国会質問議事録

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外交防衛委員会(RCEP協定に関する参考人質疑)


○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 今日は、三人の参考人、本当にありがとうございます。
 まず、内田参考人に、コロナ禍を受けた貿易の意味、役割ということについてお聞きします。
 今回のRCEPの主要な内容がコロナの前に決まったというお話もありました。いただいた資料の一番最後のところで、今コロナ禍で多くの国が貿易制限措置を含む自国の主権行使、公共政策、財政措置のスペースを必要としていると述べて、これ、保護主義とはくくれない貿易ルールの転換だというふうに言われております。今、何かというとすぐ保護主義、内向き主義というレッテルも貼られることがあるんですけど、この点をどう考えるか、さっき多少触れられましたけど、もう少し詳しくお願いしたいと思います。

○参考人(内田聖子君) ありがとうございます。
 本当にコロナの中で、国家ができる、あるいはやるべき責任というのが改めて可視化されたんだろうと思います。
 グローバルにサプライチェーンをこの間ずっとつくってきたわけですけれども、それが企業の利益を最大にする、迅速化するという目的だったわけですが、それはかえって停滞をもたらしたり、マスク一枚を奪い合うというような状況が生まれてきているわけですね。ですので、かつ、特に新興国、途上国にとっては、非常に財政上の厳しい状況というのもあって、非常に今コロナの中で、例えばその食料の貿易を一時制限するとか、輸出を規制するとか、そういうことを実際に取った国は多いわけですけれども、そうすると、直ちに国際機関やG7とかG20から、いや、そんなことしたらサプライチェーンがより一層滞るということでやめるようにというふうに言われているわけですが、私は、この全体として問いたいことというのは、先ほども申し上げたように、今起こっている様々なことというのは、短く取っても九五年のWTOが設立して以降のこの自由貿易の推進ということが、誰にとってメリットがあって、そして、ルール、ルールというふうに言われるんですが、このルールを作るところですね、誰が、どのようなプロセスで、そして誰を利するルールなのかと、そのこと自体が根本的に問われていると思います。特に、公衆衛生であるとか知的財産の問題ですね、というルールの分野ですね。
 ですから、これは単に保護主義化してみんな内向きになろうということではなくて、気候危機へ対応したりコロナに対応したりというところで、私はグローバルコモンというふうに書いたんですが、共通して取り組むべき課題に対応するためには今までとは別のルールが必要だろうと、そういう根本的な問いかけだと思っています。

○井上哲士君 ありがとうございます。
 アジアの互恵的な協定になり得るのかという問題で、木村参考人、内田参考人にお聞きしますが、この間の衆議院の質疑見ましても、今回のRCEPが後発開発途上国を含めて制度的、経済的に大きく違う国を含んでいるというお話がありました。世銀などの調査でも、これによって輸出が増えるのは日本が一番で、中国、韓国、ASEANの中でもタイなどは伸びますけれどもほかは微増ないしは減というふうに言われております。
 木村参考人、最初のときに、南米などと比べるとアジアの格差の拡大は余り大きくないと言われましたが、そうであってもやっぱりこういう事態が起きるということについてどうお考えかということが木村参考人。
 で、内田参考人は、それでも貿易が、輸出は減ったとしても雇用が増えたりするんだから経済発展につながるよというような議論もありますけれども、特に後発途上国についてはどういうようなことがもたらされるとお考えか、それぞれお願いいたしたい。

○参考人(木村福成君) 御質問ありがとうございます。
 特に、CLMVとか言っていますけど、後発四か国について申し上げます。
 一つは、ベトナムはやっぱり米中対立及びそれに引き続いてコロナでもかなり感染を抑えたということで、むしろ中国からベトナムに投資を変えてくるという企業もたくさんアトラクトしているということで、過去四、五年の間で見るとベトナムがほとんど独り勝ちみたいな感じになってうまくやっていると。それはやっぱり、いろんな貿易協定をやりながら国内のインフラ整備だとかいろんな制度的な改革を進めてきたということによってそういうことが生まれているんだと思います。
 カンボジア、ラオス、ミャンマーに関しましては、今度のRCEPによって、特に域外国ですね、日中韓のところに対する関税はそれ以前のものよりも結構下げています。それから、貿易円滑化とかあるいは通関手続、こういうところが実は彼らが生産ネットワークに入っていくときのボトルネックになっていましたので、そういうところの手当てが随分なされています。ですから、シミュレーションモデルですと関税の部分だけしか議論できない、なかなか計測できないわけですけど、そのサプライチェーンをもっとそのCLMのところにも広げていくような、それに役立つようなものがRCEPの中にはたくさん入っているというふうに考えます。
 ですから、これにまた彼らの中での国内改革とセットにならないとなかなかうまくいかないのかもしれませんけど、そういう意味で、RCEPが彼らにプラスにワークするという、そういう場面はたくさん出てくるんじゃないかなというふうに私は評価しています。

