○井上哲士君 日本共産党の井上哲士です。
私は、会派を代表し、学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律案、日本版DBS法案について関係大臣に質問します。
子供に対する性暴力は、子供の人権を深く傷つけ、その傷痕は子供の心身に生涯にわたって回復することのない重大な影響を与えるものであり、絶対に許されるものではありません。
二〇二二年三月の内閣府の調査によれば、身体接触を伴う性暴力被害に最初に遭った年齢は、高校生が三五・九%、小中学生で三四・〇%、性交を伴う性暴力被害に最初に遭った年齢では、高校生三八・九%、小中学生が二一・〇%にも上ります。
更に衝撃的なことは、性交を伴う性暴力被害の加害者で最も多いのが教職員、クラブ活動の指導者、先輩や同級生など、通っている又は通っていた学校や大学の関係者という現実です。こうした現状は一刻も早く改善しなければなりません。
まず、こども政策担当大臣に質問します。
政府は、二〇二〇年に性犯罪・性暴力対策の強化の方針を取りまとめて以降、累次対策を強化してきました。加えて、二〇二一年、二〇二二年には、教員性暴力等防止法、児童福祉法の改正が行われてきました。これら対策の効果について、どのように認識をしていますか。
極めて遺憾ながら、こうした努力にもかかわらず、弱い立場に置かれた子供、若者が性被害に遭う事案は後を絶ちません。本法案は、これまでの政府の取組との関係でどのような意義を持つものだと考えているのですか。
法案について具体的に伺います。
本法案によって、事業者は、性犯罪事実の確認や、児童対象性暴力防止措置をとることが義務化されますが、その義務を負う事業者、それと同等の措置を実施する体制が確保されていると認定を受けた民間教育保育事業者、未認定の事業者の三つの層が生まれることになります。未認定の事業者が生まれることによって、子供に性的な欲望を抱く者が、認定制度を受けない、受けてない事業者に集中する可能性があります。
子供の性的人権保障という観点から、こうした格差はあってはならないと考えますが、どのように認識をしていますか。また、格差の解消に向けてどのように対応していくつもりですか。お答えください。
法案は、犯罪事実確認の対象となる犯罪を特定性犯罪と規定し、児童対象性暴力等に限定しています。一方、刑法の公然わいせつ罪やわいせつ目的略取及び誘拐罪、窃盗罪で下着が盗まれる事例等、性的な犯罪であっても含まれないものがあります。どのような理由で対象犯罪を限定したのですか。
民間団体の調査では、学校において教員による性加害が行われた状況で一番多いのが授業中であり、性的な言葉を書いたり書かされたり、体に軽く触れるなどの行為とのことです。内閣府の調査でも、被害に遭った若者や子供たちの半数以上は誰にも相談できずにいます。
法案第五条の児童との面談や児童等が容易に相談を行うことができるようにするための措置は極めて重要ですが、どのように具体化していくつもりですか。
以上、こども担当大臣、お答えください。
少数ながら子供たちが相談したケースでも、当該教員や学校、教育委員会などが取り合わずに問題とならなかったなど、現場でのもみ消しや隠蔽は少なくないとの指摘があります。このような現状をどう改善していくのか、文部科学大臣、お答えください。
法案は、第五条で、児童対象性暴力等が行われるおそれがないかどうかを早期に把握するための措置の実施を定めています。おそれの判断に、主観や先入観に左右される思い込みや誤解が介在してはなりません。
学校現場で、誰が、どのような検討を踏まえて、おそれのあるなしを判断するのですか。おそれの判断が恣意的に運用されないための担保をどのように考えているのですか。
本法案は、子供と日常的に接する職業に就く人に性犯罪歴がないかを確認し、性犯罪歴がある場合に、再犯を未然に防止するための措置を事業者に求めるものです。しかし、特定の職業からの排除や制限だけで性加害者の行動を抑制するには、おのずと限界があることを認識しなければなりません。
性犯罪の再犯は一割であり、残りの九割は初犯とも言われています。一方、性加害者臨床に関わる専門家からは、性嗜好障害を有する者の場合、初犯でも、その加害が表面化する以前の段階で何十、何百という加害行為を繰り返しているとの指摘もあります。そのため、性犯罪前科の有無を確認する本法案の仕組みでは実効性に疑問があるとの指摘がなされています。
本法案は、初犯対策としてどのような対応を盛り込んでいるのですか。
以上、こども担当大臣の答弁を求めます。
同時に、加害者の再犯をいかに防ぐのかも重要です。
性犯罪防止プログラムなどの加害者更生の取組が重要だと考えますが、取組の現状、今後の強化方向について法務大臣に伺います。
性加害者をつくらないためにも、また性被害を受けたときの対応方法を学ぶためにも、包括的性教育が不可欠です。本法案が参考にしたとされるイギリスでは、DBSと同時に包括的性教育が公教育で必修となっているとされています。
