○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
質問に入る前に、私からも、先ほどの佐藤外務副大臣の挨拶について言いたいと思います。
外務省職員も命懸けでやっているというふうに言われましたけど、そういう一般論ではないんですね。そうであるならば、政治家として自分の言葉で言えばいいんです。それをわざわざ実力組織である自衛隊の服務規定をそのまま引用して言うと。私は、戦前の教訓から文民条項を持った憲法の精神からいっても極めて不適切だと思います。そのことを最初に申し上げておきたいと思います。
その上で、外務大臣に核兵器禁止条約についてお聞きいたします。
七月七日に国連で採択をされました。私は広島で育った被爆二世でもあり、国際組織、核軍縮・不拡散議員連盟、PNNDの一員として、我が党志位委員長とともに国連本部での交渉会議に参加をして、採択にも立ち会うことができました。このPNND日本の会長は外務大臣が務めてこられたわけであります。
この条約は、初めて核兵器を違法なものとしました。核兵器のない世界を願う被爆者の命懸けの訴え、これが国際社会を揺り動かして、多くの国々や市民社会が努力を積み重ねて採択をされたものでありまして、条約としては初めて被爆者と書き込まれました。
日本は唯一の戦争被爆国でありながらこの条約に反対をし、被爆者からも失望の声が上がりました。しかし、政府がどういう態度を取ろうとも、広島、長崎であれだけの惨禍を与えた核兵器が史上初めて違法なものとされたということはまさに画期を成すものでありまして、八月の広島、長崎の平和記念式典にメッセージを寄せたグテレス国連事務総長は、いかなる状況においても核兵器の使用は容認できないことを着目した世界的な運動の結果と述べました。そして、これを実現をした運動を評価をしてノーベル平和賞がICANに贈られました。
ところが、安倍総理は、この平和記念式典でも所信表明演説でも一言も触れませんでしたし、ICANの受賞にコメントも出せませんでした。まるで条約などなかったかのようなこういう態度でありますし、外務大臣の所信挨拶にも直接触れられませんでした。こうした政府の態度に被爆者や市民から批判の声が上がっております。長崎では、被爆者から総理に直接面と向かって、あなたはどこの国の総理かと厳しい声も掛けられました。
こういう声を、外務大臣、どのように受け止めていらっしゃるでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) 被爆地、被爆者の方々の声は大変貴重であり、重たいものがあるというふうに考えます。
政府としても、被爆者の皆様とともに、核兵器の非人道性に対する正確な理解を地域や世代を超えて広めていく努力を絶えず続けてまいりたいというふうに思っております。この核兵器禁止条約が掲げている核廃絶という目標は我が国も共有をしているわけでございます。
他方、政府には、現実の脅威に対し、何よりも国民の生命、財産を守らなければならないという責務がございます。北朝鮮を始め、現実の安全保障上の脅威に適切に対処しながら、地道に現実的に核軍縮を前進させる道筋を追求していく必要があるというふうに思っております。
こうした我が国の立場は、核兵器国が全く関与することがない中でまず禁止規範を設定するという核兵器禁止条約のアプローチとは異なっております。核軍縮の進め方をめぐり、国際社会の中での立場の違いが顕在化している中で、我が国としては、核兵器国と非核兵器国、さらに非核兵器国同士の間の信頼関係を再構築し、核兵器国もしっかりと巻き込んでいく中で、現実的かつ実践的な取組を引き続き粘り強く進めてまいりたいというふうに考えております。
○井上哲士君 信頼の再構築ということを言われるわけでありますが、先ほど申し上げましたように、この核兵器禁止条約を無視する、そういう日本政府の態度が、被爆者や核兵器の禁止、廃絶を願う多くの国々の人々の私はむしろ信頼を失わせていると、こう思います。
今、実際、核保有国が核兵器のない世界の実現に背を向けているという下で、もう待っているわけにいかないと。まずはこれを禁止をして、違法化をして、国際世論の包囲の中で核兵器国を巻き込んでいこうというのがこの条約であります。その土台には、核兵器は人類と共存できない残虐兵器だと、こういう認識の広がりがあるわけで、被爆者が広島、長崎の実相を語り続けてきたことや、日本の運動が掲げてきたことが世界の認識になりました。
日本政府は、核兵器の人道上の影響に関する共同声明に二〇一三年から賛成をしております。この声明では、核兵器が無差別な破壊力によって受け入れ難い人道的結果をもたらすと指摘をし、いかなる状況の下でも決して再び使われないことが人類生存の利益として、それを保証する唯一の道はこの全面廃絶であると、こういうふうにしておりますが、この声明に賛成をした、この認識は変わっていないということでよろしいでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) 御指摘の核兵器の人道上の結末に関する共同ステートメントというものは、核兵器による壊滅的な結末への意識が核軍縮に向けた全てのアプローチ及び努力を支えなければならないことが述べられておりまして、核兵器の使用の悲惨さを最もよく知る我が国として支持するということに加え、このステートメント全体の趣旨が我が国の安全保障政策や核軍縮アプローチとも整合的であることから、二〇一三年から参加してまいりました。
