井上ひろみ参考人(21世紀・老人福祉の向上をめざす施設連絡会事務局長)の意見陳述
○参考人(井上ひろみ君) お願いいたします。
私は、21世紀・老人福祉の向上をめざす施設連絡会、略称21老福連の事務局長をしております井上ひろみと申します。
本日は、このような貴重な機会をいただき、誠にありがとうございます。
当会は、老人福祉の向上を目指して活動している老人福祉施設関係者の全国連絡会です。私は、当会で昨年度二回実施いたしました全国アンケートの結果から、また、高齢者施設などを運営する社会福祉法人の理事長の立場から意見を述べさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
御承知のように、コロナ禍、特に第六波、第八波では高齢者施設のクラスターが急増いたしました。六波は三千二百件、七波は六千六百件、八波は八千九百件と増加しています。また、八波では高齢者の死亡者数が急増いたしました。
二月に変更されました基本的対処方針には、「社会経済活動を維持しながら、高齢者等を守ることに重点を置いて感染拡大防止策を講じる」とあります。私は、この対処方針の具体化を進めるとき、高齢者施設クラスターの多発と高齢死亡者の増加の要因を現場の実態に即して把握いただき、新たな指揮命令の仕組みや、組織によって感染拡大の状況に応じて迅速で的確な対応がなされることが非常に重要と考えております。そのような点から、高齢者施設でのクラスター発生と施設内療養の実際についてお伝えしたいと思います。
初めに、高齢者施設について簡単に説明させていただきますが、高齢者施設は、経済的理由や疾病、障害で自宅生活が困難な方、身体介護や認知症など介護や見守りが必要な方の入所施設です。人権と尊厳を守って介護や生活支援を行い、食事は日常は一緒にする、行事や交流をするなど、入居者同士や地域との交流を大切にしている施設です。二百人定員の大規模な施設もあれば、九人で家庭的に生活するグループホームのような場所もあります。このような施設でクラスターが多発いたしました。
資料をお配りしておりますので、資料の二ページを御覧ください。
令和四年九月の新型コロナ感染対策分科会では、七波での高齢者クラスター多発の要因として、ゾーニング、換気、陽性者対応時の感染防護が不十分であるということ、そして利用者のマスク着用困難や職員の感染持込みが要因として挙げられています。したがって、施設への感染を持ち込ませない対策が重要であるということを指摘されながら、ただ、感染対策を徹底しても、それでもクラスターが生じる場合があるとも指摘しています。
東京都の老人福祉施設協議会が老人ホームなどを対象に実施いたしました七波の調査では、クラスターが発生しやすい理由として、感染対策が困難という入所者特性、一緒に食事をするなどの施設の特性のほか、感染した利用者が入院できずに施設にいるからとの回答が八六%を占めています。その結果としての施設内療養で職員の負担が過大となり、感染防止、拡大防止が不十分になりやすかったと九割の施設が回答しています。
資料の三ページを御覧ください。
七波に行った私どもの21・老福連の調査では、全国の特別養護老人ホーム、養護老人ホーム二千十施設の七五%が陽性入居者は全員入院を徹底するべきと回答しています。その理由は、病状悪化したときに対応ができない、施設ではコロナの適切な治療ができないが多数です。また、施設内療養すべきの回答は一七%ありますが、回答施設の半数以上が受入れ医療機関がないからとの理由を選択しており、やむを得ないとの受け止めであることも分かります。
次に、施設内療養の実際についてです。資料の四ページを御覧ください。
21・老福連の八波の調査では、回答施設の半数以上でクラスターが発生し、その九八%が施設内療養を実施しています。陽性者の九割以上が施設内療養となった施設が半数を超え、陽性者全員が施設療養したところは三割もございました。陽性となった入居者の八七・四%が施設内で療養し、一施設当たり平均十七名の陽性者に対し、介護職が感染防護をして身体介護や認知症の方へのケア、そして病状の観察を行ったことになります。
同じページの下の表に入院できなかった理由というのがありますが、入院できなかった理由の多くが病床の逼迫、国や自治体の入院基準を満たさなかったです。病床逼迫はもとより深刻ですが、高齢者は原則入院であるはずなのですが、それ以外の入院基準により入院できない事例も相当数あったということです。