人権尊重を基盤とした包括的性教育の具体的内容を示したユネスコの国際セクシュアリティ教育ガイダンスでは、一、人間関係、二、価値観、人権、文化、セクシュアリティー、三、ジェンダーの理解、四、暴力と安全確保、五、健康と幸福のためのスキル、六、人間の体と発達、七、セクシュアリティーと性行動、八、性と生殖に関する健康などの八つの柱があります。年齢層に区分して学習内容が掲げられ、学び手の成長や発達に沿って創意工夫しながら取り組み、子供の自己肯定感や探求心を育むことを目指すものとなっています。
国際セクシュアリティ教育ガイダンスに基づく包括的性教育の重要性について、どのように考えますか。こども政策担当大臣に伺います。
二〇二三年に策定されたこども・若者の性被害防止のための緊急対策パッケージには、生命の安全教育の全国展開が盛り込まれています。これは、子供たちを性犯罪、性暴力の加害者、被害者、傍観者としないことを目的とするとされています。これ自身を否定はしませんが、生命の安全教育には、包括的性教育という言葉はおろか、性教育という文言さえ見当たりません。生命の安全教育は性教育とは無関係なのですか。
国際的な到達点から見れば、我が国の立ち遅れは明らかです。現在でも、小学校五年生の理科では人の受精に至る過程は取り扱わない、中学一年の保健体育では妊娠の経過は取り扱わないなど、学習指導要領に性教育をさせないための歯止め規定が残されたままです。自らの人権と健康を守る上で、体と性を学ぶ性教育の推進は人権的課題であり、子供の権利を保障するための土台です。学習指導要領の歯止め規定は見直すべきではありませんか。
以上、文部科学大臣、お答えください。
本法案に基づく制度を十全に発揮させる上で、国際セクシュアリティ教育ガイダンスに基づく包括的性教育を位置付けることが不可欠です。そのことを重ねて指摘し、質問を終わります。
○国務大臣(加藤鮎子君) 井上哲士議員の御質問にお答えいたします。
これまでの子供に対する性暴力対策の効果と本法案との関係についてお尋ねがありました。
子供に対する性暴力防止対策については、性犯罪、性暴力対策の更なる強化の方針や子供の性被害防止プラン二〇二二等に基づき、被害申告や相談しやすい環境の整備、生命の安全対策の推進等の各種の対策を進めてまいりました。また、議員立法による教育性暴力等防止法の制定や性犯罪の成立要件をより明確化するなどの刑法改正等、累次の法改正が行われてきたところです。さらに、政府としては、本年四月、関係省庁で連携して取り組むべき総合的な対策を新たに取りまとめています。
他方で、議員の御指摘のとおり、弱い立場に置かれた子供が性被害に遭う事案は後を絶たず、子供に対する性暴力防止に向けた取組は待ったなしであり、この法案を起点とし、社会全体として子供たちを性暴力から守る社会的意識を高め、政府一丸となって子供に対する性暴力防止対策を進めてまいります。
認定の有無により事業者間で格差が生じ得ることについてお尋ねがありました。
認定の有無によって特定の事業者において子供が性被害に遭いやすくなるようなことはあってはならないことだと認識しています。子供への性暴力を防止していくため、少しでも多くの民間教育保育等事業者に本制度の認定を取得いただくよう促すとともに、広告等の表示を通じて保護者の選択に資する仕組みとしてまいります。
また、認定を受けない事業者においても、認定を取らずともできる対策を実施していただくことが重要と考えており、子供性被害防止のための総合的対策を併せて推進すること等により、あらゆる子供への性暴力の防止が図られるよう、最大限努力をしてまいります。
犯歴確認の対象となる性犯罪についてお尋ねがありました。
本法律案の下では、基本的に、犯歴確認の対象となる特定性犯罪の犯罪歴があるということ自体をもって、性暴力等のおそれありとして事実上就業制限の根拠となります。このため、その特定性犯罪の範囲については、児童等の権利を著しく侵害し、その心身に重大な影響を与える性犯罪として、人の性的自由を侵害する性犯罪や性暴力の罪等を確認対象としています。
一方、御指摘のような犯罪を確認対象にすることについては、性的な動機を裁判所が一般的に認定するわけではないことや、特定の犯罪の一部の行為だけを抜き出して対象にすることは、対象の行為であることを誰が判断し、その判断の正しさをどのように担保するかといった課題があり、本法律案において、これらの犯罪については犯歴確認の対象性犯罪に含めないこととしています。
児童との面談や相談に係る措置についてお尋ねがありました。
本法律案では、児童対象性暴力等が行われる端緒を早期に把握するため、事業者に対し、児童等との面談、児童等が容易に相談を行うことができるようにするために必要な措置を求めています。
具体的な措置は内閣府令で定めることとしていますが、例えば、定期的な面談やアンケート調査、相談窓口等の相談体制の整備等が想定されるところ、関係省庁、業界団体等と相談し、他分野も含めた先行的な取組も把握しながら、より良い方法を検討してまいります。
学校現場におけるおそれの判断等についてお尋ねがありました。
本法律案第五条第一項では、児童対象性暴力等が行われるおそれがないかどうかを早期に把握するための措置の実施を学校設置者等に求めるとともに、同法第六条において、学校設置者等は児童対象性暴力等が行われるおそれがあると認めるときは、児童対象性暴力等を防止するために必要な措置を講じなければならないとしております。
