○議長(伊達忠一君) 井上哲士君。
〔井上哲士君登壇、拍手〕
○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
会派を代表して、訪米報告に対し、安倍総理に質問します。
質問に先立ち、北朝鮮が十二日、日本海に向けて弾道ミサイルを発射したことを厳しく非難し、抗議します。これは核兵器の開発と不可分に結び付いた軍事行動であり、国際の平和と安全に深刻な脅威を及ぼし、国連安保理決議、六か国協議の共同声明、日朝平壌宣言に違反する暴挙であります。
安倍総理とトランプ米大統領との初めての日米首脳会談は、米国第一を掲げるトランプ政権に対してどのように対応するかが問われました。
トランプ大統領の七か国市民などに対する入国禁止令に米国内と全世界から厳しい批判が集中しています。ところが総理は、会談後の記者会見では、内政問題であり、コメントを控えると述べるだけでした。
しかし、特定の宗教や市民を排除することは、内政問題に矮小化されるものではありません。国際的な人道・人権問題であり、テロ対策にも逆行します。だからこそ、ヨーロッパ各国の首脳も批判的立場を明らかにしています。黙認の態度を取り続け、ひたすら蜜月ぶりをアピールする総理の姿は国際社会の中でも異様なものです。米国のタイム誌は、安倍首相はトランプ大統領の心をつかむ方法を示した、へつらいであると書きました。
総理には、今回の入国禁止令は国際的な人権・人道問題との認識はないのですか。これまでの米政権と比べても異常なトランプ政権の排外主義へ追随する態度を続けるのですか。
日米共同声明の冒頭、核及び通常戦力の双方によるあらゆる種類の軍事力を使った日本の防衛に対する米国のコミットメントは揺るがないとし、核兵器使用も辞さない姿勢を明記しました。日米の首脳間の共同宣言で米国の核による日本の防衛を明示的に書き込んだことは、米ソ対立終えん後初めてではありませんか。これは日本が求めたのですか。
トランプ大統領は、就任前の十二月、ツイッターで、核兵器に関して、世界が分別を取り戻すまでは米国は核戦略を強化、拡大しなければならないと述べています。このトランプ政権の核強化戦略をどう評価していますか。核強化を掲げる政権との核兵器の使用も辞さないという内容の共同声明は、核兵器禁止条約を求める世界の流れにも被爆者の声にも逆行するものではありませんか。
アメリカの圧力の下、日本は核兵器禁止条約の交渉開始決議に反対するという、被爆国政府として恥ずべき態度を取りました。三月には同条約の締結交渉が行われます。北朝鮮に核・ミサイル開発の放棄を迫る上でも、この交渉を成功させることが重要です。
日本はこの交渉に参加するのですか。参加するならば、被爆国政府にふさわしく、核兵器の禁止と全面廃絶に至る法的拘束力のある条約を締結する立場で臨むべきです。答弁を求めます。
共同声明で、日米同盟の強化が強調され、日本は同盟におけるより大きな役割及び責任を果たす、新ガイドラインに基づき、引き続き防衛協力を実施し、拡大するとしたことも重大です。
トランプ大統領は、一月二十一日、他国が軍事で勝ることは許せないとの声明を出し、軍事増強の姿勢を明確にしました。この米国と同盟強化の方策を特定するために2プラス2を開催するとしていますが、安保法制、戦争法の下で米国と自衛隊の地球的規模での軍事協力、戦争する国づくりを更に推進することになるのではありませんか。
共同声明には、防衛イノベーションに関する二国間の技術協力を強化すると盛り込まれました。具体的に何を対象とし、どのような体制で技術協力を進めようとしているのですか。危険な海外での軍事協力の強化ではなく、憲法違反の安保法制、戦争法の廃止こそ必要であります。
首脳会談では、名護市辺野古への米軍新基地建設を唯一の解決策として推進すると確認をしました。政府が、会談の手土産にするかのように、抗議する県民を力ずくで押さえ付け、埋立てに係る海上工事を再開したことに怒りが広がっています。
沖縄の基地負担軽減といいますが、辺野古新基地は、普天間基地の移設などではなく、千八百メートルの滑走路二本と強襲揚陸艦も接岸できる軍港を持ち、耐用年数二百年の最新鋭の巨大基地を造るものであります。
