○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
会派を代表して、新型インフルエンザ特措法及び内閣法の一部を改正する法律案について、総理に質問します。
本法案は、新型コロナウイルス感染症対策本部が決定した、これまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の具体策のうち、政府の司令塔機能の強化に対応して内閣感染症危機管理統括庁を設置するものです。
庁の名前を付けていますが、内閣府に置かれた金融庁などのような外局ではなく、これまでに例のない統括庁であり、行政ラインはこれまでのコロナ対策室と同じように官房長官の下にあります。統括庁に置かれる役職のトップの内閣感染症危機管理監は内閣官房副長官から指名し、内閣感染症危機管理監補は内閣官房副長官補から指名するとされています。
庁という名前が付いても、行政組織的にも人的にも、これまでのコロナ対策室と変わりがないのではありませんか。
岸田総理が総裁選公約で健康危機管理庁を掲げたのを受け、新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議が設置されたのは参議院選挙前の二〇二二年五月でした。六月に報告が出され、その僅か二日後に内閣感染症危機管理庁をつくることを政府の対策本部で決定し、本法案が提出をされました。
岸田総理の総裁選挙での看板政策であった危機管理庁とのつじつま合わせと、参議院選挙戦、選挙前のパフォーマンスだったと言わざるを得ません。
今必要なことは、形だけの組織いじりではありません。これまでの政府の取組についての徹底した検証と科学的知見に基づく対策の強化です。
政府が危機管理庁をつくることを決定して以降、コロナ患者の死亡者は急増しました。二〇二二年八月の第五波の死亡者は二千八百六十五人、第六波九千七百九十六人、第七波一万三千五百二十二人、第八波では二万一千四百三十二人と過去最高となり、二〇二二年の死亡者数は三万八千八百八十一人に達しました。総理はこの深刻な実態をどう受け止めていますか。
総理は衆議院で、感染者の数が感染力の強いオミクロン株によって増えたことによって高齢者や基礎疾患や合併症を持っておられる方々の死亡が増えたと分析をしていると答弁をされました。
しかし、感染が急拡大したにもかかわらず、専門家の意見を聞くことなく、逆に感染対策を緩和したことが感染者と死亡者の急増につながったのではありませんか。
重大なことは、多くの方が医療を受けることができないままに自宅や介護施設で亡くなったことです。
特に、第六波以降、七十歳以上の死亡者が九割を占めています。高齢者施設でクラスターが多発し、感染者に対して医師が入院の必要を判断しても施設に留め置かれ、亡くなる事例が多く生まれました。
京都府保険医協会が実施した第七波以降の調査では、感染者が発生した施設は八六%に上り、感染者二千五百七十八人のうち八〇%が施設内治療でした。施設内治療を行った施設の四七%が入院が必要と判断したができなかったと回答し、そのうち二六%が府の入院コントロールセンターが入院不可だと言っていると伝えられたとしています。同時期に、府の調べでは少なくとも百六十九人が高齢者施設内で死亡しています。
政府が原則入院としつつ病床逼迫を理由に施設内療養を推進したことを後ろ盾にして、入院が必要とされた患者の入院ができないような選別が行われたと指摘されていることを総理はどう認識していますか。
クラスターの拡大や感染を引き金にした高齢者の死亡をなくすには、施設内療養ではなく、陽性者を施設から離し、医療を保障すべきではありませんか。答弁を求めます。
必要な医療が提供できない事態を招いた原因は、歴代政府が続けてきた医療費と医師養成数の抑制政策により、医療、看護人材の絶対数が足りなかったからです。
緊急時の対応には、平時の医療体制に余裕が必要だということがコロナ禍を通じて明らかになりました。総理にその認識はありますか。
にもかかわらず、政府は、地域医療構想の名で公立・公的病院の統廃合、急性期病床の削減を進め、消費税を財源とする補助金により、この三年間で見込みを含めて実に八千床を超える病床削減を行いました。コロナ感染拡大が続いている中の削減などあり得ないことです。
公立・公的病院の統廃合、病床削減を中止し、地域の医療体制の拡充に転換をすべきです。お答えください。
政府は、新型コロナウイルスの感染法上の扱いについて、五月八日から季節性インフルエンザと同じ五類に引き下げることを決めました。
法律で五類に見直しても、新型コロナの感染力の高さなど危険性が下がるわけではありません。新たな変異株も懸念されます。後遺症の問題も深刻です。総理の認識を伺います。