京都府の保険医協会が行った、七波以降に障害者施設も含めて行った調査では、陽性者の八〇%が施設内療養。東京都の先ほどの調査でも、八三%が施設内療養になったと報告されています。どの調査でも八〇%以上ですから、もはや原則施設内療養であったというのが現場の実態です。
続いて、クラスター発生や施設内療養の中で入院や適時適切な医療にアクセスできずに入居者が亡くなられている現状についてお話しします。資料の五ページを御覧ください。
七波のアンケートでは、二千施設のうち百三施設が施設内で亡くなった方がおられると回答しました。二回通院しても入院できず、ようやく決まった入院前日に急変して救急搬送したが、病院にも入れずそのまま亡くなった、保健所に、入院しても助かる見込みはないと言われ、施設でみとったなどの回答がありました。
また、八波のアンケートでは、療養期間中に感染により施設や入院先で亡くなった方は陽性入居者の三・五%でした。アドバイザリーボードで示されています七波での八十歳以上の致死率は一・六九%、この二倍です。感染の影響で亡くなった方を含めると六・五%です。十五人に一人が亡くなっています。高齢者の命が見捨てられているように感じてならないとの記述もありました。
感染や感染の影響で亡くなられた方、御家族はどれほど無念だったことかと思います。施設職員は、施設で感染されたこと、適切な医療につなげられなかったことに責任を感じ、本当に苦悩しています。同時に、事実上原則となった施設内療養が施設入居者の死亡者を増やしているのではないかとの懸念もあります。
資料の六ページを御覧ください。
八波のアンケートでの入院率と死亡者数をグラフにしています。入院率五〇%以上の施設では施設内で亡くなった方はおられません。入院率が高ければ施設内で亡くなる人は少ないのではないかと思わせる結果です。けれど、少ないデータですので、もっと大きなデータで是非検証いただきたいと思っています。
ある高齢者施設の例ですが、施設クラスターの中で感染した基礎疾患のある七十五歳の方が抗ウイルス薬を服用しても病状が悪化し、保健所に入院相談をしました。けれど、入院調整を行うセンターが入院は不可と判断しているとの返答でした。理由は、その方が心肺停止時の蘇生処置を拒否していること、施設で点滴や酸素吸入、病院のような酸素吸入ではありませんが、酸素吸入、投薬ができることでした。入院ができないまま数日が経過し、血中酸素飽和度が急激に下がり、救急車を要請し、救急車が到着したものの、入院調整を行うセンターからは、病院でできる対応と施設でできることは変わらないので入院は不可と言われました。施設職員が、このままでは亡くなってしまうと食い下がりましたが、それでも病院ではそれは同じだとの回答でした。その後、救急隊員も酸素投与量を二倍以上に増やして、何とか改善の見込みがあるということを証明し、交渉の上、何とか入院ができました。この方は、治療の後に施設に再入所され、御自分で歩き、施設で毎日の日課である新聞を読むなど穏やかに生活しておられるそうです。施設職員は、この方の元気な姿を見るたびに、あのとき諦めていたらと胸が苦しくなると話しています。
この事例から分かるのは、さきのアンケートで、このままみとってくださいと医療機関で診察が受けられずに亡くなった方の中には、入院加療をすれば、又は重症化する前に適時適切な医療が受けられれば回復された方があるかもしれないということです。高齢であっても施設入居者であっても、新型コロナの治療を受ける権利を奪うことは決してあってはならないことだと思っています。
高齢者施設クラスターを起こさないためには、感染の施設への持込みを防ぐこと、五類移行後も感染対策や集中的検査が非常に重要であることは間違いありません。現場の私たちも、引き続き対策を継続していきたいと思います。同時に、医療にアクセスできずに施設入居者が亡くなる事態を起こさないためには、陽性者の原則入院を徹底して施設内療養をなくしていくこと、万一クラスターが発生しても最小限に抑えられるようにすること、重症化防止のための治療と、そして重症化した場合に確実に入院加療できるようにすることが今最も必要なことです。
資料の七ページを御覧ください。
今後も、地域で感染が拡大すれば施設への持込みや感染拡大リスクは高まります。三月十日に出された感染症法上の位置付け変更に伴う医療体制及び公費支援の見直しでは、地域包括ケア病棟などでの陽性者の入院受入れの促進も出されましたが、本当に受入れが進むのかと非常に不安です。また、入院が必要な人が確実に入院できるようにするためには、施設と医療機関の連携強化に任せてしまうだけではなくて、保健所や都道府県による入院調整がやはり必要です。
