国会質問議事録

ホーム の中の 国会質問議事録 の中の 2021年・204通常国会 の中の 外交防衛委員会(RCEP協定 野菜・果物の国内関税撤廃 途上国が受ける貿易収支の悪化の影響)

外交防衛委員会(RCEP協定 野菜・果物の国内関税撤廃 途上国が受ける貿易収支の悪化の影響)


○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 RCEPは、経済規模、人口、貿易規模のいずれも世界の約三割を占め、世界でも最も大きい貿易協定になりました。
 ASEANの十か国にニュージーランド、オーストラリアなど計五か国が参加をして、日本にとって中国、韓国との初めてのEPAとなります。
 まず、外務大臣にお聞きしますけど、このTPPや日欧のEPAに対してこのRCEPの特徴は、今日も議論ありましたけれども、参加する十五か国の間の経済社会発展の格差が非常に大きいことであります。そういうものを協定はどのように踏まえた内容になっているのか、まずお願いします。

○外務大臣(茂木敏充君) RCEP協定に当たっては、御指摘のとおり、参加する十五か国の経済発展状況は大きく異なる中で、各国内において複雑かつ困難な市場アクセス交渉を行ったところであります。また、ルールの分野でも一部の参加国にとってはなじみの薄い知的財産であったりとか、電子商取引なども含め、幅広い分野で議論を行う必要がありました。そのため、通常の経済連携協定よりも時間を要することになった。結果的には七年半近く掛かったと思いますが、そういうことになりましたが、我が国とともにASEANが推進力となって交渉が進められたと承知をいたしております。
 その結果、本協定は投資国の経済発展状況が大きく異なる中でも、物品、サービスにとどまらず、投資、知的財産や電子商取引も含めた新たなルールまで盛り込んだものとなっておりまして、この地域の望ましい経済秩序の構築に向けた大きな一歩になると考えております。
 同時に、一部の後発開発途上国等については、例えば、サービス貿易章であったりとか、投資章において一部の義務の免除を定めているほか、知的財産章においても、国内の運用変更や法制度の整備等に時間を要する国に対して、必要な範囲の経過期間、これが設定をされているところであります。
 我が国として、まずはRCEP協定の早期発効を実現した上で、ASEANとも緊密に連携をしながら、RCEP協定を通じて、地域におけるルールに基づく経済秩序の形成に指導的役割果たしていきたいと考えております。

○井上哲士君 様々経緯についてお話がありました。
 その結果、果たして、この経済社会発展の遅れた国々の人々、農民や漁民、貧困層など、グローバル化の中で恩恵を受けてこなかった人々を包摂をして、有益な協定になっているのかということが問題だと思います。
 まず、日本農業への影響についてお聞きをします。
 政府は日本農業への影響について、関税撤廃については重要五品目を除外したと、こういうことなどを述べまして、農産物の影響試算すら示しませんでした。
 しかし、重要五品目については、元々米と砂糖以外は、オーストラリア、ニュージーランドを除くRCEP諸国には輸出の余力も実績もないものであります。そして、オーストラリア、ニュージーランドにはTPPで譲歩済みだということで、重要五品目の除外というのは全体の中で占める大きなこととは必ずしも言えなかったんではないか。やはり五品目というのは重要だけど、一部であります。
 では、全体に本当に影響がないのかと。全部の品目でどの程度の撤廃、削除が行われて、どのような影響があるかをしっかり見る必要があると思います。
 その点で、衆議院で参考人として意見陳述をされた東京大学の鈴木宣弘教授が政府と同じGTAPモデルで試算を行った結果、農業への影響は五千六百億円にも及ぶということが示されました。これは、TPPによる農業への影響の一兆二千六百四十五億円の約半分となります。特に、この野菜、果汁への影響が八百五十億円で、TPP11の影響の三・五倍にも達するということがこの試算で明らかにされました。
 こういう試算が行われて農業への影響が具体的に示された以上、政府としてもきちっと試算をして明らかにすべきだと思いますが、まず、いかがでしょうか。

