国会質問議事録

ホーム の中の 国会質問議事録 の中の 2019年・200臨時国会 の中の 外交防衛委員会(日米貿易協定)

外交防衛委員会(日米貿易協定)


○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 政府は、本協定について、日米双方にとってウイン・ウインの中身になったと強調しておりますけれども、日本が米国産の農産物で七十二億ドル分の関税を撤廃、削減を認める一方で、米国はTPPに盛り込まれていた日本製の自動車、同部品の関税撤廃を見送る等、日本の一方的な譲歩になっております。
 そして、それによって、この日米貿易協定がWTOルールに抵触をする疑いが出ております。これは従来日本が取ってきた立場に関わる問題であるだけに、うやむやにできません。
 まずお聞きしますけれども、ガット第二十四条は、自由貿易地域の満たすべき条件として、関税などが実質的に全ての貿易について廃止されていることを挙げております。これについて、過去の政府答弁では、この実質的全てとは、九〇%というEUの基準を紹介しつつ、これを日本としても尊重しよう、そういう認識でやってきたと答弁されておりますけれども、この立場に現在変わりはないでしょうか。

○外務大臣(茂木敏充君) 御指摘のガット第二十四条、正確に申し上げますと、加盟国が自由貿易地域を設定するに当たり、実質上の全ての貿易について関税その他の制限的通商規則が廃止されていることが求められているわけであります。
 このガット第二十四条上、実質上の全ての貿易の具体的な判断基準が国際的に確立されているわけではありませんが、我が国としては、貿易額のおおむね九割の関税撤廃を一つの目安としております。こういった立場に変わりはございません。

○井上哲士君 では、この協定でどうなるのかという問題です。
 協定では、日本製の自動車に関わる関税の扱いが、関税撤廃に関する更なる交渉次第だとされております。これでは、いつから関税が下がって、そして撤廃されるのか、全く分かりません。
 外務省の資料によりますと、対米輸出金額の全体に占める自動車及び自動車部品の割合は、実に三五・二%、主力の輸出品目なわけであります。
 ところが、政府は、この米側の金額ベースの自由化率を、この交渉次第とされる自動車をも含めて九二%だと説明をしております。しかし、この自動車、同部品を除けば自由化率は大きく下がるのは明らかでありまして、WTOと整合しないのではないでしょうか。

○国務大臣(茂木敏充君) 自動車、自動車部品の関税につきましては、この協定の本文及び附属書のⅡによりましてその取扱い、規定しているところであります。
 まず、協定本文の第五条の一におきまして、各締約国は、附属書Ⅰ又は附属書Ⅱの規定に従って、市場アクセスを改善すると両締約国の義務を規定した上で、それぞれの締約国の附属書において市場アクセス改善の具体的な仕方を記載をいたしております。そして、米国の附属書を御覧いただきますと、自動車、自動車部品について、関税の撤廃に関して更に交渉すると書かれておりまして、これが米国が第五条一の規定に基づいて市場アクセスの改善を行う具体的なやり方となるわけであります。
 このように、自動車、自動車部品につきまして、関税撤廃がなされることを前提に、市場アクセスの改善策としてその具体的な撤廃期間等について交渉が行われることになりまして、関税撤廃率に加えることについては何ら問題ないと考えております。
 実質上、全ての貿易について関税その他の制限的な通商規則が廃止をされると。ただ、これは、じゃ一年で廃止しなさいとか、二十五年ですとか三十年です、こういうスパンについて規定をしているものではございません。

○井上哲士君 交渉次第と書いてあるいつになるか分からないものを、私は約束に含めるのは間違いだと思うんですね。ライトハイザー・アメリカの通商代表も、九月二十五日の会見で、自動車、自動車部品はこの協定に含まれていないと述べております。現時点でしっかりとした責任ある見通しを示すための自由化率の説明として、私はごまかしと言わざるを得ないと思います。
 衆議院の審議では、野党がこの自動車を除いた試算を示すことを求めてまいりました。これを拒否をしております。私は、国会審議を甚だしく軽視する姿と言わなければならないと思います。
 この関税撤廃に関する交渉が妥結するまでどのような自由化率になるのか、現在の姿を、今後の姿を試算を示していただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

○内閣府 大臣官房審議官(澁谷和久君) お答えいたします。
 先ほど茂木大臣が御説明されたとおりでございまして、自動車、自動車部品については関税撤廃がなされることが前提となっておりますので、これを基に撤廃率等の試算を、計算を行ったところでございまして、それに、その合意内容に反する数字をお示しすることは差し控えたいと思います。