五類移行に当たっては、私たちの連絡会だけではなく、全国の老人福祉施設の協議会は施設入所者の陽性者は必ず入院と求めていますし、老人保健施設の協会も、施設医師が重症化リスクが高いと判断すれば重症度にかかわらず原則入院を求めています。入院が必要な高齢者が必ず入院できるよう、そういったことを日本の隅々で行えるように切にお願いいたします。
最後に、高齢者施設や介護現場で今後感染が拡大しても高齢者に必要なサービス提供を続けるために必要なことについてです。
八ページを御覧ください。
クラスター発生や感染により困ったことや苦労したことで最も多かったのは、職員の感染により勤務体制が組めなくなったことです。職員が次々に陽性となり二十四時間のシフトが組めない、疲れ果てて精神状態が保てない、虐待してしまいそうだと職員が訴えた、このほか、保健所からは駄目だと言われたが、職員の少ないグループホームでは、陽陽介護、陽性者が陽性者を介護するということをせざるを得なかったなどの回答であふれました。
私の法人の特別養護老人ホームでは、二十人から二十四人の要介護ほぼ三以上の入居者の方を夜間は一人で介護しています。介護保険の基準の一・五倍の職員配置でこの状態です。平時から極めて少ない人数で介護しているところ、感染発生によって職員が休業し、さらに感染防具をしての介護ですので、過酷を極めています。職員体制が組めなくなることで、感染していないフロアや感染していない入居者の介護にも大きく影響し、感染していない方の入浴も全てストップしたという回答も出されました。感染症蔓延時にも福祉・介護サービスを継続するには、平時から余裕のある職員配置基準への見直しや担い手不足への対策を是非ともお願いしたいと思います。
また、事業の休止による大幅な減収、掛かり増し経費や施設内療養補助の事務手続も苦労したということが挙がっていました。
資料九ページを御覧ください。
五類移行後も継続すべき対策、対応としては、入院受入れ医療機関の拡充のほかに、ワクチンの無料接種の継続、掛かり増し経費の継続が多数を占めました。ワクチン無料接種は令和五年度は継続されると伺っていますが、高齢者と同様に、施設従事者も、そして在宅サービスの従事者の接種も必ず進めていただきたいと思っています。
また、アンケートでは、九四%が掛かり増し経費かそれ以上の経営への補助が必要と回答しています。病床逼迫で入院ができないために施設内での療養となり、応援体制を取るため、また陽性者を分離するためにデイサービスやショートステイを休業しています。この場合、感染発生がしていないこと、事業を休止しているということでデイサービスやショートステイは掛かり増し費用や介護報酬の特例からは対象外となり、何も補償されません。
これは高齢ではないんですが、ある障害者施設では、こういった休業によって八千万円の損失となったなど、事業継続そのものが危ぶまれるという状態です。高齢者や障害者の日常生活に不可欠な福祉サービスを安定して提供するには、事業を継続するというための支援が必要です。是非御検討いただきたいと思います。
最後の資料です。
これまで主に七波、八波での高齢者施設の現状をお伝えいたしました。その上で、今回の新型インフルエンザ特措法等の改正については、これまでの新型コロナ対策を踏まえていただきたい、検証していただきたいというふうに思っています。高齢者施設の実態や入院加療できずに亡くなった施設・自宅療養者について調査し、改善する対策を是非ともお願いします。そして、高齢者の死亡者の増加は国民生活に甚大な影響を及ぼす事態だというふうに認識いただいて、高齢者を置き去りにしないことに重点を置いて、新たな組織や司令塔が迅速で的確な措置を講じていただきたいというふうに願っております。
以上で私の意見とさせていただきます。ありがとうございました。
参考人に対する質疑
○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
今日は、三人の参考人の皆さん、本当に貴重な御意見をありがとうございます。
まず、井上参考人にお聞きいたしますけれども、本当に高齢者施設の現場の実態や御苦労、そして課題を具体的に生々しくお話しいただきまして、ありがとうございます。
流れを見ていますと、当初、かなり高齢者施設においていろんな対策がされて、ほとんどクラスターとか起きていなかったと思うんですが、やっぱり第六波以降に非常に爆発的に増えました。一方で、政府はウイズコロナというのを打ち出している中で、何がその、当時、私たちも例えばその高齢者施設についても検査なんかを全員に定期的にやるようにとか、いろんな申入れもしてきたわけでありますけど、まずそういうクラスターを防ぐという点で何がもっと必要だったのか。その点、いかがお考えでしょうか。