○農林水産省 大臣官房総括審議官(青山豊久君) お答えいたします。
 RCEPにおける我が国の農林水産物の関税につきましては、重要五品目、すなわち米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物について関税削減、撤廃から全て除外し、また、関税撤廃率は近年締結された二国間EPA並みの水準といたしました。
 また、国産と競合関係にある品目や生産者団体が国産の巻き返しを図りたいとする品目については関税撤廃の対象外とするとともに、譲許した品目についても、用途や価格面で国産品と明確にすみ分けができるもの、RCEP参加国から輸入実績がゼロ又はごく僅かなもの、締結済みのEPAと同水準の関税率であるものであることに加え、多くの品目で長期の関税撤廃期間を確保しております。
 以上のことから、RCEPについては国内農林水産業への特段の影響はないと考えており、影響試算を行う予定はありません。

○井上哲士君 これまで政府はこのRCEPの交渉経過をほとんど明らかにしてきませんでした。そして、今御答弁があったようなことをずっと繰り返されて、農業には影響はないから試算も必要がないということを言われてきたわけですね。そういう政府の説明に、関係者の中から農業への影響を楽観視する声も実際ありました。
 鈴木教授自身がこう言われているんですね。日本の農産物の撤廃率は、TPP、日本・EUと比べて相対的に低く、ある程度柔軟性、互恵性が確保されたと評価していた。しかし、独自試算を行ってみて、そのような評価は甘過ぎることが判明したと、鈴木教授自身がこう言われ、率直に述べていらっしゃるんですね。
 現にこういうGTAPによる試算がもう出ているのに、政府は試算はしていないけど影響はないと幾ら言っても、私はもう全く説得力がないと思うんですよ。本会議でこの問題を我が党紙議員がただしますと、前提条件が違うのでこの試算の評価は困難だというようなことも言われておりますけれども、そうであれば、政府がこうこうこういう前提条件だということを明らかにして試算をすればいいと思うんですよ。影響がどの程度あって、それが許容できるかどうかというのを決めるのは国民であり、国会なんです。
 国会に承認を求めている以上、当然そういう試算を出すのは当たり前だと思いますけれども、農水省、改めていかがでしょうか。

○政府参考人(青山豊久君) いろいろな考え方があると思いますけれども、鈴木教授の試算の前提条件が不明なため、鈴木教授のその試算について結果を評価することは困難であると考えます。
 私ども、今回の各品目につきまして特段の影響がないと考えておりますので、影響試算を行う必要はないと考えております。

○井上哲士君 いや、影響はないと考えているから試算は行わないとずっと言ってきたんですよ。しかし、そうじゃないと。こういう試算が出ている。で、この試算が全部正しいから、農水省、のみなさいと言っているんじゃないんです。違う試算が出ている以上、農水省として、国会の承認求めているんだから、自らがこういう前提ですということを明らかにして試算を出すのは当たり前じゃないですか。
 幾ら、影響はない、試算はないけど影響はない、試算はしないけど影響はないと。説得力ないですよ。それで国民、農民が納得できると農水省思っているんですか。

○政府参考人(青山豊久君) 試算を行いますのは、影響があるというふうに判断した際に試算をして合算して、こう考えていくものでございまして、今回のRCEPについて国内農林水産業への特段の影響はないと考えておりますので、影響試算を行う予定はございません。