沖縄県民は選挙で、新基地建設反対の民意を繰り返し示しています。総理はこの民意をトランプ大統領に伝えたのですか。唯一の解決策と民意無視の思考停止に陥るのではなく、普天間基地の無条件返還を求めて米側と正面から交渉すべきです。答弁を求めます。
政府は、首脳会談で提案するために、投資を通じて米国中心に七十万人の雇用を創出することなどが主な内容の日米成長雇用イニシアチブをまとめ、その中には世界市場の開拓として共同での原発の売り込みも掲げられていると報道されました。会談では示されませんでしたが、総理は共同会見で、日本は大統領の成長戦略に貢献し、アメリカに新しい雇用を生み出すことができると述べました。
米国内の経済政策と雇用に日本が全面的に協力し、貢献することを一方的に宣言するというのは、異常な貢ぎ物外交と言うほかありません。日米成長雇用イニシアチブには何が盛り込まれたのですか。今後、米側に提案するのですか。答弁を求めます。
共同声明は、米国のTPP離脱を踏まえ、日米間で二国間の枠組みに関して議論を行うことを含めて、日米の貿易と投資の深化を図るため最善の方法を探求することを誓約しました。TPPで日本が譲歩した内容を前提に、二国間の交渉で更なる譲歩が迫られる危険があります。
既に、全米肉牛生産者・牛肉協会と全米豚肉生産者協議会は、七日、トランプ大統領に対し、日本とのFTA交渉の早期着手を要請する書簡を送っています。今後、米、麦、牛肉、豚肉など、二国間協議で一層の譲歩が求められるのではありませんか。
さらに、共同声明は、経済関係の強化として市場障壁の削減を強調しています。この間、米国が求めてきた食品添加物の規制緩和や国民皆保険制度の見直し、雇用の規制緩和などがその対象にならないと断言できますか。お答えください。
首脳会談では、今後の日米経済関係の新たな協力の枠組みとして経済対話の立ち上げを決めました。かつての日米構造協議は、大規模小売店舗法改悪による地域経済の衰退や、内需拡大の名による大型公共工事で乱開発と財政破綻を生み出しました。その後の米国からの年次改革要望書は、貿易、金融、保険、雇用などあらゆる分野で日本に干渉する仕組みになりました。日米の二国間協議は日本が譲歩を重ねてきた歴史ではありませんか。今回の経済対話は、米国第一の立場での日本への経済干渉の新たな枠組みになるのではありませんか。過去の構造協議とどこが違うのですか。答弁を求めます。
以上、米国第一を掲げるトランプ政権に対し、安倍政権が日米同盟第一の立場で追従したことが際立つ日米首脳会談となりました。この道を突き進むならば、あらゆる分野で矛盾が深刻になることは明らかです。日米同盟最優先という硬直した思考を抜本的に切り替え、対等、平等、友好の日米関係に転換すべきである、このことを強調し、質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 井上哲士議員にお答えをいたします。
米国の大統領令についてお尋ねがありました。
入国管理はその国の内政事項であり、コメントは控えます。他方で、移民、難民問題、テロ対策は国際社会の共通の課題です。こうした世界的な課題については、トランプ大統領と十分に話をし協力を確認しました。日本は、これからも難民、移民支援、開発支援など、非軍事分野において日本ならではの貢献を国際社会とともに協力して行っていきます。
日米の共同声明、米国の核戦略への評価及び核兵器禁止条約交渉への対応についてお尋ねがありました。
近年、我が国を取り巻く安全保障環境は厳しさを増しており、特に、核・ミサイル開発を継続する北朝鮮は新たな段階の脅威となっています。御指摘の共同声明における記載は、かかる状況を踏まえて二国間で確認したものであり、どちらか一方が求めたという性格のものではありません。
トランプ大統領は、核態勢の見直しを新たに開始する旨記載された米軍の再構築に関する覚書に署名したと承知しています。今後の具体的な見直し作業を注視していきます。
核兵器のない世界の実現のためには、核兵器国がそれに同意することが必要不可欠です。他方、御指摘の核兵器禁止条約の交渉開始決議については、核兵器国は賛成せず、核兵器国と非核兵器国の間の亀裂を一層深め、核兵器のない世界の実現をかえって遠ざける結果となることから、我が国は反対しました。