○参考人(井上ひろみ君) ありがとうございます。
確かに第六波から感染者が非常に増えたということは間違いないと思います。施設で勤務している職員は、小さな子供がいたり、高齢者を介護している家族もいますし、一般の会社のお勤めをされている方が家族におられる方もいますので、やはり感染が拡大するということ、感染対策が緩和されると、どうしても社会生活の中で感染をして、それが注意をしていても施設に持ち込まれてしまうということがあったということが一つありますので、集中的な検査ということと、あと、私どもも、今はちょっと中断していますけれども、感染拡大のときには三日に一度検査キットをたくさん持って帰って、三日に一度家で検査をしてから出勤するというふうにしておりました。
ただ、その検査は抗原検査になりますので、そのときに出ていなくても、感染していても出ない場合もありましたりですとか、鼻腔にする検査ですので、本来でしたら医療者の方がされるべきところ、個人がマニュアルを見ながらするということで、十分な検査ができないというようなこともあったかと思いますので、一つは持込みを防ぐというためには集中検査はまだしばらく続けないといけないということがあります。
もう一つは、第六波の辺りから、施設内で療養するということが、非常に国から強くメッセージがされたというふうに私は思っております。
高齢者は原則入院だけれども、ごく軽症で医師が入院の必要が、入院が必要ないと判断した場合で、病床が逼迫している、最大限入院の調整をしても駄目な場合は施設の療養があり得るというふうな最初書き方でしたし、書き方としてはそのまま、また令和三年の十月ぐらいに出ていたと思うんですけれども。ただ、その後に、施設内でどういうふうに療養するのかというのが、非常に詳しい施設内での療養の指示が出されてきたということがありまして、それを受けて、やはり都道府県や市町村の保健所であったり、入院調整をされるところが、あっ、これは施設内で療養するということはまああり得るんだなというふうに受け止められたということも一つは大きかったのではないかなというふうには感じております。
○井上哲士君 ありがとうございます。
今の問題、私、この間本会議でもちょっと取り上げたんですけど、京都府の、紹介された京都府の保険医協会のアンケートでも、病院、施設の医師が必要と判断したのに、府の入院コントロールセンターが入院不可だと言ったのが二六%あったというお話だと思うんですね。今言われたのは令和二年十一月の事務連絡だと思うんですけど、ここはあくまでも医師が入院の必要がないと判断をしたと書いてあるんですけど、つまり、施設の医師と府のコントロールセンターの意見が違うということになっているわけですよね。しかし、実際にはもう府がそういうふうにやってしまっているという、あると思うんですけど。
どういう、このやり取りがあるのかということと、それから、やっぱり、これは京都だけではなくて、全国的にそういう、国のそういう方針の下で、まあ後ろ盾にして、かなり都道府県における入院抑制が行われたということなんでしょうか。
○参考人(井上ひろみ君) 本当にアンケートで示されているところですので、ごく限られた事例だと思いますけれども、例えば肺の疾患がなければもう入院の対象じゃありませんですとか、SpO2、酸素飽和度が九〇を切らないといけない、もう中等度Ⅱよりももっと下の重症になるかというところなんですが、そういった基準がそれぞれで設けられていたということはあるというふうに思っています。
あと、多くは、入院の調整をされるセンターと直接というよりは、入院のセンターの医師の判断を保健所の方が伝えるというふうな形に、施設との関係ではなりますので、保健所の方が入院を不可というふうにおっしゃる、でも施設の医師は入院が必要だと言っているというふうな問答がずっとやり取りされるという形でした。
私どもは、それを京都府さんにもかなりお伝えをしたりもしていましたので、第八波のときには、入院の判断をされるのは施設の医師ですというふうにはおっしゃるんですけれども、じゃ、ちょっと入院の調整何とかしてくださいというふうに申し上げると、でも病院が逼迫していて無理なんですということでしたので、そこは、結局は入院ができなかったということに現実にはなっていたということだと思っています。
○井上哲士君 ありがとうございます。
