○議長(伊達忠一君) 井上哲士君。
〔井上哲士君登壇、拍手〕
○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
会派を代表して、日米、日豪、日英物品役務相互支援協定、ACSAについて総理に質問いたします。
まず、核兵器禁止条約についてです。
同条約の国連会議が二十七日から始まり、熱気に満ちた討論が続いています。日本共産党の志位委員長は、核軍縮・不拡散議員連盟の一員としてこの会議で発言し、禁止条約の意義とその早期締結を呼びかけました。
一方、政府は、被爆国でありながら交渉開始決議に反対し、国連会議の冒頭でも反対を表明した上、交渉に参加しないことを表明しました。これについて、国連会議で演説した日本の被爆者は、心が裂ける思いだったと述べ、同じくカナダに在住の被爆者は、自国に裏切られたと述べました。総理、被爆者のこの声をどう受け止めていますか。
政府は、核兵器禁止条約は核保有国と非保有国の分断を広げるとして反対しています。しかし、これまでのNPT再検討会議での核廃絶に向けた全会一致の誓約を破り、自国の核軍備を近代化、強化する態度を取るなど、分断をつくったのは核保有国であり、とりわけアメリカのトランプ政権は、核兵器のない世界という目標を永久に先送りし、核兵器の増強を言い出しています。もう待ってはいられない、被爆者と国連加盟国の多数の声が今回の交渉を、会議を実現させたのです。
政府は、唯一の戦争被爆国として、核保有大国に追随するのではなく、核兵器禁止条約に積極的に賛成し、核保有大国へ協力を迫るべきではありませんか。
憲法も国民の声も幾重にも踏みにじり強行された安保法制、戦争法の施行から一年がたちました。三つのACSAは、安保法制により、日本が提供する物品、役務の内容が拡大されたことを反映させたものです。憲法違反の安保法制と一体のものであり、到底容認できません。
そもそも、戦争放棄、戦力不保持、交戦権否認を規定した憲法九条は、自衛隊が海外で軍事活動を行うことは想定していません。ところが、政府は、これまで、武力行使と一体にならなければ憲法違反でないとしてきました。さらに、安保法制では、現に戦闘行為が行われている現場以外なら、それまで戦闘地域とされた地域でも米軍への兵たん活動を可能にしました。その際、政府は、現実に活動を行う期間について、戦闘行為が発生しないと見込まれる地域を実施区域に指定するので、武力行使と一体化は生じないと説明しました。
現実はどうでしょうか。南スーダンの首都ジュバでは、昨年七月に政府軍と反政府勢力による大規模な戦闘が起き、自衛隊の宿営地にも銃弾が着弾しました。現地の日報には、自衛隊が戦闘に巻き込まれるおそれなど生々しく書かれています。停戦合意がなされているはずの場所でも戦闘が起きたことをどう説明するのですか。他国軍の兵たん支援中に戦闘が発生しても、衝突だと言い換えて、武力行使と一体化しないと強弁するつもりですか。お答えください。
南スーダンPKOの派遣部隊からの日報は、当初、陸自で廃棄されていたが統幕にあったと説明してきました。ところが、実際には陸自と統幕ぐるみで秘密裏に破棄が指示されていたのです。これは、南スーダンでの戦闘という不都合な真実を国民から隠そうとしたものにほかなりません。
稲田大臣は、当初、自分の指示で日報を開示させたので問題ないとし、新たな隠蔽が発覚すると、特別防衛監察を命じました。ところが、特別監察中を理由に大臣も官僚も答弁を拒否して国会の真相解明を妨げており、監察を盾に時間稼ぎをしていると言わざるを得ません。しかも、開示された日報により、稲田大臣自身が現地からの戦闘の報告を衝突と言い換えるなど、危険な情勢を隠蔽した上、安保法制に基づく駆け付け警護等の新任務を付与したことが明らかになりました。稲田大臣の責任は極めて重大です。直ちに罷免すべきではありませんか。
国民的怒りが広がる中、政府は五月末での撤収を決めました。ところが、その理由は、活動に一定の区切りが付いたからだとし、南スーダンにおいて国民対話の開始など国内の安定に向けた政治プロセスの進展が見られていると述べています。
しかし、国連のグテレス事務総長は、二十三日、安保理で発言し、南スーダンの紛争は引き続き深刻な苦しみを生み出していると述べ、国民的対話の開催に関するキール大統領の声明について、戦闘が継続中で、重要な利害関係者との協議がなく、基本的な政治的自由が系統的に制限され、人道的アクセスが制限され、さらに紛争当事者双方の分裂が拡大している状況では、大統領の声明に説得力はないとしています。政府の認識とは全く懸け離れているではありませんか。
