国会質問議事録

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外交防衛委員会(日米貿易協定/デジタル貿易協定)


○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 先ほど参考人質疑についての発言がございました。参考人が、法案や協定の中身だけではなくて審議や政府の情報開示の在り方が不十分だと、こういうことを、こういう意見を言うのは当然のことでありますし、これまでも繰り返し行われてまいりました。
 重要なことは、この背後にそういう国民の多くの声があるということですよ。私たちに必要なのは、こういう声を謙虚に、そして真摯に受け止めることこそが国会議員に求められているということを最初に申し上げておきたいと思います。
 次に......(発言する者あり)

○委員長(北村経夫君) 御静粛にお願いします。御静粛にお願いいたします。

○井上哲士君 デジタル協定についてお聞きをいたします。
 先日の参考人質疑で参考人から懸念の声があったのが、十八条の規定にあるオンラインプラットフォーマーの民事責任の制限の問題でありました。
 米国の通信品位法で、誹謗中傷や人権侵害の書き込みで誰かを傷つけても、掲示している場であるプラットフォーマーに責任がないとされていると。しかし、今、様々広がっているインターネット上で人権侵害や犯罪行為、児童ポルノなど多くの問題が生じている下で、米国議会でも、これ免責範囲が広過ぎるとして、この通信品位法を変えようという議論も出されております。そして、このデジタル貿易協定で全部免責を決めれば、国内の政策スペースが狭いまま規定されてしまうので、十八条の規定は削除せよという議論もされているというのが参考人のお話でありました。
 まず、外務大臣、お聞きしますけれども、米国議会でこういう議論がなされている中ですから、立ち止まって、この条項などは見直すべきだと思いますけれども、いかがでしょうか。

○外務大臣(茂木敏充君) まず、今回の日米デジタル貿易協定、これ、デジタル貿易若しくはデータ駆動型社会におけるルールの整備と、こういったことで最も進んでいる日本とアメリカの間で円滑で信頼性の高い自由なデジタル貿易を促進するための法的基盤を確立し、これからの時代の経済を牽引するデジタル貿易のルール作りにおいて、日米両国が引き続き主導的な役割を果たしていく基盤になるものであります。
 その上で、御指摘の十八条は、インターネット上の権利侵害情報の流通に対しますプロバイダーの責任を一定の範囲に制限することによりまして、被害者の権利保護とインターネット上の自由な情報流通のバランスを確保するものでありまして、免責を容易に認めている、こういうことではございません。
 御案内のとおり、データ・フリー・フロー・ウイズ・トラスト、こういう概念の下でこれからのデータの流通を進めていくと。自由な流通、こういったものが重要でありますが、同時に、プライバシーであったりとかそういうものに対する適切な配慮が払われると、こういう方針の下で決められているものだ、基本的にはこれが今世界の潮流だと、そう考えております。

○井上哲士君 今バランスという言葉を言われましたけど、このバランスでいいのかということが米国内でも議論になっているわけです。そして、この十八条の規定の削除をせよという議論もされているということを私は申し上げました。
 じゃ、日本のはどうなるかということでありますが、あの交換公文で、この協定の免責の範囲と日本の国内法は整合するとされております。一方、今後、日本でも免責範囲の見直しなど、現行法の見直しをするという議論も出てきた際に、この条約と抵触すると、こういう場面が出てくるのではないでしょうか。
 総務省、いかがでしょうか。

○総務省 国際戦略局次長(渡辺健君) 総務省所管のプロバイダー責任制限法についてお答えいたします。
 協定署名時の両政府間の交換公文におきましても、プロバイダー責任制限法が本協定十八条の規定に反しないこと、及び同条の規定を遵守するために日本の現行法制を変更する必要がないことを確認しているところであります。また、現行のプロバイダー責任制限法は、被害者の権利保護とインターネット上の自由な情報流通のバランスの確保を図っているものと考えております。
 したがいまして、御指摘のような現行法の強化につきましては現時点では検討しておりませんので、検討していない内容について答弁申し上げるのは困難であり、差し控えさせていただきたいと存じます。

○井上哲士君 既に日本でも様々な議論が起きているんですね。御存じだと思うんですよ。それが、今のようなバランスでいいのか、これだけのいろんな人権侵害、これでいいのかという議論が出ているときに、私は、この条約が、それと、とり得る措置に今後制約が出てくるんじゃないかと、こういう問題を抱えているということを指摘をしておきたいと思います。
 その上で、牛肉のセーフガードについてお聞きをいたします。
 TPP12で定められたセーフガードの発動基準数量六十一万トンは、これはアメリカを含む数量であります。TPP11でアメリカが抜けてもそのままになっていると。これに、この協定ではアメリカ向け数量二十四万トン追加したので、計八十五万トンと二重計上ということになっております。
 そこで、まず農水省、お聞きしますけれども、この米国からの輸入牛肉への関税率、そしてセーフガード発動後の関税率について、現行及びこの本協定発効後はそれぞれどうなるのか、お答えいただきたいと思います。