○井上哲士君 農水省はそういう判断をされたのかもしれません。だけど、さっきも言いましたけど、それを認めるかどうかというのは国民であり、国会なんですよ。私たちは影響ないと考えているから試算をしていませんと、ほかの試算が出てもそれは評価できませんと。こんなの通用しないということを厳しく言っておきたいと思うんですね。
 この鈴木先生の試算の中でも、野菜や果物の損失が非常に大きな問題だということが浮き彫りになっております。一部は関税の撤廃、削除の例外にしましたけれども、全体の貿易から見れば、部門全体ではほぼ全面関税撤廃に近いというのが鈴木教授の指摘であります。
 お手元に果物の資料を配付しておりますけど、既に果物は日本の自給率三九%なんですね。【配付資料210427①.pdf】今回、一部例外を除いて基本的に関税撤廃となりました。特に大きな比重を占めるのはジュースでありまして、輸入量は二百四十八万トンですが、今、国産の生産果物は二百四十六万トンなんですね。それに匹敵する。リンゴは除きましたけれども、ブドウ、オレンジは韓国以外は除外になっております。
 それから、生鮮野菜の輸入について、今、中国が六五%で、ニュージーランドなど中国以外のRCEP圏産が一五%、合計、今回のRCEP圏で八〇%を占めるわけです。今回は野菜全品目をASEAN、オーストラリア、ニュージーランドに対して関税撤廃をいたしました。ショウガ、ゴボウ、エンドウ、カボチャ、ブロッコリー、アスパラガスなど、輸入急増によって自給率が三〇から六〇パー台に下がっている品目については、中国に対しても撤廃をしております。
 これら多くはいわゆる高収益作物で、中山間地域の農業や新規就農者の経営確立の決め手として生産拡大が期待をされているわけですが、今回のこの中身がこういう皆さんを直撃をするのではないでしょうか。いかがでしょう。

○農林水産省 大臣官房生産振興審議官(安岡澄人君) お答えさせていただきます。
 野菜、果樹につきましては、委員御指摘のとおり、中山間地域において高収益を見込むことが期待される、また新規就農者が取り組む品目の約八割が占める重要な品目というふうに認識をしております。こうした考え方の下で、RCEP協定においては、中国に対して、タマネギやニンジンなど加工・業務用などで国産の巻き返しを図りたい品目、さらにはリンゴやブドウ、さらにはリンゴ果汁といった国産品と競合する可能性のある品目については、関税撤廃、削減の除外を確保しているところでございます。
 その上で、御指摘のありましたショウガやゴボウなど、品質や用途などで明確に国産とすみ分けられている品目、さらには梨や桃、柿といった輸入のほとんどない品目、こういった品目についても長期の関税撤廃期間を確保したところでございます。
 こうしたことから、本協定による野菜、果樹への特段の影響は見込み難いと考えております。

○井上哲士君 農水省は説明の中で、日本産と海外産の品質など差別化は図られているということも言われるんですけど、鈴木教授はこの試算について、そういう日本産と海外産の差別化を係数として組み込んでいるんだと、それ織り込み済みなんだと言われているんですね。それやった上でもこれだけの影響が懸念されるのであるということを強調されております。
 お手元の表にもありますように、それぞれの品目はいろんな地域地域の特産になっているわけですね。政府は、全体で何か影響がない、影響がないことばっかし強調するわけですけど、個々の一人一人の農家にとって、それぞれの地域にとっていえば、本当に主要な農産物も状況も全然違うわけですよ。受ける影響も全く違うわけですね。そういうことを具体的に明らかにもせず、農家が本当に未来を持って農業をできるのかということが私問われると思うんですね。
 大丈夫だ大丈夫だと言いますけど、輸入果物は一九六〇年には十トンだったんですね。今や四百三十四万トンですよ。野菜も、まあ輸入されることはないだろうといって自由化されましたけど、今や三百万トンですよ、輸入が。そういうことをきちっと見てやる必要があると思います。
 具体、例えばブロッコリーをお聞きしますけど、これは価格が安定しているということで野菜として全国的に生産が振興されていて、特に西日本では新規就農者向けの野菜の位置を占めておりますが、冷凍品を除外したものの、中国のこの生鮮ブロッコリーは撤廃されました。中国はかつてアメリカに並ぶ生鮮ブロッコリーの輸出国だったわけで、非常に今この輸出技術も進歩しておりますし、日中間の距離などを生かして、例えば生鮮の輸出に力を注ぐというようなことも可能性もあるんじゃないでしょうか。そこはどうお考えでしょうか。

