○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
六つの租税条約については討論で述べます。
新型コロナの世界的感染の中で、国際協力と国際的課税の問題について質問いたします。
先週のWHOの年次総会、先ほどありました、コロナ対策での国際的協力を呼びかけた決議が全会一致で採択をされました。一方、米国第一主義を掲げるトランプ大統領は参加せずに、WHOと中国を非難した書簡を公開し、脱退も辞さないという姿勢を示しております。他方、中国は、国際社会から疑義が出されている初動での情報隠しやWHOへの圧力などの問題に総会の場でも答えなかったと。こういう中で、この米中の対立が国際協力の障害になっております。
かつてアメリカとソ連が軍拡競争をしていた時期でも、天然痘の根絶やポリオの生ワクチンの実用化では両国は協力をいたしました。エボラ出血熱の際にも国際社会は力を合わせたと。コロナでまだ協調した対応がないということは大問題だと思います。
WHOの対応が適切だったかと、この検証は必要です。同時に、この公衆衛生を担う唯一の国際機関の活動を弱めるということは誰も望んでいないと思うんですね。我が党は、二十一日、志位委員長が「パンデミックの収束へ国際社会の連帯と協力を」という声明を発表いたしまして、政府に対しても、国内対策に全力を挙げつつ国際社会の連帯と協力のための外交イニシアチブを発揮するよう求めたところであります。同じ日にちょうど予算委員会の参考人質疑がありまして、専門家会議副座長の尾身参考人も、政治的な利害はおいて、ヘルスのためにみんなが団結すると、日本はそのためにリーダーシップをお願いしたいと述べられました。
外務大臣、お聞きしますけれども、今の国際協力の現状の認識及びその推進のための外交イニシアチブをどう発揮をしていくのか、お答えいただきたいと思います。
○外務大臣(茂木敏充君) 今回のような世界的に甚大な影響を与える感染症に対しては、国際社会が一致して対抗すべきと、これが基本的な考え方でありまして、我が国は先日のWHO総会において、公衆衛生上必須なサービスを絶え間なく安全に供給する保健システムの維持等を明記しました決議に共同提案国として加わっております。
コロナ対応に当たっては、とかく米中の対立、取り沙汰されるところでありますが、本決議に関して申し上げますと米国も中国もコンセンサスに加わっておりまして、その内容は国際社会が一致して進められるものだと考えております。そして、この決議の中には、公平で独立した包括的な検証を行うという内容が盛り込まれておりまして、我が国は、同決議を踏まえて、今後開始されるであろう国際社会によるWHOの検証の作業に積極的に関わっていく考えであります。そして、そういった検証がしっかりと行われることによって、本来重要な役割を発揮すべきWHOに対する国際社会の信認というものも高まっていくんだと考えております。
日本としては、引き続き、一日も早い事態の鎮静化に向けて、WHOを始めとする国際機関であったりとか関係国と協調しながら、新型コロナウイルス感染症への対応をしっかりと進めていきたいと思います。
○井上哲士君 国際協力なしにパンデミックの克服もありませんし、経済の立て直しもできないわけで、一層のあらゆる機会を通じての努力を求めたいと思います。
そこで、この感染症対策を世界で進める資金をどう確保していくのかという問題です。
昨年の質疑の際も、このデジタル課税と国際連帯税について質問いたしました。コロナのパンデミックの中で一層重要だと思うんですね。国際連帯税は、SDGsの目標達成のために年間約二・五兆ドルの資金が不足をするという中で、革新的資金調達として議論をされてまいりました。SDGsの十七の分野別目標の一つがあらゆる分野の保健、福祉でありまして、その中で感染症対策とか新興国の支援、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成などが掲げられておりまして、私は、コロナ対策のためにもSDGsの推進が求められているし、その資金のためにも必要だと。日本も今回途上国支援の予算を組んでおりますし、各国が資金支援強化をすることは必要でありますが、国際連帯による資金調達を考えることが必要だと思うんですね。
昨年の質疑の際には、国際連帯税を含む革新的な資金調達に関する有識者会議を立ち上げるという答弁でありました。外務省は二〇一〇年以来、税制改正要望として国際連帯税の新設を提出してきたわけでありますが、まだ実現に至っておりません。一方、コロナのパンデミックの下で、この国際連帯税が、日本の税制としても国際的な課税ルールとしても一層意義を増していると思います。
有識者会議、提言をまとめるとのことでありますけれども、どういう議論が焦点になってきたのか、どういう提言になっていくのか、それを踏まえてこの国際連帯税実現のために政府としてどう取り組むのか、いかがでしょうか。