厚生科学審議会感染症部会で了承をされたとしていますが、同部会の専門家たちは、ワクチンもなかったことと比べて、頃と比べて私権制限に見合った状況ではないという判断から類型変更を了承したのであって、予防や医療への公的支援の後退まで了承しておりません。
ところが一方、現在は無料としている検査や外来、入院時の費用に患者負担を求め、コロナ患者に対応する医療機関への財政支援は大半が縮小されます。公費医療の縮小が受診抑制や治療の中断につながり、感染の拡大や死亡者の増大をもたらすのではありませんか。
政府は、五類移行で、コロナ対応の医療機関が増えるとしています。しかし、高齢者や持病を持っている人などが集まる医療機関は五類になってもこれまでと同様の対策が必要です。
埼玉県保険医協会の会員アンケートでは、発熱者やコロナ患者を分ける動線の確保ができないなどの理由で、現在コロナ患者を診ていない医療機関は五類に移行しても八割超が診ることができないと答えています。
全国自治体病院協議会の小熊豊会長らは、縮小された病床確保料や診療報酬特例では経営的に成り立たず、コロナ対応から撤退せざるを得ないと考える民間病院が出てくる、そうなれば公立病院のコロナ対応に負担が掛かり、公立病院も診療制限という悪循環に陥ることを危惧していると述べられています。
医療機関のコロナ対応をより困難にし、一般医療にも制限が生じることにつながる医療機関への支援の縮小は見直すべきです。答弁を求めます。
衆議院の参考人質疑では、クラスター発生時の医療機関のスタッフの疲弊や病棟の一時閉鎖等による経済的ダメージに対して医療機関への救済策がなければ、感染者を受け入れる入院医療機関が増えない可能性が危惧されると述べられました。医療機関でのクラスター発生時の救済策を明確に示すことが必要です。答弁を求めます。
新型インフル特措法の持つ根本的な問題も見直す必要があります。
同法は、憲法で保障された国民の基本的人権を制限する私権制限を行う法律です。しかし、私権制限の起点となる緊急事態宣言、まん延防止等重点措置の発動要件は法文に明記されることなく曖昧です。
一方、休業要請などの経済的措置に対する補償がなく、飲食店など多くの事業者が感染症対策への協力と事業を守ることのはざまで苦しみ、廃業を余儀なくされました。
このように、補償なき自粛が営業と暮らしに重大な問題をもたらしたことを総理はどう認識されていますか。
緊急事態宣言、まん延防止等重点措置の発動要件を法律に明記するとともに、私権制限や自粛要請に対し正当な補償を行う規定を設けることを求めます。
以上、改めて政府の対策の徹底した検証と科学的知見に基づき命と暮らしを守る施策の抜本的な強化を求めて、質問を終わります。(拍手)
○内閣総理大臣(岸田文雄君) 井上哲士議員にお答えいたします。
内閣感染症危機管理統括庁の設置の意義についてお尋ねがありました。
統括庁は、昨年の有識者会議の報告書等を踏まえ、行政の縦割りを排し、各省庁の対応を強力に統括する司令塔組織として、国政全般の総合戦略機能を担う内閣官房に設置することとしたものです。
現在の新型コロナウイルス等感染症対策推進室は、副長官及び副長官補の指揮監督下に置かれ、感染症危機発生時の初動対応は所掌していないのに対し、統括庁は、政府対策本部長として、行政機関の長や都道府県知事に対する指揮権を有する、指示権を有する総理及び官房長官を直接支え、感染症危機管理、危機発生時の初動対応を含めて司令塔機能を一元的に所掌している点で位置付けや機能が大きく異なるものであると認識をしております。
統括庁が司令塔機能を発揮し、各省庁等における平時の準備を充実させること等を通じて感染症危機の発生時に迅速かつ的確に対応することが可能となるものと考えております。
新型コロナの死亡者数などについてお尋ねがありました。
新型コロナの感染拡大に際して亡くなられた方の御家族の皆様には心よりお悔やみを申し上げます。
これまで、国民の命と暮らしを最優先で守る観点から、感染拡大と社会経済活動のバランスを取りつつ、科学的知見やエビデンスを重視し、専門家の意見を伺いながら、コロナ対策に最大限取り組んでまいりました。こうした取組により、新型コロナの人口当たりの感染者数、死亡者数は他のG7諸国の中でも低い水準に抑えられているものと認識をしております。
また、オミクロン株の下で感染対策について、専門家の意見を聞くことなく感染対策を緩和したとの御指摘ですが、昨年秋以降、ウイズコロナに向けた段階的な移行を進めてきましたが、その際には、専門家の意見をしっかりと踏まえて、科学的知見に基づき取組を進めてきたところであり、御指摘は当たらないと考えております。
高齢者施設における新型コロナ対応についてお尋ねがありました。
これまでの新型コロナ対応においては、医療資源に限りがある中で、入院治療が必要な患者が優先的に入院できる体制を確保するとともに、高齢者施設等で療養する場合に備え、高齢者施設等に対する医療支援の充実、これを図ってまいりました。