○政府参考人(安岡澄人君) お答えさせていただきます。
 委員から御質問のございました生鮮ブロッコリーについては、国産が国内需要の約九割を占めるのに対して、中国からの輸入量は約今一千トンと、国内需要の一%未満という状況にとどまっているところでございます。こうした中国からの輸入については、主に加工業務用に利用されております。家計消費用に主に利用されている国産とは一定のすみ分けがされているということでございますので、関税撤廃による特段の影響は見込み難いと考えております。
 また、生鮮ブロッコリー、実態を見てみますと、現在、関税率三%と低い関税率が設定されているという状況ですが、中国からの輸入量が少ないのは、品質の面から中国産に対する国内での需要が低いものと考えられます。
 またさらに、三%の関税ですので、この関税が撤廃されても国産の価格などの競争条件が大きく変わるということではありませんので、輸入が増えるということは想定しにくいと考えられます。
 一方で、本協定における合意内容にかかわらず、国産の、国内の農業の競争力強化、これはもう喫緊の課題でございます。特に生鮮ブロッコリーについては、国内の需要、御指摘のとおりで増加傾向にありますので、生産拡大に向けた水田を活用した新たな産地形成ですとか、高品質なブロッコリーを安定生産するために集出荷貯蔵施設の整備などを支援することによって、国産ブロッコリーの供給力の強化を図ってまいります。

○井上哲士君 RCEPにかかわらずいろんな強化をしていく、これはやってもらったらいいと思うんです。ただ、問題はこれ相手がある話なんですね。
 中国はこのRCEPにどう対応しようとしているのかと。日本農業新聞がこう報じました。中国国務院は、RCEP合意前、輸出用に、品質が高い農産物の生産基地の建設を地方に指示をしたと、こういうふうに報じた、地方政府に指示をしたと報じております。
 実際、昨年十一月九日に国務院は対外貿易の革新的発展の推進に関する実施意見というのを公表しておりますけど、この同意見は、国際協力、競争の新たな優位性を育成することで対外貿易の回復を後押しするために発表されたもので、その具体策として、RCEPの早期調印や日中韓FTAの交渉加速にも言及をしております。
 中国がこういうふうにこのRCEPの下で関税撤廃品目に照準を当てて輸出拡大戦略を進めると、そういう可能性を農水省としてはどのように承知をされて、どう対応されようとしているのでしょうか。

○農林水産省 大臣官房審議官(国際)(牛草哲朗君) お答え申し上げます。
 RCEP協定ですけれども、先ほど来お話ありますように、重要五品目を関税削減、撤廃から全て除外するとともに、中国に対する関税撤廃率については、近年締結された二国間EPAに比べても更に低い五六%ということに抑制しておること、そして、国産品とすみ分けができている品目や、輸入実績がゼロ又はごく僅かである品目など、関税撤廃を行うものについても長期の関税撤廃を確保しているということでございます。
 その上で、今議員からお尋ねのありました中国の輸出拡大戦略でございますが、これを予断を持ってお答えすることは差し控えたいと考えますけれども、今後とも動向を注視していきたいと考えております。
 いずれにいたしましても、農林水産省といたしましては、RCEPを含む各経済連携協定の成果を最大限活用していくことが重要と考えております。総合的なTPP等関連政策大綱に基づいて、生産基盤の強化、そして新市場開拓の推進等によりまして、確実に再生産が可能となるよう、必要な施策を引き続き実施していくこととしております。

