○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
在外公館の改正案は賛成であります。
今日は、前回に続いて、女性差別撤廃条約とその選択議定書についてお聞きいたします。
前回、十八日の質疑で、茂木外務大臣からは、この個人通報制度を内容とする選択議定書について、条約の実施の効果的担保を図る趣旨から注目すべき制度、早期締結に向けて真剣に検討を進めているとし、検討を加速する、早期締結にするために、障害になっている、また課題になっているものを早期に解決する、関係省庁と鋭意協議をさせていただきたいと正直な答弁がありました。
この検討の加速のためにも、まずこの個人通報制度についての基本的認識について確認をしたいと思います。
かつて政府は、その実効性、有効性を問題にしておりました。例えば、一九七九年の外務省の答弁では、国連の介入が個人の権利侵害に対する救済にどの程度の実効を持つかとか、個人の救済制度として果たして実際に機能するかどうか相当の疑問があると述べておりました。その後も同様の答弁が続いておりました。
しかし、国際的に締約国が広がる中、九一年になりますと、当時の中山外務大臣から、人権の国際的な保障のための制度として注目すべき制度という答弁があり、さらに他の人権条約の個人通報制度についても同様の答弁が重ねられてきております。
そこで、外務大臣にお聞きしますけれども、この実効性、有効性を持つかどうかと、その疑問について検討した結果、どういう点でこの人権の国際的な保障のため条約の実施の効果的担保を図る趣旨から注目すべき制度だという認識に至ったのか、お答えいただきたいと思います。
○外務大臣(茂木敏充君) 井上委員御指摘の一九七九年の国会においては、自由権規定の選択議定書が定めております個人通報制度に関する評価、問われた際に、当時、締約国が二十か国程度にとどまっており、多くの国が慎重論であると、また、加入については今後の運用を見て検討したい等の見解、これを示したものと理解をしております。
その後、女子差別撤廃条約等についても個人通報制度が導入をされ、同制度を受け入れる国も増加をし、また同制度が機能した例もあるとの実態を踏まえて、現在は、条約の実施の効果的な担保を図るとの趣旨から注目すべき制度である、こういった見解を示しているところであります。
○井上哲士君 OECD加盟国のうち、今、女性差別撤廃条約の選択議定書を締結していないのは、本体の条約を締結していないアメリカ以外では、日本とチリ、イスラエル、エストニア、ラトビアの五か国だけということになっておりまして、締約国も広がり、そして実際に実効ある実態が出てくる中で、そういう認識に至っているんだということだと思います。
その後、繰り返されたのが、司法権の独立との関係で検討が必要だという答弁であります。この点でも、二〇一一年に、私は個人通報制度と司法の独立について法務委員会で質問いたしました。その際に、当時の黒岩法務大臣政務官が、我が国の司法制度と相入れないという意味ではございませんという答弁をされました。
これ民主党政権時代の答弁でありますけれども、この認識は現在も変わっていないということでよろしいですね。
○法務省 大臣官房審議官(山内由光君) 個人通報制度の受入れは、我が国の司法制度と必ずしも相入れないものとは考えておりません。
○井上哲士君 つまり、この間の検討を通じて、この個人通報制度が人権を保障し、条約の実効性を担保する注目すべき制度だと、こういう認識に至ったと。そして、もう一点の、この司法の独立を侵すものでもないと、こういう点でも、そういう政府は認識に至っているわけですね。
つまり、私は、大きなところでいうならば、個人通報制度を受け入れる障害というのはクリアをされていると思うんですね。あとは、まさに具体的な問題をどう解決をしていくのかと。先日、大臣が答弁されましたように、この早期締結するために、障害になっている、また課題になっているものを早期に解決する、そのことが今、加速することが求められていると思います。
そういう中で、九日に国連女性差別撤廃委員会から、第九回日本定期報告への質問事項が出されております。前回総括所見及び二〇一八年の普遍的・定期的レビューの勧告に沿って、選択議定書の批准に向けた締約国の検討について説明してください、未批准につながる批准の障害について教えてください、選択議定書の批准のためにタイムフレームに関連した国会の承認のための計画及び展望についても報告してくださいとされておりますけれども、この質問事項についてどのように検討し、いつまでの承認の計画を示すことになっているでしょうか。
