国会質問議事録

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本会議(思いやり予算特別協定/中国海警法/2+2会合/英国核増強)


○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 会派を代表して、在日米軍駐留経費負担特別協定、思いやり予算特別協定の改正議定書について質問します。
 まず、外務大臣にお聞きします。
 本議定書は、在日米軍駐留経費の日本の負担を定める現行の特別協定を一年間延長しようとするもので、政府は、延長を前提として二一年度予算案に二千十七億円を計上しました。
 バイデン政権の発足後、二月に、日本政府から一年の暫定延長を提案して米国政府と合意に至ったとされますが、内容の見直しをせず暫定延長を提案したのはなぜか。説明を求めます。
 日米地位協定二十四条は、在日米軍の維持に伴う経費は米国が全て負担することを定めており、日本に負担義務はありません。にもかかわらず、政府は、一九八七年、米国の財政悪化を理由に特別協定を締結しました。以来、当初五年限りで、暫定的、特例的、限定的な負担だと説明していたにもかかわらず、協定、改正議定書の締結を繰り返してきました。日本の負担総額は、来年度予算案計上分を含め、実に八兆円に達します、八兆円近くに達します。
 日米地位協定の経費負担の原則から逸脱した巨額な負担を常態化させてきたと言わなければなりません。その認識はありますか。
 特別協定のために持ち出された理屈は崩れています。交渉に携わった防衛省幹部も、協定は、米国の財政状況が悪化し、円高も進んだ際の特例だったはず、いつの間にか恒常化し、廃止を口にしなくなったと述べたと報じられました。
 日米両国の財政状況はどう変化してきたと認識していますか。主要国において対GDP比で突出した累積債務を抱える日本の財政状況を見れば、特例として協定を維持する根拠はなくなっているのではありませんか。答弁を求めます。
 現行協定の承認案が国会提出される前の二〇一五年十二月、財政制度審議会は在日米軍駐留経費について、聖域視することなく見直しを行い、その縮減を図る必要があると指摘していました。ところが協定は縮減どころか日本の駐留経費負担の総額をその前の五年間に比べ一・四%、百三十三億円増やす九千四百六十億円とし、労務費の負担人数は過去最高の二万三千百七十八人に拡大させたのです。
 この現行協定を何ら見直しもせずに一年延長し、さらに次期協定の交渉をするというのは、政府は、思いやり予算を財政規律の対象外に置き、聖域視していることにほかならないのではありませんか。
 以上、茂木外務大臣の答弁を求めます。
 次に、防衛大臣にお聞きします。
 防衛省は、二〇一五年の日本の負担率は八六・四%であると二〇一七年に明らかにしましたが、同じ基準で計算した現在の負担率を示していただきたい。
 岸防衛大臣は、衆議院の質疑において、日米の負担割合については、米軍の駐留に伴い必要となる経費の範囲の捉え方が日米間で異なること等から一概に算定し得るものではないと述べ、米側負担の金額も日米の負担率も示しませんでした。これは、現に巨額の負担をしている国民に対する当然の説明責任を放棄するものであり、余りにも無責任です。経費の範囲の捉え方が具体的にどう日米で異なっているのか、責任ある数字を示していただきたい。
 日本は、思いやり予算のほかにも、米軍再編経費、SACO関係経費等を支払っています。それらの負担の総額は幾らになりますか。世界の米国の同盟国の中で、米軍の駐留のために日本以上の経費負担をしている国がありますか。
 以上、岸防衛大臣の答弁を求めます。