○井上哲士君 注目をしていきたいという話ですけど、中国からの輸入量は、外食で使われる加工冷凍野菜を含めますと三十年間で二十七万トンから百五十五万トンに、既に六倍になっているんですね。この間、いわゆる例えば毒入り冷凍ギョーザとかありましたけど、にもかかわらずこういうことになっているわけです。
 それに対して、私は、まともな対策の姿勢があるとは到底今思えませんでしたし、そもそも試算をしていないと。そういうことで本当に日本農業が守れるのかということを問いたいと思います。
 是非、政府として、中国などの今後の動向も踏まえて農業での影響の試算等を行って必要な対策を進めるということを改めて求めておきたいと思います。
 次に、ISDSについてお聞きしますが、参考人質疑で菅原淳一参考人が、今回のRCEP、総じて、TPPや日EU・EPAと比べてRCEPのルールや自由化の水準は低いと言わざるを得ません、注目すべきことは、このRCEPには見直しや検討の規定が数多く含まれていること、現在が最終形態とみなすべきものでなくて、生きている協定として発効後も進化、成長を遂げていくもの、日本が主導し、それを促していかなければならないと述べられました。
 しかし、TPPで、市民社会がこの有害条項として問題にしたISDSや医療品の特許データ保護期間、著作権の保護期間、農民の種子の権利を制限しかねない国際協定の批准義務化などは、これ盛り込まれなかったのは、やっぱりそういう市民社会の皆さんの大きな世論と運動がありました、それと結んだそれぞれの国の政府の反対の意見があった結果だと思うんですね。
 具体的に聞きますけれども、このISDSについては、日本はこの本協定に盛り込むことを求めたにもかかわらず入りませんでした。どういう具体的な反対の意見があったんでしょうか。

○外務省 経済局長(四方敬之君) 我が国といたしましては、委員御指摘のISDS、国と投資家との間の紛争解決手続に関する条項は、公正中立的な投資仲裁に付託できる選択肢を与えることによって国外に投資を行う我が国の投資家を保護する上で有効な規定であり、我が国経済界が重視している規定でもあることから、交渉の場においてもこれを支持してきましたけれども、交渉の結果、ISDS条項はRCEP協定には盛り込まず、協定発効後に改めて締約国による討議を行うこととされました。この討議は、RCEP協定の発効後二年以内に開始され、討議開始から三年以内に完了する旨が規定されておりまして、協定発効後、討議にしかるべく我が国としましても臨んでいく考えでございます。
 この協定交渉の過程において関係国がどのような立場を取ったのかということにつきましては、相手国との信頼関係ございますので、コメントを差し控えたいと存じます。

○井上哲士君 これ、まあ盛り込まれませんでしたけれども、今言ったような見直しの討議の規定が入っております。
 EUの委員長は、ISDSは死んだとまで述べていますし、バイデン大統領も選挙の公約の中で、こういうISDSが含まれている貿易協定には参加しないというふうに述べていて、今やISDSに固執しているのは日本など僅かになっていると思うんですね。こういう世界の動きをどう受け止めているのか、立場を改めるべきでないかと思いますが、いかがでしょうか。

○国務大臣(茂木敏充君) 様々な投資関連の協定、ISDSも含めてでありますけれど、投資家の保護とそれから国家の規制権限、このバランスをどうするかということなんだと思います、基本的な議論は。
 私も様々な通商協定に関わってきましたが、確かに、委員おっしゃるように、強く反対される国もあります。結構、ISDS打たれて相当な損害になっているという実例を聞いたりとか、そういうやっぱり経験があるとそうなるのかなと思うところもあるんですが、ISDS条項については、国家の規制権限、これを不当に制約するものではないかと、こういった問題指摘がなされていること承知をいたしておりますが、ISDS条項、本来、投資受入れ国が正当な目的のために必要かつ合理的な規制を差別的でない形で行うことを妨げるものではありません。
 その上で、こうした論点も含めたISDSの在り方については、国連国際商取引法委員会を含めて、様々な国際的な枠組みの中で議論が進められておりまして、我が国としても、これらの議論に積極的に参加をしてきているところであります。
 冒頭申し上げたように、投資家の保護と国家の規制権限、適切なバランスはどうあるべきかと、なかなか難しい議論だと思いますが、この点も含めて、投資関連協定の交渉に引き続きしっかりと取り組んでいきたいと思います。

