国会質問議事録

ホーム の中の 国会質問議事録 の中の 2023年・211通常国会 の中の 内閣委員会(フリーランス取引適正化法案)

内閣委員会(フリーランス取引適正化法案)

○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 先日の本会議で、業務委託契約時の取引条件の明示義務が抜け落ちているという問題を指摘をいたしました。一昨日の委員会質疑でも、日本弁護士連合会の参考人からこの点に関する発言がありました。フリーランス・トラブル一一〇番に寄せられる相談では、事前に業務の範囲が明確に示されず、報酬は変わらないのに次々業務内容が追加される、受託した業務が報酬に見合わないことから、受託事業者側から契約を解除したくても多額の違約金を求められる等、契約時の取引条件の明示義務を必要とする事例が紹介をされました。
 大臣は、この三条の取引条件の明示で十分に適正化を図ることができるなどの理由で、この取引条件の契約時の明示義務までは求めないと答弁でありますが、しかし、それではこの参考人からも紹介があったような現に起きているフリーランスの皆さんの利益が損なわれるような事態を解決できないんじゃないでしょうか。いかがでしょうか。
○国務大臣(後藤茂之君) 三条の業務を委託した場合とは、発注事業者とフリーランスとの間で業務委託についての合意、すなわち業務委託契約が成立しているということが前提だというふうに考えています。
 その上で、取引条件の明示義務は、業務委託に関する合意が口頭で行われるケースがあることも踏まえて、業務委託契約の内容を明確にさせてその後のトラブルを未然に防止したり、取引上のトラブルが生じたとしても業務委託契約の内容についての証拠として活用できるようにするものでありまして、これによってフリーランスとの取引適正化は図られるものというふうに考えています。
 そして、三条の明示義務に加えて、業務委託契約時、まあこれは先生の恐らく御趣旨からいえば契約前の条件提示ということが主たる部分に当たっているのではないかというふうに思うわけですけれども、もしこういう業務契約時、すなわち業務契約を結ぶ前に取引条件を明示するという義務を付けた場合には、業務委託をした後の書面交付のみを義務付ける下請代金法とのバランスも変わってくるということでありますし、また、契約前とそれから契約後の二つの時点で条件明示を義務付けることになりまして、フリーランスとの取引は手間が掛かるというようなことで発注控えにつながるおそれもあるのではないかというふうに考えると申し上げております。
 まずは、業務委託をした直後の書面等による取引条件の明示の遵守、定着を図って対応していきたいというふうに考えております。
○井上哲士君 私は、今のような説明ではこの間の参考人が挙げられたような具体的な事例を解決できないんじゃないかなと思うんですね。下請関係よりも交渉力弱いのがフリーランスでありますから、その実態に合わせて、現に起きている問題を解決できるような法律にすべきだと思うんです。
 一方、二〇二一年のフリーランスガイドラインには、このガイドラインに基づく契約書のサンプルが掲載をされております、先ほどもお話がありました。これは、やっぱり契約書を交わすことが望ましいという考え方からこのサンプルが作成されたんではないんでしょうか。にもかかわらず、この契約時の条件明示義務のない本法案が成立すれば、政府としてはそういう契約書の作成とか契約時の条件明示は特段望ましいことではないと、推奨もしないということになってしまうんじゃないでしょうか。
○国務大臣(後藤茂之君) 本法案では契約書を作成する義務までは課しておりませんが、一般論として言えば、当事者間の合意内容が十分に共有、明確化されることは、これはもちろん望ましいことでありまして、書面等で契約を交わすということが両者間で可能であるならば、それは一つの望ましい手段であるというふうに考えます。
○井上哲士君 望ましいことが法律に明記されないのは残念でありますけど、そうであるならば、しっかりやっぱり契約書は交わされるような取組を強めるべきだと思うんですね。
 先ほどの議論でも、その業界ごとに実態が違うからそれに合わせたものが必要だということは、大臣もお認めになられました。
 フリーランスガイドラインに掲載されているこの業種横断的な契約書のサンプルは、公正取引委員会や中小企業庁、厚生労働省が協議して作成をしたと聞いておりますが、一方、文化庁は、文化芸術分野の適正な規約関係、契約関係構築に向けたガイドラインを昨年七月に作成をしております。この中には、このガイドラインの契約時に明確すべきこと、事項に基づいて、契約書のサンプルが掲載をされております。
