○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
会派を代表して、訪米報告について総理に質問します。
まず、新型コロナ対策の問題です。
感染力が強く重症化率も高い変異ウイルスの感染が急速に広がり、専門家からも、感染は第四波に入ったのは間違いないとの認識が示されています。ところが、総理は、日米首脳会談に出発する直前のこの本会議で、全国的な大きなうねりになっているとは言えないと答弁したことに驚きました。感染拡大の深刻な現実を直視しない姿勢では、まともな対策が出てくるはずがありません。第四波に入っていることを認めるべきではありませんか。
その上で、私たちが繰り返し求めてきたコロナ封じ込めのための大規模検査、中小企業が事業を続けられる十分な補償、医療機関への減収補填とあらゆる手段を尽くしての病床確保、今夏の東京オリンピック・パラリンピックの中止、この四つを決断すべきです。お答えください。
新規感染者が連日千人を超え、医療現場からは災害レベルの状況との声が上がっている大阪府の状況はとりわけ深刻です。大阪府は緊急事態宣言の要請を決めましたが、同じ事態を繰り返さないためにも、国や大阪府の対策のどこに問題があったのか、分析や検討が必要です。さらに、他府県に重症者受入れや医師、看護師、保健師などの支援を要請するなどの広域連携の措置を急いで進めるべきです。答弁を求めます。
総理は、米国でファイザー社CEOと電話協議し、ワクチンの追加供給を要請して、九月までに全国民分調達できるめどが立ったと語りました。しかし、外務省のホームページでは、ファイザー社からは緊密に連携という発言しかありません。追加供給の確約はあったのですか。それは何万人分ですか。ファイザー社だけで十六歳以上の全国民一億一千万人分を供給できるということですか。合意内容を明らかにすべきです。答弁を求めます。
一方、自民党政調会長は、全国民へのワクチン接種について、来年春ぐらいまで掛かるかもしれないと語りました。総理も同じ認識ですか。接種を担う自治体や医療関係者は、何よりも正確な情報、見通しを欲しています。政府はそれに応えるべきです。
日米首脳会談の共同声明では、日米同盟を一層強化すると、日米軍事同盟を全面的に強化する方向が打ち出され、日本政府は自らの防衛力を強化することを誓約しました。
日米両国の抑止力及び対処力や、拡大抑止、核の傘の強化、サイバー及び宇宙を含む全ての領域を横断する防衛協力の深化、沖縄の民意に背く辺野古新基地や馬毛島の軍事拠点化推進などが明記されました。
これらの合意は、地球的規模での日米の軍事的共同を全面的に推進し、核兵器禁止条約など平和を求める世界の流れに逆行するとともに、日本国民に耐え難い犠牲と負担をもたらす危険極まりないものです。
米国は、在日米軍駐留費負担の大幅増額を求めています。日本の軍事費は、この間、毎年、過去最高を更新してきましたが、元米国防総省幹部は、中国の抑止のためには、日本は軍事費をGDPの一%程度にとどめず、二%に増やすことが最低限必要だと発言しています。
総理は会談後の共同会見で、今回の共同声明を日米同盟の羅針盤と語りましたが、際限のない軍事費拡大の道を突き進むことになるのではありませんか。
共同声明に盛り込まれた抑止力の強化に関して聞きます。
本年度予算には、米国が進める新型ミサイルの探知、追尾を目指して多数の小型人工衛星を打ち上げる衛星コンステレーション計画への参加のための概念検討予算が計上されました。これ自体が軍事費拡大につながる上、米国は、ミサイルの探知、追尾にとどまらず、移動する地上・海上目標に水準を合わすことも追求しています。これに参加すれば、言わば攻撃のための目を得ることになります。
政府は、この間、護衛艦の空母への改修や、北朝鮮や中国にも届く射程の長いミサイルの取得を進めてきました。衛星コンステレーションにより攻撃の目を持てば、これらの装備と一体で敵基地攻撃能力の保有につながるのではありませんか。お答えください。