○井上哲士君 冒頭お聞きしたんですけど、やはり社会経済の発展が大きく異なって、非常に多様性を持っている国々の協定なわけですね。何かこれが高い水準なんだといって何かルールを押し付けるようなことは、それぞれの国の社会や経済、暮らしの発展を阻害するものになりかねないわけでありまして、そういうことはあってはならないということは申し上げておきたいと思います。
 じゃ、こういういわゆる有害条項が盛り込まれなければあとはいいのかということでありますが、協定第一条では、締約国は、特に後発途上締約国の発展段階及び経済上のニーズを考慮しつつ、現代的な、包括的な、質の高い、及び互恵的な経済上の連携の枠組みを目的と明記をしております。
 お手元に資料も配っておりますが、昨年十一月、市民社会などによるウェビナーで、国連の貿易開発会議、UNCTADの上級エコノミストのラシュミ・バンガ氏が関税撤廃の影響試算を発表しております。【配付資料210427②.pdf】それによりますと、輸出では日本、中国、韓国だけが伸びて、ASEANは大半は微増ないしマイナス。貿易収支ですね、資料の、これでは、日本だけが九八・六%のプラスで、ASEAN全体ではマイナス、特にマレーシア三六・五%、ミャンマー二七・七%、タイ二二・五%、カンボジア一七・三%という落ち込みがなっております。
 各国にとって互恵的な協定になっていないのではないかと思いますけれども、いかがでしょうか。

○政府参考人(四方敬之君) お答え申し上げます。
 日本政府が実施したものでない試算につきましてはコメントを控えたいと思いますけれども、RCEP協定の意義は、各国による関税の削減、撤廃等、物品貿易の面にとどまらず、原産地規則や税関手続等の共通のルールの整備や原材料、部品生産が多国間にわたるサプライチェーンの構築、投資環境に係る知的財産、電子商取引等の分野における新たなルールの構築にもございます。
 RCEP協定により、後発の途上国を含むASEANを含めまして、世界の成長センターであるこの地域と我が国とのつながりがこれまで以上に強固になり、これを通じて我が国及び地域の経済成長に寄与することが期待できると考えておりまして、ほかの参加各国もまたそのような認識を共有しているものと考えております。

○井上哲士君 総合的に考える必要があるということも強調されるんですけど、貿易収支の悪化がその国の経済に何をもたらすのかということを見る必要があると思うんですね。
 今紹介したラシュミ・バンガ氏が、ボストン大学の教授で、国連経済社会理事会開発政策委員会委員のゲビン・ガラハーラとともに執筆したボストン大学のグローバル開発政策センターのワーキングペーパー、RCEP、物品市場アクセスのASEANにもたらす影響というものが出ていますが、この中で、試算について触れながら次のように述べているんですね。ほとんどのASEAN諸国の物品における貿易収支の悪化の原因は、それらの国における輸入の増加だけではなくて、RCEP域内でより効率性の高い輸出国への貿易転換があり、RCEP参加国への既存の輸出に悪影響を及ぼすことになるだろうと。個々の国の輸入増に加えて、ASEANの中でも貿易転換が起きて既存の輸出に悪影響を及ぼすと、こう指摘をしているわけです。
 進出した企業がこのASEANの中で国境を越えた物品の流通などで利益を上げても、それぞれの国にはこういう指摘されているような悪影響を及ぼすと、こういうことについてはどうお考えでしょうか。