○井上哲士君 いや、合意内容に反する試算を示せと言っているんじゃないんですよ。協定は、自動車に関する関税の扱いは交渉次第となっているわけですね。つまり、今後、再交渉が行われて、妥結するまでは現行の関税率になるんですよ。これが合意内容なんでしょう。ですから、将来のそういう交渉が妥結するまではどのような自由化率になるのか、合意内容に基づいて試算をしろと言っているんです。
 妥結するまでは現行だという合意内容に基づいた試算、なぜ出せないんですか。

○政府参考人(澁谷和久君) 例えば、関税支払減少額につきましては、初年度の場合と最終年度の場合と、これはTPPのときも日EUのときもそういう形でお示しをしているところでございまして、初年度の数字には確かに自動車、自動車部品は入っておりません。この数字は公表しているところでございます。
 最終年度というのは、何年かというのは確かに今後の交渉次第でありますけれども、合意された関税撤廃が全て実現した場合ということで、これは過去のTPP等においてもそのような形で計算をしているところでございます。

○井上哲士君 いや、過去のTPPは年限が決まっていたからでしょう。現瞬間でいえば、新しい合意ができるまでは現行のままなんですから、それを出してくださいと言っているんですよ。私、全然出せない理由になっていないと思いますよ。
 政府が出しませんから、十一月十七日の朝日新聞が試算をしております。これは、米国の関税の削減率は自動車を除いて二百六十億円前後だと。そうしますと、政府の自動車を含めた試算の二千百二十八億円の約一割にとどまるわけですね。
 まさにこうなりますと、全くWTOに整合しないことになりますが、この試算に間違いないでしょうか。

○政府参考人(澁谷和久君) 御指摘の報道に関しましては、一昨日、西村経済再生担当大臣、記者会見で質問がございまして、西村大臣からは、御指摘の報道にあるような自動車及び同部品を除いた試算は、今回の交渉結果に反するものであり、数字として適切なものではないと考えていると、このように大臣から説明をしているところでございます。

○井上哲士君 合意に反していないんですよ、さっきも言いましたけど。当面は現行のままという中身なんですから。
 ですから、それに基づいて新聞社が計算しているんですから、その数字についてどうか、ちゃんとお答えください。

○政府参考人(澁谷和久君) 前提異なりますし、西村大臣も適切なものではないと申し上げているとおりでございます。

○井上哲士君 衆議院でもずっと求めてきましたけれども、同様の答弁であります。到底納得できません。
 改めて、本委員会に資料を提出するように、委員長、お取り計らいお願いします。
○委員長(北村経夫君) 後刻理事会で協議いたします。

○井上哲士君 その上で聞きますけど、これまで日本が結んだ協定で、こういう撤廃の期間が決まっていないものを盛り込んで、それを関税撤廃率に組み込んだ、そういう評価をした、こういう例がほかにあるでしょうか。また、他国の協定でそういうものがほかにあるでしょうか、お答えください。

○外務省 経済局長(山上信吾君) お答えいたします。
 これまで我が国が締結してきました経済連携協定におきまして、協定の発効後一定期間を経た後に特定の品目につき再協議を行うことを定めたものはございます。ただし、これらはいずれも将来の関税撤廃を前提したものではないため、関税撤廃率の算出に当たり当該品目は含めていないということでございます。
 これに対しまして、日米貿易協定につきましては、るる御説明しておるとおり、自動車、自動車部品につきましては、関税撤廃がなされることを前提に、市場アクセスの改善策としてその具体的な撤廃期間等について今後交渉が行われることになっております。したがいまして、関税撤廃率に加えているということでございます。
 また、委員から、第三国間の条約、協定についてお尋ねがございました。第三国間で締結された自由貿易協定等の関税撤廃率の算出方法につきましては、日本政府として把握する立場にはなく、お答えすることは困難である点、御理解願いたいと思います。

○井上哲士君 事実上、過去の例はないということなんですね、いろいろ言われましたけれども。そして、国際的にも挙げることができない。
 ですから、これ、国際的にも通用しないごまかしなんですよ。それでWTOに整合するとしておりますけれども、国際的にも、これまでの日本の立場と違うじゃないかという批判の声も上がっているということも指摘をしなくちゃいけません。
 その上で、先ほど白議員からもありましたけれども、この協定の日本側の附属書に、米国は将来の交渉において農産品に関する特恵的な待遇を追求するとわざわざ明記をしたことに関連してお聞きをいたします。
 これについて、昨日の本会議で、我が党紙智子議員の質問に対して、日本が過去に結んだ経済連携協定でこの特恵的な待遇を追求するというようなことを明記したものはないと認められました。では、なぜ今回の協定だけでこのような文言を明記をしたんでしょうか。

