国会質問議事録

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外交防衛員会(米トランプ政権の核実験再開検討と核態勢強化)


○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 議題の三条約はいずれも賛成です。
 核兵器問題について質問いたします。
 今年は被爆七十五年、コロナ禍の中で残念ながらNPT再検討会議は延期となり、広島、長崎の平和記念式典も大幅に規模が縮小されるということになっております。高齢化された被爆者の皆さんが命ある間に核のない世界を見たいと、この声にどう応えるか、今問われていると思います。
 この希望の道を示す核兵器禁止条約、先日、アフリカ南部のレソトが批准をいたしまして、三十八か国になりました。発効まであと十二か国となりまして、核保有国の妨害を乗り越えて、着実に流れが前進をしております。
 一方で、逆行する事態が起きているんですね。
 外務省にお聞きしますけれども、五月二十二日付けのアメリカの新聞ワシントン・ポストは、トランプ政権が九二年以来となる核爆発を伴う核実験の実施について協議したと報道いたしました。複数の政府高官の詳述によるとして、ロシアや中国に対してアメリカが迅速に実験できることを見せることは、アメリカ政府が最大の核兵器国の間で保有量を規制する三か国の取引を追求する観点から有益だと、こういう議論がされたという内容であります。
 この報道について、アメリカ政府については確認をされたんでしょうか。

外務省 総合政策局軍縮不拡散・科学部長(久島直人君) お答え申し上げます。
 委員御指摘いただきましたワシントン・ポスト紙の報道につきましては承知しておりますが、米国とは常日頃から様々な事項につきまして意見交換を行ってきております。このような外交上のやり取りにつきましては、先方政府との関係もありまして、お答えすることは差し控えさせていただきます。

○井上哲士君 その様々なやり取りの中にこの報道もあったということでよろしいですか。

○政府参考人(久島直人君) 繰り返しで恐縮でございますが、様々な事項について意見交換を行ってきておりますが、外交上のやり取りでございますので、お答えすることは差し控えさせていただきます。

○井上哲士君 まあ中身まで言えと言っているわけじゃないんですが、お答えされません。
 これ、根拠のない報道ではないんですね。アメリカの連邦議会では大きな問題となっております。
 八日、アメリカの下院の委員長など五人が連名でエネルギー長官と国防長官に対して質問状を出しております。下院軍事委員長、下院歳出委員会委員長、それから軍事委員会の戦略、戦力小委員会委員長、歳出委員会のエネルギー及び水開発小委員会の委員長、歳出委員会の国防小委員会委員長と、この五人が連名の質問状なんですね。これ質問状では、核実験再開に関するトランプ政権内のハイレベル会合が発覚したと、その件、そしてこれについて、米議会の情報提供が行われず、国家核安全保障庁も報道への回答をしていないと、これ深く懸念するとして政府に回答を求める質問状なんですね。
 これ核爆発を伴う核実験が行われますと、これ三十年も歴史を逆行させるという暴挙になるわけですよ。政権の中で、私は、実際こういうことが協議されること自身が問題でありますし、しかも、それをこの中ロとの取引に言わば有益だと。
 取引の道具として核実験が、爆発を伴う核実験がこれあってはならないと思うんですね。そして、唯一の戦争被爆国政府としてこれは許されないということを明確に意思表示するべきだと思いますけれども、外務大臣、いかがでしょうか。

○外務大臣(茂木敏充君) 我が国は唯一の戦争被爆国として核兵器のない世界の実現に向けて、国際社会の取組をリードしていく使命を有しております。ですから、そのCTBTの発効に向けた取組、これも一貫して進めてきているわけでありまして、こういった取組の重要性一貫して訴えてきておりまして、核実験モラトリアム、これが継続されることを重視をいたしております。

