○議長(山東昭子君) 井上哲士さん。
〔井上哲士君登壇、拍手〕
○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
会派を代表して、日米貿易協定とデジタル貿易協定の承認案に断固反対の討論を行います。
討論に先立ち、先日の決算審議について述べます。
総理は、桜を見る会をめぐる疑惑について、事実を突き付けての質問にこれまで同様の言葉を繰り返すだけでありました。真相解明には、一問一答による総理出席の予算委員会での審議が不可欠だと一層浮き彫りになりました。
総理も与党も逃げ回ることなく、予算委集中審議に応じるよう強く求めるものであります。
討論に入ります。
まず、TPP以来の日米の貿易をめぐる経過が浮き彫りにしている問題を指摘しなければなりません。
安倍首相は、選挙公約に違反して、米国が主導するTPPに参加し、そのために米国の要求に応えて牛肉、自動車、保険の三つの入場料を支払いました。その米国にトランプ政権が登場し、TPPを離脱すると、あくまでTPPへの復帰を求め、FTAに応じる考えはないとしてきました。
ところが、米国から一方的な自動車関税引上げの脅しでFTAの締結を迫られると、前言を覆して米国との二国間協定交渉に踏み出したのです。この言行不一致をごまかすために、日本側だけTAGなる造語まで作りましたが、一体どこへ行ったのでしょうか。影も形もないではありませんか。
その結果はどうか。安倍首相は本協定についてウイン・ウインと言いますが、米国の自動車関税の撤廃は先送りにされる一方、牛肉などの畜産物で大幅な関税削減を認める、まさに日本の一方的譲歩です。さらに、日米共同声明で、あらゆる分野を対象に協議して第二ラウンドの交渉を行うことまで合意したことは、余りにも重大です。
米国の要求に応えるために、国民を欺き、交渉の内容や経過も国会と国民に秘匿したままで、国民経済に大きな影響を及ぼす通商交渉を勝手に進めて合意、署名した安倍内閣のやり方は、言語道断だと言わなければなりません。
それだけではありません。衆参の審議で、野党が要求し続けた自動車を除いた自由化率の試算の提出について、政府は一貫して拒否しました。本来、審議の前提として協定に関する事実を示すのは、政府の当然の責務です。
しかも、野党の要求は、協定において米国の自動車関税が更なる交渉次第となった下での現状の自由化率であり、極めて単純な事実の確認です。にもかかわらず、要求を拒否し、自由化率をあくまで自動車を含めた九二%だと言い張りました。都合の悪い事実を伏せて居直る態度は、国会の審議権の重大な侵害だと言わなければなりません。断固抗議するものであります。
日米貿易協定に反対する理由を具体的に述べます。
本協定は、TPP11、日欧EPAに続いて、重要品目を含め農産物の関税の大幅な引下げ、撤廃を行い、国内農業に深刻な打撃を及ぼすものです。安価な米国産農産物との競合により、牛肉、豚肉、乳製品などを中心に、国内生産額は最大一千百億円、TPP11と合わせれば最大二千億円も減少することが政府の試算でも示されています。
協定は、米国牛肉の関税率を協定発効時にTPP11参加国と同じ税率へ一気に引き下げることを認めています。その上で、米国向けに新たに設定するセーフガードの発動基準数量について、セーフガードが発動されたら速やかに基準数量を高くするための協議を始め、九十日以内に終えることまで合意しました。米国を特別扱いする優遇そのものです。国内の畜産農家を顧みないものと言わなければなりません。
さらに、協定附属書には、米国が将来の交渉において農産品に対する特恵的な待遇を追求すると、過去の協定に前例がないと政府も認める規定がわざわざ盛り込まれました。米国に農産物の一層の関税撤廃や引下げを迫る根拠を与えたことは重大です。
政府は、米国による日本の自動車への関税引上げを回避できたと主張し、その根拠に、日米共同声明の、協定及び本共同声明の精神に反する行動は取らないとの記述を挙げています。しかし、それには、協定が誠実に履行されている間との限定が明記されています。日本が誠実に履行しているかを判断するのは米国です。
米国が今後求めてくる特恵的な待遇を追求するための交渉を日本が拒めば、協定が誠実に履行されていないと米国が判断をして、自動車関税引上げで脅すという仕掛けが盛り込まれているのです。この下で、交渉を拒否できるのか。この間の米国言いなりの交渉実績を振り返るならば、多くの国民が危惧を抱くのは余りにも当然ではありませんか。日本の農産物を際限のない譲歩にさらす日米協議に断固反対するものであります。
政府は、国内対策で農家の所得は確保され、生産量も維持されるとしています。しかし、その内容は、生産コストの削減や大規模化の押し付けであり、農業経営の切捨てと食料自給率の一層の低下を招くことは必至です。
日米両政府が今後行う第二ラウンドの協議は、広範な分野で経済や国民の暮らしに影響を及ぼすものです。
米通商代表部は、昨年、日米交渉で金融、保険、為替など二十二項目に及ぶ分野を列挙して、非関税障壁の撤廃を迫る方針を公表しています。その中には、遺伝子組換えや残留農薬を規制する衛生植物検疫措置もあります。
トランプ大統領は、六月、バイオ農産物規制の近代化を図る大統領令を発布し、米国のバイオ農産物を諸外国に受け入れさせるための戦略の策定を命じました。
日本は既に、米国の要求を先取りするように、世界の規制の流れに反して、人に対する発がん性が指摘される農薬用グリホサートの残留基準値を大幅に緩和しました。さらに、ゲノム編集食品の一部について、表示義務を課さないというルールの運用を開始しました。
食の安全や消費者の選択する権利を損なうことを始め、食料主権、経済主権の放棄につながる日米交渉に応じることは断じて認められません。
次に、日米デジタル貿易協定は、世界で事業を展開するいわゆるデジタルプラットフォーマーなどの米国のIT産業の要求に応えて、国境を越えた自由なデータ流通の障壁を取り払ってその利益を保護するためのルール作りの一環です。その内容は、米通商代表部が交渉前に設定、公表したデジタル貿易の獲得目標を全て実現するものとなっています。
例えば、越境データ移転制限やコンピューター関連設備の利用設置要求の禁止は、欧州、中国、インド、アジア諸国が個人情報保護や産業保護等を理由に採用している制度とは必ずしも調和しません。WTOでの多国間のルール作りの本格化を前に、米国IT産業が求める水準での米国主導のルール作りに協力するものにほかなりません。
今、世界では、デジタルプラットフォーマー規制の強化をどう進めるかが議論が高まっています。その中で、国内規制の議論を差しおいて、本協定によって米国IT産業の求めるルール作りを優先することは、世界の流れに逆行するものです。
さらに、日本国内において、個人情報や消費者の保護などのために、米国を含む外国企業の活動をも対象に何らかの新たな規制を採用しようとする場合には、とり得る措置の内容が制約を受けるおそれがあります。
以上、日本共産党は、両協定に反対し、経済主権、食料主権を尊重した互恵平等の対外経済関係の発展を目指すことを強調して、反対討論を終わります。(拍手)