○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
日米地位協定の軍属補足協定についてお聞きいたします。
二〇一六年の沖縄県うるま市で元米海兵隊員による女性暴行殺人事件が起きました。この人物は、米軍の直接雇用ではなくて、米軍と契約する業者に雇用されているいわゆるコントラクターの被用者であり、日米地位協定上の軍属に該当する者とされました。軍属については、公務中の事件、事故についてアメリカ側に第一次裁判権があるなど、米軍人と同じような特権が認められております。この事件を受けて、米軍基地の縮小と、米軍人軍属を特権的に扱う日米地位協定の抜本的改定を求める声が沖縄でも全国でも広がりました。政府は、ところが、政府は米国にこの協定の改定を求めずに、この補足協定の締結ということになりました。
大臣、なぜ当時、地位協定の改定を求めなかったんでしょうか。
○外務大臣(茂木敏充君) 二〇一六年四月、沖縄県うるま市におきまして発生しました米軍属によります殺人事件、極めて遺憾であります。大切な御令嬢を亡くされた御両親を始め、御遺族の心情は察するに余りあるものがあります。改めて、御遺族に対してお悔やみを申し上げるとともに、被害に遭われた女性の御冥福をお祈りしたいと思います。
本件事件を受け、事件直後から日米両政府は精力的に協議を行いまして、その結果、効果的にかつ速やかに対応できる適切な対応をどうする、取組をどうするかということで、二〇一七年の一月に軍属補足協定の署名、発効に至ったところであります。この補足協定は、法的拘束力を有する環境補足協定に続いて二例目の日米地位協定の補足協定となるものでありまして、従来の運用改善とは異なる重要な意義を有するものであると考えております。
実際に、この補足協定は発効後適切に活用されておりまして、政府として、引き続き、軍属に関する諸事項について、この補足協定に基づいて米側と緊密に連携して対処していきたいと思います。
○井上哲士君 適切に活用されていると言われました。
日米地位協定では公務中の軍属の第一次裁判権は米国にありますが、二〇〇六年までは、米軍は軍属に対しては公務証明書を出さないという運用をしていたんですね。なぜかと。一九六〇年に、米連邦最高裁が、軍属については平時に軍法会議にかけることは違憲だという判決を下したからなんですね。ところが、二〇〇六年に米国の軍事域外管轄法が制定をされまして、重罪の場合は軍属を米国内で裁判にかけることができると、こうなりました。これを受けて、米軍は、二〇〇六年以降、公務中の軍属にも犯罪が生じた際に公務証明書を出すようになったと、こういう経過なんですね。
しかし、この軍事域外管轄法が想定したのは、当時のイラクなど司法制度が機能していない国で活動する民間軍事会社の社員などの米軍属が犯罪を犯した場合なんですね。日本のように司法制度が機能している国の軍属犯罪に適用するのは、本来、法の趣旨と違うんです。ですから、二〇〇六年までの運用に戻す、つまり軍属の裁判権は日本にあると、こういう地位協定の改定を私はすべきだったと思うんですね。ところが、今述べられましたように、アメリカの裁量で軍属を拡大できる補足協定を結んだわけであります。
じゃ、それがどうなっているのかと。外務省、お聞きしますが、この補足協定締結時と今日の軍属の人数及びその中でコントラクターの被用者が軍属として認定されている人数はどういう推移でしょうか。
○外務省 北米局長(市川恵一君) お答え申し上げます。
軍属補足協定の署名、発効後、これに基づいて米側から通報を受けております軍属及びコントラクターの被用者の数は次のとおりでございます。
この協定、二〇一七年一月に署名、発効しておりますが、二〇一七年十月末時点の数字は、軍属七千四十八人、そのうちコントラクターの被用者は二千三百四十一人でございます。翌年二〇一八年十月の時点では、軍属一万一千八百五十七人、そのうちコントラクターの被用者は二千二百二十四人。二〇一九年九月の時点では、軍属一万一千二百八十人、そのうちコントラクターの被用者は二千四百九十六人。二〇二一年一月十三日時点では、軍属一万二千六百三十一人、そのうちコントラクターの被用者は三千百八十三人でございます。
○井上哲士君 一七年十月と二一年一月では、軍属全体では約一・八倍、コントラクターの被用者の軍属は約一・三六倍に増加をしております。
