国会質問議事録

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内閣委員会(中堅ポスドクの雇用問題)

○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
 日本の研究力低下が大きな問題となっております。引用される回数がトップテンの注目論文の数は、二〇〇〇年代の前半には世界で四位でしたけれども、今十二位までに後退しております。それから、博士課程への進学率はピーク時の半分となっている。こういう研究力の低下の原因と打開の方向について議論をしたいと思うんです。
 今年の三月二十七日に男女共同参画学協会連絡会が研究者の任期付雇用問題に関するアンケート調査の結果に基づく要望書を公表しました。この要望書によりますと、一九九〇年代の大学院重点化政策の下で国立大学の博士課程修了者が急増しましたが、それに見合う大学教員の定員が増えなかったために、その当時、学位を取得したものの任期付職を渡り歩かざるを得ない研究者、いわゆるポストドクター、ポスドクが大量に生まれたと述べております。さらに、二〇〇四年に国立大学が法人化されて以降、運営費交付金の削減に伴い教員の採用が減るなど、一層困難を増したと述べています。そして、こうした三十五歳以上五十五歳未満の研究者層、氷河期世代研究者とこの要望では言っていますが、こういう皆さんに任期なしの安定した研究ポストを増やして、個々の研究者の専門知識や技術を生かした研究を腰を据えてできるようにすることが日本の研究力向上につながるとして待遇改善を訴えております。現場の危機感、危機的な実態を踏まえた、未来を見据えた重要な訴えだと思うんですね。
 まず、文科省、聞きますが、二〇二一年に公表された文科省の研究大学における教員の雇用状況に関する調査では、三十五歳から五十四歳まで、五歳ごと四つの年齢階層で、任期付研究者の割合はどのようになっているでしょうか。
○政府参考人(山下恭徳君) お答え申し上げます。
 お尋ねの調査におきまして、任期付教員の割合は、三十五歳から三十九歳において五七・一%、四十歳から四十四歳において四三・五%、四十五歳から四十九歳において三〇・二%、五十歳から五十四歳において一九・九%となっております。
○井上哲士君 やはり、文部科学省の資料によりますと、日本のノーベル賞受賞者について、三十歳代、特にこの三十歳代後半の研究が受賞につながっているんですね。ところが、今ありましたように、今日の現状は、この三十代後半の研究者の半分以上、五七・一%が任期付きという不安定な雇用に置かれております。
 研究力の向上を言うならば、氷河期世代研究者と呼ばれるこうした中堅ポスドクに無期雇用の安定した研究環境を保障することが重要だと考えますけれども、山本政務官来ていただいていますが、その点についての認識及び政府の取組はいかがでしょうか。
○大臣政務官(山本左近君) お答え申し上げます。
 科学技術イノベーションを活性化するための最大の鍵は人材でございます。若手から中堅、シニアまで、各世代において研究者が安心して研究に専念できる環境を整備し、高い意欲を持った優秀で多様な人材を育成、確保していくことが極めて重要であると考えています。
 このため、文部科学省においては、人事給与に関する改革等の実績に応じた運営費交付金の配分、またポストドクター等の雇用・育成に関するガイドラインの策定、多様な財源を戦略的かつ効果的に活用することで研究者の安定的なポストの確保を図る取組の促進などの施策を講じてまいりました。
 今後とも、科学技術イノベーションを担う優秀で多様な人材の活躍促進に向けた取組を強化してまいります。
○井上哲士君 この間、例えばテニュアトラック制度というものが導入されましたけれども、これ二〇二〇年でいいますと大学の一七・九%にとどまって、それから卓越研究員制度というのも導入されていますが、これも新規は年間十人なんですね。いずれも対象になる研究者の枠が狭いし、安定した雇用と研究開発を保障するには極めて不十分だと思います。
