○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
両案について、徹底審議の上、廃案をするよう主張してまいりました。議論すればするほど問題点が明らかになり、審議は全く尽くされておりません。条約については、衆議院の議決後三十日に当たる今夜零時で成立をするという下で意思表示が行われますが、一方、関連法案には自然成立はないわけでありますから、両案を一体で採決をすることには反対であります。
そこで、アメリカでトランプ氏が次期大統領に当選をして、事態は大きく変わりました。就任初日で離脱を表明をした。TPP承認、発効の見通しはなくなりました。その下で、この条約の承認をなぜ国会が行わなければならないのか。我々は会期延長せずに廃案を求めましたけれども、総理は繰り返し、政府としての意思とともに、国会の意思を明らかにすることが重要だと強調をされました。そして、会期延長までしてごり押しをされようとしている。しかし、国民の意思から離れた国会の意思などというものはあり得ないんです。
国民の意思はどうなのか。産経とFNNが共同の世論調査を三か月連続してやっております。TPP承認案と関連法案の今国会成立について、臨時国会前の九月は、賛成五〇・三、反対三三・〇でした。審議が始まった十月には、賛成が減って四七・七、反対は四〇・一に増えました。そして、トランプ氏当選、衆議院強行後の十一月、賛成は三八・八、反対は四八・五になりました。つまり、審議をすればするほど反対が増え、トランプ氏が当選をして発効の見込みがなくなったという下で逆転をし、一〇ポイント、今国会での承認反対が増えたということなんですね。他の調査でも、徹底審議が圧倒的多数ですよ。これこそが国民の意思なんです。
総理の、成長戦略の旗印で掲げてきたTPPの旗を下ろしたくないと、そういう思惑のために、国民の意思と懸け離れた国会の意思なるものを示すことは、私は民主主義に反すると思いますけれども、総理、いかがでしょうか。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 世界の自由貿易については、基本的に一貫してまさに米国がリーダーとしての役割を果たしてきたんだろうと、このように思います。牽引役としての役割を果たしてきた。それが今、米国に代わって、日本がこの先頭に立つことが求められているという、この大きな変化に戸惑いを感じておられる方々も確かにおられるんだろうと、こう思います。しかし、米国が政権移行期にあり、保護主義の懸念と動揺が広がる中において、自由貿易の下で経済成長を遂げてきた我が国が自由で公正な貿易・投資ルールを牽引すべきときが私は来たんだろうと、こう思います。その歴史的な使命を果たしていかなければならないという大きな決意の下に今御審議をいただいているわけであります。
これは、実際にペルーにおいても日本はどうするんだということを随分聞かれました。我々は、しっかりと今こそ私たちがくじけることなくフェアで公正なこのルールに基づく新しい経済圏をつくっていこう、それはそのとおりだなということで他の国々も一緒に今国内手続を進めている、あるいは既に終えている国もあるわけであります。
その使命を果たしていく中において、これはまた同時に、大企業だけではなくて中小企業や農業者やあるいは中小企業で働く人々にも利益が及ぶ、共にこれは利益を分かち合っていくということをしっかりとこれからも粘り強く丁寧に説明をさせていきたいと思うわけでありますが、日本におきましては、格差を拡大させないという日本の経済政策のこの価値を世界にも示していきたいと、こう思っている次第でございます。
○井上哲士君 私は国民の意思と違うじゃないかということを申し上げましたけれども、全く答えがありませんでした。変化への戸惑いということで国民のこの声を切り捨てる、本当にひどい話だと思うんですね。
共同通信の十一月の世論調査でも、今国会にこだわらず慎重に審議すべきと成立させる必要はない、合計八三%なんです。この間、TPPとか年金カット、カジノ、次々と衆議院で強行採決をしてきました。いずれも国民の意思に反することをやっている。今の答弁を聞いておりましても、およそ国民の意思、これに興味がない、こういう姿勢が明らかになっております。更にこの暴挙を続けるつもりなのかと、これが問われているんですよ。
そして、今、欧米でも日本でも、グローバル資本主義の暴走、世界中を最大利潤を求めて動き回る多国籍企業や国際金融資本の横暴の下で格差や貧困が拡大をしている、これに反対する幅広い市民運動が起きております。この間、私は、国際条約がこうした横暴を進めるものになっているんではないかと、こういう質問を本会議でも行いました。総理は、そういう認識はない、むしろ各国の再配分機能の問題だと、こういう答弁でありました。
しかし、今グローバル資本主義で問題になっているのは、分配をするその以前のもうけの問題なんですね、もうけ方の問題なんです。多国籍企業が世界中を動き回って自分たちの利益を最大化することで世界的な賃金の低下や雇用の喪失が起きている。そして、法人税引下げ競争やタックスヘイブンによる税金逃れ、投機マネーなど、これでより利益が多国籍企業や富裕層に集中している。
総理、分配前のもうけの問題なんだ、多国籍企業や富裕層が最大利益を上げる結果になっていると、こういう認識はあるでしょうか。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) まさにこのグローバル化の中において、言わば、先ほども浜田委員から指標が示されたわけでありますが、このグローバル化の中において多国籍企業等あるいは一部の人々に富が集中するという傾向が強まってきたというのは事実でございますが、我が国においては、再配分後のジニ係数についてはこれはほとんど横ばいが続いているわけでございますし、相対的貧困率についても、統計を取って十五年間、初めてこれは改善をしているわけでございます。