内戦状態にあり、PKO五原則が崩れていることを認めないまま撤収すれば、同じ過ちを繰り返すことになります。内戦状態を認め、直ちに自衛隊を撤収させるべきです。また、南スーダンPKO全体を真剣に総括すべきです。答弁を求めます。
米国との新協定により、従来は武力攻撃事態等における活動のみ可能とされていた弾薬の提供を全ての事態で可能とします。さらに、協定の適用対象を多数国間訓練、国際連携平和安全活動、存立危機事態、重要影響事態、国際平和共同対処事態など大幅に広げるものです。
米国は、世界各国とACSAを結び、自国から物資等を輸送せずに即座に必要な物資を入手する体制をつくってきました。米国は現在何か国とACSAを結んでいますか。今回の改定は、イラク戦争のような無法な戦争も含めて、米国の戦争にいつでもどこでも切れ目なく兵たん支援を行うことが可能な体制をつくるものにほかならないのではありませんか。答弁を求めます。
日英、日豪協定も、それぞれ弾薬の提供を可能とします。さらに、政府は、本年一月、フランスと新たにACSAの協定交渉を開始することで合意しました。
なぜACSAを結ぶ相手国を増やすのですか。災害対応を言いますが、米軍やNATOを中心とする多国籍軍に参加する際に兵たん支援を行うためではないのですか。相手国の基準は何なのですか。明確にしていただきたい。
安保法制では、米国以外の軍隊への自衛隊による兵たん支援も可能としましたが、外国軍との共同の活動を無原則的に広げるものではありませんか。
自民党の弾道ミサイル防衛に関する検討チームは、敵基地攻撃能力の保有について早期の検討開始を始める提言をまとめ、昨日、総理に提出しました。これまでの政府の専守防衛の建前さえも崩し、公然と他国に攻め込む能力を持とうとするものであり、到底許されません。
総理は、安全法制の審議の際、個別的自衛権行使としても敵基地を攻撃することは想定していないとはっきり申し上げておきたいと答弁しました。にもかかわらず、与党の提言を受けて保有の検討を進めるのですか。また、そのような検討が北朝鮮をめぐる情勢にどのような影響を及ぼすと考えているのですか。米軍の兵たん支援を拡大させる上、他国に攻め込む能力保有の検討もするとなれば、憲法を踏みにじる安倍政権の暴走はまさに際限なしと言わなければなりません。
日本共産党は、立憲主義を取り戻す市民と野党の共同を広げ、安保法制、戦争法の廃止に全力を挙げる決意を改めて述べて、質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣安倍晋三君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 井上哲士議員にお答えをいたします。
核兵器禁止条約についてお尋ねがありました。
核兵器のない世界を実現するためには、核兵器国の協力が必要不可欠であります。今回の交渉には、五核兵器国のどの一か国の出席も得られていません。このような形で核兵器禁止条約を作っても、実際に核兵器が一つでも減ることにはつながりません。また、北朝鮮の脅威といった現実の安全保障問題の解決には結び付きません。
政府としては、核兵器国が参加しないこのような形で条約を作ることは、核兵器国と非核兵器国の亀裂を一層深め、核兵器のない世界の実現をかえって遠ざけるものになると考えています。
我が国は、唯一の戦争被爆国として、核兵器のない世界の実現に向け、国際社会の取組をリードしていく使命を有しています。被爆者の方々の思いは大変貴重なものであり、重いものです。そうした思いや声はしっかりと受け止めなければならないと思います。
我が国は、核兵器のない世界の実現を真に願うからこそ、核兵器の非人道性に対する正確な認識と厳しい安全保障環境に対する冷静な認識の下、核兵器国と非核兵器国の双方に協力を求め、核兵器のない世界の実現に向けて、核廃絶のための具体的かつ効果的な措置の積み上げを追求してまいります。
南スーダン情勢と武力行使の一体化についてお尋ねがありました。
政府としても、南スーダンの治安情勢は極めて厳しいものと認識しています。他方、武力紛争の当事者となり得る国家に準ずる組織は存在しておらず、参加五原則は一貫して満たされています。また、自衛隊は、安全を確保しながら意義のある活動を継続しています。
ジュバは現在も比較的落ち着いており、先般ジュバを訪問した柴山総理補佐官からも、ジュバ市内の様子は、昨年十一月の前回訪問時よりも更に落ち着きを取り戻している様子だったとの報告を受けています。このような我が国の情勢認識は、国連の認識とも相違するものではありません。