 文化庁、お聞きしますけども、このサンプル契約書の内容はどのようなメンバーが協議して作成をされたものなのか、また、この実際の契約時に活用されるためにどのような取組を行っておられるでしょうか。
○政府参考人(中原裕彦君) 御紹介いただきましたガイドラインは、文化芸術関係、労働法関係、著作権法関係など、各分野のそれぞれ実務家、法律家、学識経験者等で構成されました文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けた検討会議において御議論いただいた内容を取りまとめたというものでございます。
 ガイドラインの公表後、実際に芸術家などの方々が契約の場面においてガイドラインの内容を利用できるよう、文化庁におきましては、全国各地で研修会を実施いたしましてガイドラインのその内容の普及啓発を行いましたほか、文化芸術分野の契約等に関する相談窓口というものを開設いたしまして、契約に関係して生じる問題やトラブルの相談に弁護士が対応するといった取組を行ってまいったところでございます。
○井上哲士君 その検討会議には、発注者側、また受注者側の方も参加をされていると聞いていますが、そういうことでよろしいでしょうか。
○政府参考人(中原裕彦君) 御指摘のとおりでございます。
○井上哲士君 このフリーランスガイドラインの契約書サンプルは関係省庁の協議で作られていますけど、例えば解約規制に関する項目がないなど、関係する団体から不十分さも指摘をされております。
 一方、今お話のあったこの文化庁のガイドラインに掲載されている契約書のサンプルは、いろんな有識者とともに、業務の発注側も受注側も双方の立場のメンバーが一緒に参画して議論して作っている。これ、非常に重要だと思うんですね。
 フリーランスの取引が非常に業界ごとに多種多様だということも先ほど来議論になっているわけですね。それにふさわしいやっぱり契約書のサンプルを作っていく。業界ごとというお話がさっきありましたけど、私はこれ業界任せにしては駄目だと思うんですよ。業界、それぞれの業種に関わる当事者団体も参画をして、各業種を所管する省庁と一体となって業界ごとの標準契約書を作って、研修等を通じてその活用を推奨するということが必要だと思いますけれども、大臣、その点いかがでしょうか。
○国務大臣(後藤茂之君) 今御指摘になった文化庁の文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドライン、そうしたような形で、それぞれ文化芸術分野の関係者が集まって、その業界あるいはその場面の取引、精通しておられる方が一つ一つこう検討しながらひな形を作られるということは非常に参考になる例だというふうに思っています。
 今、既にできている業種横断的な契約のひな形は、物事の考え方を示すという意味では意味のあるものだというふうに思いますし、参考にもしていただきたいと思いますけれども、やはり業種、業界それぞれの局面に応じていろいろなニーズ、取引慣行はあるものですから、それをなるべく丁寧に分析して、それに従った対応をしていくということが基本だということは考えております。ただ、もちろんそうした問題が本当に的確かどうかということについては、我々としても、関係団体等の意見も聞きながら業種別の課題等をしっかり把握していくということは政府としても必要なことだというふうに考えています。
○井上哲士君 文化庁、お聞きしますが、先ほどのこの文化分野のガイドラインのその検討会議には、内閣官房や経産省、総務省、厚労省、中企庁、公取委などがオブザーバー参加をしていたとお聞きしていますけれども、そういうことでよろしいでしょうか。
○政府参考人(中原裕彦君) 御指摘のとおりでございます。
○井上哲士君 ですから、業界ごとに大いにやってもらう上で、ぴしっとやっぱり政府がかんでいくと、一緒になってやるということを是非やっていただきたいということを強調しておきたいと思います。
 次に、第五条第二項の特定受託事業者の利益を不当に害してはならない行為の第一号、自己のために金銭、役務その他経済上の利益を提供させることについて聞きますが、この成果物の著作権の譲渡や放棄を一方的に決めるなどのこともこの条項に当たるということでよろしいでしょうか。
○政府参考人(品川武君) お答え申し上げます。
 特定受託事業者の業務によりましては、業務委託の成果物に関して著作権等の権利が生じる場合があるというふうに考えております。著作権のような成果物に関する権利につきまして、特定受託事業者が権利を有するにもかかわらず、発注事業者が対価を配分しなかったり、その配分割合を一方的に定めたり、利用を制限するというようなことは、本法案第五条で禁止をいたします不当な経済上の利益の提供要請に該当し、勧告等の対象になり得るというふうに考えてございます。
