料(井上質問(安全保障技術研究推進制度)16年12月8日外防委 配付資料.pdf)がお手元の①でありまして、さらに資料②として、防衛装備庁の技術戦略部技術振興官補佐の阿曽沼剛氏がCISTECジャーナルという昨年の十一月号に発表された論文を配付をしております。
この中で、この研究テーマについて、傍線引いておりますが、「自衛隊が使用する装備品の研究開発を行っている防衛装備庁の各研究所等には、約六百人の研究者が在籍している。そうした研究者から、将来の装備構想に基づき、研究が必要な基礎技術分野を聴取する。」、その上で有識者の意見も聞いて決めると、こうされておりますが、こういうプロセスだということでよろしいですね。
○政府参考人(石川正樹君) お答えさせていただきます。
今先生から御指摘がございましたように、本制度の実施要領に基づきまして、防衛装備庁の各研究所から提案される研究テーマ案を踏まえまして、その上で、外部の有識者の意見を聴取した上で決定させていただいております。
したがいまして、CISTECの記事に記載されている内容は、おおむねそのとおりでございます。
○井上哲士君 つまり、将来の装備品、武器を開発研究している部署からそれに必要な研究分野が提案をされ、それに基づいて決めるということなんですね。
じゃ、そういう研究テーマに応募して採択をされた研究と装備品との関係についてお聞きしますが、防衛省は今年の八月の末に、将来無人装備に関する研究開発ビジョンを策定をしております。配付資料③にありますが、このビジョンの中で、航空無人機について五つの分類に分けていますけれども、この第四分類、戦闘無人機、すなわち戦闘行為やその支援を担う戦闘型のものについても研究を進めていることがこの中に明記をされております。
私、この三月の予算委員会に、この研究開発ビジョンが策定をされれば攻撃用の無人航空機への応用も可能になるのではないかと、こう質問をいたしました。当時の中谷防衛大臣は、何ら攻撃能力を有しているものではございません、あくまでも警戒監視やまた情報収集を目的とするようなものを念頭に研究していると、こう答弁されましたけれども、ところが、五か月後に作成されたこのビジョンでは戦闘無人機の研究が明記をされている。答弁と違うんじゃないですか。
○国務大臣(稲田朋美君) 御指摘の中谷大臣の答弁は、テロ対策に使用されている他国の無人機が民間人を巻き込んだ被害をもたらしていることに関連して、そのような無人機に関する研究開発の計画はない旨述べたものであり、こうした考え方は何ら変わるものではありません。
なお、本年八月に策定をいたしました将来無人装備に関する研究開発ビジョンにおいては、国際的な技術動向を理解するために無人機について五つの分類を示しているところですが、この類型については、防衛省としては、あくまで有人機の任務遂行をサポートする目的で索敵などを行う戦闘支援無人機といったものについて必要に応じて研究を行っていくことといたしております。
○井上哲士君 要は戦闘支援なんでしょう。中谷さんが言ったような警戒監視や情報収集を目的と違うじゃないですか、明確に。ですから、結局、国会でまともな答弁をしないんです。防衛研究というのは基本的に秘密主義ということですから、こういうことになってしまうわけですね。
今、資料③を見ていただいておりますけれども、この資料の左上には、安全保障技術研究推進制度による萌芽的な技術の育成も並行して追求と、こういうふうになっております。まさにこの制度がこの中に位置付けられております。
さらに、資料④を見ていただきますと、この航空無人機、戦闘型無人機の技術実証コンセプトとして課題があって、先進的な無人機の開発能力獲得というのが右下にあります。アンダーライン引いておきましたけれども、その中にメタマテリアルを用いたステルス技術というのが盛り込まれております。資料①に戻っていただきますと、平成二十七年度の研究テーマの一番上にメタマテリアル技術による電波・光波の反射低減及び制御というテーマがあり採択をされておりますが、これ基本的に同じものですよね。つまり、ここで採択をされた研究がこの戦闘無人機の開発に応用されていくと、こういうことでよろしいですか。
○国務大臣(稲田朋美君) 先ほども申しましたように、防衛省としては、海外のテロ対策に使用されているような無人機を保有する計画は有していません。そして、それに関連する研究開発の計画もありません。
まず、無人機の研究開発は自衛隊の任務の範囲を超えて行われることはなく、我が国の防衛に必要なものに限られております。その上で申し上げれば、隊員の危険や負担を大きく軽減するものとして、無人機が有人の戦闘機を護衛するような際、隊員の判断の下で敵のミサイル攻撃を防御するような機能の研究を行うことは、将来の安全保障環境の変化の中で考慮し得るものだと考えております。