○農水省 大臣官房国際部長(水野政義君) お答えいたします。
 委員からお尋ねのアメリカから輸入される牛肉の関税率について、現行制度の下で三八・五%の税率が、日米貿易協定発効後は、発効初年度が二〇一九年度の場合、初年度二六・六%の税率となります。この二六・六%の税率については、同じく二〇一九年度の初年度に日米貿易協定上のセーフガードが発動された場合、三八・五%に引き上げることになります。

○井上哲士君 現行でセーフガードが発動されたら何%になりますか。

○内閣官房 TPP等政府対策本部政策調整統括官(澁谷和久君) セーフガードと、それから似たような措置で、先生おっしゃったのは牛肉の関税緊急措置のお話かと思いますけれども、こちら関税暫定措置法で規定されているものでございまして、要件がいろいろありますけれども、対前年度一一七%等の要件がございまして、これに、この要件に当てはまりますと、関税率が実行税率三八・五%をWTO譲許税率の五〇%にすると、これが関税緊急措置というものでございます。

○井上哲士君 ですから、米国はこの協定発効時にTPP加盟国と同じ税率に一気に下がることになりますし、それに加えて、今御答弁ありましたように、このWTOのルールの税率五〇%が課せられることはなくて、セーフガードが発動しても今の税率である三八・五%に上がることにとどまるということになるわけですね。
 アメリカにとっては大変いいことずくめということになっているわけですが、それに加えて、先ほど指摘もありました交換公文の中で、農産品セーフガード措置がとられた場合には、発動水準を一層高いものに調整するため、協議を開始するとされております。そして、発動後九十日以内に当該協議を終了する観点から、セーフガード措置がとられた後十日以内に協議を開始するとしております。
 これ、当初の外務省の説明文書では、発動水準を調整するための協議を開始するとされておりましたが、実際は高いものに調整するための協議なんですね。大きく意味が違うわけです。
 これは外務省にお聞きしますけれども、過去に日本が結んだ経済協定で、このセーフガードが発動後に、このように発動水準を高いものに調整するために協議の開始や終了の期日までこれ盛り込んだ、こういう協定があったんでしょうか。

○外務省 経済局長(山上信吾君) お答えいたします。
 いろんな協定でいろんな規定ぶりをしております。したがいまして、一概に比較することは困難を伴いますが、お尋ねのセーフガード措置に関しまして、市場アクセスを改善する観点から見直しを行うと、こういった旨の規定が設けられた例はございまして、例えば日豪の経済連携協定、それからTPP12協定等がございます。
 ちなみに、例えばでございますが、オーストラリアとの経済連携協定ではどういう規定をしているかと申しますと、牛肉に関する特別セーフガード措置という関連で、その措置の見直しについては牛肉の市場アクセスを改善する観点から行われるとされておりまして、具体的には、発動水準の引上げ、関税の引下げ、さらには特別セーフガード措置自体の廃止、こういった措置について言及されているところでございます。

○井上哲士君 オーストラリアのこと、件を今挙げられましたけれども、私、極めて特例的な規定だと思うんですね。
 なぜこの今度の協定にこういう規定を盛り込んだんでしょうか。

○政府参考人(澁谷和久君) 通常、協定に盛り込むセーフガードの発動基準、トリガー数量は、過去の実績、直近の実績よりも高めの数字で設定するのが通例であるところ、今回は直近の実績よりも少ない、低い二十四・二万トンという数字で設定をしたものでございます。
 そうしたことも背景にあって、米国としては見直しを行いたいという気持ちがあったと思いますけれども、私どもとしては、協議をすることは合意いたしましたが、そこから先のことは予断をしていないということでございます。

○井上哲士君 厳しい量にしたと今言われましたけど、先ほども答弁ありましたように、これ、発動した場合も税率は現行と同じにとどまるわけですね。しかも、速やかにこの発動水準を高くするための協議に入るという非常に特例的な待遇になっているわけですね。
 この十一月二十日にアメリカの下院の公聴会で証人として出席したベッター元USTRの首席農業交渉官も、この日米協定の牛肉セーフガードは、発動関税率が適用される前に、極めて少ない伸びしか認めていないので、今後、セーフガードは毎年発動されて、米国牛肉の関税が引き上げられる可能性があると、こういうことを言っています。逆に言えば、私はこの引上げ、発動水準を引き上げるというこの条項を使って、盾に、日本に発動の基準量を強く引き上げてくるんじゃないか、求めてくると思うんですね。
 外務大臣にお聞きしますけれども、このセーフガード水準を超えても輸入基準量を高く見直す、こういうことになりますと、セーフガードの意味を成さなくなるんじゃないでしょうか。何でこんなものを入れたんですか。