このステートメントは、二〇一五年の第七十回国連総会第一委員会以降、決議案の形で提出されており、我が国はこの決議案についても今年を含め賛成票を投じてきております。
○井上哲士君 この声明、決議案の中心は、いかなる状況の下でも決して再び使われないことが人類生存の利益なんだ、そういう兵器なんだと、こういう認識であります。この声明に参加しながら、核兵器は使われてはならないという条約には反対をすると。この声明の内容と条約の間に何か食い違いがあるということなんでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) このステートメントは、核軍縮に向けた全てのアプローチ及び努力を支えなければならないということが述べられておりまして、我が国の核軍縮へのアプローチとも整合的でございます。
他方、核兵器禁止条約は、核兵器国が関与することのない中で、まず禁止規範を設定するという道筋を取るものでありまして、我が国の考え方とは異なりますので、署名を含め、これを支持することはできないというのが政府の考えでございます。
○井上哲士君 核兵器は受け入れ難い人道的結果をもたらすものだと、こういう声明に賛同したのであるならば、それを、そういう兵器は使ってはならないという、この条約に私は参加をして、そして、その立場で核兵器国を巻き込んでいくという立場に立つべきだと思うんですね。
この問題での政府の姿勢の問題点があらわになったのが、今年の国連に提案をした決議案だと思います。核兵器禁止条約には全く触れませんでした。この日本の決議案には、オーストリア、ブラジル、コスタリカ、ニュージーランド、南アフリカなど、核兵器廃絶で先頭に立ってきた国々が棄権に回りました。賛成した国からも、昨年までの決議から後退した内容になっているという批判の声が相次ぎましたけれども、こういう批判の声をどう受け止めていらっしゃるでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) 我が国が今年国連総会に提出いたしました核廃絶決議案が現地時間の十二月四日、ニューヨーク国連総会の本会議において、我が国が米国を含む七十七か国の共同提案国を代表して提出したものでございますが、賛成百五十六か国、反対が中国、ソ連、シリア、北朝鮮の四か国という賛成多数で採択をされました。この中には、賛成をした国の中には、核兵器禁止条約の採択に賛成した国の中で九十五か国が賛成をいたしました。
この決議案の採択に際して様々な国からいろいろな意見をいただいたのは事実でございまして、こういう意見は真摯に受け止めてまいりたいと思っておりますが、今年の決議案は、北朝鮮の核・ミサイルの開発を始めとする国際的な安全保障環境が明らかに悪化している中で、また、核軍縮の進め方をめぐる国際社会の立場の違いが顕在化している中にあって、核兵器国を巻き込んで、さらに非核兵器国の中でも立場の異なる国々の橋渡しを行いながら、各国が結束して取り組むことができるような共通の基盤を追求しようとしたものでございます。
結果として、核兵器国の中から、アメリカ、イギリスが共同提案国となり、フランスが賛成をしてくれました。また、メキシコを始め、核兵器禁止条約に賛成をした国の中から、先ほど申し上げたように、九十五か国が賛成をし、パラグラフごとの分割投票の中ではオーストリアも一部賛成をしてくれました。本決議案がこの国連総会に提出された同様の決議案の中で最も幅広く多くの国の支持によって採択をされたということは、日本のこうした狙いに国際社会の一定の支持と理解を得られたものだというふうに考えております。
○井上哲士君 核兵器国も賛同を得ると言われました。その結果、従来の決議からも大きい、著しい後退があると、そのことに対する様々な批判が行われました。唯一の核兵器国の決議でありますから、賛成をしても、その意見表明の中で核兵器禁止条約の意義を強調したものもありますし、オーストリアは、決議案は核軍縮の重要な成果を無視しているために、もはや支持できないと表明、ブラジルは、核廃絶の取組における嘆かわしい後退とまで言いました。
具体的に聞きますけれども、昨年までの決議案では、お手元に資料がありますが(外交防衛委員会2017年12月5日 井上質問 配付資料.pdf)、前文で、核兵器のあらゆる使用によって生じる人道上の帰結に深い懸念を表明しとありましたが、この、あらゆる、"any"を削除をしました。これがないと核使用を容認するような解釈を生むというのが専門家の共通見解でありますが、非人道的な使用があり得ると、こういう立場に日本は変わったんでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) 先ほど申し上げましたように、今年の決議案に関しては、様々な立場の国が結束して核軍縮に取り組むことができる、言わば共通の基盤を提供するということを一義的に考えたわけでございます。
今の御指摘の点、エニーユースという表現を使用していないではないかということでございますが、これはオーストリア、メキシコ、ニュージーランドという核兵器の非人道性を主導する、俗に人道グループと言われている国々が提出しました人道上の結末決議の中で使われている書きぶりと同じでございまして、意味するところは、その決議と変わりません。