○国務大臣(茂木敏充君) 委員御指摘の規定は、将来の交渉において農産品に関する特恵的な待遇を追求する、ウイル・ビー・シーキングという言葉使われておりますが、こういった意図が米国にあるということを単に記載をしたものであります。日本がこれに合意したものではございません。
 我が国がこれまで結んできた協定においては、それぞれ、当然、相手国も違います、対象品目も異なりますから全く同じ表現ではございませんが、一般的に、見直し規定は多くの場合、設けられております。

○井上哲士君 一般的再協議とか見直しじゃないんですね。相手側の意図、しかも追求するという強い言葉を書いているんですよ。
 もちろん、お互いに交渉の中で一致しないことはあるでしょう。そうしたら、アメリカ側の意図なら、アメリカが声明か何かで出したらいいんですよ。それを日本も合意をして附属書に書き込んでいるわけでしょう。なぜこういうことをしたんですか。米国の意図はどこにあるのか、日本はなぜそれを受け入れたのか、もう一回お答えください。

○国務大臣(茂木敏充君) 今申し上げたように、アメリカ側の意図でありまして、その意図を日本が受け入れて合意したということではございません。

○井上哲士君 だって、明記したわけでしょう。アメリカの意図だったらアメリカの声明出したらいいじゃないですか。なぜ協定に盛り込んだのかということです。

○国務大臣(茂木敏充君) 見直し規定等を設けることは一般的に協定上妨げるものでは、妨げられるものではない、そのように考えております。
 そこで、再三になりますが、これは、何というか、日本がこのことについて合意をしましたという表現にはなっていないということは御理解ください。

○井上哲士君 これ、一般的な再協議規定ではありませんということも答弁されているんですね。片方の国だけのその強い意図を、お互い合意しなければ書けないわけですから、それを書いているわけですよ。
 そして、じゃ、更に聞きますけれども、九月の日米共同声明は、四か月以内の協議を経て、第二ステージの関税や他の貿易上の制約、サービス貿易や投資に関する障壁、その他の課題についての交渉を開始すると明記をいたしましたが、この声明で、この関税について、農産品は対象から除外をされていないということでよろしいでしょうか。

○国務大臣(茂木敏充君) 九月二十五日の日米共同声明パラグラフの三では、日米で今後どの分野を交渉とするのか、その対象をまず協議をすることとなっております。
 今後の交渉の内容はこの協議の中で決まっていくことになりまして、この協議において日米双方で合意したものについてのみ交渉することになるわけであります。このうち、関税に関わる事項については、更なる交渉による関税撤廃で合意している自動車、自動車部品、これは両側で、日米で合意していることであります。これを想定しておりまして、農産品については合意をしておりませんので、想定いたしておりません。

○井上哲士君 いや、日本が想定しているかどうかではなくて、今後そういう協議をする上での対象から除外はされていませんねということであります。

○国務大臣(茂木敏充君) 先ほども申し上げましたが、まず、この協定の発効後、協議を行ってどの分野を対象とするのかを決めていくわけでありまして、この協議において日米双方で合意したものについてのみ交渉するということでございます。

○井上哲士君 じゃ、農産物については合意してはならないと、そんな除外する規定があるんですか。合意すればできるわけでしょう。そういう点で除外されていないのかと聞いているんです。

○政府参考人(澁谷和久君) そういう除外規定はありませんが、大臣がお話ししているとおり、合意した内容のみが交渉の対象となります。
 別途、農水委員会で江藤農水大臣は、農水大臣として、農産品について全くこれは考えていないという話もされておりますので、当然、関係省庁と調整した上で合意したもののみということでございますので、現時点で農産品というのは全く想定しておりません。

○井上哲士君 では、澁谷統括官、お聞きしますが、九月二十五日に、記者会見の際に、自動車への関税撤廃の件について交渉する際に、今後農産品というカードがない中で厳しい交渉になるではないかと問われて澁谷統括官は、農産品というカードがないということはない、TPPでの農産品の関税撤廃率は品目数で八二パー、今回は四〇パーに行かないのだからと述べているんですよ。
 つまり、これは、更なる農産物の関税撤廃をカードとして交渉するということをお認めになっているんじゃないですか。

○政府参考人(澁谷和久君) 九月のその記者会見の前に、その質問をした当該記者といろいろ話をしておりました。当該記者の認識は、今回の交渉で農産品はもう全て、もうTPP並みに出してしまったんじゃないかというような認識を持っておったものですから、そういう趣旨でもうカードはなくなったのではないかという御質問でございますので、先生まさにお読みいただけたとおり、私が申し上げたかったのは、TPPでの関税撤廃率、農産品の撤廃率が八二%だったのに対して、今回は、当時まだはっきり計算しておりませんでしたが、四〇%行かない、実際三七%でありますけれども、そういう事実を申し上げたかったことでございまして、今後の交渉において農産品を何かカードとしようなんという、そういうことを申し上げたつもりは全くございません。