○国務大臣(茂木敏充君) 今回入れた背景につきましては先ほど澁谷参考人の方からお答えしたとおりでありますが、今回の交換公文は協議結果について予断を行っているものではありません。
 そして、当然、牛肉の米国からの輸出、米国の輸出業者もありますが、日本の輸入業者もあるわけであります。そうなりますと、年度末が近づいてくると、二十四万二千トンに近づいてきたら、当然、輸入業者の方からしましたら、それは二六が三八・五になれば高くなるわけですから、これはどうにか回避をしたいということで、輸入を抑えて次年度にする、こういうインセンティブはビジネスベースでは当然働くということでありまして、毎年そういうことが起こるということは想定いたしておりません。

○井上哲士君 だったら、そんな規定入れる必要ないんですよね。
 大体、内容は、協議結果は予断をしていないと、こういうふうに繰り返されますよ。だけど、例えば自動車関税の撤廃、これは更なる交渉次第とされていますけれども、いつから交渉を始めるのか、これは協議次第なんですね。いつから交渉を始めるか分からない、そしていつまでに合意するかも、何の定めもないんですよ。だけれども、外務大臣は、これは撤廃は約束だと、WTOにだから整合しているんだと、こういうふうに繰り返されます。
 つまり、何の、協議に入る期日も、そして合意する取決めも何も、これは約束だ約束だと強弁されながら、このセーフガードについては、発動されたら十日以内に協議に入って九十日以内に結論を得る、ここまで決めている。しかも、高くするための協議なんですよ。ところが、これは、内容は予断されないと。これは全く御都合主義だと思いますよ。そう思いませんか。

○国務大臣(茂木敏充君) 自動車の関税につきましては、協定本文五条の一におきまして、いわゆる市場アクセスの改善、これを行うと、そしてその改善の行い方につきましては附属書に規定をするということで、米国の附属書に自動車に関するこの関税撤廃の仕方というのが具体的に書かれているわけであります。
 期間につきましては、再三申し上げておりますが、TPP12におきましても、日米間の交渉で、自動車につきましては二十五年、そしてトラックにつきましては三十年、非常に長いステージングでありました。これを短縮できるように、これからしっかりと交渉していきたいと、このように考えております。

○井上哲士君 全く説明になっていないと思います。
 こういう、米国に一方的な譲歩を行って、国内農業に深刻な打撃を与える協定は認められないということを申し上げまして、質問を終わります。

―――


○井上哲士君 私は、日本共産党を代表して、日米貿易協定、日米デジタル貿易協定の承認に、いずれも反対の立場から討論を行います。
 まず、衆議院以来野党が求めてきた資料の提出を政府が拒否をし、まともな答弁もない中で採決、承認をすることは、到底容認をすることはできません。
 本協定は、米国の自動車関税の撤廃は先送りにする一方で、日本の農産物の関税の大幅な引下げ、撤廃を行う、米国に一方的な譲歩を行うものであり、国内農業に深刻な打撃を及ぼすものです。安価な米国産農産物との競合により、牛肉、豚肉、乳製品などを中心に、国内生産額は最大一千百億円、TPP11と合わせれば、最大二千億円も減少することが政府の試算でも示されております。
 米国牛肉の関税率を協定発効時にTPP11参加国と同じ水準に引き下げることを認めた上、米国向けセーフガードの発動基準数量について、発動後に基準を緩和する協議の規定まで盛り込んだことは、国内の畜産農業を顧みないものと言わなければなりません。
 さらに、協定附属書に、米国が将来の交渉において農産品に対する特恵的な待遇を追求すると書き込んで、米国に農産物の一層の関税撤廃、引下げを迫る根拠を与えたことは到底容認できません。日本の農産物を際限のない譲歩にさらす交渉に断固反対するものです。
 今後行う第二ラウンドの協議は、広範な分野で経済や国民の暮らしに影響を及ぼすものとなりかねません。米国は、日米交渉で、金融、保険、為替など二十二項目に及ぶ分野を列挙して、非関税障壁の撤廃等を迫る方針を明らかにしています。食料主権、経済主権の放棄につながる日米交渉に応じることはやめるべきであります。
 日米デジタル貿易協定は、米国の情報技術産業の要求に応えて、国境を越えた自由なデータ流通の障害になる障壁を取り払い、その利益を保護するためのルール作りの一環であり、WTOでの多国間ルール作りの本格化を前に、米国IT産業が求める水準での米国主導のルール作りに協力するものにほかなりません。
 今、世界では、デジタルプラットフォーマー規制の強化をいかに進めるかが課題となっています。その中で、米国IT産業の求めるルール作りを優先することは、世界の流れに逆行するものであるとともに、今後、個人情報や消費者の保護などのために何らかの新たな規制を採用しようとする場合に、とり得る措置に制約をもたらすおそれがあります。
 以上、理由を述べ、二つの協定案に断固反対の意見を述べまして、討論を終わります。

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