国会の論議や、そして政府のいろんな会議の中でも、まあ、それでも十分とは言いませんが、医療現場のことはかなり議論をされたと思うんですけど、今日お話しいただいたようなやっぱり高齢者施設や介護の現場のことが、特に第六波以降爆発的に広がったことが必ずしも世間的にも知られていなかったり、いろんな施策の中にも届いていないんじゃないかという印象を私持っているんですけれども、現場にいられて、それはどうでしょうか。
○参考人(井上ひろみ君) ありがとうございます。
私どもも、私どもの連絡会だけではなくて、先ほども御紹介しました、本当に、全国一万からの会員を持たれている協議会ですとかいったところも繰り返し発信をされてきていると思うんですけれども、なかなかそれが改善するというふうになってこないということにすごくつらい思いをしているところではあります。
先日の衆議院の方での質問を少しお聞きしていたんですけれども、入院しないといけない人は入院できているというふうにお答えになられ、厚生労働省の方がお答えになられていたりですとか、私どもが、私どもの都道府県でお話ししたときにも、知事さんは、入院が必要な人は入院できているんですというふうにおっしゃることとの現場との余りの違いに、どうしてそうなるのかしらというふうにはずっと思っていたところです。
ですので、やはり私どものような小さな連絡会がしたような調査ではなく、やはり全国的な施設の実態や、そこで亡くなられた方がどんな形で亡くなられたのか、保健所や入院調整のセンターとどんなやり取りをされていたのかということを、ちょっと大変だとは思いますけれども、そこが検証されないとこの問題は解決しないのではないかなと思っております。
○井上哲士君 ありがとうございました。本当にそういう調査は大変重要だと思いますので、是非政府にも求めていきたいと思います。
次に、齋藤参考人、二木参考人にそれぞれお聞きするんですけど、今もありましたように、第六波以降急速に患者数も死者数も増えたわけですね。一方、政府は、ウイズコロナということを岸田政権は打ち出したわけですが、それとかなり違う実態が起きました。
一方で、ウイズコロナ宣言をされる中で、国民的に言えばもう大したことないんじゃないかという雰囲気もあったと思うんですけど、これはやっぱり、第六波以降第八波にかけて感染者、死亡者とも急増したその原因について、それぞれどのようにお考えでしょうか。
○参考人(齋藤智也君) 御質問ありがとうございます。
やはりウイルスの性状が大きく変わって、その感染性というのが、感染伝播しやすさというのが高まっている状況の中で、更にウイルスが変異を繰り返して、そのせっかくできた免疫を逃避してしまうという性質もある。
一方で、人々の行動というものも以前と違う。以前よりは大分、だんだん対策のレベルにも人によって違いが出てくる、そして接触の機会も増えていくという中で、やはり感染者というのはそこで増えてくることになるし、一方で、そのリスクというのは大分、ワクチンの普及によってその死亡、重症に至るリスクは減ったわけですけれども、まだ重症化リスクの高い方がいらっしゃる。そうすると、感染者が増えればそういう方まで感染、重症化リスクの高い人にまで感染が届いてしまって、そこで亡くなる方なども一定数出てきてしまう、そういうメカニズムはあったのかなというふうに思います。
○参考人(二木芳人君) 基本的には、今の齋藤先生がおっしゃったこと、そのとおりだと思いますけれども、第五波までと第六波からでは政府の対応が違ったということで、ウイルスが一気に変わりまして、ですから、それまでとは感染力が、うっかりすると二倍以上強いようなオミクロン株がやってきたと。
ただし、今お話があったように、ワクチンが進んで、ある程度国民の抵抗力というようなものが付いてきたしと、それから治療薬などもそろったしというところで、明確に政府の方がこの辺りからいわゆるゼロコロナ対策というのをやめられて、少しいわゆる経済優先の方にかじを切られた結果だろうというふうに思いますね。
特に第七波以降は、その辺り、先ほどの医療体制の提供の仕方なんかも変わってまいりましたし、それから、七波が終わった後に例の届出方式も変わりましたですよね。あそこでますます、もう今までのようにつぶさに細かいことまで聞いて登録しなくていいと、数だけでいいというようなことになったりして、そういうことが伝わりますと、やはり国民の人たちの警戒感がかなり落ちたんだろうというふうに思います。それと、もうこんなものはインフルエンザと一緒で風邪みたいなものだというふうな風潮も出てまいりましたので、少々具合が悪くても検査しないと。それから、あるいは検査が陽性になっても、もう規制がないので、仕事に行ったり遊びに行ったりする人もかなり増えたと。それが一番顕著に出たのが八波です。
