○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
インドネシアの西ジャワ州でのインドラマユ石炭火力発電所事業についてお聞きいたします。
外務省とJICAはインドネシア政府とともにこの事業をODAで推進をしておりますが、まず計画の出発から契約などの事実関係、そして現在までの経緯について説明をいただきたいと思います。
○参考人JICA理事(江島真也君) お答えします。
このインドラマユ石炭火力発電所事業は、インドネシアの西ジャワ州インドラマユ県に超々臨界技術を活用した石炭火力発電所、発電容量千メガワットを建設し、電力需給逼迫の緩和及び供給の安定性の改善を図り、投資環境の改善などを通じまして西ジャワ地域の経済発展を図るものであります。
JICAでは、二〇〇九年の十一月から二〇一〇年九月にかけまして、本事業のフィージビリティースタディーを支援するための協力準備調査を実施いたしました。二〇一一年八月に日本政府とインドネシア政府との間でエンジニアリング・サービスに係る交換公文が締結されたのを受けまして、二〇一三年三月にJICAではインドネシア政府との間で借款契約を調印いたしました。二〇一六年一月に、実施機関であります国有電力会社PLNがエンジニアリング・サービスに係りますコンサルタント契約を締結しまして、現在、コンサルタントによる基本設計を実施しているところであります。
○井上哲士君 エンジニアリング・サービスの借款契約について、貸付けの実行状況はどうなっているでしょうか。
○参考人(江島真也君) お答えいたします。
エンジニアリング・サービス借款は、プロジェクトの実施に必要なコンサルティングサービスを建設資金向けの借款に先行して融資するものであります。このエンジニアリング・サービス借款では、基本設計、入札補助、施工監理などを対象としております。現在、これまでのところ、約五億円の貸付実行を行いました。
○井上哲士君 全体十七・二七億円の契約と承知しておりますが、お手元に毎日新聞の二月二十八日付けを配付をしておりますが(※井上質問18年3月22日ODA特委配付資料.pdf)、この事業をめぐって現地で激しい反対運動が起きております。建設予定地の周辺には非常に豊かな農地が広がっていて、地権者の下で小作農が営まれております。隣接地に既に火力発電所が建設をされていて、その際に農地収用が行われ、漁業にも、漁場の制限であるとか温排水、運搬船による漁網切断の大きな被害がありましたし、環境被害も起きていると。
新たな火力発電所の建設で、千五百人に上る農民が農地から追い出されることや、一層の環境、農業、漁業被害への懸念が広がっておりますが、こういう現地住民による反対についてJICAはどのように把握されているでしょうか。
○参考人(江島真也君) これまで現地住民との協議やいただきました書簡などを通じまして、現地で反対運動が起きているということは承知しております。
現在、国有電力会社、PLNが、反対派の住民の皆さんに対して補償する生活水準の維持の提案を行い、事業に対する理解を得るべく取り組んでいるところであります。我々JICAからも、国有電力会社、PLNに対しましては、反対派住民の皆さんから寄せられている懸念を累次伝えてきております。
○井上哲士君 懸念を累次伝えているということでありますが、元々も、この国際環境NGOのFoE―JAPANの調査によりますと、現地ではこのインドネシアの公共事業の土地収用法に基づいて行われた住民協議に、当初、地権者とか宗教リーダー、村長など、選ばれた者しか招待されなかったと。農民や漁民など、同法で規定されるこの影響を受けるコミュニティーの参加が確保されなかったと言われております。
そして、協議では、この事業による農地、漁場、健康へのマイナス影響についての説明もされなかったと。それから、この反対派の住民のネットワークは土地収用法に基づいて事業に対する異議申立てを西ジャワ州の知事に提出したけれども、回答がないままに立地許可を承認をしたと。こういうことが続いているわけですね。
こういう事態は、社会的合意の確保やステークホルダーの参加を求めたJICAの環境社会配慮ガイドラインに適合していないと思いますけれども、いかがでしょうか。