 次に、中国による海警法施行について伺います。
 同法は、中国周辺の極めて広い海域を管轄海域とし、武器使用を含む強制措置を可能にするものです。沿岸各国に認められる権限を厳密に規定し、海の紛争の平和的解決を定めた国連海洋法条約を始めとする国際法に違反することは明らかです。
 日本共産党は、中国の覇権主義的行動をエスカレートさせる同法の施行に強く抗議するとともに、その撤回を求めるものであります。
 岸防衛大臣は、十六日の日米防衛相会談で、中国海警法について、国際法との整合性に問題のある規定を含むものとの認識を示しました。具体的に同法の規定のどの点が国際法と整合しないと考えるのか、国際法違反の立法と認識しているのか、見解を明らかにしていただきたい。
 国連海洋法条約にもあるとおり、関係国には紛争を平和的に解決することが求められています。政府はこの立場に立ち、中国海警法が国際法違反との立場を明確にした上で、軍事的対抗ではなく、外交交渉により、中国政府に撤回を求めるべきです。外務大臣の答弁を求めます。
 日米安全保障協議委員会、2プラス2会合について伺います。
 十六日に出された共同発表には、日本は国防及び同盟の強化に向け、自らの能力を向上させる決意を表明すると明記されました。なぜ日本側のみが決意を示すこととなったのか、米側から要求があったのか、日本は具体的に何をするのか、防衛大臣の説明を求めます。
 会合に先立つ今月三日、米国のバイデン大統領は、日本などとの同盟関係の強化を優先事項として、インド太平洋地域の戦力強化を図る方針を示しました。続く十日、国防総省高官は米議会に戦略を説明する書面を提出しました。それによれば、米国は中国との新たな大国間競争の時代の中にあり、同盟国と協力して、より抗堪性があり、分散した部隊態勢を確立し、領土を防衛し抑止力を維持するのに必要な相互運用性のある能力の提供に取り組みつつあると述べています。さらに、共通の防衛の責任を分担する新たな機会を追求するとしています。
 共同発表の決意表明は、結局、米国の要求に応じて役割を果たすという表明そのものではありませんか。同盟強化といいますが、その中身は、防衛費を更に増大させる米国製兵器の購入、米軍基地の強化や駐留経費負担の増額を米国から迫られるのではないですか。そうしたことに応じないと断言できますか。岸大臣の答弁を求めます。
 米国が長期に及ぶとする米中の大国間競争に巻き込まれ、独自の外交を損なうおそれについてどう考えるのか、茂木大臣の答弁を求めます。
 米国の戦略に付き従い、軍備の拡張を始めとする軍事対軍事のエスカレーションを招いて、地域の緊張を高めるようなことは行わないよう強く求めます。
 次に、英国の核兵器増強への対応です。
 英国は、三月十六日、外交・安保政策の統合レビューの中で、安全保障環境への対応を理由に、保有核弾頭の上限を百八十発から二百六十発に引き上げることを発表しました。英国の核増強は、核保有国に対して核軍縮を義務付けたNPT第六条と、過去のNPT再検討会議で採択をされた核軍縮を履行するとの明確な約束の合意に対する重大な違反です。
 核兵器のない世界の実現を妨げ、核の脅威を増大させるものであり、決して許されるものではありません。
 茂木大臣は、先日の予算委員会で、事実関係を把握した上で検討したいとするのみでした。検討した上で容認することもあり得るというのですか。日本政府は唯一の戦争被爆国の政府として、明確に撤回を求めるべきではないですか。いかなる核兵器国の増強にも反対して、核軍縮を迫る立場に改めるべきです。
 以上、茂木大臣の答弁を求めます。
 改めて、核兵器禁止条約への参加を強く求めて、質問を終わります。(拍手)
 