この認定者数は、一九年一月までは外務省のホームページで公表されていましたけれども、その後は公表されておりません。今年一月時点での人数が報道されましたので、私、外務省に資料提出を求めたんですね。ところが、驚くことに、これ資料では出さないことに日米間でなっているということで、口頭での数しか出されなかったんですね。資料提出されなかったんですよ。なぜ、こういうことになっているんですか。
○政府参考人(市川恵一君) 軍属の人数についてでございますが、先生、二〇一九年一月までは公表ということでございましたが、ホームページ上、平成三十一年一月二十五日の数字が載っておりますけれども、このときはまさに、軍事補足協定に関して米側が実施した、同協定発効から二年以内に既存の契約を更新するコントラクターの被用者が軍属の構成者として、構成員として資格を有するかどうかについて判断するための見直しに関して、それがまさに、その作業が終わったということでホームページに載せたという経緯がございます。
先生今御指摘の、御質問の点でございますけれども、外務省としましては、この補足協定に基づいて米側から提供される軍属の総数あるいはコントラクターの被用者の人数については、それぞれの問合せに対してしかるべくお答えをしてきております。こういう点から、その対応ぶりについて情報公開の観点から何か問題があるというふうには考えてはおりません。
○井上哲士君 いやいや、国会議員が資料要求しているんですよ。それを口頭では言う、電話でしか言わなかったんですよ。レクに呼んだら、ポストイットに手書きのメモを持ってきましたよ。
何で資料で出せないんですか。こんなことが日米間で制限されていると言ったら、本当に主権国家と言えるのかと思いますよ。ちゃんと答えてください。
○政府参考人(市川恵一君) 恐縮でございますけれども、数字についてのお問合せ、人数についてお問合せはしかるべくお答えしてきておるつもりでございます。
米側から提供された情報の公表ぶりについては、米側とも調整しつつ、今後とも不断に検討してまいりたいと考えております。
○井上哲士君 資料提供を求めても口頭でしか言わないのをしかるべくと言うのは、私、驚きました。こんなことまでアメリカにお伺い立てなくてはいけないのかと。
それだけじゃないんですね。補足協定の五条一及び合同委員会合意六によって、米国政府は日本政府に対して、軍属として認定されたコントラクターの被用者について、その氏名や雇用している会社及び当該者が該当する基準等について通報を行うことになっておりますけれども、この通報もいまだに行われておりません。その理由はどういうことでしょうか。
○政府参考人(市川恵一君) 御指摘の軍属補足協定第五条の一には、軍属に認定されたコントラクターの被用者について、米側から日本側に通報するための手続を定めるということが規定されております。また、合同委員会合意六では、補足協定の同規定を受けまして、通報には、コントラクターの被用者の氏名、当該コントラクターの被用者を雇用している会社及び当該コントラクターの被用者が軍属に該当するために満たす要件、こうしたものを含むこととしております。
日米両政府間では、軍属補足協定の着実な履行を確保するためにも、補足協定発効後、軍属作業部会を含む事務レベルの協議等を通じて、協定の実施に係る諸事項について緊密にやり取りを行ってございます。
その中で、御指摘の通報手続についても、通報についても補足協定及び合同委員会合意に従って手続を定めるべく、現在まさに米側及び関係省庁間で鋭意作業を行っているところでございますが、そのやり取りの詳細については差し控えさせていただきたいと思います。
○井上哲士君 既に四年もたっているんですね。手続を定めると言いながら、結局ここで言われたような氏名であるとか、その会社はいまだに公表されていないんです。
照屋衆議院議員の質問主意書に対して、このコントラクターの被用者を軍属の構成員とする米国による認定に疑義がある場合は、協定二条に基づいて設置される作業部会で日本政府が疑義を提起して協議をすると、こうなっているんですけど、通報もされないわけですから、疑義を出しようがないという、こういう状況になっているんですね、四年たっても。
元々、アメリカとNATOやアフガニスタンの地位協定は、米軍に直接雇用されていない者は軍属の対象から外れております。ところが、日本の場合は、軍の直接雇用でないコントラクターの被用者を軍属として認定できるとしています。そして、この補足協定では、その適格性評価の基準を決めるとしましたけれども、その評価するのはアメリカですから、結局裁量次第なんですね。