ですから、八波は、感染者数は実は七波より少ないんですけれど、私は、恐らくそれはかなり過小評価だろうと、恐らく七波の倍ぐらいの感染者がいたんじゃないかと。そういう人たちは検査もしない、あるいは検査をして陽性になっても症状が軽ければもう報告もしないということで、こういうふうな高齢者施設の中、あるいは病院の中までウイルスが持ち込まれるというふうな事態が増えて、いわゆる感染弱者に対してですね、感染が増えて、そういう方々はやはり感染するとお亡くなりになりますから、実際には、七波より感染者数は少ないけど死者数が倍ぐらいいますよね、そういうような事態が出たんだろうというふうに思います。
ですけれども、トータルで七万数千人ぐらいですから、よその国に比べると、六、七、八波でそこの数が増えたんです。ですから、そこまで頑張って、ある程度、いわゆる中国と同じように、ゼロコロナをやめたタイミングが、少し時間稼ぎをした結果、比較的被害を少なくしたんだろうとは思いますけれども、そこで被害を被ったのがやはり高齢者と有病者ということになったんだろうというふうに思っています。
○井上哲士君 今、届出制の変更のことがお話ありましたけど、今度五類に移行しますと死亡者数の公表は二か月程度掛かるということが言われておりますし、厚労省はより早く推移を把握するために一部自治体には死者数の報告を早めるように要請するということが今朝も報道されておりましたけれども、これも二木先生にお伺いしますが、ただ、今のこの山を見ますと、もう二か月ぐらいで山できることを考えますと、こういうようなことでは対策がかなり後手後手になってしまうんじゃないかという懸念を持っているんですけれども、その辺いかがでしょうか。
○参考人(二木芳人君) いわゆるサーベイランスとしてそういうふうな症例の実態を把握するというのは非常に感染対策を立てる上では重要です。ですけれども、この元々、届出の方式が変わったのは、医療従事者に対して非常にその届出の負担が大きいということもあって、そういうところが変更されたんだと思いますね。
今度は、法律そのものが変わるというか、感染症そのものの取扱いが変わりますので、インフルエンザと同じいわゆる定点報告と。恐らくインフルエンザのものをそのまま使うんだろうというふうに思いますけれども。やはり、今御指摘のあったような点は、どうしても一週間ごとに少し遅れて情報が出てくるということになりますので後手に回りますが、今の段階を考えると、とんでもない変異株が出てこない限りは、今、ゴールデンウイーク明けに九波が来るんじゃないかという予測なんかもありますけれども、感染者数は増えても、それほど大きないわゆる死亡者が増えるような事態あるいは医療逼迫ということにはつながらないかなというふうには楽観視しておりますので、少し様子を見て、そういうふうなものが出てきたら、その辺りの方法を変えていただくということを検討していただくことが正しいと思います。
○井上哲士君 最後、短く二木先生、もう一問ですけど、いろんな医療機関の連携とか派遣とかいうことを政府は出しておりますけど、この間の事態を見ますと、実際にはもうそもそも人が足りないということでそういうことができなかった、ベッドを確保しても実際には稼働しないがあったとかいうことがあると思いますが、そういう人的体制を中心とした医療体制の強化について、どうお考えでしょうか。
○参考人(二木芳人君) そこも、もうかねてからの問題点ですよね。
やはり、医療人材は、医師だけではなくて、看護師さんも、介護の人もそうでしょうし、もういろんな人が、全部これ不均衡分布、いるところにはそこそこおいでになるので。特に医師なんかそうですよね。都市にはおいでになりますけれども、地方に行くと、もう例えば東京と千葉を比べただけでも随分違うということで、その辺りをある程度平素から均等分布ができるような仕組みと。例えば保険医の定員制というような考え方もあるようですけれども、それに準じるようなことを検討していただいて、ある程度その辺りを満遍なくそういう人材が行き渡るようにしていただくことと、もう一つ、パンデミック対応は広域に捉えることと。例えば、東京都とか千葉県ではなくて、関東五県で考えちゃうとか、そういうふうな広域で捉えてお互いにやり取りするというふうなこともパンデミック時には必要かなというふうに思っております。
○井上哲士君 ありがとうございました。終わります。