いずれにしましても、具体的にどのような無人機の研究を行うのか、さらに、自衛隊がどのような無人機を実際に装備として保有するかといった点については改めて判断されるものと考えております。
○井上哲士君 あなた方の文書に書いてあるから聞いているんですよ。
将来無人機、第四分類の無人機ではメタマテリアルを用いたステルス技術をやるんだと、課題なんだと。この課題と昨年採択された一つ目のものは同じじゃないんですかと。ステルスの技術ですよ、違うんですか。
○政府参考人(石川正樹君) 今御指摘ありましたメタマテリアルの技術につきましては、将来の無人機の研究開発の中で必要に応じて活用されることは考えられるところでございます。
○井上哲士君 まさにそこに直結をしていくわけですね。
これだけではありません。二〇一〇年に防衛省が発表した将来の戦闘機に関する研究開発ビジョン、ここでは、将来戦闘機のコンセプトとして、世界一の素材技術による敵を凌駕するステルス、世界一の耐熱材料技術による次世代ハイパワー・スリム・エンジンが盛り込まれております。もう一回この資料①を見ていただきますと、例えば一五年度のテーマ十三、マッハ五以上の極超音速飛行が可能なエンジン実現に資する技術、一六年度のテーマ十八、高温・高圧環境下で用いられる金属の表面処理が挙げられております。
さらに、この制度を来年の概算要求で百十億円要求した理由を渡辺防衛装備庁長官が毎日のインタビューでこう述べております。ジェットエンジンの耐熱材料開発もそうですが、研究の完成度を高め、技術を獲得するには製造試験装置を作るなどある程度の規模が必要になります。
ですから、採択をされた研究も今回の規模拡大も、将来戦闘機のコンセプトと直結をしているということは明らかだと思うんですね。ですから、皆さん、応募要領では、研究成果が広く民生分野で活用されることを期待していると言いますけれども、あくまでも目的は、この将来装備品の研究開発のために民生の技術を取り込むことだということははっきりしていると思うんです。
この点、他の省庁の競争的資金はどうなっているのか。
文部科学省来ていただいておりますけれども、科学研究費助成事業など文科省の所管である競争的資金について、募集の際の研究テーマで、研究の出口において特定の分野への具体的な成果物を想定したものなんでしょうか、いかがでしょうか。
○政府参考人(板倉康洋君) お答えいたします。
文部科学省におきましては、基礎から応用開発に至ります様々な研究支援を行っているところでございます。例えば、科学研究費助成事業のように研究者の自由な発想に基づきます研究を支援する事業を行っている一方で、例えば、レアアースを使用しない革新的な材料を創製することを目的とした元素戦略プロジェクトのように、国の政策的な戦略に基づく研究を支援する事業も実施しているところでございます。
○井上哲士君 ですから、防衛省のように具体的な装備品、これを想定をした研究のテーマではないわけですね。
この制度の運用について聞きますけれども、基本的に三年間継続して研究を委託することになっていますが、途中で委託の中止を行うことはあるのか。それはどういう場合で、手続はどうなるんでしょうか。
○国務大臣(稲田朋美君) 今、本制度で採択した、御指摘の点ですが、研究課題は最大三年間の研究を行うことができますが、当初作成された研究計画どおりに進捗していない場合には委託研究を中止する場合があり得ます。その手続につきましては、当初の研究計画どおりに進捗していないおそれがある場合には、外部専門家で構成される安全保障技術研究推進委員会に諮り、研究計画の見直し又は中止、投入される予算の規模の見直し等の措置の決定を行うこととなります。
○井上哲士君 研究の進捗状況によって中止もあり得るということでありますが、これに関わるのが研究テーマごとに設置されるプログラムオフィサー、POであります。これ、防衛装備庁の通知では、このプログラムオフィサーはどういう役割だと規定をされているのか。また誰が指定をされるんでしょうか。
○政府参考人(石川正樹君) プログラムオフィサーでございますけれども、防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度における研究課題の進捗管理の要領というものに基づきまして、プログラムオフィサーを防衛装備庁長官が指名いたします。
具体的な業務の中身につきましては、定期的に研究代表者と会合を持ち、研究課題の進捗を確認するとともに、必要に応じ研究計画や研究内容について調整、助言、指導等を行うこととしております。また、これに併せまして、研究代表者等と調整をし、あるいは助言、指導等を行う際には、研究代表者等が研究実施主体であることを十分に尊重するということを規定しております。