○井上哲士君 いや、今言われたその前に、農産品というカードがないということはないとはっきり言っているじゃないですか。カードとして、じゃ使うということでしょう。想定していないという話と全然違うんですよ。
 そして、これ、想定していないなんということで通りますかという問題でありまして、重大なことは、アメリカからの一層の農産物の関税撤廃要求に対して、もう協議を拒否できないような仕掛けが、日本が合意をしてしまっているということだと思うんですね。
 九月の共同声明には、協定が誠実に履行している間、両協定及び本共同声明の精神に反する行動は取らないと、こうされております。政府は、この文言をもって、アメリカが一方的に日本の自動車等への関税引上げを行わないことを確保したと、こういうふうに言われております。しかし、仮に関税引上げを行わないという意味だったとしても、協定が誠実に履行されている間と、こういう条件が付いているんですね。
 これ、日本が協定を誠実に実行しているかどうか、これ、誰が判断するんでしょうか。

○国務大臣(茂木敏充君) 今年九月の日米共同声明には、「協定が誠実に履行されている間、両協定及び本共同声明の精神に反する行動を取らない。」との記載がありますが、国際約束たる条約は、もとより誠実に履行されるべきものでありまして、誠実な履行でない場合が生じるとは想定をいたしておりません。もちろん、日本として、協定発効後、この協定を誠実に履行してまいります。

○井上哲士君 日本は、そんなことあり得ない、考えていないということですね。
 結局、これは日本に対して追加関税を掛けるかどうかに関する判断ですから、アメリカが判断することになるんですよ。
 そこで、先ほど指摘をした附属書に、米国は将来の交渉において農産品に関する特恵的な待遇を追求すると、これがちゃんと明記してあるということに大きな意味が出てくると思うんですね。
 アメリカが、この協定の一部であるこの附属書の内容に基づいて、日本に農産品に関する特恵的な待遇を追求する、こういう交渉を求めた場合に、日本がこれに応じないと。その場合は、アメリカは、協定が誠実に履行されているとはみなさないと、こういう判断をして、一方的な関税引上げの脅しを掛けることができると、こういう仕掛けになっているんじゃありませんか。そうなれば、日本は米国からの農産品に関する特恵的な待遇を追求する交渉に応じざるを得なくなると、こういう仕掛けになっているんじゃありませんか。いかがですか。

○国務大臣(茂木敏充君) そのようにはなってございません。御指摘の規定につきましては、アメリカの意図が書いてございまして、日本の義務は書いてございません。

○井上哲士君 いや、アメリカはそういう意図を持って、そして日本に対して求めたときに、日本ができませんと言ったら、いや、これが誠実に履行しているかどうかという判断はアメリカ側がやるんですよ。
 元々、自動車の関税の引上げの問題だって、かつてない良好な日米関係だとさんざん言っていたのに、いきなり安全保障上の問題があると言って関税を掛けることを表明したわけですね。何やってくるか分からないんですよ。それを、こういう文言を盛り込むことによって、結局この自動車の関税引上げによって農産物の一層の関税撤廃を迫ってくると、こういうことができる仕掛けに合意してしまっているじゃないですか。それが、全然想定せずに何でもかんでもオーケーしてきたというなら、私、これでは皆さんの言うような国益を守るような交渉はできないと思いますが、大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(茂木敏充君) 協定で合意した項目、これを履行すると、それが誠実な履行になるわけであります。御指摘の点につきましては、そういったことで合意しているわけではございません。
 したがいまして、それが、守る守らないと、こういう以前の問題でありまして、今後、協議においてどの分野を交渉するか決めるわけでありますけれど、その部分も含めて、今決まっていること、今合意していることを履行するのが誠実な履行だ、条約的にはそのようになります。

○井上哲士君 過去のものにないようなことが特別に盛り込まれていると、ここに大きな意味があるということを私は指摘をしたいですし、今そうやって言われるんであれば、日米間でこの間、総理やそして担当大臣の間でどういうやり取りがあったのか、その関係議事録を是非提出をいただきたいと思います。
 委員長、お取り計らいをお願いします。

○委員長(北村経夫君) 後刻理事会で協議いたします。

○井上哲士君 今のような仕掛けの中で、この関税引上げの、自動車関税引上げの脅しを掛けられて、一層の農産物の関税引下げ交渉に応じざるを得なくなるというのは私は必至だと思います。
 こういうような協定は到底認めることできないと申し上げまして、質問を終わります。

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