○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
WTOに関連して聞きます。
WTOの知的所有権の貿易関連の側面に関する協定、いわゆるTRIPS協定によって、医薬品の分野でも知的財産権が保護をされてきました。これに対して、巨大製薬企業を中心に保護強化を求める激しいロビー活動が行われてきました。米国での牽引車は、新薬開発系の製薬会社とその連合体である米国研究製薬工業協会であります。その事実上代弁者となった米国政府は、全てのFTA、EPAで、高いレベルの自由化の旗の下に、従来の協定以上の水準の、いわゆるTRIPSプラスと言われる保護制度の導入を求めてきました。その下で、TPP協定にもデータ保護期間や特許期間の延長が盛り込まれたわけであります。
安倍総理は予算委員会で、TPP協定に結実した新たなルールは今後の通商交渉におけるモデルになると強調した上で、この通商交渉のモデルを二十一世紀のスタンダードにしていきたい、この成果を基礎にRCEPなどの交渉で質の高い協定を目指すと繰り返し答弁をされております。現在RCEPの交渉が行われているわけでありますが、この総理答弁からいえば、TPPに盛り込まれた医薬品分野での知財保護の内容を日本として求めているということでよろしいでしょうか。
○国務大臣(岸田文雄君) 数年間の交渉を経て結実したTPP協定におけるこの新たなルール、これは今後の通商交渉におけるモデルとなり二十一世紀のスタンダードになっていくことを期待しています。これが政府の立場であります。そして、我が国は、このRCEP交渉においても、TPP交渉における成果も踏まえながら、包括的で質の高い、バランスの取れた協定の早期妥結を目指しております。
そして、このRCEP交渉では、交渉を開始するに当たって参加国間で作成した基本指針及び目的というものがあります。この中で、知的財産に関しては、経済統合及び知的財産の利用、保護、執行における協力を推進することにより、貿易及び投資に対する知的財産関連の障壁を削減することを目指す、このようにされております。こうした方針の下にRCEPにおいては交渉が進められるものであると認識をしております。
○井上哲士君 具体的な答弁はなかったんですけど、総理は、先ほど言いましたように、このTPPの内容を二十一世紀のスタンダードだと言って、高い水準の一つとして知財の重要性ということも答弁で言われているわけですね。
ノーベル平和賞の受賞組織でもある国際NGOの国境なき医師団が、漏えいしたRCEP協定の交渉文書によると、日本と韓国が製薬会社の特許期間を延長し臨床試験データ独占を最悪の形で導入する条項を提案していることが明らかになったと、こういうふうに述べております。
ここで言われている一つが、TPPにも入っていたデータ保護期間ですね。企業が新薬の承認申請時に提出する安全性や有効性のデータを一定期間非開示とするものでありまして、保護期間中にジェネリック薬を製造しようとすると、自分で臨床試験をやらなければならないので極めて困難になるわけですね。安価なジェネリック版の治療薬を命綱にしているような途上国のHIV患者などには深刻な影響を与えると言われております。
輸出国であって途上国の薬局と言われているインドもこのRCEPの参加国なわけですが、インドのジェネリック薬産業というのは、特に途上国の人々を含む世界の数百万人にとって命綱になっていると言われております。国境なき医師団がHIV、結核、マラリアの患者を治療するために購入する全医薬品の三分の二がこのインドで製造されているということなんですね。こういうところに非常に大きな影響を与えることになると思うんですが、こういうデータ保護期間が途上国の人々の安価なジェネリックの使用を困難にするということについては日本政府はどうお考えでしょうか。
○国務大臣(岸田文雄君) 国境なき医師団等が、RCEPでTPPのような医薬品の知的財産保護のルールが設けられれば途上国における安価な医薬品へのアクセスを制限する、こうした主張をしていることは承知しております。この点、TPPにおける医薬品に関する知的財産保護については、新薬開発の促進、新薬の安全性の確保、あるいは迅速な医薬品へのアクセス、こうした諸点のバランスの観点から柔軟性のある適切な水準になっていると政府としては認識をしております。
例えば、TPP協定第十八・六条では、各締約国が有する公衆の健康を保護する権利、特に全ての者の医薬品へのアクセスを促進する権利を支持するような方法でこの章の規定を解釈し、及び実施することができ、また、そのようにすべきである、こうしたことを明確にしております。RCEPにおいても、こうしたバランスを考慮しつつ、適切なルールに合意することを目指したいと考えております。
○井上哲士君 TRIPS協定でも柔軟性に関する規定があるわけですが、政治的圧力で使われてこなかったと、ほとんど、こう言われているわけですね。
そして、ですから、昨年九月十四日に国連の事務総長の医薬品アクセスに関するハイレベルパネルが発表した報告書でも、こういう知財の保護を強調、強めた貿易協定は貧困層の医薬品へのアクセスを阻害すると、こういう危険の指摘をしているわけでありまして、私は、今のバランスと言いますが、実態はこうなっているということだと思うんですね。
この問題は、ミレニアム開発目標二〇〇〇年以来、大きな課題になってきましたし、SDGs、この目標の第三の、あらゆる年齢の全ての人々の健康的な生活を確保し、福祉を増進をするという中で、全ての人々に対する安全で効率的かつ質が高く、安価な必須医薬品とワクチンへのアクセスを含むユニバーサル・ヘルス・カバレッジと掲げているわけでありますね。
政府は、このSDGsを歓迎をして積極的に進めるとしてきたわけですから、このことと、この大手製薬会社の要望に沿って途上国の人々が安価なジェネリック薬の入手を困難にする知財保護の強化ということは、私は矛盾していると思いますけれども、大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(岸田文雄君) 我が国としては、そもそもこの適切な水準の知財の保護、これは医薬品の持続的な開発が可能になり、途上国を含め、人々が必要とする医薬品が開発されることになることから、そのアクセスの向上に資するものである、そもそもこの知財の保護というもの自体、このアクセスの向上にも資するものであると、このように考えます。その上で、この新薬の開発の促進と迅速な医薬品へのアクセス、このバランスを考慮しながらルール作りを考えていかなければならない、このように認識をしております。
そして、このSDGsですが、このSDGsのゴール三においても医薬品の開発促進とアクセスの向上、これは共に掲げられています。我が国は、製薬企業等と連携して、途上国を対象とした医薬品の研究開発の支援、あるいはUNDPと協力した途上国保健機関の能力構築支援、こうしたことを行いながらSDGsの達成に向けた取組進めております。
このように、我が国は医薬品開発とアクセスの双方を重視して取り組んでおり、経済連携協定等における知的財産の保護とSDGsを推進する方針、これは矛盾するものではない、このように考えております。
○井上哲士君 現状でも様々な問題が指摘をされている中で、一層製薬会社側の知財の強化をするということは政府の言うバランスも私は崩すものだと思うんですね。
国境なき医師団は、二月に神戸で行われたRCEPの交渉会合に際して、日本は国連やG7で高額な薬価への対策と手頃な費用の治療の必要性を訴えてきたと、その一方で、RCEPにおいて従来よりも厳格な知的財産条項を主張するのは矛盾だと、こう言って安価なジェネリック薬の入手を妨げる有害な条項案を撤回するように求めております。
私は、これはもう途上国で必死の医療活動をやっている皆さんの現場からの叫びだと思うんですね。この辺をやっぱりしっかり聞いて、RCEPにおいてこうしたジェネリック薬を入手困難にするような提案はやるべきでないということを強く求めまして、質問を終わります。
外交防衛委員会(医薬品と知的財産権)
2017年4月20日(木)