○参考人(内田聖子君) ありがとうございます。
 輸出が減っても雇用がもたらされるからいいんじゃないかということに関してだと理解していますが、確かに雇用の数としては増えるのかもしれませんが、途上国においてですね、あるいは新興国において、ただ、そのとき問題になるのはやっぱり雇用の質だと思うんですね。やっぱり、この間見ていると、この自由貿易協定を結ぶとともに、まさに両先生方おっしゃったように、これ国内の法制度なども変わっていったりですね。割と悪い方に変わることが多いと私は思っているんですが、つまり規制緩和がなされると。日本でも派遣法とかいろんな歴史がありますけれども、企業の側にとってより使いやすい、雇用調整弁になるような形の規制緩和が同時に行われてしまえば、仮に雇用の数は増えるのかもしれませんが、一層不安定な雇用が増えていく、そしてその人たちはどんどん周辺化されていくというように思っています。
 今、新興国、途上国でも、割と大きな外資系のプラットフォームビジネスみたいなものもどんどんどんどん参入していって、そこでは労働者性がない、いわゆる自営業的な形で契約して何の保護や補償の制度もないというような、日本でもそういう事例いっぱいありますけれども、そういう形の雇用が増えてきています。ですから、そういう雇用の質ということも同時に見ていかないと、単に数が増えたからいいだろうということにはならないかなと思います。

○井上哲士君 ありがとうございます。
 ISDS条項について内田参考人にお聞きしますが、今回RCEPに入らなかったわけですけど、この間、EUもアメリカもこれを削除、やらない方向ですよね。一方で、そういう先進国もそうですし、途上国でもこういう動きになっていると。それぞれ違う理由なのかと思うんですけど、その辺の事情、そして、一方で、日本がこれにずっと固執をしていることの評価、国際的評価も含めてどのようにお考えか、お願いします。

○参考人(内田聖子君) ありがとうございます。
 ISDに関しては、こちらのお配りした、四十ページぐらいある資料をお配りしちゃったんですが、そこの二十四ページにちょっとまとめておりますが、おっしゃるように、ISDSはいろんな問題がこの間ずっと各国の政府や市民社会から提起されていて、かなり変化をしています。
 直近の例ですと、トランプ政権の中で再交渉されたUSMCAという、NAFTAの再交渉ですね、これの中にもいろんな抵抗があって、ほぼISDS条項というのは無効化されました。続くバイデン政権も、選挙の公約で、仮に新しい協定を結ぶ際にはISDSは含まないと、これを公約として発言をしています。それから、EUの件は、先ほど木村先生もおっしゃったような形で、ちょっと別な形のものを提案して、ただ、要するに、今のISDSは問題があると何がしか思っているわけですね。
 そして、途上国の側は、やっぱりこの三十年、四十年で訴えられる、提訴される側の国にずっとなってきて、これ、先ほど言ったように、国の側は正当な公共の目的ということで環境規制強化をしたりいろんな措置をとるわけですが、これが投資家企業にとっては利益の逸失ということで、利害が全然違うわけですね。そうして訴えられて賠償金をかなり取られてきたということもあって、途上国側の否定感というのは非常にあって、南アフリカやインドネシアというのはもう完全にISDSの入った投資協定からは撤退したり破棄をしていますし、RCEPでいうと、公式にISDSに反対表明した国というのは、マレーシア、インドネシア、ニュージーランド、それから当時のインドですね、こういう国があるので。
 これは、はっきり言って、国際的な潮流としては、どう変えるか、どうなくすかは別として、今のISDSには問題があると、これはやっぱり共通認識になっていると思います。ですから、国連の中でも改革の議論は進んでいます。
 ですから、私は、不思議なんですけど、日本が一向にそういう議論の中で態度を変えていただけていないのはやはり非常に残念です。投資家の保護に役立つとか投資の予見性高めるとか幾つかの理由があるわけですけれども、実際にISDSがあることによって対外直接投資の金額というのは実は増えていないというような研究もありまして、ですから、さっき言ったように、貿易の意味を改めて見直すというプロセスの中で、やっぱり、これは何のために置いているのか、これが途上国の公共政策のスペースをやっぱり著しく萎縮させているんじゃないかということも含めて議論をしていただきたいというふうに思っています。

○井上哲士君 ありがとうございました。
 菅原参考人、時間がなくて申し訳ありません。
 ありがとうございました。

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