つまり、日本の考え方、このやり方、私たちが進めている政策、また一億総活躍社会の実現というこの考え方については、G7あるいはG20で我々は紹介した、多くの国々もこういう考え方の下に立つべきであると、包摂的なこれは成長を目指していかなければならないということを強く申し上げ、基本的な考え方については受け入れられているのではないかと、このように考えております。
○井上哲士君 これまた全然お答えになっていないんです。私は、そういう分配の問題ではなくて、言わば、それぞれの国でもうけが落ちる前に、その前の多国籍企業のもうけ方の問題がある、そのことの認識を問うたわけでありますが、その点でもまたお答えがありませんでした。
繰り返し述べてきましたけれども、今問われているのは、自由貿易か保護主義かと、こういう旧来型の議論ではありません。私たちも、貿易の振興は大切であり、資本主義の中でグローバル化は避けられないと考えております。
しかし、自由貿易、新自由主義一辺倒の政策の下では、余りにも一部の多国籍企業だけ利益が偏って各国で格差が拡大する、そうなればもう貿易自体も発展をしていかない、こういう事態ではないかと。もっと公正な国際経済環境をつくってグローバル化の方向を変えていく。つまり、各国の主権を守りながら、雇用とか賃金、社会保障、農業、食料自給率、食の安全、人権、環境などのルールをしっかり貿易や投資のルールの中に入れ込んでいく、作っていくと。こうやってこそ次の貿易の発展もあると考えますけれども、総理、認識どうでしょうか。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) まさにTPPにおいては、今までそういう指摘もされてきた、一部の多国籍企業に利益が集中しているのではないか、そんな指摘がなされてきました。しかし、このTPPにおいては、まさにこの一部の多国籍企業、大企業だけではなくて、この十二か国で一つの統一ルールを作っていく。そのルールの中には、知的財産の保護もあれば労働や環境の規制もあれば、国有企業の競争条件の規制、規律などもあるわけであります。それがないときには、やっぱり中小企業においては、出ていけば、せっかく自分が作ったこの知財についても力と力のせめぎ合いの中でこれは奪われてしまうのではないかという不安もあるわけでありますし、また、中小企業や小規模事業者にとって、一国一国に出ていく上において煩雑なこれは手続等々も経なければいけない。
しかし、それが一つのルールの中で、そういう人たちもこれは海外に出ていって利益を得ることが可能、またそこで働く人々にも利益が出るということになるわけでありまして、そういう意味におきましては、TPPについては、まさにそうした様々な懸念にも対応していくこの新しいルールを作ったということであります。そのルールとともに、国内においても、しっかりとこの取引条件を改善をしていくということについても我々はしっかりと進めているわけでありまして、利益がしっかりと均てんするように更に努力を重ねていきたいと、このように思っております。
○井上哲士君 知的所有権の話も最初言われましたけれども、これも、大手のいろんなコンテンツのところの利益中心になっているという指摘も委員会であったわけであります。
今、例えばヨーロッパでは市民社会の中から貿易のルール見直す声が広がって、EUと米国間のTTIP反対の運動が広がる。そういう中で、EUの中でも様々な見直しの議論や提案が行われております。その中心がISDSでありまして、欧州委員会自身がこの改善を提案をしてパブリックコンサルテーションが行われております。主な内容は、透明性の確保、審理と全ての文書の公開の保障をする規定を盛り込むこと、仲裁人の行動規範など仲裁人の倫理的行動に関する要件を入れること、TTIPに上訴のメカニズムを確認すること、こういうことを提案をして、そしてコンサルテーションやっています。十五万の回答が寄せられているんですね。
こういうISDSをめぐるEUでの議論やこの取組についてはどう受け止めていらっしゃるでしょうか。
○国務大臣(岸田文雄君) TTIPにおきましては、物品等の市場アクセスのほか、健康、安全、労働、環境保護に関するルールなどについて両者の議論があると承知しておりますが、その中でISDSについては、まず、第三者間の交渉であるため評価は差し控えたいと思いますが、このEU内部にもISDSをめぐって様々な議論があり、例えば二〇一五年九月にはEU側から常設投資裁判所を米側に提案したということを承知をしております。引き続き注視をしていきたいと考えます。
○井上哲士君 このコンサルテーション、公開諮問には十五万の回答で、多くは、強固な司法制度があるEUやアメリカではもうそもそもこういうISDS必要ないと、また、改善では不十分だというものでありました。しかし、やはり市民社会の声に応えてこういう議論をしていること自身が私は重要だと思うんですね。こういう形で、やはり今のこの貿易・投資のルールの在り方、国民の暮らしを守る方向でやるということが必要だと思うんです。
アメリカは今後、TPPの再交渉や有利な二国間協議を求めてくることは間違いないわけでありまして、そんなときにTPPにしがみつくならば、結局これが最低ラインになって一層の譲歩を迫られることになる。それはないんだとおっしゃいましたけれども、この間の日本の貿易交渉は譲歩の積み重ねだったわけでありまして、全く説得力もありません。
大体、TPP反対、うそつかない、ぶれないというポスターを貼って国民にうそをついて、国会決議案をごまかして、国会審議では黒塗り資料でまともな情報開示もせず、審議ではすり替えの答弁、挙げ句の果てには、トランプ氏の当選で発効の見通しがなくてもあくまでもしがみつくと、とことん国民不在ですよ。もうやめようじゃありませんか、こういうことは。
今やるべきことは、TPPの批准ではなくて、市民のための公正な貿易ルールの確立だ、そのことを申し上げまして、質問を終わります。