 本法案を適切に執行しまして、成果物に係る権利の一方的な取扱いなどの不利益行為の是正に取り組んでまいりたいと考えております。
○井上哲士君 特に、出版関係の著作権や芸能従事者の著作権、著作隣接権の二次利用に関して正当な対価なく譲渡させる、あるいは二次利用権を破棄させるなどの行為が横行していると聞いております。
 今日も何度か出ていますが、日本芸能従事者協会が二〇二一年に行った二次利用に関するアンケートでは六四・二%が二次利用の契約を望んでいますが、一方で、五〇・四%は二次利用料をもらっていないと回答されております。
 こういう実態を踏まえれば、この成果物に係る権利の一方的取扱いを第五条の禁止行為に含めるのが適当だと考えますけれども、いかがでしょうか。
○政府参考人(品川武君) お答えを申し上げます。
 先ほど申し上げましたとおりでございますが、発注事業者による成果物に係る権利の一方的な取扱いというものにつきましては、著作権に限らず著作隣接権についても同様であるというふうに考えられますので、こういったものについて権利の一方的な取扱いをするということであれば、不当な経済上の利益の提供要請に該当をして勧告等の対象になり得るというふうに考えているところでございます。
○井上哲士君 この分野で非常にこういうことが横行しております。
 文化庁のホームページでは、インターネット上から必要事項をチェックするだけで著作権契約に関する契約書が作成できるソフトがアップロードされておりますが、公正な契約を広げる上で、この著作権契約を始め各業種に対応する契約書作成システムを各所が構築して利活用を推進することも重要ではないかと申し上げておきたいと思います。
 それから、先日の委員会の質疑で、フリーランス・トラブル一一〇番が二十一条の国による相談対応に係る体制の中心に位置付けられると答弁がありました。体制強化も図るとのことですが、フリーランスはやっぱり多種多様な業種で働いていますので、それぞれに個別の特徴もあるわけですね。
 例えば、俳優やモデルなどは、制作会社と俳優やモデルの間に所属事務所が介在をして、契約は制作会社と事務所が結んでいるために、俳優やモデルには契約内容の詳細が全く知らされていないというような実態もあります。それから、発注事業者のスポンサー企業の下に、広告代理店、放送業者、制作会社、キャスティング業者、所属事務所というふうに何層にも下請構造があって、末端の俳優やモデルにわたる報酬などの契約関係が曖昧になっているなどの実態もあります。
 文化庁が一昨年度にモデル事業として実施した契約関係のトラブルに対応する相談窓口事業には、著作権の権利に関する相談が多く寄せられたと聞いております。フリーランスと一くくりに言っても、こうした特殊性のある業界のトラブル相談には、やっぱりその業界の実情を熟知したメンバーが必要ではないかと思います。
 そうした観点から、フリーランス・トラブルの一一〇番で相談に当たるメンバーについて、今の弁護士さんに加えて、フリーランスを支援する労働組合や関係団体などなど、やっぱり現場を熟知している方を加えるということも検討すべきではないかと考えますが、大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(後藤茂之君) フリーランス・トラブル一一〇番での相談対応を行う弁護士は、取引法や労働法に精通した弁護士であります。さらに、フリーランスに関する取引上のトラブルについて、類型ごとに問題となる法律の解釈等を示した相談マニュアルみたいなものを持ちながら、プロが相談に応じているわけです。相談対応を行う上で必要な知識や留意点について経験を有する他の弁護士による研修を受講するなど、様々な業界のフリーランスの方から寄せられるトラブルについて、やはり訓練を受けた弁護士が丁寧に相談に当たっているというふうに思います。
 また、フリーランス・トラブル一一〇番の相談者向けに行っているアンケートでは、相談者の約八割の方が相談対応について満足したと回答をしておりまして、相談者に十分寄り添った対応となっているというふうに思います。
 あえて、一般論としてより少し、先生の今までのお話を聞きながら私が思ったことから言うと、確かにこの著作権とかいう分野については法律上も結構専門性の高い領域であって、そういう事案については著作権等に相当に詳しい方がいた方が便利だという御指摘なのかもしれませんけれども、そういうことについても類型的に、今申し上げたような専門家向けのマニュアルというのを持って弁護士さんは対応しておられるということだというふうに思います。