○井上哲士君 一般論じゃないんですね。これに明確に反する動きが現に起きているわけです。
 先ほど紹介した質問状では、五人の委員長らがこう言っているんですね。米国は世界で最も効果的でかつ有能な抑止力を維持をする、我々は過去三十年間、爆発を伴う核実験を一時休止しながらそうしてきた、それをあらゆる尺度で紛れもなく成功を収めてきたと、こう言っているんです。そして、その上で、爆発を伴う核実験を再開すれば、我々の国家安全保障及び核抑止力の優位性を損なうことになるだろう、実験再開はロシア及び中国に対して武器管理交渉を迫る何らかの圧力になるとの考えは根拠に欠け、無知であると、ここまで言っております。そして、実験再開は、地球規模での実験の拡散への扉を開き、我々の敵を利するとともに、米国の安全を低下させることになるだけであると、ここまで指摘しているんですね。
 核抑止力の立場からではありますけれども、この下院の重要な位置占める五人の委員長らがですよ、地球規模での実験の拡散に道を開くと厳しい警告をしている、そして政府に説明求める、大変重要だと思うんです。
 私はやっぱり、あれこれの外交上の問題じゃない、唯一の被爆国政府として、先ほどのような話ではなくて、きちっとこの問題についてアメリカ政府に説明を求めるし、そして日本は不同意だということを、CTBT一般ではなくて、この問題で明確にすることが必要と思いますけど、改めて、茂木大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(茂木敏充君) 日本の基本的な立場については、先ほど答弁をさせていただいた次第であります。
 その上で、そういった核モラトリアム、これが維持することが重要だという立場から、米国との間でどういうやり取りをするかと、これはまさに外交上の問題ということでありますので、答弁は控えさせていただきたいと思います。
 さらに、井上先生の方からお話のありました米国の議会、そしてまた政府との間のやり取りについてのコメントにつきましても控えさせていただきたいと思っております。

○井上哲士君 この質問状にコメントを求めているんじゃないんです。私は、アメリカの国内でも単なる報道ではない大きな問題だとしてこうなっているというときに対して、唯一の被爆国政府が一般論で言っているだけでいいのかと。明確な声をやっぱり今上げる。だって、三十年間歴史を逆戻りさせるような話なんですよ。これは示すべきだと思うんですね。
 どうも私は、答弁から今の事態に対する認識が問われると思うんですが、トランプ政権による核軍拡の動きは、二〇一八年の核態勢の見直し、NPRからであります。その中で、核兵器で反撃する対象に通常兵器も入れたんですね。米国や同盟国の国民、インフラに対する重大な戦略と攻撃、これも含めました。
 一方、ロシアは、つい先日、二日、プーチン大統領が、核兵器の使用条件を定めた文書、核抑止の国家政策の基本に署名いたしました。これでは、通常兵器による攻撃でも国の存在を脅かされれば核で反撃できると、こういうふうに言って、核の先制攻撃を認めているわけですよ。
 ですから、今、核兵器の近代化、小型化、それと一体で、これ、通常兵器に対しても核で、この使用を認め、威嚇するということが公然とこの米ロの中で行われるという事態になっているわけです。新たな核軍拡の、私、悪循環が起きていると思うんですね。
 グテーレス国連総長は、核兵器の差し迫った危険は、単なる仮定や遠い将来のものではありません、それは現在紛れもなく存在するものなんですと述べておりますけれども、こういう今の核兵器をめぐる危険な状況についての大臣の認識をお聞きしたいと思います。

○国務大臣(茂木敏充君) 現在、世界全体で核兵器の数、これ、米ソ冷戦時のピークと比較しまして八割以上削減されているとも言われております。かつて米ソ両大国を中心として軍拡競争が行われ、核実験や核配備が進められていた時代とは状況が変わっているのは事実だと思います。
 一方、特定の地域や分野での軍備や兵器の過度、そして急速な増大、また、その不透明性が各国間に不信感であったりとか脅威認識を高めており、そうした不信感等から核軍縮が進まないと、こういった現状もあると認識をいたしております。
 NPRのことも答弁しましょうか。後でよろしいですか。(発言する者あり)はい。