日米共同声明は、東シナ海における中国の一方的な現状変更の試みに反対するとともに、南シナ海における中国の不法な海洋権益に関する主張及び活動への反対を表明しました。また、香港及び新疆ウイグル自治区における人権状況への深刻な懸念を表明しています。
中国による東シナ海や南シナ海における覇権主義、香港やウイグルでの人権侵害は、もとより厳しく批判されなければなりません。その際に何より重要なことは、中国による国際法に違反する主張と行動を具体的に指摘し、国際法の遵守を冷静に求めていくことにあります。総理の認識を伺います。
この点で、日米共同声明は中国の覇権主義を象徴している中国海警法に言及はなく、中国の不法性の指摘は南シナ海における不法な海洋権益の主張にとどまっています。日米間で海警法の国際法違反についてどのような議論が行われたのですか。
中国が行っている重大な人権侵害は、世界人権宣言、国際人権規約、ウィーン宣言などの国際的な人権保障の取決めに反する国際問題です。ところが、声明は深刻な懸念を述べるだけにとどまっています。なぜ、国際問題だという批判が欠落をしているのですか。
日米共同声明はさらに、日本が中国と国交回復後初めて日米首脳間の共同文書で台湾問題に言及しました。台湾問題の解決のためには、台湾住民の自由に表明された民意を尊重すべきです。
中国が軍事的圧力、威嚇を強化していることにも、日米両国が台湾問題に軍事的関与する方向に進むことにも断固として反対です。米中双方に緊張を高める行動を慎むよう働きかけ、話合いによる平和的解決を促すことこそ日本がやるべきことではありませんか。
共同声明には、ミャンマー国軍や警察による暴力の即時停止、被拘束者の解放及び民主主義への早期回復を強く求めるための行動を継続することにコミットすることが盛り込まれました。
ミャンマーではジャーナリストの拘束が相次ぎ、日本人ジャーナリストが逮捕されました。政府は、その解放のためにどのように対応しているのですか。
政府は、クーデター以降、事態の鎮静化や民主的体制の回復へどのような対応が効果的か検討していきたいと答弁を繰り返してきました。しかし、弾圧と虐殺が深刻化し、国軍がそれを正当化し、更に強めようとしているとき、もはや検討にとどまらず、国軍の利益につながることは一切行わないこと、ミャンマーの市民の立場に立つことをより明確に示すべきではありませんか。
ミャンマーへのODAに国軍系企業が参入して大きな利益を上げてきました。クーデター後、新規のODAは行われていませんが、継続中の円借款は七千三百九十六億円となります。人道目的のものを除く事業を一旦停止した上で、国軍系企業の関与など調査し、事業の実施が国軍に利益をもたらさないように支払の凍結などの措置をとる必要があります。答弁を求めます。
憲法九条を生かし、東アジアに平和的環境をもたらす自主自立の平和外交への転換こそ求められていることを強調して、質問を終わります。(拍手)
〔内閣総理大臣菅義偉君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(菅義偉君) 井上哲士議員にお答えをいたします。
新型コロナの感染状況の認識等についてお尋ねがありました。
現在の感染状況は、大阪、兵庫で急速に感染拡大したほか、東京、神奈川、埼玉においても感染者数の増加が続くなど、強い危機感を持って対応すべき状況にあると認識しています。
このため、飲食を通じた感染防止と事業規模に応じた飲食店への協力金の支給、検査の拡大、医療提供体制の強化など、総合的な対策を進めております。
また、東京大会については、IOCバッハ会長とも昨年から東京五輪を必ず実現させることで一致しており、先月の協議においても引き続き東京大会の成功に向けて緊密に連携していくことを確認しております。
引き続き、東京都、大会組織委員会、IOCと緊密に連携して準備をしっかりと進めてまいります。
対策の分析、検討などについてお尋ねがありました。
政府としては、対策の効果や問題点について常に検証していきながら今後の対策に生かしていくことが重要だと考えており、引き続き専門家の方で、方々に必要な検討を行っていただきたいと思っております。