  〔国務大臣茂木敏充君登壇、拍手〕

○外務大臣(茂木敏充君) 井上議員から、協定が一年延長された理由及び今後の交渉について、そして、日本側負担の水準及び日本の財政状況の中で協定を維持する理由についてお尋ねがありました。
 今回は、交渉に割くことのできる時間が大きく制約されたこともあり、交渉の早期妥結を目指して米側と協議を行った結果、現行の特別協定を改正し、その有効期限を一年間延長することにつき、米国政府との間で意見の一致を見ました。
 バイデン政権発足後のこの早いタイミングで必要な合意に至ることができたことは、日米同盟の結束に対する両国の強いコミットメントを示すとともに、日米同盟の信頼性を高め、それを国際社会に発信するものだと高く評価しています。
 その上で、日米の負担割合を論じる前に、まずは、我が国の平和と安全を確保する上で、日米でいかなる役割、任務の分担をしていくか、また、その下で我が国の負担規模が適切か否かを考えることが大事だと考えています。
 そして、我が国のホスト・ネーション・サポートの負担規模については、在日米軍の円滑かつ効果的な運用を支えるホスト・ネーション・サポートは引き続き重要である点を踏まえた上で、御指摘の我が国の厳しい財政状況や我が国を取り巻く安全保障環境等の各種要素を総合的に考慮し、主体的に判断し、今後もHNSが適切な内容、水準となるよう対応していく考えであります。
 次に、中国の海警法についてお尋ねがありました。
 中国海警船舶が累次にわたり尖閣諸島周辺の我が国領海に侵入し、日本漁船に接近しようとする動きを見せていることは誠に遺憾であり、断じて容認できません。尖閣諸島周辺の我が国領海内で独自の主張をする海警船舶の活動はそもそも国際法違反であり、中国側に厳重に抗議しています。
 力による一方的な現状変更の試みは断じて認められません。特に、中国が東シナ海、南シナ海において一方的な現状変更の試みを継続する中、先般施行された海警法については、国際法との整合性の観点から問題がある規定を含んでおり、我が国を含む関係国の正当な権益を損なうことがあってはならないと考えています。こうした我が国の深刻な懸念を中国側に対し、引き続きしっかりと伝えていきます。
 また、同盟国である米国及び有志国との連携強化は重要であり、米国を始めとするG7やASEAN諸国を含む国際社会と連携して、力による現状変更の試みに強く反対していきます。
 我が国の領土、領海、領空を断固として守り抜くとの決意の下、主張すべきは主張し、今後とも冷静かつ毅然と対処してまいります。
 日米2プラス2の成果を踏まえた米中関係と今後の日本外交についてお尋ねがありました。
 今回の日米2プラス2では、中国を始めとする地域の戦略環境や日米同盟の抑止力、対処力の強化に向けた方針につき、日米の外務、防衛閣僚がじっくりと意見交換を行いました。共同発表、注目をしていただいたと思いますが、会合の成果を文書としてまとめたものであります。
 我が国は、こうした取組を通じて強固な日米同盟を内外に発信しつつ、自らの国益に照らして外交活動を展開してまいります。
 新型コロナの世界的な感染拡大により、国際協調の重要性は高まっており、世界第一位、第二位の経済大国である米中両国の関係の安定は、国際社会にとっても重要であります。米中間では様々な分野で意見の対立が見られますが、ポストコロナの世界を見据え、多国間主義を尊重し、安全保障面でも経済面でも、自由で公正な秩序、ルールの構築に向けて日本がより一層主導的な役割を果たすことこそ、日本外交の目指す確かな方向であると考えます。
 今後とも、我が国としては、同盟国たる米国との強固な信頼関係の下、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた取組を含め、様々な協力を進めつつ、中国に対しても、大国としての責任を果たしていくよう引き続き働きかけてまいります。
 最後に、英国による保有核弾頭数の上限引上げの件についてお尋ねがありました。
 英国は、今回の変更の背景として、一部の国において核兵器の著しい増強、多様化が進められ、新たな技術の開発や核ドクトリンの脅威が高まっていることなど、安全保障環境が変化しているとの認識を示しています。
 また、自国及びNATO同盟国のために最小限必要な核抑止力を確保するためにも保有核弾頭数の上限を引き上げる方針となったと説明しており、今後も、国際安全保障環境や潜在的な敵対国の活動を踏まえ、核態勢を継続的に見直すとも表明しております。
 同時に、英国は、核兵器のない世界という長期的な目標に引き続きコミットしている旨明らかにしています。また、核軍縮を含むあらゆる側面においてNPTの完全な履行に強くコミットし、核兵器国としての責任を真剣に受け止めている旨述べております。
 我が国としては、これまで述べているとおり、NPTの規定に従って、関係国に対して一層の核軍縮努力を促してまいります。(拍手)