○政府参考人(四方敬之君) 一般論といたしまして、全ての自由貿易協定には、関税削減によって締約国間の貿易が促進され、全体としての利益につながる貿易創出効果と、締約国以外の第三国との間の貿易が抑制される貿易転換効果の双方が伴うとされております。
 お尋ねのありましたのは、こうした一般的な意味での貿易転換についてではなく、RCEP締約国内において、協定から受けられる利益に締約国によって不均衡があるのではないかという趣旨と理解いたしました。
 RCEP協定は、発展段階や制度が異なる多様な国々が交渉に参加した経済連携協定でございまして、各国ごとのセンシティビティーが大きく異なることから、一部の品目については、相手国との経済関係や貿易構造を適切に勘案しながら、譲許内容に差を設けることで全体的な関税の削減、撤廃の水準を可能な限り高めるように取り組んだものでございます。
 さらに、物品貿易のみならず幅広い分野での新たなルールを構築しましたが、一部の後発開発途上国等については、例えば、サービス貿易章や投資章において一部の義務の免除を認めているほか、知的財産章においても、国内の運用変更や法制度の整備等に時間を要する国に対して必要な範囲の経過期間が設定される等の配慮を行っております。
 このような後発途上国に対する配慮等も通じまして、地域の貿易投資を全体的にバランスの取れた包摂的な形で促進する協定となっていると理解しております。

○井上哲士君 非常に最後はバラ色のように言われましたけど、この報告では、自由貿易協定が貿易収支や純輸出を悪化させることになればその国における国内総生産の伸びや雇用に悪影響を及ぼす可能性があると、こういうふうに指摘をしておりまして、まさに貿易収支の悪化がこういう国内経済に与える問題というのを直視をする必要があると思います。
 しかも、こういう悪影響の可能性がコロナパンデミックによって一層深刻になりました。
 RCEPの署名直前の昨年十一月十三日のロイターの報道では、より貧しい国々が新型コロナウイルス感染症の対処に苦闘するときに保護なしに放り出すものだとして人権団体のコメントを紹介をしております。インドネシアのNGOは、協定は労働者と環境を保護するための規定がなく、零細の農業者や企業が既にパンデミックで苦しんでいる中にあって彼らを傷つけることになるだろうと、こういうふうに述べました。
 この記事にも先ほど紹介したUNCTAD上級エコノミストのラシュミ・バンガ氏が登場しまして、このRCEPによる先ほど指摘されたような関税収入の減少などが各国がパンデミックに対応する財政を弱くするということを指摘をしております。ほとんどのASEAN加盟国では輸入が増加し輸出が減少するだろうと、それはそれらの国の貿易バランスを悪化させるとともに財政的立場も弱くさせることになる、RCEPは新型コロナウイルスなどがないときに組み立てられたと、今、諸国はパンデミックと経済の危機に対処する政策的及び財政的余地を制限し、それゆえに諸国の危機を管理する能力を制限することになるだろうと、こういうふうに言っているんですね。RCEPによるいろんな規制や収入減が、危機管理能力であるとか、危機に対応する政策的、財政的余地を削減をしてしまうんじゃないかと、こういう指摘もされております。
 やはりコロナパンデミックが起こるその前に組み立てられたこのRCEPをこのパンデミックの中で進めることに対するこういう弊害、悪影響の指摘、これをどう受け止めていらっしゃるでしょうか。

○国務大臣(茂木敏充君) まず、こういった経済連携協定、確かに短期的、また個別の品目で見てみますと、全部がプラスという形にはいかない部分もありますが、長期的にその国の経済であったりとか雇用に対してプラスの影響を与えると、そういう観点があるから各国合意をして署名に至っていると、このように今考えているところであります。
 同時に、この協定、七年半掛かったと言いましたが、最終段階、まさに大詰めの協議を行っておりましたのは昨年の十月でありますから、そして十一月に署名ということでありまして、昨年、かなり議論が進んでいる段階においてはこの新型コロナと、これは世界的に感染が拡大をすると、こういう状況にあったわけでありまして、コロナが始まる前に合意した協定ではないと考えております。
 ただ、新型コロナの世界的感染拡大によりまして、特に途上国を中心にして、保健、医療体制もそうでありますが、経済面でも様々な脆弱性と、これが明らかになっていると、これも事実であると考えておりまして、その点につきましては、国際社会全体で、また日本としてもコロナに向けての様々な途上国支援、またコロナによって影響を受けた経済への支援と、これは行っていきたいと思いますが、思いますが、だから今RCEPを止めるというのとはまた違った議論であると思っております。