 そこで、高市大臣にお聞きいたしますが、こういう若手研究者の雇用の不安定さというのは自然に生まれたものではありません。文科省の調査によれば、今、ポスドクの延べ人数は一万五千五百九十人に上るんですね。何でここまで任期付きが増えたのかと。政府は一九九六年にポスドク一万人計画を打ち出しました。そして、一九九七年に大学の教員等の任期に関する法律を成立をさせて、任期付きの大学教員を認めたわけですね。この法律の第一条では、大学等において多様な知識又は経験を有する教員等相互の学問的交流が不断に行われる状況を創出することが大学等における教育研究の活性化にとって重要としている、こういってこの任期付教員を導入をいたしました。果たしてこの法の趣旨どおりに、大学に任期付きポストを増やしたことで教育研究が活性化したのかが問われていると思うんですね。
 内閣府の総合イノベーション戦略二〇二二でも、若手研究者の不安定な雇用に伴う課題が顕在化していることから、若手を始めとした研究者の研究環境の改善が急務だと述べておりますが、どういう課題が顕在化をしていると認識をされているんでしょうか。
○国務大臣(高市早苗君) 我が国の研究力が相対的に低下している背景といたしまして、研究時間の減少、若手研究者のキャリアパスが不透明であること、また、若手研究者が研究に専念できる環境が十分でないということなどの課題があると認識しております。
○井上哲士君 この戦略の中では、大学本務教員全体に占める四十歳未満の割合が約二割まで減少している、それから四十歳未満の国立大学の教員の任期付割合が約七割まで上昇しているということを指摘をして、課題が顕在化をしていると、こう言われているわけですね。
 先ほど紹介した男女共同参画学協会連絡会のアンケートにも、任期付教員の、研究員の実態が、声が寄せられております。一つの研究テーマを完了するのに期間が短過ぎる、任期付きで安定して研究が行えない、任期が切れるたびに就活に時間が割かれ、研究以外の本来時間を割かなくてもよいことに多くの時間を割かれることに憤りを感じると、任期付きのため数年後の将来も見通せずに常に焦燥感にさいなまれている等々、本当に悲痛な声なんですね。
 法の趣旨とは逆に、この任期付教員を導入をしたことが、研究教育の活性化どころか研究力の大幅低下を招いているのは私明らかだと思います。統合イノベーション戦略の言う研究者の研究環境の改善ということであれば、この任期付教員を、研究員を増やしてきたこれまでの政策を転換をすることが必要だと考えますが、高市大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(高市早苗君) 任期なしのポストを確保するといった、この意欲と能力のある研究者が研究に専念できる環境を醸成するということは、新規性の高い研究も含めて優れた研究にじっくり腰を据えて取り組むために必要だと考えております。各研究機関の適切なマネジメントの下で意欲と能力のある研究者がふさわしい処遇を得て研究に取り組めるというようにすることが、我が国全体の研究力強化にとっても重要だと考えております。
 内閣府といたしましては、間接経費や競争的研究資金の直接経費から研究者の人件費を支出することで捻出した運営費交付金など、多様な財源を戦略的かつ効果的に活用することによって任期なしポストを確保するということを促しているところでございます。
 そういったことで、こういう取組を通じまして、やはり意欲と能力のある研究者が研究に専念できる環境の構築に努めたいと考えております。
○井上哲士君 任期なしポストの増やすことを促しているというふうに言われましたが、現状は先ほど述べたとおりなんですね。で、今、現実に、例えば大学院なんかに行っている人たちが先輩の研究者のこの状況を見て、本当に意欲を持ってやっていけるのか、進路を諦めるんじゃないかということもあるわけで、本当に日本の研究の未来に関わっていると思います。
 指摘されているこの若手研究者の不安定な雇用に伴う課題の顕在化の最たるものが二〇二〇年度末に行われた大量雇い止め問題でありまして、今朝の朝日新聞でも大きく報道しています。数千人規模の雇い止めがあったのではないかと。
 我が党が国会で繰り返し取り上げてきた理化学研究所の雇い止めは、無期転換権の発生を回避するために、理研が十年の雇用上限を理由に三百八十名に及ぶ研究系職員の雇い止めを強行いたしました。これに対して労働組合等を始めとする雇い止め反対の運動がありまして、百九十六人が再任用で雇用継続を勝ち取りました。