○参考人(江島真也君) JICAの環境社会配慮ガイドラインに従いました検討は、今後、発電所の建設に対する、いわゆる発電所そのものに対する円借款支援の要請がなされた場合には適切に行っていきます。
国有電力会社、PLNに対しましては、この借款、本体、企業への借款の供与を望む場合には、JICA環境社会配慮ガイドラインの遵守が本支援の条件となることを累次説明してきております。
○井上哲士君 本体のときにはこの適合が考えられるけれども、今のこのES借款のときにはいいんだと、こういう話でありますけどね、現地では既に様々な被害が起きているわけですね。声が上がっているわけですよ。私は、これはやっぱり問題だと思うんですね。
補償の点でも様々な問題があるとされております。適切な価格交渉の機会を与えられないままに合意を強要されたとか、それから地権者から小作農に作物補償を手渡したことから補償に不公平が生じたりと、これもガイドラインに反しているんじゃないかと思うんですね。
しかも、重大なことは、今非常に看過できない人権侵害が言われております。二〇一六年三月以降、この反対派住民ネットワークのリーダー等に対して軍や警察等の様々な干渉がありましたし、お手元の新聞にもありますように、昨年の十二月十七日には、地元警察がこの住民グループの農民を国旗侮辱罪ということで逮捕しているんですね。国旗を上下逆さまに掲げたと、こういう理由なわけであります。その後、釈放されましたけれども、保釈されましたけれども、毎週、出頭、報告を課せられると、こういうことになっております。二月二日には大量の警察や軍を動員をして反対住民を押さえ付けて建設作業が進められたと、こういうことも起こっておるわけですね。これらは、やはり反対派住民を黙らせようとする深刻な人権侵害だと思います。
公権力によって反対の声が封殺されるような、そういう案件を推進するということはこれもガイドライン上問題だと思いますけれども、いかがでしょうか。
○参考人(江島真也君) これまで、現地住民との協議や、いただきました書簡などを通じまして、現地で警察等の関与が指摘されていることは承知しております。インドネシア側には、警察等の関与に係る懸念は累次伝えてきております。
○井上哲士君 懸念は累次伝えているとおっしゃいますけれども、やっていることは違うんですよ。
この本件の環境アセスメントが不備だとする住民の訴えに対して、昨年の十二月の六日、バンドン行政裁判所が環境許認可の取消し判決を言い渡しております。ですから、これ、上級審で判決が変わらずに、もう違法な計画になるという可能性もあるわけですよ。事業の見通しは極めて不確定なんですね。ところが、この判決が出た後、十二月六日、その直後の十二月十五日から七回もこのES契約の貸付けが実行されているんですね、二億円。そして、それは、そのうち六回は、先ほど述べた十二月十七日の不当逮捕の後にも貸付けが実行されているわけですよ。ですから、懸念を伝えておると言いながら、日本政府は、その一方では、JICAは推進の貸付けをしていると。これ、本当住民の皆さんも怒ってらっしゃいますよ。
言っていること、やっていることが違うんじゃないですか。これ、中止すべきじゃないですか。
○参考人(江島真也君) コンサルタントが行いました設計業務の対価としまして、実施機関であります国有電力会社PLNから貸付実行の請求がなされたものに対しまして、確かにJICAは貸付実行を行いました。実施機関から提出された請求内容が適切である限り、JICAは契約に基づいて貸付実行を行う義務がございます。
環境許認可の有効性が認められなかった判決をもって直ちに借款契約上の事項の不履行が生じて貸付実行を停止するという状況にはないというふうに判断いたしました。
○井上哲士君 それはその判断、おかしいと思いますよ。
ガイドラインに合致しない状況とか人権侵害と指摘される事案が発生をして、かつ、この環境許認可を違法とする判決も出ているわけです。ですから、先ほど言われた二〇一〇年九月の時点のJICAの実行可能性調査の完了時点、それから一三年三月のES借款の契約時点とは、事業を取り巻く実態が全く変わっているわけですよ。にもかかわらず、言われれば義務だから払うと、これはちょっと違うんじゃないでしょうか。