○国務大臣(茂木敏充君) 昨年九月の国連総会の議論、私も参加をいたしましたが、SDGsの達成のためには、革新的資金調達により年間二・五兆ドルと言われる資金ギャップを埋めていく必要があるわけであります。
外務省では、既にお話ししたように、SDGsの達成のための新たな資金を考える有識者懇談会を立ち上げ、御指摘いただきました国際連帯税、インパクト投資、ブレンデッドファイナンス等を含みます革新的資金調達の様々な方法を専門家の方々に御議論いただいているところであります。
国際連帯税につきまして、外務省は平成二十二年度以降、税制改正要望を提出しておりますが、革新的資金調達の手段として何が望ましいかについては、今後提出される予定の有識者懇談会の提言も踏まえて、よく検討してまいりたいと考えております。
○井上哲士君 是非、国際社会にも訴えて、実現の促進を求めたいと思います。
さらに、コロナ対策の資金確保でも、そしてコロナ後の社会を考えても重要なのが、先ほども議論ありましたデジタル課税の問題です。PEがなければ課税なしという従来のルールは、このデジタル、IT企業の広がりの中で合わなくなってきたということで、見直し議論が行われております。
一方、このコロナ禍で巣ごもりとかそれから在宅勤務が増える中で、GAFAなどの米巨大IT企業の勢いが増しております。アマゾンは一―三月期に売上高二六%増、グーグルのビデオ会議サービスのミートの利用者は一月と比べ四月末で三十倍、ズームは三月は一日の会議参加者は約三億人で、昨年十二月の三十倍に拡大をしたと言われております。
一方、アメリカのシンクタンクのIPSによりますと、三月十八から四月十日に米国内で二千二百万人が職を失う一方で、資産十億ドル以上の億万長者の資産合計は二千八百二十億ドル、約三十兆円増えたと。特にこのアマゾンのベゾスCEOの資産は、四月十五日時点、一月一日に比べて二百五十億ドル、約二兆六千八百億円増えたと、近代史上未曽有の増加だという指摘をされております。
そうした中、フランスのルメール経済・財務相は四日に、欧州における大手IT企業への課税が、新型コロナウイルスの危機を受け、これまで以上に必要になっているという発言もされております。
コロナ対策、長期化をする中で、その資金確保といっても、そして今後のコロナ後の社会を考えても、私、デジタル課税が非常に重要になってきていると思いますが、その点でのまず財務省の認識をお聞きしたいと思います。
○財務省 主税局国際租税総括官(安居孝啓君) お答えいたします。
今委員から御指摘がございましたとおり、今般の新型コロナウイルスの感染拡大の防止策といたしまして、外出自粛等の対応が取られていることなどによりまして、経済のデジタル化が一層進展するという見方がございます。
こうした中、本年四月にオンラインで開催されましたG20の財務大臣・中央銀行総裁会議におきましても、経済のデジタル化に伴う課税上の対応につきまして、引き続き重要なグローバルな課題として取組を進めるということが再確認されていると承知しております。
我が国といたしましても、経済のデジタル化に伴う課税上の対応は重要な課題だというふうに考えておりまして、グローバルな解決策の合意に向けて積極的に国際的な議論に貢献してまいりたいというふうに考えております。
○井上哲士君 このデジタル課税については昨年も質問いたしました。当時、OECDで、このPEの有無に関係なく市場国に課税権を与えるという点で三つの考えが示されておりました。昨年、詳しい答弁がありましたけど、イギリス提案のユーザーの参加に着目する考え方、アメリカ提案のマーケティング上の無形資産に着目する考え方、そしてインドなど途上国提案の重要な経済的存在に着目する考え方ということがありましたが、この三つを踏まえてその後議論が行われるということで、途上国の意見などをしっかり取り入れるように求めたわけでありますが、今議論が進む中で、大枠どのような合意になっているのか、今後の展望も含めてお答えいただきたいと思います。
○政府参考人(安居孝啓君) お答えいたします。
経済のデジタル化に伴う課税上の対応につきましてですけれども、先ほどもちょっと申し上げましたが、日本が議長国を務めました昨年六月のG20で承認されました作業計画に基づきまして、今年末、二〇二〇年末までのコンセンサスに基づく解決策の合意を目指して議論が行われているところでございます。
今委員から御指摘ありましたとおり、昨年はまだ三つの案がございまして、それについていろいろ議論をされていたわけですけれども、本年一月にBEPSプロジェクトに参加します約百四十の国・地域によりまして、まず一つは、多国籍のデジタル企業などが物理的拠点なしに活動する市場国に対しても新たな課税権を配分するための国際課税原則の見直しを行いますという第一の柱と、いわゆるタックスヘイブンなどの軽課税国への利益決定に対しまして最低税率による課税を実質的に確保するルールを導入するという第二の柱という、この二つの柱から成る解決策を検討するということにしました制度の大枠という文書が百四十か国で合意されたということでございます。