 法案の施行に向けて、まずはフリーランス・トラブル一一〇番の体制を強化するとともに、御指摘も踏まえて、相談対応を行う弁護士とフリーランス関係団体等との間でフリーランス取引の実態等についてよく意見交換を行って、相談ができるようにしっかりと検討していきたいというふうに思います。
○井上哲士君 弁護士さんの対応が不十分だと言っているわけではなくて、より弁護士さんも、相談した方にも的確にできるように、そういうことを検討すべきじゃないかということを申し上げておきたいと思います。
 最後に、芸能従事者のハラスメント対策について文化庁にお聞きしますが、日本芸能従事者協会が二〇二二年に収集した文化芸術・メディア・芸能従事者ハラスメント実態調査アンケートでは、九三・二%がパワハラを受けたと、七三・五%がセクハラを受けたと回答しております。こんな業界ほかにあるんだろうかと思うような実態でありますが、二〇一九年に労働施策総合推進法が改正されて、職場におけるパワハラ防止対策が事業主に義務付けられましたけれども、フリーランスはこれ対象外だったんですね。
 今回の法案で、業務委託事業者へのハラスメント対策が、継続的業務委託に限ってだけれども盛り込まれたことは、大変この問題に取り組んできた関係団体を後押しすることになると思いますが、これを踏まえて更に取組を強めるべきだと思うんですね。
 韓国では、文化芸術界でのミー・トゥー運動をきっかけに、二〇一八年に韓国映画性平等センター、ドゥンドゥンが設立をされまして、公的機関からの資金提供を受けて運営される非営利機関で、セクハラ、性暴力被害者からの相談や申告の受付、被害者が裁判を行ったり弁護士を雇うための費用の支援、メンタルケアといったことなどなどやっておりますし、実態調査も行っています。
 この間、文化庁としては、この芸能従事者のハラスメント対策、どういうふうにやってきたのか、また、このドゥンドゥンのような芸能従事者のハラスメント被害に対応する独自の相談機関が必要だと思いますけれども、いかがでしょうか。
○政府参考人(中原裕彦君) 文化芸術分野で生じておりますパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントなどの実態につきましては、報道や民間の団体における調査結果などを通じて認識をしているところでございます。
 私ども文化庁が令和四年七月に公表しました、御指摘にいただきました文化芸術分野の適正な契約関係構築に向けたガイドラインでは、制作や実演の現場においてハラスメントに関する問題等が生じているといったことを踏まえまして、現場の安全衛生に関する責任体制確立のため、芸術家等の安全衛生管理を行う者というものを置くことが望ましいというふうにしております。また、研修会を実施することによりまして、そのガイドラインのその内容の周知、普及に取り組んでいるところでございます。
 また、映画やテレビ番組等の制作現場におきましてはハラスメント講習の実施例などがあると承知しておりますが、そのような取組を促進する観点から、文化庁では、令和五年度、ハラスメント防止対策への支援というものも行うことを予定しているところでございます。
 御指摘の独自の相談機関ということでございますけれども、文化庁が令和四年度に開設しました文化芸術分野の契約等に関する相談窓口では、契約に関して生じる問題やトラブルについてその相談を受け付けているところでございます。
 今回、フリーランス法案におきましては、特定業務委託事業者は、特定受託業務従事者に対するハラスメント行為に係る相談対応等必要な体制整備等の措置を講ずること、また違反する事実があった場合は、特定受託事業者は厚生労働大臣に対して、その旨を申し出て、適当な措置をとるべきことを求められることが想定されるというふうに承知をしております。
 こうしたことから、法施行後には、文化庁の窓口で受け付けた相談につきまして、新たにフリーランス法に基づいて整備される体制につなぐといったことなどによりまして、より適切に国としての対応が進められるよう、連携して取り組んでまいりたいというふうに考えてございます。
○委員長(古賀友一郎君) 時間ですので、まとめてください。
○井上哲士君 終わりますが、今日もたくさん課題がそれぞれから出されました。関係者の声を十分に聞いて取組を強めていただきたい。
 以上で終わります。

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