その下で、先ほどありましたように軍属の数は膨れ上がりました。そして、軍属補足協定以降の沖縄での米軍人軍属による刑事事件は、二〇一六年二十三件、一七年四十八件、一八年三十一件、一九年三十一件、二〇年三十九件、むしろ増えているんですね。
大臣、お聞きしますけれども、当時、岸田外務大臣は、この協定によって、軍属の範囲を明確化し、管理をより厳格に行うことによって事件の発生を極力抑えていくことにつながることに期待していると繰り返し答弁をされました。しかし、今の数を見れば、そのような効果は上がっていないんじゃないでしょうか。大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(茂木敏充君) 補足協定の一義的な目的、これは軍属の範囲を明確化することでありまして、この協定の着実な実施を通じて、米軍において米軍属に対する管理や規律が一層強化されることで、ひいては、米軍属によります犯罪の効果的な再発防止の一助となることが期待をされる、こういう思いで当時の岸田大臣は答弁をされたんだと思っております。
事件、事故と、発生の原因、様々なものが考えられるわけでありまして、その防止の徹底、極めて重要だと考えておりまして、様々なレベルでの働きかけを行っていきたいと思っております。
三月十六日に行われました日米2プラス2の際も、ブリンケン国務長官そしてオースティン国防長官の方には、私そして岸大臣の方から、しっかり事件の再発防止に向けて米側として取り組むよう働きかけを行ったところであります。
○井上哲士君 私お聞きしましたのは、当時、岸田大臣が言われたように、事件の発生を極力抑えていくことにつながると、期待すると、こういう効果は上がっていないんじゃないかという現状の評価をお聞きしております。もう一回お願いします。
○国務大臣(茂木敏充君) 先ほど三十一件、三十九件等々のお話いただきました。数字は数字として率直に受け止める必要があると思っておりますが、効果が上がっているか上がっていないかと、岸田大臣は、何というか、効果があることを期待するという話をされたわけでありますが、上がるためにはどうしたらいいかということをこれからもよく米側とも緊密に連携しながら検討していきたいと思っております。
○井上哲士君 当時、これで本当によくなるって大宣伝されたんですよ。
今ありましたけど、例えば去年の十一月にはタクシー強盗や傷害などの容疑で計十五人が逮捕されて、県議会は異常事態として全会一致で抗議決議を上げているんですね。相次ぐ事故や、事故をなくすという政府の姿勢、問われていますよ。県議会や県は、県、国、米軍による、米軍人・軍属等による事件・事故防止のための協力ワーキング・チームの開催を求めておりますけれども、これも一七年四月以降、四年以上開かれておりません。なぜ、これ開かれないんですか。
○政府参考人(市川恵一君) お答え申し上げます。
米軍人・軍属による事件、事故の対応につきましては、今御指摘のありました米軍人・軍属等による事件・事故防止のための協力ワーキング・チーム、通称CWTと呼んでおりますが、この場に限らず、具体的な再発防止等に係る関係者間の協議を含め、平素から日米間であらゆるレベルで様々な機会を通じて米側とやり取りをしているところでございます。
例を申し上げれば、昨年十二月十四日には、在沖縄米海兵隊と沖縄防衛局、沖縄県庁及び外務省沖縄事務所の四者による飲酒事案防止のための会議が行われ、建設的な議論が行われたところでございます。
次回ワーキングチームの開催については、現在、関係者との間で調整を行っているところでありますが、ワーキングチームの枠組みも含め、様々な機会を通じて関係者間の協議を行い、事件、事故の再発防止策に全力で取り組んでいくつもりでございます。
今後とも、米側に対しては、隊員の教育、綱紀粛正について更なる努力を求めていくとともに、地域の皆様に不安を与えることがないよう、日米間で協力して事件、事故の防止に全力で取り組んでまいります。
○井上哲士君 時間ですから終わりますけど、なぜ開かれないかというお答えがありませんでした。
結局、大宣伝されましたけれども、事件、事故は増えています。軍属、増えているんです。やっぱり、その防止には県や議会が求めてきた米軍基地の大幅な整理縮小、日米地位協定の抜本改定が必要だということを強く申し上げまして、質問を終わります。