したがって、これに基づきまして今中身の詰めをしているところでございますけれども、今般の新型コロナウイルスの世界的流行により議論の進捗にはなかなか不透明なところも出てきているところではございますが、現時点では引き続き、二〇二〇年末までにコンセンサスに基づく解決策の合意をするということを目指して今議論を進めているところでございます。
繰り返しになりますけど、我が国といたしましては、国際的な合意に基づく統一的な課税上の対応が望ましいというふうに考えておりまして、今年末までの解決策の合意に向けて積極的に議論に貢献してまいりたいというふうに考えております。
○井上哲士君 今、大枠では、巨大IT企業の売上げの一定比率を超える利益を超過利益として、その超過利益を一定の割合で企業国、企業の所在地と市場国に配分し、更に複数の市場国の中でこの売上高に応じて配分するというふうになっていると聞いておりますが、この超過利益をIT企業の世界売上げの一〇パーを超えた部分とするか、二〇パーを超えた部分にするかというのが焦点になっていると思うんですね。一〇パーを超えた方、一〇パー超にした方がよりタックスヘイブンの減収が大きく、途上国の増収効果が大きいと指摘されておりますが、この税配分の是正を進めるという点でいいますと、この一〇%超とする方が効果が大きいと考えますけれども、日本はどういう対応でしょうか。
○政府参考人(安居孝啓君) お答えいたします。
今お話ございましたとおり、まず第一の柱についてでございますけれども、これ、やや繰り返しになりますが、自動化されたデジタルサービスでありますとか消費者向けビジネスを行っている大規模な多国籍企業を対象といたしまして、国際的に合意されました通常の利益率を超える、今おっしゃいました超過利益を得ている場合には、その超える利益の一部について、市場国に売上げ等に応じて新たな課税権を認めるという案が今検討されているところでございます。
この通常の利益率を、一〇%、二〇%という話ございましたけれども、この率をどうするかというのは実はこれからの議論でございまして、まだ今、現時点では全く決まっておりませんけれども、OECDが試算をするに当たりまして一〇%と二〇%という二つの率を用いたというのは御指摘のとおりでございます。
これを低くしますと、結局利益が、対象になる利益が低くなりますので、そうすると、それを超える企業というのが多くなります。したがって、より多くの企業が、多国籍企業対象になることになりまして、市場に配分される新たな課税権がより大きくなるということになります。しかし、それは逆に言いますと、その分だけ今度は多国籍企業の居住地の国、今まで税源を持っていたその国における課税権が縮小するということになりますので、一方で増えるところ、一方で減るところが出てくるということになるわけでございます。
こうした中で、今後、国際的な合意形成を図っていくわけでございますけれども、そういう意味で、居住国それから市場国、それぞれのバランスというのを考えて議論していかなきゃいけないのではないかというふうに考えているところでございます。
○井上哲士君 やはり税配分の是正を進めるための踏み込んだ合意になるように取組を求めたいし、第二の柱である最低税率の設定も、いわゆるタックスヘイブンでの税逃れを阻む上でも大きな効果がありますから、言わば高い収入を持っている国も低収入の国も、全体として十兆円程度の税収が世界全体で増えると、こういう試算もあると思います。
そういう点で、是非今の局面の中で実効ある内容で実現するように更に求めまして、時間ですので質問を終わります。
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○井上哲士君 私は、日本共産党を代表して、日本とアルゼンチン、ウルグアイ、ペルー、ジャマイカ、ウズベキスタン、モロッコとの間の租税条約に反対の立場から討論を行います。
六つの租税条約は、これまでの租税条約と同じく、投資所得に対する源泉地国での課税限度税率を軽減又は免除する措置を講じています。これは、日本の大企業とその海外子会社が、外国税額控除方式や外国子会社配当益金不算入制度により、当該国での外資優遇税制の利益を十二分に受けつつ、本条約によって源泉地国での課税が劇的に軽くなるなど、税制優遇措置を二重三重に享受することを可能とするものであります。
日本経団連は、かねてより、租税条約について、投資所得に関わる源泉地国課税を軽減することは、海外からの資金還流及び国内における再投資という好循環の実現に資すると主張し、政府に対し締結国の拡大による租税条約ネットワークの充実を求めてきました。本条約が、財界の要求に応え、国際課税分野における日本の大企業優遇税制を国内外で更に拡大強化するものであることは明白であります。
以上、指摘して、討論を終わります。