理事長、いかがでしょうか。私は、このES借款も中止をして全体を見直すべきだと、根本的に、こう思いますけれども、いかがでしょうか。
○参考人JICA理事長(北岡伸一君) お答え申し上げます。
インドラマユ石炭火力発電事業におきましては、JICA環境社会配慮ガイドラインに基づき、発電所本体への借款供与の検討のタイミングで環境社会配慮上の要件を満たしていることを確認することが想定されております。したがって、その反対運動、人権侵害への懸念、環境許認可の無効判決といった御指摘の状況だけをもってES借款の貸付実行を停止する理由にはならないと認識しております。つまり、この判決については、被告のPLNや地元政府は控訴しておりまして、どれが最終的なインドネシアの意思であるかということを見定める必要があるかと考えております。
インドネシア側に対しては、本体借款の供与を望む場合には、JICA環境社会配慮ガイドラインの遵守が条件となることをちゃんと引き続き説明しております。今後、インドネシア政府より発電所の建設に係る円借款の本体の要請があった場合には、JICA環境社会配慮ガイドラインに基づき個々の状況を確認するということになります。
○井上哲士君 少なくとも判決が確定するまでは私は中止すべきだと思いますね。そして、本体についてもおよそ認めるようなものではないと思っております。
最後、外務大臣、お聞きいたしますけど、そもそも石炭火力発電の推進はパリ協定にも全く整合しないものでありまして、これを成長戦略などとして世界で推進する日本の姿勢には国際的に様々な批判がされておりますし、先ほど予算説明でも触れられました国連の持続開発目標、SDGsにおいても気候変動とその影響に立ち向かうために緊急対策を取るとしていることとも反すると思います。
大臣の下で気候変動に関する有識者会合が本年二月にまとめたエネルギーに関する提言では、パリ協定と調和した脱炭素社会を掲げて、石炭火力発電は最新のものであったとしても、パリ協定の二度C目標と整合しないとしております。そして、国内の火力発電の廃止とともに、途上国への支援はエネルギー効率化と再生可能エネルギー開発を中心としていく、石炭火力輸出への公的支援は速やかな停止を目指すと、こうしております。
この指摘に従えば、ODAで石炭火力を推進をする政策は私やめるべきだと思いますけれども、大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(河野太郎君) まず、JICAの環境社会配慮ガイドラインは、これは制定をするときにNGOを始め市民社会に深く関与していただいて策定をいたしました。これは非常に国際的にも高く評価されているものだろうというふうに思います。
この環境社会配慮ガイドラインは手続についても定めておりますので、JICAのプロジェクトは手続を含めこのガイドラインにのっとって行われなければならないというのは言うまでもないとおりでございます。
外務省の有識者会議について今御提起いただきましたが、これは、国際的な動向と気候変動やエネルギーに関する最新の知見というものを踏まえて有識者が作って取りまとめていただいたものでございます。
パリ協定を見れば、化石燃料からどう脱却するかというのは非常に大事なことでございますし、石炭に頼るべきでないというのが今後の一つの方針になろうかというふうに思いますが、その上で、エネルギーの安全保障あるいは経済性の観点から、石炭をエネルギー源として選択せざるを得ないような国に限り、当該国から我が国の高効率石炭火力発電への要請があった場合には、OECDのルールにのっとって、相手国のエネルギー政策や気候変動対策と整合的な形で、このOECDの二〇一五年十一月の合意内容にのっとって、超超臨界以上の発電整備について導入の支援を検討するということもあります。
今後、このJICAの環境社会配慮ガイドラインあるいはこのOECDルールを踏まえた検討が当然に行われていくことになろうかと思います。
○井上哲士君 時間ですから終わりますが、先ほど言いましたように、有識者会合の提言は、石炭火力発電は最新のものであったとしてもパリ協定に整合しないと言っているわけですから、この提言をしっかり生かしていただきたいと思います。
以上、終わります。