また、大阪府による医療提供体制については、何よりも優先すべき課題と認識しており、国も大阪府と一体となって広域的な医療従事者の派遣調整や病床確保を進めるなど、医療提供体制の確保に努めております。
ファイザー社CEOとの電話会談及びワクチンについて、供給についてお尋ねがありました。
ファイザー社CEOとの会談では、本年九月までに我が国の対象者に対して確実にワクチンを供給できるよう追加供給を要請し、先方からは、協議を迅速に進めたいとの話がありました。これ以上の会談の詳細は相手方の関係もあり差し控えますが、九月までにワクチンの供給がなされるめどが立ったと考えております。
また、高齢者への接種について、自治体とのやり取りにおいては、年内いっぱいまで掛かるといった情報は現時点において聞いておりません。
供給スケジュールの見通しについては、様々な機会を通じて丁寧に情報提供していきます。引き続き、各自治体と緊密に連携をし、円滑な接種が進むよう、全力で取り組んでまいります。
防衛関係費の増額についてお尋ねがありました。
元外国政府関係者の発言についてコメントすることは差し控えますが、我が国を取り巻く安全保障環境が厳しさを増す中、主体的、自主的な努力によって我が国自身の防衛力を強化していくことが重要です。そのために必要な予算を着実に確保してまいります。
衛星コンステレーションについてお尋ねがありました。
本年度予算に計上した御指摘の調査研究は、あくまでも我が国の防衛に必要な新型ミサイル等の探知、追尾のための検討を目的としたものであり、また、現時点で米国の計画への協力を決定しているわけではないと承知をしております。
今回の首脳声明での中国の人権状況、海警法の扱いについてお尋ねがありました。
今回の会談では、インド太平洋地域と世界全体の平和と繁栄に対して中国が及ぼす影響について意見交換を行うとともに、ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動について懸念を共有しました。
また、御指摘の海警法も念頭に、東シナ海や南シナ海における力による一方的な現状変更の試みに反対することで一致するとともに、香港情勢や新疆ウイグル自治区などにおける人権状況についても深刻な懸念を共有しました。その上で、こうした問題に対処する観点から、中国との率直な対話の必要性を確認するとともに、普遍的価値を擁護しつつ、国際関係における安定を追求することで一致をしております。
中国に対しては、引き続きハイレベルの機会を活用して、主張すべきはしっかりと主張し、中国側の具体的な行動を強く求めていく考えに変わりありません。
台湾海峡をめぐる問題についてお尋ねがありました。
我が国としては、従来から、台湾をめぐる問題が当事者間の直接の対話によって平和的に解決されることを期待するとの方針は一貫しています。
今回の会談において、台湾海峡の平和と安定の重要性と両岸問題の平和的解決を日米首脳間で確認したことにより、我が国の従来からの立場を日米共通の立場として、より明確にすることができました。我が国としては、引き続き両岸関係の推移を注視してまいります。
ミャンマー情勢に対する政府の対応についてお尋ねがありました。
現在拘束中の邦人ジャーナリストについては、ミャンマー側に対し一刻も早い解放を強く求めており、引き続き邦人保護に万全を期してまいります。
国際社会の度重なる呼びかけにもかかわらず、ミャンマー国軍、警察による実力行使により多数の死傷者が発生し続けている状況を強く非難します。我が国の立場は一貫しています。
その上で申し上げれば、日本の経済協力はミャンマー国民の生活向上や経済発展への貢献、人道的なニーズへの対応を目的としており、ミャンマー国軍の利益を目的とするものではありません。
対ミャンマー経済協力の今後の在り方については、事態の推移や関係国の対応を注視しつつ、何が効果的かという観点から引き続き検討してまいります。(拍手)