その上で、新型コロナの感染症法上の位置付けを変更した後においても、入院が必要な高齢者が適切かつ確実に入院できる体制を確保できるよう、高齢者施設等と医療機関との連携強化等の各種措置について当面継続することとしております。
さらに、次の感染症危機に備え、昨年十二月に感染症法等を改正し、病床の確保や高齢者施設の療養者等を含めた自宅療養者等に対する医療の提供について、数値目標を盛り込んだ予防計画を都道府県が策定し、地域の医療機関等と協定を締結することなどにより、平時からの備えを確実に推進することとしております。
こうした取組を進めることにより、重症化リスクのある高齢者等に必要な医療が提供されるように取り組んでまいります。
地域の医療提供体制についてお尋ねがありました。
新型コロナのような新興感染症等の感染拡大時には、機動的に対応できるよう、地域の医療機関の役割分担、連携の強化、医療従事者等の弾力的な配置などが必要と認識をしております。このため、昨年の感染症法改正により、都道府県知事が平時に医療機関と協議を行い、感染症発生、蔓延時における病床確保や人材派遣等について協定を結ぶ仕組みを法制化するなど、流行の初期段階から機能する医療提供体制を構築することとしております。
地域医療構想は、中長期的な人口構造の変化や地域の医療ニーズに応じて、病床機能の分化、連携により質の高い効率的な医療提供体制の確保を目指すものであり、新型コロナ対応を通じて明らかになった地域の医療機関の役割分担等の課題にも対応するものです。公立・公的病院を含め、病床の削減や統廃合ありきではなく、地域の事情を十分に踏まえ、自治体等と連携して地域医療構想を着実に進めてまいります。
新型コロナの五類感染症への変更等についてお尋ねがありました。
オミクロン株については、感染力が非常に強いものの、デルタ株流行時と、流行期と比べて八十歳以上の致死率が四分の一以下となっているなど、重症度が低下しているといった科学的な知見が示されています。このような科学的知見や専門家によるオミクロン株に関する病原性、感染力、変異の可能性等の評価、感染状況等を踏まえ総合的に判断して、新型コロナを五類感染症に位置付けることとしております。
五類感染症への変更後も、変異株の監視を継続し、オミクロン株とは大きく病原性が異なる変異株が出現するなど科学的な前提が異なる状況になれば、政府対策本部決定に従い直ちに対応を見直します。
また、新型コロナ後遺症については、これまでも診療の手引きによる医療機関への情報提供を行ってきたところであり、さらに、後遺症に悩む方がかかりつけ医等や地域の医療機関において適切な医療を受けられるよう、対応する医療機関リストの公表に向けた取組、これを進めているところです。
新型コロナの医療費の公費負担や医療機関への支援についてお尋ねがありました。
新型コロナの感染症法上の位置付けの変更に伴い、医療費の自己負担分に対する公費支援は見直すこととなりますが、急激な負担増を回避するため、医療費の自己負担に係る一定の公費支援について期限を区切って継続することとしております。
また、今後は、幅広い医療機関で新型コロナの患者に対する医療体制に段階的に移行することとしており、その際、設備整備等の支援を行うとともに、病床確保料や診療報酬の特例などの措置についても、必要な見直しをした上で当面継続することとしております。
さらに、これまで、新型コロナの入院受入れ医療機関でない医療機関で院内汚染、院内感染の発生により病床閉鎖などを行った場合の支援を行ってきたところであり、幅広い医療機関で対応する体制に移行するため、こうした対応も参考にしながら、必要な支援、取り組んでまいります。
インフル特措法に基づく緊急事態措置の要件や補償についてお尋ねがありました。
緊急事態措置及びまん延防止等重点措置の具体的な要件は、新型コロナ、失礼、新型インフルエンザ等の発生時に迅速かつ的確に対応できるよう政令で規定することとしていますが、国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼすおそれがあるなど、これらの措置を実施すべき事態を法律に規定するとともに、こうした事態が発生した際には公示することとしており、こうした仕組みを通じて適正な運用を確保しているところです。
緊急事態措置等に伴う営業制限については、インフル特措法の制定時の議論や判例を踏まえた上で、補償という考え方は取っておりませんが、国及び地方公共団体が休業要請等を行う場合において、事業者の経営や国民生活への影響を緩和するため、インフル特措法における事業者に対する支援に係る規定に基づき、必要な支援を行ってまいりました。
今後も、インフル特措法の趣旨に基づき、要請による経営への影響の度合い等を勘案し、事業者に対する必要な支援、適切に行ってまいります。(拍手)
本会議(インフル特措法改定案)
2023年4月 7日(金)