また、人道関連のパラグラフの分割投票において、人道を重視するオーストリア、メキシコといった国も賛成票を投じてくれております。
最終的に、各国と、様々な調整をし、より幅広い国の理解と支持を得られるものとするべく慎重かつ真剣に検討した結果でございますので、意味するところは変わらないという認識でございます。
○井上哲士君 変わらないなら、なぜ削るのかと。唯一の戦争被爆国である日本が、このあらゆるということをちゃんと掲げてきたと、それが重要なのに、それを去年から削ったというところに私は極めて重大な意味があると思うんですね。
フランスの元外交官でジュネーブ安全保障政策研究所のマルク・フィノー氏が、自衛のためなどの場合、合法的に核兵器を使用できるという意味にもなるんだと、こういう指摘をされております。
さらに、手元の資料の二つ目でありますが、昨年の決議では、本文で、NPTの第六条の下で約束している核軍縮に通じる核兵器の完全な廃絶を達成するという核兵器国の明確な約束を再確認としておりました。ところが、今年の決議では、この第六条が削られました。そして、明確な約束の内容も、核の完全な廃絶ではなくて、NPT条約を全面的に履行するというふうに書き換えられました。この理由はどういうことでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) 国際社会の協力と信頼関係を再構築し、核兵器国の参加を得てこの核兵器国と様々な立場の非核兵器国が一致して取り組むべき共通の基盤を示すことを目指しましたので、多数の国の理解が得られるよう、慎重かつ真剣に検討した上で、文言に一定の変更を加えてございます。
核軍縮を進展させるためには、核廃絶の結果もたらされる安全で核兵器のない世界の実現のため、核兵器国がNPTに基づく義務や約束を完全に実施することが不可欠でありますので、今年の決議も、核兵器国の明確なコミットメントを求めることを強調する内容となっております。
この点で、我が国の認識には変わりはございません。
○井上哲士君 先ほどの質疑でも、この六条の重要性ということが大臣からも語られたわけですね。この六条を使って国際社会は核保有国に核軍縮を迫ってきて、そして、大きな世論の中で、二〇〇〇年のNPT再検討会議に、より踏み込んだ核兵器の完全廃絶への核兵器国の明確な約束というのを書き込ませたわけですよ。その六条とこの言葉を削るということは、この実行の棚上げをしてきた核兵器国の立場に沿った、そういう重大な変更だと思うんですね。
さらに、一番最後の枠にありますが、全てのNPT加盟国に対し、九五年再検討延長会議、二〇〇〇年と二〇一〇年再検討会議の最終文書で合意された措置を実行するよう求め、これが本文から削除をされました。これはどういうことでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) NPT体制の維持、強化を重視する日本としては、過去のNPTの合意文書におけるコミットメントは、NPTに基づく核軍縮義務の実施の当然の前提をなすものとして重視をしております。
そうした認識の下、過去のNPT運用検討会議の最終合意文書の言及につきましては、事実関係に関するものだとして、前文の方に記述をしております。
○井上哲士君 これ前文に記述が変わりました。それだけじゃないんですね。去年のものでは、合意された措置を実行するとなっていましたけれども、前文に移して、重要性を強調すると、こうなっているんですよ。
現実には、こういう国際的な世論と運動の中で、核兵器国も含めて全会一致で合意したにもかかわらず、その措置をやっていないわけですね、核兵器国が。例えば、二〇一〇年の再検討会議では、核兵器のない世界を達成し、維持するために必要な枠組みを確立するための特別な取組を行う。これはまさに核兵器禁止条約につながるものでありますが、これに背を向けてきたんですよ。
そういう、本来やるべきことをわざわざ本文から前文に移して、しかも措置の実行から重要性一般にしてしまうと。これは、核兵器国も合意をしてきた一連のNPT再検討会議の合意の実行を後戻りさせるものだと思うんですね。核兵器国が実行をサボってきたもの、それを認めることになると思うんですね。だからこそ、こういうことに各国から様々な批判の声が上がりました。
南アフリカは、過去の決議からの深刻な逸脱だと、核廃絶への決意を新たにするどころか、関与を骨抜きにしそうだと述べましたし、オーストリアは、NPTの義務と核兵器の人道的影響についてのNPT再検討会議の合意と相入れないと、こう述べているんですね。
私は、この核兵器禁止条約ができたという新しい情勢の下で、今度のNPT会合、本当に大事だと思いますよ。そのときに、日本が過去の合意すら、核兵器国が合意したものすら全部こうやって骨抜きにするような決議を出すということはまさに逆行だと言わなくちゃいけません。
田上長崎市長は、まるで核保有国が提出した決議案のようだと、こういうふうにも述べられました。橋渡しといいながら核兵器国の立場へともう橋を渡ってしまっているような、こういう姿でありまして、私は、こういう態度を改めて、禁止条約にもしっかり署名をして、その立場で核兵器国に参加を求める、こういう方向にこそ転換するべきだと強く求めまして、質問終わります。