○井上哲士君 先ほどの阿曽沼氏の論文では、このプログラムオフィサーについては、基本的に研究テーマを検討、提出してきた研究所等の研究室長級の技術者が兼任することになるとされています。つまり全て防衛省の職員だということでよろしいですね。
○政府参考人(石川正樹君) 今御指摘の点につきましては、防衛装備庁の研究者であって、採択された研究案件の技術分野に知見を有する者を指名をしているところでございます。
○井上哲士君 つまり防衛装備庁の職員だということであります。
先ほどの文科省の資金制度においてもプログラムオフィサーが指名をされますけれども、これはどういう人が指名をされるのか。文科省の職員が指名されることはあるのでしょうか。
○政府参考人(板倉康洋君) プログラムディレクター、プログラムオフィサーの役割につきましては、平成十五年に総合科学技術会議が決定されました競争的資金制度改革についてなどで示されたところでございます。同報告書におきましては、プログラムディレクター、プログラムオフィサーの機能として、課題の採択、評価における専門性などの確保、研究の執行を含むマネジメント等が挙げられているところでございます。
この報告書を踏まえまして、文部科学省の競争的資金におきましては、担当分野に関する専門的な知見、マネジメント能力などを有する関連分野の研究者などを選定しているところでございます。
また、現在、文部科学省の競争的資金におきましては、文部科学省に勤務をしている職員をプログラムディレクター、プログラムオフィサーに選定している事例はございません。
○井上哲士君 外部の研究者が指名をされるわけですね。ですから、具体的な装備品開発と出口において結び付いているという点でも、プログラムオフィサーに外部研究者ではなくて防衛装備庁の職員が指名されるという点でも、防衛省の制度というのは大きく異なっているんですね。
しかも、このプログラムオフィサーがどういう役割を果たすのか。資料の②を見ていただきますと、上に説明の資料が付いておりますが、この右上の指示等というところにある枠のところにありますように、PO、プログラムオフィサーは防衛用途への応用という出口を目指して研究委託先と調整を実施をすると、こう明記をされているわけですね。ですから、防衛用途への応用を目指してその研究テーマを提案をした、基本的に、そういう防衛省の職員が調整、助言、指導を行う、そして、出口に向かう、防衛用途への応用という出口に向かう進捗状況に問題があれば資金の打切りもあり得ると。
これがどうして自由で自律的な研究ができるのか。私はできないと思いますけれども、防衛大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(稲田朋美君) まず、プログラムオフィサーの役割については、安全保障技術研究推進制度における研究課題の進捗管理の要領にあるとおり、研究代表者等が研究実施主体であることを十分に尊重するとされており、研究内容について介入をすることはありません。プログラムオフィサーは、当初作成された研究計画に沿って研究課題の進捗状況を把握し、研究費の支払、算定、知的財産権の管理等について支援を行うものです。また、プログラムオフィサーの上にプログラムディレクターが設置されており、各プログラムオフィサーの業務について必要な指示をいたします。
本制度においては、研究者の自由な発想こそが革新的、独創的な知見を獲得する上で重要であって、研究の実施に当たっては研究者の自由を最大限尊重することが必要であると考えております。また、本制度では、研究成果について自由に発表、公開していただくことを前提といたしております。また、本制度に採択されて委託研究を行った場合においても、将来防衛省における研究開発事業に参加が必要とされるものでもありません。
引き続き、本制度において研究者の自由が最大限尊重されることについて周知徹底を図ってまいります。
○井上哲士君 あなた方の資料に、防衛用途への応用という出口を目指して調整を実施すると書いてあるんですよ。結局、資金の打切りもあり得ると。そういう形で、一旦この資金で研究を始めれば、防衛省の職員から管理をされ、問題があれば資金の打切りもあると。こういう下で自由で自律的な研究環境や研究の公開の完全な自由が保障されるとはとても思えないわけでありまして、結局、大学の研究を防衛省の装備開発研究の下請にする、そういう制度であります。
本来の自由で自律的な学問研究を縛るような制度はやめるべきだと申し上げまして、質問を終わります。
外交防衛委員会(安全保障技術研究推進制度)
2016年12月 8日(木)