その判断は学校設置者等が行うものですが、おそれの具体的な内容や判断プロセス等などについて、恣意的、濫用的な運用がなされないよう、施行までに関係省庁、関係団体と協議しつつ、事業者向けのガイドライン等を作成し、しっかりと周知してまいります。
初犯対策についてお尋ねがありました。
議員御指摘のとおり、性犯罪で検挙される者のうち約九割は初犯であると承知をしており、初犯対策は大変重要だと考えています。
このため、本法案においては、子供と接する職員等に対する研修を義務付けるほか、性暴力等が行われる端緒を早期に把握するための措置として、児童等への面談等、学校設置者等の方から能動的に端緒を把握しに行くための措置や、児童等が容易に相談を行うことができるようにするための措置を講じるよう義務付けることとしています。
さらに、子供への性被害防止に向けては、本法案による対応に加え、総合的な対策が重要であると認識をしております。
このため、本年四月に、関係省庁で取り組むべき総合的な対策を新たに取りまとめており、これらにより子供たちを性被害から守ってまいります。
包括的性教育の重要性についてお尋ねがありました。
学校における教育は文部科学省の所管であり、私の立場からお答えすることは差し控えますが、学校における性に関する指導は、児童生徒が性に関して正しく理解し、適切に行動を取れるようにすることを目的に実施されていると承知をしており、その目的に照らして必要な教育が行われることが重要だと考えます。
また、こども家庭庁としましても、子供や保護者に対し、命の安全教育の教材の活用等により、プライベートゾーン等について分かりやすく親しみやすい形での啓発を推進しています。
子供や保護者が性暴力の防止等について理解を深めることは、性暴力の被害防止のために重要であると考えており、引き続きこうした取組を推進してまいります。
○国務大臣(盛山正仁君) 井上議員にお答えいたします。
子供たちが相談した場合のもみ消し等の防止についてお尋ねがありました。
子供たちから相談があった場合に学校等がもみ消しなどを行うことがないよう、令和三年に成立したいわゆる教員性暴力等防止法においては、教師や保護者等が子供たちから相談等を受けた場合において事実があると思われる場合には、学校等に通報等の措置をとるものとするとされるとともに、こうした通報を受けた学校は、学校設置者に通報するものとされました。
また、同法に基づく基本的な指針においては、あしき仲間意識や組織防衛心理から事なかれ主義に陥り、必要な対策を行わなかったりすることがあってはならないことなどを示しているところです。
文部科学省としては、同法や指針を踏まえた取組についてこれまでも様々な機会を捉えて各教育委員会等に対して徹底を求めるとともに、事案発生時の迅速な対応など具体的な事例を盛り込んだ実践事例集や、教職員向けの研修用動画を作成、公表し、周知を行っています。
今般のこども性暴力防止法案が成立した場合においても、引き続き、適切な対応がなされるよう、一層の取組の徹底を図ってまいります。
次に、生命の安全教育についてお尋ねがありました。
生命の安全教育は、命の尊さを学び、自分や相手、一人一人を尊重する態度等を身に付けることにより、性犯罪、性暴力の加害者、被害者、傍観者にならないことを目的とする安全教育であり、性に関して正しく理解し、適切な行動が取れるようにすることを目的とした性に関する指導とは目的を異にしておりますが、性犯罪、性暴力の事例等について扱っております。
次に、学習指導要領におけるいわゆる歯止め規定についてお尋ねがありました。
学校における性に関する指導に当たっては、児童生徒間で発達の段階の差異が大きいことなどから、全ての児童生徒に共通に指導する内容と個別に指導する内容とを区別して指導することとしています。
こうした中、学習指導要領に基づいて全ての児童生徒に共通に指導する内容としては、妊娠の経過や人の受精に至る過程は取り扱わないこととしていますが、個々の児童生徒の状況等に応じ必要な個別指導が行われることが重要と考えており、文部科学省においては、各学校における指導、相談体制の充実を図っているところです。
引き続き、児童生徒が性に関して正しく理解し、適切な行動が取れるよう、着実な指導に努めてまいります。
○国務大臣(小泉龍司君) 井上哲士議員にお答えを申し上げます。
加害者更生の取組についてお尋ねがありました。
刑事施設や保護観察所においては、性犯罪者に対し、認知行動療法の手法を取り入れた処遇プログラムの実施を行っております。同プログラムについては、不断の見直しを図ってきており、また必要に応じて関係機関とも連携するなどして、その実効性がより高まるよう取り組んでおります。
刑事施設や保護観察所における性犯罪者の再犯防止対策は一定の成果を上げているものと考えておりますが、プログラムの更なる充実に取り組むことなどを通じて、引き続き性犯罪者に対する再犯防止対策を進めてまいりたいと考えます。
本会議(こども性暴力防止法案(日本版DBS法案))
2024年6月 7日(金)