我が国は、唯一の戦争被爆国として、核兵器のない世界の実現に向け、国際社会の取組をリードする立場から、主張すべきは主張しつつ、核兵器国と非核兵器国の双方に協力を求め、現実的かつ実践的な取組を重ねていくべきとの一貫した立場を取っています。核兵器禁止条約交渉への対応については、ただいま申し上げた考えの下、政府全体で検討していく考えであります。
2プラス2及び防衛イノベーションについてのお尋ねがありました。
2プラス2は、日米の外務・防衛担当閣僚が一堂に会する場であり、日米同盟を更に強化するための方策を今後具体的に議論する上で最も適切な場です。その上で申し上げれば、平和安全法制は、新ガイドラインの策定と相まって同盟関係を一層強固にし、抑止力を向上しました。また、世界各国による強い支持と高い評価は、この法制が世界の平和と安全に貢献するものである何よりのあかしです。戦争する国づくりを更に推進するとの御指摘は全く当たりません。
高い技術力は防衛力の基盤です。新たな脅威に対応し、戦略的に重要な分野において技術的な優位性を確保していくためには、中長期的な視点に基づく研究開発の推進が必要です。また、新ガイドラインも防衛装備・技術協力の発展、強化を明記しています。御指摘の共同声明の記述は、こうした分野での日米協力を強化していくことを確認したものであり、具体的な協力の内容や進め方については今後検討してまいります。
普天間飛行場の返還についてお尋ねがありました。
トランプ大統領とのやり取りの詳細についてお答えすることは差し控えますが、沖縄の負担軽減に関する日本政府の立場については、今回の会談においてしっかりと説明しました。また、トランプ大統領との間で、普天間飛行場の全面返還のため辺野古移設が唯一の解決策であることを確認しました。
いずれにせよ、抑止力を維持し、負担軽減を進めるため、在日米軍の再編をこれまでどおり進めていく考えであり、普天間飛行場の固定化は絶対に避けなければならないという方針の下、約二十年越しの懸案である普天間飛行場の全面返還を実現するため、引き続き全力で取り組んでいく考えであります。
日米成長雇用イニシアチブについてお尋ねがありました。
そもそも、そのようなイニシアチブを米側に提案した事実はありません。また、トランプ大統領からいわゆる対日要求といったものも出ていません。
日米がウイン・ウインの経済関係を一層深めるため、麻生副総理とペンス副大統領の下で新たな経済対話の枠組みを立ち上げることで合意しました。経済対策、インフラ、エネルギー、サイバー、宇宙などの分野での協力、貿易、投資に関するルールについて議論していくこととなります。具体的な構成、内容については、今後、スケジュールも含め、日米間で調整をしていきます。異常な貢ぎ物外交であるとの御指摘は全く当たりません。
今回の日米首脳会談で発表した共同声明についてお尋ねがありました。
日米がウイン・ウインの経済関係を一層深めるため、麻生副総理とペンス副大統領の下で新たな経済対話の枠組みを立ち上げることで合意しました。日米主導で自由で公正な市場を世界に広げていくという日米共通の目標の下、今後、建設的な議論をしていきます。
二国間FTAについては、今回、具体的な要請はありませんでした。今後の日米対話の中で、どのような枠組みが最善であるかを含め議論をしていきます。二国間であれ多国間であれ、日本の国益をしっかりと守っていきます。
今回の日米首脳会談で立ち上げた経済対話についてお尋ねがありました。
これまでも日米構造協議などの二国間協議を行ってきましたが、これは日本の経済構造に課題があると米側が言ってきたことに対し、日本がその指摘が正しいと思う部分については対応し、他方、米側の要求が正しくない部分に対してはノーと言ってきたものであります。したがって、日本が譲歩を重ねてきた歴史であるとの御指摘は当たりません。
今般、日米がウイン・ウインの経済関係を一層深めるため、麻生副総理とペンス副大統領の下で新たな経済対話の枠組みを立ち上げることで合意しました。日米主導で自由で公正な市場を世界に広げていくという日米共通の目標の下、今後、建設的な議論をしていきます。
本会議(総理訪米報告に対する質問)
2017年2月15日(水)