 一方、理研は、この十年の雇用上限を撤廃する代わりに、業務に関係なく契約期間の上限を押し付けることが可能になるアサインドプロジェクトを新たに就業規則に盛り込みました。百九十六名中百二十九名がこれで採用されたわけですが、このプロジェクトは二年後に終了するもので、再度大量雇い止めが起きる可能性があります。
 そして、今回の理研の雇い止めされた中には、文部科学大臣若手科学者賞、それから早大総長賞など、数々の受賞歴があって、そして、優秀な研究者を常勤、定年制の職に就けるように後押しをする卓越研究員にも採用されたユニットリーダーも含まれておりました。この研究者は雇い止めをされて中国に大学教員として採用をされたんですね。ですから、非常にこれ、貴重な優秀な人材の頭脳流出をもたらすのがこの研究者の雇い止めということだと思うんです。
 政務官、再度お聞きしますが、大学や研究開発法人が任期なし研究員を、研究者を増やした場合に、運営費交付金や私学助成金を上積みするなどの任期なしポストの増加を促すような財政支援を検討し、強めるべきだと思いますが、いかがでしょうか。
○大臣政務官(山本左近君) お答え申し上げます。
 研究者のキャリアパス支援に関しては、人材の流動性と安定的な研究環境の確保の両立を図りつつ、研究者が安心して研究に専念できる環境の整備が重要であります。
 このため、文部科学省としては、基盤的経費や競争的研究費の確保を通じ、研究者の雇用を支援するとともに、ポストドクター等の雇用・育成に関するガイドラインの策定、若手ポストの確保など人事給与マネジメント改革等を考慮した運営費交付金の配分等の取組を進めてきているところでございます。
 文部科学省としては、引き続き、研究環境の充実も含め、各大学や研究機関が継続的、安定的に研究活動を実施できるように支援してまいります。
○井上哲士君 それでは改善されていないからこそ、先ほど来のアンケート等に示された要望があるわけですよね。私は、本当に今の現状をこのままでいいのかということを真剣に問うて、真剣に研究力の向上に取り組むと、日本の研究の未来懸かった問題でありますから、強くこれを求めたいと思います。
 その上で、女性研究者の問題について聞きますが、科学技術指標二〇二二によりますと、日本の女性研究者の研究者全体に占める割合は、二〇二一年で一七・五%、ドイツ二八・一、韓国二一・四、イギリス三九・〇、フランス二八・三と比較して非常に少ないという実態があります。女性研究者の所属先で一番多いのは大学で、女性研究者の五五・六%、しかも、大学等に所属する女性研究者の六五・七%が任期付研究者になっているんですね。
 この間、様々な環境整備の努力もされているとは承知していますが、先ほど紹介したこの男女共同参画学協会連絡会のアンケートでは、産休、育休後に休業期間に応じた任期・契約期間延長があるかとの問いに対して、あると答えたのはもう一一・二%にすぎないんですね。自由記述欄には、産後三か月のときに任期満了、終了で失職しました。妊娠、出産に伴い任期も延長できる制度ができると助かると、こういう切実な声も寄せられております。
 こうした現状への配慮、そして支援というものも必要かと思いますけれども、文科省、いかがでしょうか。
○政府参考人(山下恭徳君) お答え申し上げます。
 女性研究者を始め、男女の研究者が共に働き続けやすい研究環境の整備は大変重要でございます。
 文部科学省におきましては、ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ事業の実施による、女性研究者の研究と出産、育児等のライフイベントとの両立の支援、それから競争的研究費におけるライフイベント等に配慮した研究期間の中断や延長など、研究を継続できる配慮や支援などを通じ、各機関における取組を促しているところでございます。
 引き続き、これらの支援により女性研究者の活躍促進に取り組んでまいる所存でございます。
○井上哲士君 様々な支援の周知もすると同時に、実際にやっぱり現場で改善をさせるという点でのやっぱり国の取組を求めたいと思うんですね。
 小倉大臣にもお聞きしますけれども、このアンケートに寄せられた声には次のようなものがあるんですね。出産、育児による研究の中断を考えると、任期後の次のキャリアアップに必要な実績が積めないのではないかと不安で妊娠をちゅうちょしてしまうと。任期付きの二、三年の間に業績を出すことが求められて、恋愛や結婚などプライベートを楽しむ精神的余裕を持てない、そうしている間に適齢期も過ぎて高齢出産に当たる年齢になって、自分の人生で出産は経験できないのかと諦めの気持ちが大きくなってきた。PI、研究責任者を目指すポスドクです。結婚、出産は両立が困難だと思い、早い段階で諦めました。任期付きだと仕事が不安定であり、子供を育てることができないと。