   〔国務大臣岸信夫君登壇、拍手〕

○防衛大臣(岸信夫君) 井上議員にお答えをいたします。
 まず、在日米軍駐留経費における日本の現在の負担割合についてお尋ねがありました。
 在日米軍駐留経費負担の日米の負担割合に関し、米軍の駐留に伴い必要となる経費の範囲については様々な捉え方があることなどから、一概に算定し得るものではありません。
 その上で、御指摘の数値は、平成二十八年当時に要求のあった議員のお考えに沿って、機械的に、在日米軍関係経費として日本側が負担している項目のみを捉えて、日本側の負担割合を日本側が把握している範囲で単に試算として数値化したものであり、そのほかの米側のみが支払っている経費を含めた在日米軍の駐留に伴い必要となる経費全体の日米の負担割合を示すものではありません。
 したがって、在日米軍関係経費として日本側が負担する経費項目のみを捉えて日本側の負担割合を数値化することは適当でないことからして、御指摘の数値と同様の算出方法で現在の数値をお示しすることは差し控えます。
 次に、日米の負担割合に関する説明責任についてお尋ねがありました。
 日米の負担割合については、米軍の駐留に伴い必要となる経費の範囲の捉え方が日米間で異なること等から、一概に算定し得るものではありません。
 HNSについては、日米の負担割合を論じる前に、まずは、我が国の平和と安全を確保する上で日米でいかなる役割、任務の分担をしていくか、また、その下で我が国の負担規模が適切か否かを考えることが重要であります。
 その上で、我が国のHNSの負担規模については、在日米軍の円滑かつ効果的な運用を支えるHNSは引き続き重要である点を踏まえた上で、我が国の厳しい財政状況や我が国を取り巻く安全保障環境等の各種要素を総合的に考慮し、主体的に判断しています。
 次に、米軍再編関係経費及びSACO関係経費等を含めた負担の総額についてお尋ねがありました。
 令和三年度予算案において防衛省で計上している在日米軍関係経費は、在日米軍駐留経費負担の約二千十七億円のほか、周辺対策や施設の借料等として千九百九十三億円、SACO関係経費として約百四十四億円、米軍再編関係経費として約二千四十四億円であり、全体で六千百九十八億円となります。
 次に、他国の米軍駐留経費負担についてお尋ねがありました。
 他国における米軍の駐留経費負担に関し、詳細を申し上げる立場にはありません。
 また、各国が負担している米軍駐留経費の内容や規模については、各国を取り巻く安全保障環境やその中での駐留米軍の役割等、種々の要素を総合的に勘案しているものであり、また、国によって経費の範囲をどのように捉えているかに違いがあることから、単純な比較及び評価は困難であります。
 次に、中国海警法の国際法との整合性についてお尋ねがありました。
 海警法については、曖昧な適用海域や武器使用権限など、国際法との整合性の観点から問題ある規定を含むと考えています。
 例えば、海警法第三条は、中国の管轄海域及びその上空において本法を適用する旨規定していますが、この管轄海域の範囲が不明確です。仮に中国が主権や管轄権を有さない海域において海警法を執行すれば、国際法に違反すると考えております。
 また、海警法第二十一条は、中国の管轄海域における外国軍艦、公船による中国の法令違反行為に対して法執行業務を行う旨規定し、また、外国軍艦、公船に対して強制的退去、強制引き離し等の措置を講じる権利を有する旨規定していますが、国際法上、一般に、軍艦及び公船は執行管轄権からの免除を享有しており、海警法が軍艦、公船が享有する免除を侵害する形で運用される場合、国際法に違反すると考えております。
 こうした中で、我が国を含む関係国の正当な権益を損なうことがあってはならず、中国海警法により、東シナ海や南シナ海などの海域において緊張を高めることになることは全く受け入れられません。こうした我が国の強い懸念を中国側に対し引き続きしっかり伝えてまいります。
 いずれにせよ、防衛省・自衛隊としては、あらゆる事態に適切に対応し、国民の生命、財産及び領土、領海、領空を断固として守り抜くため、引き続き万全を期してまいります。
 次に、日米2プラス2共同発表についてお尋ねがありました。
 日米2プラス2共同発表においては、御指摘の内容に続けて、米国は核を含むあらゆる種類の米国の能力による日本の防衛に対する揺るぎないコミットメントを強調したと述べるなど、日米双方が考えや取組を述べ合うものとなっており、日本側のみが決意を示しているとの御指摘は当たりません。
 なお、政府としては、防衛計画の大綱でも述べられているように、日米同盟の一層の強化に当たっては、我が国が自らの防衛力を主体的、自主的に強化していくことが必要不可欠の前提と考えております。
 今般の2プラス2では、厳しさを増す安全保障環境を踏まえ、日米同盟の役割、任務、能力に関する協議を通じ、日米の戦略、政策を緊密にすり合わせていくこと、宇宙、サイバーを含む領域横断的な協力を深化させること、拡大抑止を強化するための連携を強化すること、運用の即応性及び抑止体制の維持の観点から実践的な演習及び訓練を行う必要性等を確認しました。
 今後、かかる分野を含む連携や能力の向上を通じ、日米同盟の抑止力、対処力の強化に努めてまいります。
 最後に、日米2プラス2共同発表と米国の要求についてお尋ねがありました。
 先ほども述べましたように、政府としては、防衛計画の大綱でも述べられているように、日米同盟の一層の強化に当たっては、我が国が自らの防衛力を主体的、自主的に強化していくことが不可欠の前提と考えており、共同発表が米国の要求に応じて役割を果たすとの表明であるとの御指摘は当たりません。
 また、我が国の防衛力を高め、日米同盟の抑止力、対処力を強化するためには、必要な装備品の調達等による防衛力整備、在日米軍の再編、在日米軍駐留経費負担を含む様々な取組を行っていく必要がありますが、これらの取組は、いずれも米国と協議しつつ、我が国として主体的に判断しているものであり、これらの取組を米国から迫られているとの御指摘は当たりません。

○議長(山東昭子君) これにて質疑は終了いたしました。

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