南スーダンPKOのみならず、平和安全法制の下での自衛隊の活動については、他国の武力の行使と一体化を防ぐ仕組みが設けられています。その上で、政府としては、自衛隊の活動する地域の情勢を不断に注視し、適切に判断を行っていく考えです。
稲田大臣についてお尋ねがありました。
稲田大臣は、自らの責任の下、大臣直属の防衛監視本部に対して特別防衛監察の実施を指示し、徹底的な調査により、改めるべき点があれば大臣の責任において改善し、再発防止を図ると述べています。また、駆け付け警護の任務付与などに際しては、自ら南スーダンの現地視察を行うなど、実態を踏まえて答弁を行っており、戦闘行為や武力紛争といった法律上の概念についても、政府として過去一貫した考え方の下、答弁を行っています。
もとより、閣僚の任命責任は全て内閣総理大臣たる私にあります。その上で、稲田大臣には、引き続きしっかりとその職責を果たしてもらいたいと考えています。
南スーダンPKOについてお尋ねがありました。
今般、現地で活動中の第十一次隊の派遣期間が今月末をもって期限を迎える予定であったことを踏まえ、これまでの検討状況を取りまとめた結果、現在、国連の地域保護部隊の展開が開始されつつあります。また、南スーダン政府は、民族融和を進めるため、国民対話の開始を発表するなど、国内の安定に向けた取組が進展を見せており、また、国連施設の整備は四月末に、道路整備も五月末までに完了する見込みであることから、一定の区切りが立つ五月末を目途に施設部隊の活動は終了することとしたものです。
その上で、グテーレス国連事務総長が、二月二十三日の国連安保理の公式会合において御指摘のような発言をしたことは承知しております。他方、その発言の真意は、現地を訪問したラドスース国連事務次長がキール大統領との会談において強調したとおり、南スーダン国民の幸福を保障する上で、包摂的な政治プロセスが決定的に重要であるとの点にあると承知しています。
我が国としても、南スーダンの治安・人道状況は極めて厳しいものと認識しており、このような我が国の情勢認識は国連の認識とも相違するものではありません。いずれにせよ、参加五原則については、一貫して満たされていると考えています。
なお、施設部隊の活動終了後、将来のため教訓、反省をしっかりと整理すべきことは当然と考えています。
ACSAについてお尋ねがありました。
米国は、日本を含む約百十の国及び機関と物品又は役務の相互の提供に関する政府間の国際約束を締結し、又は当局間の取決めを作成していると承知しています。
新たな日米ACSAの締結は、平和安全法制によって幅の広がった日米間の安全保障協力の円滑な実施に貢献し、協力の実効性を一層高める点で大きな意義があります。新たな日米ACSAが、米国に対していつでもどこでも切れ目なく支援を行うことが可能な体制をつくるものであるといった指摘は全く当たりません。
いずれにせよ、我が国として、国際法上違法な武力行使を行う国に対して、ACSAの下での物品、役務の提供を含め、協力を行うことはあり得ません。
いずれの国とACSAを結ぶかについては、各国との二国間関係や協力の実績、具体的ニーズ等も踏まえながら判断していく考えです。外国軍との共同の活動を無原則に広げるものとの指摘は、これも全く当たりません。
弾薬の提供については、緊急の必要性が極めて高い状況下にのみ想定されるものであり、拳銃、小銃、機関銃などの他国部隊の要員等の生命、身体を保護するために使用される弾薬の提供に限るとする五党合意の趣旨を尊重して、適切に対処することになります。
いわゆる敵基地攻撃についてお尋ねがありました。
平和安全法制の審議の際、我が国は敵基地攻撃を目的とした装備体系は保有しておらず、個別的自衛権の行使としても敵基地を攻撃することは想定していない旨申し上げましたが、この点は今も変わっておりません。
敵基地攻撃能力については米国に依存しており、敵基地攻撃を目的とした装備体系を保有する計画はありません。その上で、我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しくなる中、日米間の適切な役割分担に基づき、日米同盟全体の抑止力を強化し、国民の生命と財産を守るためには我が国として何をすべきかという観点から、常に様々な検討は行っていくべきものと考えています。
安全保障環境の変化に対応し、国民の生命と財産を守るため、あるべき防衛力の姿について不断の検討を行うことは、一国の政府としては当然のことであり、このような検討を行うことが我が国と他国との関係に特段の影響を及ぼすとは考えておりません。(拍手)
本会議(日米、日英、日豪ACSA承認案に対する質問)
2017年3月31日(金)