○政府参考人(山中修君) お答え申し上げます。
女子差別撤廃委員会からの質問に関しましては、同質問を受領の後、一年以内に回答をすることとなっております。
女子差別撤廃条約選択議定書の国会承認のための計画や展望につきましては、今後の個人通報制度に関する検討状況を踏まえて検討することといたしております。現時点で予断を持ってお答えすることは差し控えさせていただきたいと思います。
○井上哲士君 今後の検討状況といいますと、これまでの答弁の繰り返しになるわけで、是非これを本当に加速させることが今必要だと思いますし、大臣の答弁でもありました。その検討をしていく上で、先日の答弁では、検討すべき論点として、一つに、国内の確定判決とは異なる内容の見解が出された場合に我が国司法制度との関係でどのように対応するのかということが挙げられました。
一方、先ほど確認しましたように、司法の独立を侵すものではないということは、基本的に認識は確立していると思うんですが、元々、この個人通報制度に基づく女性差別撤廃委員会は、裁判所の事実認定には介入いたしませんし、勧告に法的拘束力はありません。
女性差別撤廃委員会の委員長を務めた林陽子さんが二〇一六年八月に開かれた個人通報制度関係省庁研究会での外務省からの質問に答えて、フィリピンに出した勧告を示しながら、委員会の審査は最高裁に対する四審ではない、確定判決は尊重するが、裁判所の条約解釈が間違っているという結論になって、裁判官のジェンダーバイアスをなくすよう研修を強化すべき旨の勧告を行った例はあるというふうに答えられております。つまり、裁判官のジェンダーバイアスを放置したことが条約の義務違反だと勧告することはあっても、最高裁に対する四審ではないし、確定判決を否定するものではないということなんですね。
コロンビアなどごく少数の国では、国内法で委員会の見解を実施することを定めた法を制定しているそうですけれども、日本ではこういう議論はありません。ということになりますと、司法制度を変えなくてはならないような問題はもうないと思うんですけれども、法務省、見解いかがでしょうか。
○政府参考人(山内由光君) 先ほどもお答えしたように、個人通報の受入れ、これが我が国の司法制度と必ずしも相入れないものであるとは考えておりません。
ただ、他方、個人通報制度の受入れにつきましては、国内の確定判決とは異なる内容の見解が出される、したような場合に、我が国の司法制度との関係でどのように対応するのかといった問題を検討する必要はあると考えております。
もっとも、個人通報制度の受入れに伴って、御指摘のような司法制度を変えるということが必ずしも必要となるとも考えているものではありません。
○井上哲士君 司法制度を変える必要はないと。まあ、どういう対応をするかという、これ具体的な検討になると思うんですね。
そこで、先日の答弁では、さらに、通報者に対する損害賠償や補償を要請する見解、さらに法改正を求める見解が出された場合の対応も検討すべき論点として挙げられました。先ほど紹介した林委員長は同じ研究会で、勧告の内容については、申立て個人に対してとるべき措置や一般的措置がある、金額の明示はないが、被害者に補償するための金銭を支払うよう国家に勧告が出た場合もあると述べた上で、この委員会からの勧告を受け入れない国もある、勧告を守っていないにもかかわらずフォローアップが終了したケースもあるというふうにも述べておられます。つまり対応は、国により、また勧告内容によって様々だということなんですね。
政府は、各国の対応状況についても検討されていると思うんですけれども、こういう各国が様々な対応をしていると、こういう状況についてはどのように承知をされているでしょうか。
○外務省 総合外交政策局参事官(山中修君) お答え申し上げます。
委員御指摘のとおり、女子差別撤廃委員会には様々な通報がなされており、したがいまして、各国に出されている見解、勧告やそれに対する各国の対応も画一的なものではなく様々なものがあると承知しております。
例えば、女子差別撤廃委員会から勧告を受けた国が通報者に対して補償を行った例もありますし、通報者に対して補償を行うよう勧告したが現時点で当該補償は行われていない例もあると承知しております。