○井上哲士君 私はやっぱり、コロナパンデミックというものが、多国籍企業が国境を越えた活動で利益を最大化させるためのルール作りが推し進められてきた中で、経済主権とか食料主権をおろそかにした貿易自由化一辺倒で突き進んだ世界の脆弱性というのを示したと思うんですね。
 本会議では、この点について茂木大臣の答弁は、保護主義や内向き志向の強まりということが言われました。だけど、私は、そういうことでも、だけではない、切り捨てられない話だと思うんですね。この間の国際的な動きというのは、そういう保護主義、内向きとか反グローバル化とかくくれないような、多面的で多様な意味を含んでいると思うんですね。
 やはり経済主権とか食料主権を尊重する方向での貿易ルールの見直しがこのコロナパンデミックを経験して求められておりますけれども、改めて大臣、いかがでしょうか。

○国務大臣(茂木敏充君) 本会議でも質問していただきましたが、改めて丁寧に質問していただいたことに感謝を申し上げたい、そんなふうに思います。
 世界で保護主義や内向き志向が強まる中で、日本は、TPP以来、日EU・EPA、日米貿易協定、日英EPA、RCEPなど、自由貿易の旗振り役としてリーダーシップを発揮をしてまいりました。こうした自由貿易の取組は、持続可能なサプライチェーンの構築というものにも資すると考えております。
 政府としては、今回の新型コロナの感染拡大の教訓、こういったものを踏まえて、医療品であったり食料等、我が国の国民生活に不可欠な物資の安定的な供給の確保に努めながら、自由で公正な経済圏の拡大やルールに基づく多角的貿易体制の維持強化に引き続き取り組んでいきたいと考えております。

○井上哲士君 時間ですので終わります。ありがとうございました。

ーーー


○井上哲士君 私は、日本共産党を代表して、地域的な包括的経済連携協定に反対の立場から討論を行います。
 本協定は、交渉開始から七年半にわたり、国民生活にどんな影響があるかを国会と国民に一切知らせないまま交渉が行われ、署名されたものです。
 農林水産品への影響についても、国内農業に特段の影響はないと試算すら行っていません。しかし、東京大学の鈴木宣弘教授の試算では、野菜や果物など農業生産の減少額は五千六百億円にも及ぶことが示され、国内農業に深刻な影響を及ぼすおそれがあります。
 さらに、本協定には発効五年後に協定全体を見直す規定が盛り込まれています。また、参加国のうちオーストラリアやニュージーランドについては、本協定にかかわらずTPPの関税率や輸入枠が適用されます。このことは我が国の輸入関税措置を際限なく撤廃していくものです。
 政府はこれまでASEAN諸国とEPAを結び、多国籍企業の海外進出のための環境整備を行ってきました。日本が新たに中国、韓国とEPAを締結することになる本協定により、日本企業のASEAN諸国への海外進出を一層推進するとともに、中国などに生産拠点を移す動きを加速させ、国内産業の空洞化を更に強めるものとなることは明らかです。
 本協定が発効された場合、日本の貿易黒字だけがほぼ二倍となる一方、ASEAN参加国の貿易収支は発効前に比べ軒並み悪化するとの試算があります。本協定が東アジアの互恵的な協定になり得るのか検証すべきです。
 この間の貿易自由化一辺倒が危機に弱い社会経済をつくり出したことがコロナ禍で露呈したにもかかわらず、そこに何の反省もないまま、多国籍企業の利益を最優先にし、本協定で一層の市場開放を推進することは断じて許されません。
 今求められているのは、経済主権や食料主権を尊重する方向での見直しであり、互恵、平等の経済関係を発展させることです。国内生産基盤の抜本的強化や食料自給率の向上などの危機に対応できる強い経済づくりにかじを切ることです。
 以上を指摘して、討論を終わります。

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