 これ、いずれも三十代の任期付きの研究者の声なんですね。そうすると、やっぱりこういう皆さんをきちっと無期雇用に転換をして、子供を持つことを希望している方が、男性、女性も問わず研究と両立できるような環境をつくることは、これ少子化対策の点からも重要だと考えますけれども、大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(小倉將信君) 研究者の雇用環境の整備等については、内閣府と文部科学省の所管になりますことを御理解をしていただきたいと思います。その上でではございますが、こども政策担当大臣としてお答えをさせていただくと、職業や性別等にかかわらず、子供を産み育てやすい環境を整備していくことは重要なことと考えております。
 そのため、先般取りまとめました試案において、基本理念として、男女共に働きやすい環境の整備や希望する非正規雇用の方々の正規化を進めることを盛り込んでございます。また、加速化プランでは、共働き、共育ての推進といたしまして、男性の育休取得率の政府目標を二〇二五年に五〇%、二〇三〇年に八五%に引き上げ、これを実現をするため、男女で育休を取得した場合に一定期間育休給付を手取り一〇〇%にすることなどを盛り込んでございます。
 こども政策担当大臣といたしましては、子育てしやすい職場環境の整備に向けて、関係府省と連携して取り組んでまいりたいと考えております。
○井上哲士君 結婚も諦めざるを得ないという先ほどの声も紹介しましたけど、そういう皆さんのことを考えると、本当にやっぱり職場の研究環境の向上が必要だと思います。
 その一つとして、これハラスメント対策もあると思うんですね。このアンケート調査でも聞いておりますけれども、こういう声が載せられております。大学から独立した部署や機関が対応する、ハラスメント防止に関する啓蒙、ハラスメント防止講座の受講、ハラスメント加害者のペナルティー等を求める声が上がっておりますが、中でも重要だと思いますのが、このPI、研究責任者など、指導的立場にある人を対象としたハラスメント防止に関する研修だと思います。
 先ほどダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ女性研究者研究活動支援事業のことも挙げられましたけれども、この事業で、このハラスメント防止のための研修を、実施を支援をするということは可能でしょうか。
○政府参考人(山下恭徳君) お答え申し上げます。
 ただいま御指摘のありましたダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ事業におきましては、その研究環境のダイバーシティー実現に関する大学の優れた取組を支援しておりまして、本事業におきまして、女性研究者の活躍促進につながる意識啓発のための研修会の開催等について支援することが可能となっております。
 実際に本事業を活用いたしまして、支援対象機関におきまして、指導的立場の教員も含め、全教職員を対象としたハラスメント防止研修等の取組が行われている例もございまして、今後とも本事業を通じ、こうした取組を支援してまいりたいと考えております。
○井上哲士君 事前にレクで来て、複数の人来てもらったら、この事業を直接担当している人はそのこと知っていたんですけど、ほかの方は認識がなかったんですよ。ああそうですかとその場でなったんですけど、やっぱり全体として支援をしていく上で、この制度全体への共通認識をしっかり文科省自身が共有していただくとともに、これも周知もしていくことが必要だと思います。こうした性差別やハラスメントをなくすとともに、文科省が実施している様々な女性研究者支援のための補助事業を大幅に増額をすることや採択枠の拡大など、学術分野でのジェンダー平等を推進することを強く求めまして、質問を終わります。
 ありがとうございました。

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