○井上哲士君 確かに、ピークから減っているのは事実ですよ。しかし、今、先ほど言いましたように、近代化、小型化とか、そして通常兵器についても核で反撃するとか、こういう、公然と言われるようになっていると。こういうことに対する危機感が、多くの国々が核兵器禁止条約を採択をした、つまり核保有国がNPT条約六条の核軍縮義務に反している、こういう危機感があったと思うんですね。
 そして、これに拍車掛けているのが今言われましたNPRの問題でありますけど、トランプ政権のNPRに使いやすい核兵器の開発が盛り込まれました。二月には、新たに開発した低爆発力の小型核弾頭を搭載した潜水艦発射弾道ミサイル、SLBMの実戦配備が発表されまして、これ、アジアに重点配備をされております。さらに、オバマ政権が退役をさせた海上発射型の巡航ミサイル、SLCMの開発も進められております。
 小型核兵器といいましても広島型の約三分の一ぐらいですから、壊滅的な打撃をもたらすわけであります。にもかかわらず、使いやすい核兵器といってこういう小型核兵器が配備をされるというのは、これは核使用のハードルを下げて核戦争の危機を増大させる、同時に、ロシア、中国を始めとした核軍拡競争を更に悪化させるのではないか、こう思いますけれども、大臣の見解、いかがでしょうか。

○国務大臣(茂木敏充君) 使いやすい核というより、低出力の核のことをおっしゃっているんだと思いますが、確かに、米国、二〇一八年のニュークリア・ポスチャー・レビュー、NPRにおきまして潜水艦発射型弾道ミサイルの弾道の一部を低出力化すること等の方針を示して、実際、本年二月にはそうしたミサイルの配備を実施した旨の発表をしたと承知をいたしております。
 どういう考え方なのかと。アメリカ、NPRの考え方でありますが、米国は、米国自身も低出力核を保有することによって、相手方に限定的な核の先制使用の余地があって戦略的に優位性を得られるとの誤った認識を持たせないことによって、相手側によります核の先制使用や核のエスカレーションのリスクを低減するものであって、核の敷居を下げるものではなく、むしろこれを上げる旨説明をしていると考えております。
 御案内のとおり、核のラダーの表現ででも、結局、ラダーの間が空いていると、上のラダーから更に上のラダーに移ってのエスカレーションを起こさないような形を、階段をつくっていくという、こういう基本的な考え方だと思っております。
 いずれにしても、米国によります核弾頭の一部の低出力化、これは米国の保有する核兵器の数を増やすものではなくて、直ちに核の軍拡競争につながると、このように断定することはできないと考えております。

○井上哲士君 アメリカ・トランプ政権の説明をそのまま言われるんですね。私は、使いやすい核兵器をたくさん持つほど核使用の敷居を上げるものだという、何か果てしない悪循環の論理にしか聞こえないわけですよ。
 世界の核非保有国はどういう声を上げておりますか。例えば、このNPR発表直後の二〇一八年のNPT再検討会議準備委員会、インドネシアの代表は、こういう近代化、小型化について、この非人道的な兵器の役割を拡大し、実際の核兵器使用の敷居を下げている、我々は新たな核軍拡競争にほかならないこの傾向を直ちに終わらせるよう強く呼びかけたと、こういうふうに述べているんですね。
 多くのやっぱり非核保有国は、これは敷居を下げることになると、こういう声を上げているんですよ。にもかかわらず、むしろ小型核兵器は敷居を上げるという、アメリカ・トランプ政権の説明と同じことを繰り返しているというのは、この間、日本は核保有国と非保有国の橋渡しと言われていましたけど、橋渡しになっていないじゃないですか。もう橋渡って、アメリカ側に立って同じ立場でしゃべっている。これで私は唯一の戦争被爆国の責任を果たせると思いませんけれども、大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(茂木敏充君) 先ほども、じゃ、アメリカはどう言っているかということで、そのアメリカの言い方としてるる説明をした上で、核の敷居を下げるものではなく、むしろこれを上げるものである旨説明をしていると、こういうふうに、私がそう考えているではなくて、アメリカがこう説明をしていますよと。
 いずれにせよ、アメリカによる核弾頭の一部の低出力化は、米国の保有する核兵器の数を増やすものではなく、直ちに、委員おっしゃるような、核の軍拡競争につながるとは断定することはできない、このように答弁をさせていただいたと思っております。

○井上哲士君 時間なので終わりますけれども、私は、そういう今の答弁は多くの国々が持っている危機感とは相当離れていると思います。唯一の戦争被爆国政府として、新たな核軍拡許さないと、こういう立場を明確にするとともに、是非、この核なき世界へ核兵器禁止条約の批准を進めるべきだと申し上げまして、質問を終わります。

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