以上です。
○井上哲士君 画一的ではない、様々なんですね。私は別に、勧告が出ても法的拘束力ないんだから無視したらいいんで、とにかく個人通報制度を受け入れろと言っているわけではないんですね。
個人通報制度にかかわらず、条約第二条で日本は条約の履行義務を負っております。これまでも、定期的報告に基づく様々な撤廃委員会からの勧告も受けてフォローアップもしてきたわけですね。しかし、この個人通報制度によって、国内的な司法救済を終えた上での個々の訴えに対して国際社会からの審査を受けるということは、人権の保護における司法の役割を強化すると、こういうことになるということをパトリシア・シュルツ、女子差別撤廃委員会の委員で、個人通報部会の会長も日本に来た講演で言われております。
政府が言うように、条約の実効性の担保につながって、日本における女性の人権を国際水準にするということにつながっていくことだと思います。各国の事例も様々、対応も様々なんということになりますと、これ全て検討してからということになりますと、いつまでたってもこれは永遠に批准しないと、これなると思うんですね。対応方針は事案の内容にもっと個別で決めるしかないと、こういうふうに思いますけれども、大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(茂木敏充君) 外務省として、様々な協定、そして議定書、締結するに当たって、もちろんその関係国であったりとか国際機関との調整であったりとか交渉もありますが、一方で、もう一つ大変なのは、国内のそれに関わる省庁との調整であったり様々なやり取りでありまして、まさに委員御指摘のこの問題につきましても、そのところで議論を今進めているところでありまして、論点といいますか、ある程度明らかになってきていると思うんです。
井上委員おっしゃるように、一つは、何というか、個人からの通報を受けて、委員会の方から国内の確定判決と異なる内容の見解が出された場合にどうするのか、通報者に対する損害賠償であったりとか補償の要請に対してどうするのか、さらには、法改正を求める見解が出された場合に、これが我が国の司法制度であったりとか立法制度との関係でどう対応するのかということでありまして、論点というのは明らかなわけでありますから、これを関係省庁との間でずるずる引っ張って、引っ張るということではなくて、しっかりと議論をして、どこかで結論を出さなきゃならない問題だと、このように考えております。
○井上哲士君 それに関連して、諸外国における個人通報制度の導入前の準備や運用の実態等についても調査等を行っているという答弁もありますが、それ踏まえて、日本として検討すべき実施体制等の課題は何かあるんでしょうか。
○政府参考人(山中修君) お答え申し上げます。
実施体制に関しましては、そもそも、その国連の見解の窓口をどこの省庁で受けるか、それを関係の省庁にどのように割り振って、どのようにこれを回答として女子差別撤廃委員会の方に回答するかと、こういったことが実施体制の検討の中で解決をしていかなければいけない問題だと認識しております。
○井上哲士君 受入れに伴ってどういう実施体制を取るかは、これ委員会から求められていないんですね。私は、やっぱり批准するという決断があれば、その後で解決できる問題であって、これは障害でないと思っております。
この委員会では、二〇〇一年に女性差別撤廃条約選択議定書の批准を求める請願を全会一致で採択をいたしました。
翌年にも採択をしたんですが、そのときの外交防衛委員長が武見敬三議員でありました。当時、採択の後、異例の発言をされましてですね、国民の請願権の最大限尊重の立場から、条約の国会提出に時間が掛かり過ぎるという委員会の指摘も紹介をして、外務省に、批准に向けた検討終了の目途とか、国会提出時期について説明を求めるという発言もされたわけですね。以来、二〇一六年まで十八回にわたって請願採決してきましたけれども、残念ながら、現在自民党が保留して採決をされておりませんけど、私はこういう経過を見たときに、当委員会として、やはり早期採決に向けて請願もし、やってきたというこういう経緯を踏まえて、是非今度の国会では全会一致の採決でこの批准の流れを進めていきたいということも各党に呼びかけもいたしまして、質問を終わります。
以上です。